俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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 拙作を読んでいただきありがとうございます。誤字報告、感想、評価、お気に入りなども大変励みになっています。




38、海回!!!!!!

 

「ピッカ、ピッ!」

「ちょ、ライム……! もう、あはは……!」

 

 波打ち際でライムと水をかけ合うアコニの楽しそうな様子を眺めながら、俺はビーチパラソルの下でサイコソーダ味のかき氷を食べていた。

 

「夏休み、さいこーだ……」

 

 彼女らの奥では、心置きなく暴れるシロミの尾が打つ波に乗って、サワギ先輩が愛用のサーフボードで巧みな波乗りを披露していた。

 砂浜で城を作ったり、海の家で飲み食いしたり、会員達はそれぞれの海を楽しんでいた。

 

「本当にありがとうございます。会長」

「気にするな。たまには会員を労うのも、僕の務めだ」

 

 ビーチをこんな風に貸切にして、人目を気にせず足を伸ばしていられるのは、偏にトリトマのお陰だ。

 トリトマは赤い頭髪を日が透かして頭を日焼けしないように、黒いスポーツキャップを被ると、パラソルの影を脱した。

 

「それに、キサマとミヤコには仕事がある。くれぐれも手を抜くな」

「はい。ビシバシいきますから」

「そうしてくれ」

 

 俺達がこんな風に、海を眺めて行楽に興じているのは、単に夏休みだから思いっきり遊ぼう! ……って魂胆だけではない。

 今回ここにきた理由を諸君に話すには、少し日を戻る必要があるだろうか。

 

 

 

 話は夏季休暇開始の一週間前、トリトマ研究会の定例会にまで遡る。

 

「キサマら……夏合宿をやるぞ!」

「う、うおぉおおおーッ!!」

 

 会室の男共が一斉に雄叫びをあげた。気持ちは十二分に分かる。俺も思わずガタ、と長机を揺らしてしまった。

 学生と言えば部活、部活と言えば合宿、そして夏合宿と言えば海だ。これだから夏は最高なんだ。

 

 トリトマ研究会夏合宿。

 

 八月におこなわれる研究会大会に向けてラストスパートをかけるため、トリトマ会長がアスベル付近のプライベートビーチに我々全員を招待するというのだ。

 研究会でおこなわれてきた練習も、マンネリの気を感じていた会員達は、それはもう盛り上がった。

 

 決して、決して遊びたいとか女の子の水着が見たいとかじゃない。あくまで健全な鍛錬の精神であり、より強さを磨こうという高潔な理念からなるシステマチックな合宿だ。本当だ。断じてこの機に海ではしゃぎまくろうとか、夜はみんなで料理とか手持ち花火で遊ぼうとか、いい感じの子とさらに接近しようとか、お土産買いまくろうとかは誰も考えていないのである。見ろ、俺達男子生徒の、この曇りなき目を。

 

「ビーチだってビーチ! ねぇ、水着どうする? アコニさんどんなの持ってるの!?」

「私……!? わ、私は別に……普通の……」

「いいですね。どうせなら買いに行きましょうよ。アコニも一緒に」

「え、えぇ!?」

 

 俺達の頭は水色一色になっていた。海と、それから青空の水色。まだ五日くらいは授業はあるというのに、全員すでに夏休み気分になっている。

 何はともあれ準備をしなければ。エルレイドやポリさんにはポケモン用の日焼け止めを買っておかなければならない。

 

「ねぇ、シラン、とりポケモン用の暑さ対策ってどうしてる? 合宿ならボールから出すことも多いでしょ? ムクバードが熱中症にならないかな……」

「簡単なのは、ハンディファンの前に保冷剤を置いて風を送るやり方かな」

 

 ハイネも熱がこもるので、この辺りの知識はそれなりに持っているものと自負している。一応俺も携帯用扇風機や、アイスタオルを余分に用意しておくか。

 となると、結構な金額になりそうだな……それも仕方ないか。合宿なんてそう何度も経験できるものではないし――――

 

 

「キサマらは四泊五日分の着替えや日用品、バトル用品等を持参するように。そのためにかかった金額はどこかに記しておけ。移動費やコテージ内での生活費光熱費込みで一切心配するな。全て僕が出す」

 

 

「え、全額……?」

「全額って、私達全員の……!?」

「会長すげぇっす! す、すげぇっす会長!」

「うおおぉッーー!!」

 

 またもや、一際大きな歓声に競技棟の一室が震えた。第二棟はほぼトリトマ研究会の貸し切りとはいえ、隣の第一棟や第三棟から苦情が来そうなレベルだ。

 

 というか全額? 全額ってのは……全額?

