俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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・ハドリア地方
 統治機構としては、歴史的にはかなり新しい部類。100年前に周辺のとある地方から独立を果たし、新たにリーグ、ジムを設置。地方内のポケモンバトル興業に相当額の地方税を投入しているが、総本山であるカントーや、バトルの聖地であるガラルは無論として、シンオウやイッシュにも水を開けられている現状である。
 そこで独立から100年を記念して、ハドリア地方に強化学習生を誘致する試みを開始した。各地方からバトル強者を呼び、ジム及びリーグへの挑戦権を特別譲与しつつ、地方内のトレーナーにバトルの指導をさせる方針で施策を遂行中。




4、なーにが人工ポケモンじゃ

 

「ポリさん……あの」

「…………」

「ポリさん! ダメだって! それ売り物!!」

「…………」

「ポリ、ポリさッ……! おっっっも……!! 言うこと聞けって……!」

 

 前に体重測った時は君、40キロなかったよね。結構太めの紐で引っ張っても微動だにしないのは何でなの?

 

「あはは……」

 

 ほら、店員のお姉さんめちゃくちゃ苦笑いじゃねーか。何を不思議そうにしとるか。お前を見てるんだよ。これがオタチとかゴンベだったら微笑ましい光景だろうけどね、君、自分の種族考えてみ?

 ポリさん……俺のポリゴンZは、路上販売のキッチンカーにへばりついて離れない。その一本足でどうやって踏ん張ってるんだよ。

 

「ぎ、ぎぎぎぎ……!!」

「…………」

 

 このポリゴンはタマムシで怠惰と豪遊を極めていた頃に出会ったポケモンだ。ゲームコーナーで散財し、コインを全部投入して交換したのがこいつ。

 ポリゴン系ってのはこう、もっとおとなしくて自己主張とか全然しない、考えてることなんか全然分からない感じのポケモンじゃないの? 死ぬほど飯食うし、人間より感情豊かの上に考えてることが分かりやすいし、何より……。

 

「人の言うこと聞きやしねぇ……! 今日はそういうの、なしって、言っ……力つよ……」

 

 俺の方が踵を前に引かれ始めた。お前特殊アタッカーだろ。何でそんなに力強いんだよ。つーかポリゴン系列って食事とかいらないだろ。何かの図鑑で見たことあるぞお前の食性。そもそも人工物だから電力で動くとか書いてあったけど。じゃあ一体お前は何だよ。

 

「ポリ、さ……ぐぐぐ」

 

 鳴き声の一つも発しないが、顔を見れば分かる。すっごい嫌がってるわ。何で顔見て分かるんだよ。グリーンさんがバトルの研究目的で育成してたポリゴンZは、顔どころか丸一日観察していても考えが分からなかったぞ。

 

 ぶちっ。

 

 紐が切れた。そしてお姉さんの手からポフィンの入った袋を引ったくると、めちゃくちゃ器用にトライアタックで包装の上の方だけを焼き切り、中身にがっつき始めた。

 

「お会計、340円になります」

「すいません……」

 

 くすくすと楽しげに笑う店員さんが、不快に思っていないことだけが幸いだった。店先でお騒がせしてすいません。ホントに。

 頼むから言うこと聞いてくれないかな。言うこと聞いてくれるなら四つ足で学校中走り回った挙句一発ギャグ3連発とかまでならやるから。

 

 

 

「はぁ……」

 

 ポフィンをさらにもう一袋分食って、ようやくポリさんは学内のキッチンカーから離れてくれた。今は薄目で歯に詰まった食べかすを取るような仕草をしている。口はどこだよ。どうやって食ってんのホントに。

 

「ポリさんさぁ……食べ過ぎだぞ。太っちゃったらどーすんの」

 

 ポリゴン系列が太る訳ねーだろって? なぁ、そもそもポリゴン系列が大飯食らいってことにはどう思ってんの。太るとか以前の問題だよね。

 俺はポリさんから分けてもらった(六個入りなのに一つしかくれなかった)ポフィンを齧りながら、想像していた甘さとは違う塩味に驚きつつも、朗らかな昼休みを過ごしていた。

