俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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 拙作を読んでいただきありがとうございます。誤字報告、感想、評価、お気に入りなども大変励みになっています。

※諸事情あって朝投稿です。ほぼないものとは思いますが、今後もこのようなことがあるやもしれませんので、ご承知おきください。




39、惑う旅路こそ敵に知れ

 

 ビーチに戻ってから、ダブルの対策の続きを話し合ったり、実際に色々試しているうちに、短波長の爽やかな青空は日に焼け、赤みのスペクトルが強度を増しつつあった。

 

「明日こそ、絶対勝つからね」

 

 アコニは海の家で何本か購入した焼きとうもろこし(俺のはポリさんに取られた)を齧りながら、1日で3分の1も埋まってしまったノートの10ページ目を鉛筆で叩いた。

 

「あなただって、負けっぱなしは嫌でしょ」

「そーだな……」

 

 この機に二人でダブルの基礎の基礎から勉強してみたが、意外と有意義な時間だった。数時間の小手先とはいえ、普段の競技にも応用できそうな知識もいくつか発掘できた気がする。

 

「ちょっと、シラン? どうしたの? もっとやる気出してよ。あ、口の端に醤油付いてる」

「ちょ、お、おい、いいって! 自分でやる!」

 

 人の口許を拭くのをやめろ。君はお母さんか何かか。

 

「はい、取れたわ」

「はぁ……ありがと……」

 

 さっきトリトマが突然グリルに火を入れて、浜焼きを始めた時の奴かな。海辺であの匂いを漂わせるのはズルだ。俺も含めて会員達は全員、夜の誘蛾灯に惑うモルフォンのように引き寄せられた。

 

「やる気はあるって。あるけどさ」

「じゃあ何? 悩み事?」

 

 会員達は全員海を満喫しており、水着ではしゃいでいる。水着を着ていないのは、ブルーシートの上で延々と作戦会議をおこなっていた俺達くらいだ。

 

「いや、折角海なのに、やってること学校での俺達と変わらないな、と……」

 

 図書館には学生が予約できる会議室や貸しスペースがいくつかあって、俺達はもっぱらそこで勉強やらバトルの研究をしている。

 違いと言えばエアコンが利いているかどうかと、ノートの位置の高低差くらいだ。

 

「確かにそうね……じゃあ、そうだ」

 

 アコニは顎に指を当てて何やら考え込んだのち、妙案が思い付いたかのように人差し指を立てた。

 

「明日、先輩達に勝てたら、二人でお祝いするのはどう?」

「お祝いって?」

「花火! 手持ち花火、買ってきたから」

 

 彼女は得意げに笑った。さきほどモール内の本屋に行く途中で、俺に隠れて何か買いものをしていたことには気付いてたが、もしかして手持ち花火だったのか。

 

「負けた時はお預けね。だから、絶対勝つわよ」

 

 それは……確かに、負けられないかもしれない。

 

「実は俺、初めてやるよ。手持ち花火」

 

 好敵手はいても、カントーに友達らしい友達はいなかった。右を向けば負かした相手が憎々しげにこちらを睨み付けており、左を向けば敗北した相手が大いに侮った目で見下ろしてくる。そんな世界だったから。

 自分の表情を自分で見ることはできないが、多分俺は照れくさそうにしていた。そして、アコニも心なしか、笑いながら照れた風に眉の端を降ろしていた。

 

「私も」

 

 

 

「さて、そろそろ就寝時間だ。各自コテージ内で寝支度を始めろ。修学旅行でもないからな、騒がしくしなければ寝る時間は自由だが、6時起きということを忘れるな」

 

 サワギは手を叩いて会員達の注目を集めると、明るいうちから月なんか出して夜めく慇懃な空の催いを指差した。

 

「パラソルは開いたままでいいが、シートは畳んでおけ。それからゴミは海の家が預かってくれるそうなので、可燃、不燃、資源プラスチック、瓶、ペットボトルに分別しろ」

 