 

 あぁダメだ……庶民根性が心臓にまで根を張っているせいで、イマイチ理解が追い付いてこない。

 20数名の四泊五日の全額となればつまり、お得意の超馬鹿計算(どーせトリトマの負担額もたわけた数列になるから大過ない)に頼って考えると、一人で110日間ホテルの一室を借り続けるような値段になるだろう。

 

「あ、あの、会長、いいんすか。俺達全員の費用って多分……」

 

 口にするのも憚られるような金額を頭の中で計上した俺の表情は、さぞ血の気が失せた青色であったはずだ。トリトマは苦笑していた。

 

「構わんよ。四年の大半が受験で研究会を卒会しているからな。精々20余名の費用、何らの痛痒ともならないさ」

 

 確かに入った当初は40名近い人数であったトリトマ研究会だが、彼自身が指名し、スカウトするという関係上、彼と同学年の生徒がボリューム層であった。今年の一年に限っては俺とミヤコの二人だけという始末だ。

 だが、それでも20人弱の人数で、プライベートビーチのコテージ、しかも四泊。俺と手持ちを合わせて丸2年くらい遊んで暮らせる程度の額が飛ばないか、それ……。

 

「恐縮です、ひ、非常に……」

「肩に力を入れるなよシラン。それにキサマには強化生として、研究会の皆に戦術を教示する役割がある。負い目を感じる必要はない」

 

 トリトマはそう言うが、流石に恩義を感じずにはいられない。彼が研究会の先輩というのは、今後のことを考えればあまりにも太いパイプだな……。

 

「詳しい日程や詳細については、三日以内にしおりを頒布する。サワギ、カラミの二人が作成を担当してくれた」

 

 サワギ先輩についての説明は不要だろう。剃り込みのあるブーバーンの使い手だ。

 カラミというのは、研究会に入ってからアコニと中を深めつつある三年の女生徒のことだ。アコニに勉強を教えてもらう時、度々彼女もやってくるので、それなりに面識はある。

 

「今日は解散。合宿に参加できるように、体調管理にはくれぐれも気をつけてくれ」

 

 

 

 そんな訳で、俺達は会長が用意した中型バスに乗せられて、アスベル付近にあるユリ家のプライベートビーチにやってきた。

 

「シラン見て! ほら! 海!」

「おぉー。波高っ」

 

 こういう行事と無縁だったらしいアコニは、会員達の目を忘れるほどにはしゃいでいた。バスの座席を乗り出して、俺の体の上から窓の外を指差すくらいだ。危ないからシートベルトしろ。

 

「この一帯全部がユリ家のプライベートビーチらしいわね」

「そう聞くとちょっと怖気がしてきた」

 

 普段はビーチを一般客にも開放し、駐車場料金を徴収する、海の家等の経営許可を出すなどして収益にしているそうだ。俗っぽい言い方をすればショバ代ということ。

 

「もうすぐ到着だ。まずは荷出しをする。僕とサワギの指示に従って行動してくれ」

 

 身を乗り出したくなるアコニの気持ちも分かる。これから合宿が始まると思うと、胸が騒ぐのを抑えられなかった。

 

 

 

 遥か北部の断崖に分けられた向こうの海では、波に引かれて重力を無視した潮が、青い波濤の肌を動脈のように縦に走っていた。

 

「おぉー、海だ」

「ピカ!!」

「ライムは見るの初めてだよな」

 

 海流が合流する地点のすぐ近くに、大きな海峡が口を割っているらしく、アスベルタウンに遠い位置に行けば行くほど波が高くなっている。

 とはいえ、いつも高潮が列を押し合っている訳ではない。前々日から続く快晴もあってか、波打ち際は穏やかな寄せ返しだった。

 

「そら、楽しみなのは分かるが、まずはミーティングだ」

 