 

「ピカ?」

「美味しいか? ライム」

「ピ」

 

 俺の視界の端っこの方では、次の授業が始まる教室が本棟から離れているせいで、早歩きを余儀なくされている生徒たちが疎らに映っていた。授業の取り方を失敗するとああなるという好例だ。あとは理数系の比重が大きいやつも大概あんな感じ。

 

「さて、寮の部屋に戻っか――――」

 

「あっ……!」

 

 噴水前ベンチから立ち上がった瞬間、丁度そこを通ろうとした生徒とぶつかった。

 

「悪い……!」

「い、いえ……こちらこ、そ……!?」

 

 右頬から鎖骨の上にまでかかる特徴的なツタ模様のタトゥーに、着てる奴なんか見たことないこの学校の制服。

 

「あ……アコニさん?」

 

 立ち上がったアコニは、切れ味鋭く眼頭を尖らせ、俺を睨んできた。ぶつかったのはごめんって。

 

「お前はッ……! 強化生の……」

「お前って……昨日は敬語だっただろ」

「理事長の前だからそうしてたの。そうじゃなきゃお前らになんか……!」

 

 優遇制度を受ける強化生に良くない感情を抱くまでは分かる。だがここまで強く敵視する理由は何だ? それも理事長の近縁者だって言うなら、強化生とは違う意味で色々と優遇されているはずだろうに。

 

「…………丁度いいか。シランでしょ、お前。ちょっと来なさい」

「来なさいってどこに」

「いいからッ!」

 

 アコニはロクな説明もしようとせず、俺を引っ張って学生寮のある棟に引っ張り始めた。やめ、やめろって。自分で歩けるよ。

 

 

 

「で、何。用は」

 

 俺が連れて来られたのは、寮内にいくつかある共有スペースだった。彼女はラウンドテーブルの反対側の一人用ソファに座って、冷めたコーヒーをテーブルの上に置きっぱなしにしている。

 俺はとっくにサイコソーダを飲み終わってしまっていた。中々本題を言い出さないものだから、もう10分は経とうとしていた。

 

「強化生制度の待遇条件、知ってるわよね」

「期間内に一定数のバッジを取得しろってヤツだろ。一年なら一つ、二年なら三つ、四年までに最低四つ、だっけ」

「それじゃない。もう一つの方よ」

「もう一つ?」

「あんた……資料読んでないの?」

 

 読んだ……はずだけど。いや、確かにライムのバトル練習とか諸々に気を取られて、読み込んでいます、とまでは言えないかもしれないけど、主要な部分は読み通したぞ。

 俺は鞄からこっちに着いてから改めて渡された資料を取り出して、強化生の要項を読み直した。

 

「強化生は、最低一人以上の一般生徒の指導を担当し、二つ以上のバッジを取得させること……? 以下指導する生徒を〝練習生〟と呼称する?」

 

 何じゃこりゃ。

 

「じゃあ何、俺も誰か見つけて、そいつを育成しろって?」

 

 グリーンさんにもらった資料にこんなこと書いてあったか? いや、彼を疑う訳ではない。トキワシティに血を得た者は全てグリーンさんの言うことは絶対という決まりがある。今作ったけど。

 どうしよう。困ったな。レブンにでも声をかけてみるか? あれから少しでも交流を果たせたのは彼だけだ。その彼に断られてしまったら、もう俺に処置はない。

 

「練習生の一人は、事前に全員決まっているわ」

「え、そうなの?」

 

 何だ。びっくりした。じゃあ任意なのは二人目からで、一人は探さなくてもいいのか。

 

「誰か知ってるか? 俺が担当する奴」

「…………よ」

「え?」

 

 何? 声が小さくて聞こえないんだけど。

 

 

 

「私よッ!! あんたの〝練習生〟はッ!!」

 

 

 