 海を眺めて歓声をあげる俺達の後ろで、サワギが手を叩いて場を制した。

 

「合宿は合宿だ。もちろんバトルの練習も日程に組み込まれている。明日から朝6時起床だぞ」

「うぇ」

 

 ミヤコがちょっと嫌そうな顔をした。つくづくイメージを外さないヤツだ。以前見てしまったあの生活ぶりでは、朝が苦手というのも頷ける。

 

「今日も昼までは練習だ。全員、練習着に着替えるように」

「えぇー」

「えぇーじゃない。誰だ今えぇー、と言ったのは」

「サワギのバーカ。石頭ー」

「おい! 今のは複数聞こえたぞ! 次言うことを聞かなかったら飯抜きだからなッ!」

 

 みんな妙なテンションになっていて、サワギはヤケに気合が入っているし、下級生は遊びたくて仕方ないし、トリトマは普段の蒼白な顔色が嘘のように爽快な表情をしている。

 

 ま、とにかく着替えてくるか。そろそろサワギがブーバーンを出して砂浜を焼野原に変えてしまいそうだ。

 

 

 

「トレーナーに体力は必要ないと思ったら大間違いだぞ! ペースを乱さず走れ!」

 

 俺達は縦に二列になって、サワギのかけ声に合わせながら、リズムを合わせて砂浜を走っていた。

 よくある準備運動だ。ポケモン達の準備運動をさせる前に、まずはトレーナー自身がこうして走っておく。これが意外と無意味でもないというのは、競技者ならば誰しも自らの身体で実感しているはずだ。

 

「ぜぇ、はぁ……」

 

 最後尾でふらふらしながら走る俺に対して、先にウォーミングアップを済ませていたトリトマが目配せをよこした。

 

『抜けるか?』

『いいです』

 

 首を横に振って返答とし、額から滝のように流れる汗を袖で拭いながら、何とか引き離されないように走り続けた。

 

 俯きながら何とか集団に着いて行っていると、前のほうを走っていた人影がスピードを落として、俺の隣についた。

 

「やっぱり何かあるんでしょ。体にさ」

「ミヤ、コ、か……」

 

 彼女は怪訝な表情で俺の顔中をしたたる汗を横目に見た。

 

「違う……はぁっ、はぁ……別に……」

「まだ1キロも走ってないじゃん。君だけだよ、そんなに息切らしてるの」

「うるせーな……」

 

 ちょっと人より運動をサボってるだけだ。こんなものは。俺の怠惰に責任があるのであって、同情されるような身上ではない。

 確かに過換気気味の呼吸器には懸念があるものの、いい加減付き合い方には慣れている。本当に病院が必要な人間に比べれば、甘えた精神からくる気鬱のようなものだ。

 

「見学にさせてもらえばいいのにさー」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 一人だけ特別扱いはごめんだ。酷い息切れのせいで、その一言が出てこなかった。

 

 

 

「おいそこ! シラン!! 走ってすぐに倒れるな! 少し歩け! 急に止まると心臓の負担になるぞ!」

 

 サワギ先輩の大きな声が砂浜に響く。俺は泣く泣く立ち上がり、血液の乱高下でおかしくなりそうな体をゆっくりと歩かせた。

 

「おつかれー。まだ生きてる?」

 

 今の俺には、ミヤコの軽口に返答する気力も残っていない。心なしか研究会のメンバーの俺を見る目が、非常に冷たくなったような、哀れまれているような……。

 

「あーあ、こりゃ死んでるわ。ほら、水」

 

 声も出せないので、目配せで礼を言ってペットボトルを受け取った。手に取ると、びみょーーに手のひらよりは低い程度の冷たさしか感じなかった。つまり温い。ミヤコを見ると彼女も肩をすくめている。

 

「んっ、んっ……あ゛ー。温ぃー……」

「言っとくけどウチじゃないよ。サワギ先輩が冷やしすぎはやめろって」

 

 これはアレか。いきなり冷たいのを飲むと体に悪いので、あえて薄ら涼しい程度の温度に調整しているのか。サワギが。

 

「はぁ、はぁ……冷たいの、ない……?」

「ウチに文句言わないでよ。さっきまでひーひー言ってたくせに」

「ひー、とは、言ってねー、だろ……」

 

 ぜぇはぁとは言っていた自覚はあるが、それにしてもお化け屋敷の仕かけに怯える子供のような声を出したつもりはないぞ。

 

「よし次ー! ポールを立てろ! ビーチバレーするぞ!」

「ひぃー……!」

「言ってるじゃん」

 

 ビーチバレーと、結局そこからさらにビーチサッカーと水泳までさせられた俺達(というか俺)は、1時間が経過する頃には、かつてないほどに困憊していた。

 こっからバトル練習もするってマジか。みんなどんだけ体力あり余ってるんだよ。お前らと比較したら俺は休日のお父さんか。

 

「あ゛〜〜……死ぬ……」

 

 スポーツシャツのまま砂浜に倒れた俺の体に向かって、シロミが情けという名の水飛沫をかけてくる。非常に情けない。

 

「シラン、ダブルの練習……うわ、干物だ」

 

 俺の顔は砂に埋まっているので姿は分からないが、声からしてアコニだ。

 俺は干物が返されるように体を横に転がした。彼女の水着が見たい訳じゃないぞ。顔を見ないで話すのは失礼だと思ったからだ。俺が嘘を言うと思うのか貴様らは。

 

「うわっ……! おいそれ、か、かわいいけどさ、ちょっと布少なくないか……!?」

 

 アコニは肩から二の腕が隠れる袖付きの赤いビキニを着ていた。普通のビキニに比べれば比較的露出は少ないかもしれないが、目のやり場に困る。

 い、いや、確かにその線の細い体に赤はよく似合う。彼女自身、赤色が好きなようだし。でも袖まであるって言ってもそれ、背中は丸出しじゃないか。

 

「え……? 何? もしかしてシラン、照れてるの? 顔赤いわよ」

 

 アコニは途端に見たことのないような意地悪な笑顔を浮かべた。

 

「てっ、照れてないッ!! 別に!? 別に見慣れてるけどね!? 見慣れすぎて瞳孔がもうビキニの形だけど! 俺なんかタマムシじゃ有名なプレイボーイだったし!?」

 

 ゲームコーナーの。

 

「ふふふっ。嘘でしょ。やっぱ照れてるんだ」

「だッ……! そうじゃなくて……!」

 

 俺が言っているのはつまり、俺個人の趣味趣向とか照れとかじゃなくて、公序の観点においてその格好はどうなんだという話だ。

 アコニは至極不思議そうな表情で腕を組みながら、馬鹿にしたような笑顔に変貌して、俺を見下ろした。

 

「先輩にはもっと攻めた水着を着てる人がいるでしょ。そっちには言わないで、私は気になるの?」

「えっ……いや、だから、それは……!」

「ふふっ。やっぱりそっちのほうがシランらしいね」

「だからそのらしいって何……!」

「それー!」

 

 彼女は俺の言葉なんか無視すると、突然ボールからワルビルを出した。

 これは技でもなんでもないが、アコニとワルビルの〝すなかけ〟だ。おもいっきり砂をかけられた俺は、また浜に転がってしまう。

 

「ほーら! バトルの練習するわよ! 研究会大会はダブルの枠もあるんだから、あなたも早く立って!」

「わぶ、わ、分かった! 分かったから!」

 

 出会った頃のアコニは、無表情以外の顔面の形状を知りませんってくらいの怒り一辺倒仏頂面女だったのに、最近は喜怒哀楽がはっきりとしてきている。

 変な言い方をする自覚はあるが、彼女の笑顔は好きだ。何だかこっちまで気分がよくなる。だからこれでいい。

 …………い、いややっぱ、それにしても、最近元気すぎないか? 自分で言うのもアレだが、タジタジなんだけど、俺。

 

 

 

 貸切の砂浜を贅沢に陣取った簡易バトルコート(公式面積の半分)に、俺達は総勢4体のポケモンを並べていた。

 

「ルールは2対2、つまり、現在フィールドに出しているポケモンを先に全滅させた側の勝利だ」

 

 サワギとカラミ(アコニと仲のいい三年)の二人に対して、こちらは俺とアコニ。

 トリトマに曰く、強化生の実力を重く見たチーム分け、らしい。ダブルの経験は浅いので、この分野においては、正直トリトマが思っているほどに実力に開きがあるとは思えないが、会長の采配となれば仕方ない。