 ……めっちゃ耳キーンってした。つか、え? 俺の担当する練習生って君なの? 全然知らなかったんだけど。

 

「あんたね! 他の強化生と練習生は入学式の次の日までには挨拶済ませてるの!! 今日まで存在も知らなかったって……そんなのお前だけだこのあんぽんたんッ!!」

「いや、その、ごめ――――」

「大体ね! 普通こういう資料はちゃんと隅々まで読むものでしょうが!! 何でこんな、強化生の一番あんたに関係するところを読み飛ばしてるのよッ!!」

「あの、ごめん、俺が――――」

「ごめんで済んだらこんなに怒ってないわよ!! もう他の練習生に五日も遅れを取ってるのッ!! 最初から強いヤツはいいでしょうけどね!! 私達はもう――――」

 

 これは後に聞いたことだが、アコニの怒号は二年の寮まで響いていたらしい。俺に返す言葉はない。本当にごめん。

 俺が一方的に叱られている様子を、端っこでポリさんが鼻で笑っていたのは見逃さなかったぞ。もうホントに怒った。今度のおやつはポリさんの好物のからいきのみにしてあげようと思ってたのに。もう出してあげないから。

 

 

 

 流石に目立ってしまっていたので、俺達は一旦場所を移し、屋外バトル場の観客席に来ていた。ここは授業か生徒同士の練習かで、大抵いつも誰かのバトルを拝むことができる。学びに活用する奴も当然多い。

 

「現状のバッジ数は?」

「…………ゼロ。というか、練習生に選ばれる生徒は、全員バッジは未取得よ」

「最初に挑むジムはもう決めてる?」

「…………」

 

 ハドリアについては、カントーにいる時点で少しは勉強してきた。少なくともジムがある街がどこかとか、代表的な文化とか。

 

「……何も言わないの?」

 

 サイコソーダを片付け、鞄の中からシャーペンを探す俺の横腹に、調子の低い彼女の声が疑問を刺した。

 

「何が」

「私のバッジのこと」

 

 君のバッジがどうしたって言うんだよ。

 

「同情とかやめてよ……私、知ってるから。強化生は、出身地方でのバッジ取得数が六つ以上のトレーナーが選ばれるって。あなたもそうなんでしょ?」

 

 頷くだけで十分だろう。ここで「俺はカントーの全部のバッジを取ってる」とか言えるような大たわけ野郎だとは思わないでいただきたい。

 

「リーグを目指してるトレーナーが、15歳にもなって、それも二年生なのに……バッジゼロなんて」

 

 同い年だったの? つーか同い年なのに二年生なんだ。なんか嫌だな、俺だけ留年したみたいで。

 まぁでもどうやら、強化生には18歳で一年の人とか、一般生徒でもそういうことがあるみたいだし、そんなに気にすることでもないか。

 

「他の練習生は、私と違って全員一年生よ。丸一年、バトルに心血を注いで、バッジを一つも取得できていないのは私だけ……」

 

 ということは、彼女がバトルの世界に参入したのは14歳か。正直に言うと、この年齢からバトルを学び、バトルに関連する定職に就ける者は少ない。大体はポケモンの個人所持が許される10歳の頃から、はっきりとバトルに注力する者が競技者となれる。

 だから、というかどの業界でも当然だが、経済的に豊かな方がより有利だ。ってのは言うべきではなかったか。

 

「才能がないの……私には」

 

 彼女の気鬱に共感できるところは一分もない。俺が「気持ちはわかるよ」とかほざいたら、彼女は激昂するか、呆れてものも言えなくなるだろう。

 

「ふふっ。災難だったわね。私みたいな落ちこぼれの担当なんて……」

 

 手の中でモンスターボールを転がしながら、彼女は自虐的な笑みを浮かべた。

 

「…………」

 

 ティーンに特有な抑鬱症に陶然とするのもいいけどね、勘違いは正しておかなければならない。

 

「アコニ、あれ見ろよ」

 