 

「サワギ先輩はエンペルト、あっちの女の先輩のは……」

「カラミ先輩よ。いい加減覚えなさい」

 

 確かにアコニの言う通り、カラミはアコニより攻めた黒いビキニを着用していた。肩紐が非常に心許ない。人より日焼け止めが多量に必要そうだ。

 

「場に出しているのは……マタドガスね」

「なんか俺の知ってるマタドガスと違うんだけど」

 

 愛嬌のある顔にこそ見覚えがあるものの、体色や形状がまるで違う。頭から煙突が生えている上に、そこから煙を出している。吸っていい煙なのかあれは?

 

「ガラル種よ。あれはむしろ空気を綺麗にしてるの」

「あー、あれがマタドガスのリージョンフォーム……」

 

 ガラルってのは結構ヤバげな風土なのだろうか。前に画像で見たジグザグマも、野生で生きていく気があるのかってくらい派手な白黒だったし。

 

「アコニ、今日はよろしくお願いします」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします、カラミ先輩!」

 

 カラミ先輩は誰に対しても敬語を使うので、むしろ印象に残りやすいほうだ。本人は丁寧にしているつもりで敬語なのだろうが、かえって威圧感を感じる。

 

「二人とも、手加減はしない。カラミ、いつものでいくぞ」

「後輩相手に手心もなしですか? まぁいいでしょう。では、手筈通りに」

「あぁ」

 

 半ばの文字をいくつも省いたやりとりには、熟達の工合を感じさせる。ダブルに慣れているのだろうか。

 

「シラン、気を付けて。前々回の研究会大会から、あの二人はずっとコンビなの」

「へぇー……」

 

 文字通り年季が違う訳だ。一筋縄ではいかないバトルになりそうだな。

 バッジ獲得を機に自信が付いてきたとはいえ、まだアコニの実力が先輩方に迫るとも思えない。そして、こっちは素人が二人。やっぱり俺達が不利じゃないか?

 

「ワルビル、頑張って!」

「ガァ」

 

 対して、こちらはシロミとワルビル。相手がどちらも一致技を持っているなら、ワルビルは両者から弱点を突かれる形となる。

 シロミを前にして、俺の主導でバトルを進めるのがいいか。

 

「二人とも、準備はいいか?」

「いつでもどうぞ」

 

 とにかくやってみるしかない。本番じゃないんだから、思いついたことをいくらでも試してみればいいさ。

 

「始めッ!」

 

 会員の2年が旗を振り下ろした瞬間に、相手のマタドガスから桃色の煙が吹き出した。

 空気よりも重い煙は一瞬にして足下に弥漫すると、フィールドに独特の雰囲気を形成した。

 

「〝ミストメイカー〟……?」

 

 俺の知っているマタドガスの〝とくせい〟と言えば〝ふゆう〟か〝かがくへんかガス〟だ。

 実際に見たことはないが、中には珍しい個体がいて、〝あくしゅう〟のものがいるとは聞いた。

 あのマタドガスは悪臭どころか、どこか心が安らぐような芳芬をその身から醸している。何だか面白いな。

 

「エンペルト! 〝いばる〟ッ!!」

「ワルビル、マタドガスに〝ちょうはつ〟! あ、あれ……?」

「シロミ、〝りゅうのまい〟」

 

 先手を取ったのはエンペルトだった。おそらくアコニはエンペルトこそが攻撃担当だと思っていたのだろう。実は俺もだ。

 というか、いばる? そうか。現在のコートの状態は〝ミストフィールド〟。ポケモン達は状態異常にはならない。

 

 ん? 状態異常にならない?

 

「あっ、やべっ……」

 

 シロミはひこうタイプ。地面に設置する瞬間がないこいつは〝ミストフィールド〟の恩恵を受けられない。

 

 つまり〝いばる〟が効く……。

 

「シロミ! みがわ――――」

「エンペルト! ギャラドスに〝いばる〟だ!」

 

 あーあ、こりゃ……。

 

 

グオオォォォッ!!!

 

 

 大激怒だ。咄嗟の〝みがわり〟も間に合わず、シロミはその場の全員が反射で耳を塞ぐほどの咆哮を天に放った。

 こうなってはもうどうしようもない。普段から破壊衝動を抑えている性格上、〝こんらん〟させられると全くこちらの指示が耳に入らなくなってしまう。

 

「わ、ワルビル! 〝じならし〟!」

 

 そう。ワルビルとシロミなら、俺のポケモンへのダメージを気にすることなくじめん技を使えると思っての選出だった。

 結果的に大悪手になるものとは……分かるかこんなもん。もはや貰い事故だろ。

 

「耐えなさいマタドガス! 返しの〝じゃれつく〟です!」

「エンペルト、〝じこあんじ〟!!」

 

 なるほど、こうやってエンペルトも攻撃参加させるつもりだった訳だ。アコニは冷静になって、エンペルトにも再度〝ちょうはつ〟を使うべきだったらしい。

 マタドガスの〝じゃれつく〟はワルビルにヒットして、その一撃で沈められてしまった。攻撃力が倍増した弱点技だ。耐えろというほうが酷な話だろう。

 

「エンペルト、〝アクアブレイク〟ッ!」

「あちゃー……」

 

 あとはバトルそっちのけで大暴れしているシロミを、2体で安全に攻めて倒すだけ。いくらあの破壊の権化みたいなシロミの暴れっぷりでも、トレーナーに指示を受けていないポケモンの脅威は5割減だ。

 

 そんな訳で俺達の初めてのダブルバトルは、大惨敗に終わった。

 

 

 

「特訓、するからね。次は勝つから」

 

 先輩達にしてやられた結果となったダブルバトルだったが、アコニは消沈するどころか、俺よりもリベンジに息巻いていた。

 現在はバトル練習も終わって休憩中、会員達は水着に着替えての海遊びや、砂浜での追いかけっこに興じていた。トリトマはこの光景に満足そうに頷いている。もしかして、一番楽しみにしてたのはあんたか。

 

「次は勝つって言ってもね……」

 

 そもそも俺はこれまでシングル専門だった。ダブルの立ち回りに関しては素人に毛が生えた程度の知識しかない。

 さらに言えば、ポケモン達もシングルを前提の育成で育てている。無論、アコニの2体もそうだ。何せ俺が教えている訳だし。

 

「負けっぱなしにするつもり?」

「そうは言ってないだろ」

 

 難しいというだけだ。その程度で諦める俺じゃないし、ポケモン達もそうだ。負けず嫌いじゃなきゃバトルなんてやってない。

 

「合宿中に何か、こう、考えよう。とりあえず俺、あのデカいモールに行ってくる」

 

 ショッピングパークのブースに店を構えているような本屋に行けば、ダブルの雑誌とか専門書とか、一冊二冊は置いてあるだろ。

 

「待って、私も行くから。着替えてくるから待ってて!」

 

 あ、水着着替えちゃうんだ。残念なような、ホッとしたような……。

 

 

大体のポケモンは現実で言う霊長類程度に色覚が発達しているという設定





塩焼きそば

味 :★★★★☆
栄養:★★★☆☆
他 :★★★☆☆

総合評価:★★★★☆

 これ以上に何と説明すべきかも見当たらない、単なる塩焼きそば。サワギが昼飯のバーベキューの締めとして作ってくれたもの。
 麺はサワギが個人的に用意していたようで、トリトマが面食らっていた(偶然の言い回しであり、面と麺をかけた薄ら寒いギャグだとは思わないでいただきたい)。
 塩、ごま油、うま味調味料というシンプルな味付けながら、そのシンプルさが具材の味全体の調和に一役買っている。

ライム評:★★★★☆
備考
 ピィーカ!(あっつい! でもおいしい!)

シラン評:★★★★★
備考
 完全に予定外らしき焼きそば。余った野菜やらバラ肉を適当に合わせると、非常に慣れたヘラ捌きで焼き始めたので、全員何も言えずに見ているしかできなかった。サワギ先輩って意外と、テンション上がるとこういうことやり始めるんだ。
 具材を先に炒めると、個別に炒め始めた麺をわざとプレートに押し付けて焼き付け、ところどころを薄く焦がすことで、香ばしい風味と小気味よい食感を作っていた。
 先輩の手前最高評価を付けないとまずいかな、みたいな気遣いではなく、順当にうまかった。
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