 俺は下でバトルを繰り広げる生徒達を指差した。バトルコートは三面に分けて並べられており、戦う6人と、それを側のベンチで見届ける十数人。行く末を見つめている彼らの何人かは、手元に手帳やスマホを持って何事かをメモしていた。

 

「あれが何……?」

「あそこにプロになれる奴なんか一人もいない。断言するけどね」

「は……!?」

 

 お手本のようなバトルを展開する彼らの動きは、多分他のバトルスクールの生徒と比べても、かなり洗練されている部類だ。技の打ち分けも適切で、ポケモン達も指示に対してのレスポンスが早い。まだアコニの実力は知らないが、彼女の反応から考えても、彼らの方が何枚も上手であるのは間違いない。

 

「な、何で……だってみんな私より――――」

「君はさ、バッジが欲しいのか? 強くなりたいの?」

「ど、どういうこと?」

 

 どっちか、それだけ答えてくれ。

 

「それは…………」

 

 アコニはボールを大切そうに両手で握ると、コートの方に目を向けたまま、決心したように呟いた。

 

「強くなりたい……バッジが取れるくらい、じゃなくて、リーグに挑むようなトレーナーに……」

 

 そうだろ。じゃあ、こんなところでバッジの一つや二つの違いを気にしているのは、どんぐりの背を比べるようなものだとは思わないかい。

 

「君のポケモンを見せてくれないか。バトルしよう」

 

 アコニは息を呑んだ。返事を待つつもりはない。彼女が後ろから付いて来ているのかを確認もせず、俺は立ち上がって観客席を離れた。やる気があるならくるだろ、多分、てな感じで。

 

 

 

 四戦して四勝。ライムの四勝だ。

 

 俺達は学園の外、というかナイロンシティの外。人の気配がしない草原でポケモンを戦わせていた。彼女の力量を測るのに、誰かの目があっては、満足に実力を引き出せないかもしれず、不都合だったから。

 

「な、何で……ワルビルの方が絶対、有利なのに……」

 

 俺は二つ、ハンデをつけて彼女と戦った。バトルの前に、ライムの使える四つの技を全て開示するということ、それから、その中から二つ、アコニに好きに選ばせ、その技だけをライムに使わせるというものだ。

 彼女が選んだのは〝どろぼう〟と〝なげつける〟の二つ。奇しくもユリオとのバトルで見せた二つと同じものだった。

 

「君のワルビルは弱くない」

 

 そう、ワルビルは、弱くない。むしろ他のワルビルに比べれば、戦闘巧者と言える。手懐けるのに苦労するあくタイプのポケモンに言うことを聞かせられていることからして、育成面では少なくとも、同年代と比べて劣っているということはないはずだ。

 では、タイプで勝るライムに、四度も敗北を喫したのはなぜか。

 

「私の……せいか……」

 

 気の毒だが、その通りだ。

 

「今の試合で、気になったところを指摘していくつもりだ。もしかしたら気分を害するかもしれない」

「いいわ。今、覚悟したから」

 

 彼女はキッと目端に力を入れ、己に気合いを入れ直したようだった。それからスマホロトムが彼女の懐を飛び出してくる。俺の言うことを書き留めておくつもりであるらしい。

 

「ワルビルの技構成は、〝じならし〟と〝じごくづき〟と……それから〝ドラゴンクロー〟と〝つばめがえし〟で合ってるよな?」

「えぇ……」

「〝じならし〟はよかったよ。何よりライムの弱点だし、タイプも同じだから使いやすい」

 

 彼女は全ての技をライムに試していた。確かに〝じならし〟は脅威ではあった。というのも、少し離れた位置からでも届く上に、技の届く範囲はワルビルから放射状に広がっているから、背後や側面を取られた場合にも通用する。

 

「じゃあ、残りの三つは?」

「そうだな……例えば〝つばめがえし〟は何のために覚えさせた?」

「それは……苦手なかくとうタイプに、何か対抗策があればと思って」

 

 かくとうタイプの弱点であるひこうタイプの技、〝つばめがえし〟は、二段構えによる命中率の高さと、懐のギリギリにも通用する取り回しの良さが魅力だ。

 ただ正直、ワルビルに持たせる意味は、俺には見出せない。

 

「ワルビルも、進化系のワルビアルも、ないとまでは言わないけどさ、そこまで防御に強く定評がある訳じゃない」

 

 防御に使うトレーナーもいるにはいる。ただ、このポケモンはもっと明確に役割が決まる部類だろう。ポケモンバトルに慣れない人間が、そんなテクニカルな戦わせ方を模索するのは無理がある。だから、苦手なタイプを前に無理に突き通すのはやめるべきだ。

 

「潔くかくとうタイプは諦めて、他のポケモンに対策を任せよう。中途半端に受けて、適正のない技を使わせても、さっきみたいに有効打にはなり得ないから」

 

 体躯の小さなピカチュウを捉えるのに、得意ではないタイプの技を使おうとしてもうまくいかない。確かに〝つばめがえし〟なら命中はさせられるが、そこまで懐に詰めた状態からならば、あとは〝どろぼう〟でもちものを奪い、戦力を削ぎつつ攻撃に転用させられる。

 

「対策を諦める……」

 

 どうせフェアリータイプの前には無力だし、かくとうタイプ使いの手持ちに多いルカリオやゴウカザル、パーモット相手には、そもそも得意なじめんタイプの技を打てばいい話だ。

 

「〝じごくづき〟は悪くないけどね、何を想定してる?」

「それは……ラウドボーンの得意技を封じられるし、アシレーヌの〝うたかたのアリア〟も止められるから……」

「ラウドボーンはまだ分かるよ。けど、アシレーヌなんかいくら小細工を弄しても最初から手も足も出ないだろ」

 

 マリルリとかミミッキュも同様。かなり対策を厚くしないと、ワルビアルではどうにもならない。大体のバトルは一匹で戦う訳じゃないんだから、そんな奴等は他のポケモンに任せてしまえばいいだろ。

 

「それから悪いけど、〝ドラゴンクロー〟は完全に腐ってるよ。これが一番分からない」

 

 ドラゴンタイプの技が弱点となり得るのはドラゴンタイプに対してのみだ。地力の高いドラゴンポケモンだから許されるのであって、そうでないポケモンに使わせても、明確な目的がなければ不出来な猿真似だ。

 

「だって……」

 

 これまで曲がりなりにも理由を思い付いていたアコニが、これには言い淀んだ。いや、別に明確な考えがなかったからって怒らないけど。これから覚えていけばいいんだし。

 

「……よかったから」

「え?」

 

 

 

「カッコよかったんだものッ!!」

 

 

 

 ……カッコよかった?

 

 

「だってそうでしょ! ドラゴンタイプの技って何か、その、すごくこう……」

 

 あ、あぁ〜。うん。わ、分かるよ。確かにそうだな。ドラゴンって名前からしてもうカッコいいよね。

 

「変えるわ……」

「すっ……ステルスロック、とかどう?」

「そうする……」

 

 そんなに落ち込むなって……俺も最初はそんな感じだったんだからさ。

 

 

 

 それから、他にもいくつか気になった点を指摘したのち、今日はこのくらいにしておこうということで、俺達は昼間と夕方の境にある空のかんばせの下に、ポケモン達を解放していた。

 

「今日はこれだな……」

 

 最近ミルタンクフーズが発売した新フレーバーの問題作、その名も「でんきポケモン用フードイトケのみ味」。噂ではこれの味が相当ヤバいらしい。

 何が問題って、ただでさえぐにゃぐにゃで食感の悪いペレットに、イトケのみの渋さと苦さが混じっているもんだから、もう工業的な廃棄物を混ぜてんじゃねーかなという工合だとか。

 

 銀色のパウチ式袋から一つだけ取り出して、まずは一口。

 

「あ、あんた何してんのッ!?」

「ん? ひひょく(試食)」

 

 うわ、これ、まっっっっ…………。

 

「お゛えっ…………」

 

 まっっっっず!!!

 

 こんなもんライムに食わせたら号泣するわ。ポリさんは、何でも食うからいけるかもしれんけど、でもやっぱ渋い顔しそう。意外と好みが合う子がいるかもと思ったけど、これはナシだな……。

 

「えぇ……」

 

 アコニはドン引きだった。あの、これが単なる気の触れたガキの奇行だと思われる向きには、ちょっと待ってほしい。今説明するから。説明する前に水飲ませて。あー、まだ口の中でキモい風味がする。

 

「あ、あんた、それ何のつもり……」

「……別にふざけてやってる訳じゃない」

 

 これを奇人アピールでやってる奴がいるとしたら、俺はそいつが大っ嫌いだ。ウケ狙いにしても絵面が悪いし。

 

「最低限確認しておきたいだろ? 自分の手持ちが食べるものなんだからさ。栄養さえ良ければいい訳じゃない」

 

 不味いものやら、毎日同じものばかりなどでは、ポケモンにストレスが溜まる恐れがある。そうでもないポケモンも中にはいるが、大半は食生活に十分な気を払っておくべきだ。動物なんだから。それに、バトルで活躍してもらおうと思ってる手持ちには特に。

 

「そ、そうなの?」

「食ったらメモを取る。紙に書いてまとめとけば、献立も考えやすいし」

 

 トレーナーの中には、こうした栄養管理を雇い人に任せる、なんて人もいる。もっと分業化して、普段の基礎トレーニングのコーチ、技の練習コーチ、専属ポケモンドクターなど、名義上は一人のトレーナーながら、5人や6人で戦うという者も話には聞いたことがある。

 それほどに大切なのだ。ポケモンの体調管理、ひいては栄養管理は。

 

「ふーん……」

「だからね、お前ら……」

 

 珍しく俺から真面目な話が飛び出てきたというのに、ポリさんとライムはポフィンに夢中だった。

 彼等の周りに落ちている食べかすと、カゴの中身の減り具合からして、八個ずつは食ったね。八個ってお前ら。このポフィン大型なんだけど、その量食ったらもう自分の体の体積に近いだろ。

 

「こらー!! 食べ過ぎはダメだって言っただろー!!」

 

 俺が怒って立ち上がると、この聞かん坊共はキャッキャ言いながら逃げ始めた。仲良いね。ポリさんもライムも。

 ほんっっとに言うこと聞かねえなこの人工物。最近ライムもちょっと影響を受けつつありそうなのが怖い。お菓子を隠すなんて悪いことを覚えたし。こいつらの隠し場所なんか全部把握してるけど。

 

「こらー!!」

「ピッカ! ピッ!」

 

「ホントに大丈夫かな……この人で……」

 

 ごめんアコニ。この体たらくを見たら我が身の今後を案じるのも分かるけどね。せめてそれ俺に聞こえないとこで言ってくれない?

 

 





毎日ピカチュウこれ一皿

味 :★★★★☆
栄養:★★★★☆
他 :★★☆☆☆

総合評価:★★★☆☆

 ホウエン地方の食品メーカー「ゴクリンジルシ」から発売中のピチュー系列専用ポケモンフーズ。ピカチュウに必要な栄養素と、ピカチュウの好みに合わせた味、見た目などに注力した一品。ピチューからライチュウまでこれ一つでOK。専用フーズの逃れられない宿命と言うべきか、値段はちょっとお高め。

ライム評:★★★★☆
備考
 ピ!(いつもの味だ!)

シラン評:★★★☆☆
備考
 ライムの主食。週に4回はこれ。ピカチュウに合わせた必須栄養素が入っているのがいい。実際オーキド博士にもこれを勧められている。味は微妙。フルーティーな芳芬の中に変な肉の風味がする。一応は齧歯類のピカチュウなので、野生ではきのみよりも肉食なのかもしれない。
 値段が張るのが問題。高級フードとまでは言わないが、「ミルタンクグループ」のでんきポケモン用フードと比べると高価。
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