 サワギの指示に従って、会員達はテキパキと浜の片付けを始めた。トリトマが自ら選んで勧誘した生徒なだけあって、全員こういうところは真面目だ。

 借りたものは借りた時よりも綺麗にしてから返せ、などと言うつもりでもないが、浜に打ち上げられたゴミを回収しておくくらいのことはやっても、偽善者嫌いの誰かに咎められる謂れはないはずだ。

 

「それから釘を刺しておくが、コテージは施錠できるようになっている」

 

 鋭い目付きで男子生徒を見渡したサワギの忠告に合わせて、カラミが懐からその鍵を見せた。

 そもそも関係者以外は入場すらできないビーチの内部にあるコテージだ。野郎の使う部屋になんざ鍵は(あるけど)いらないが、その野郎共が熱に浮かれて乱暴をはたらかないように、ということらしい。

 

「明日の予定は、女子はカラミ、男子は俺から就寝前ミーティングで共有するので、午後10時までには各自支度を済ませておけ……会長からは何かございますか」

「いや、熱射の下で長話をするのはやめておこう。明日に備え、早めに体を休めてくれ。以上、解散」

 

 午後6時半。夜というには夏の海はまだ明るかったが、浜に広げた荷物やグリルなどを片付けながら、その日は一旦お開きとなった。

 さて、片付けが終わったら飯食ってから動きの練習するか。コテージ内に大きめのキッチンがあり、自由に使っていいとのお達しだった。料理ができない生徒がいても、振る舞いたがりのサワギのお陰でどうにかなる、という寸法のようだ。

 

「シロミー、戻るぞー」

 

 普段大人しくさせている本能を存分に解放できたのか、シロミの表情はいつもより穏やかだった。

 その証拠にほら、頭にチョンチーが勝手に乗っかってきているのに、振り落とそうとせずにそのままにしている。かわいいなお前ら。

 

 

 

 人影のない早朝の海に向かって、エルレイドは片腕を引いて構えていた。

 

「…………」

 

 ヘリクスとの対戦では、全く衰えを感じさせなかったエルレイドではあるが、こうして見るとやはり、昔に比べて構えが少し降りている。

 

「〝サイコカッター〟」

 

 湖で試した時と同じように、水の方から念気の刃を嫌って傷を割っていく。浅い場所の砂地に切れ込みが生まれ、数秒経ってから流れ始めた水は、波紋を高く伸ばして左右に水面を荒らした。

 あの湖と違って、早朝の海の浅瀬ではポケモン達が戯れていたが、あまりのエネルギー密度に震える刃に恐れをなして、蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。

 

「…………弱いな」

 

 俺の理想……というか、リーグを目指していた頃とは程遠い。目下とりあえずの目標は、少なくともあの頃と同じくらいには戦えるようになることだ。お互いに。

 

「腰を回しすぎだったな。姿勢が崩れてる。それから、肘から振ろうとしてただろ。後ろの右足から力が伝わるように意識して、もう一回」

 

 エルレイドは頷いて、もう一度海に向かって〝サイコカッター〟を繰り出した。

 

 …………先ほどよりはよくなった。よくなかったが。

 

「それでも、まだ弱いな」

 

 エネルギーの総量に違いはない。一度見ただけの所感だが、念動力を伝える工程に問題があるようだ。腕を振り抜く瞬間には、実際には腕以外の多くの筋肉や関節が連動する。

 おそらくは体幹のズレだ。特に立ち技のポケモンは、体の芯を意識することが肝要となる。斬撃の威力は正確な姿勢に依存する訳だ。

 

「またやるか。前みたいにさ、体幹」

 

 ジム巡りの頃は、腹圧呼吸やらプランクをさせていた。毎日、スマホで時間を切って、4種から6種程度のメニューを休みなく。

 

「今度は俺もやるよ。昨日の今日で不甲斐なさを思い知った……」

 

 肺がどうこうとか言い訳もできない体たらくだ。へばっていたのは俺だけだった。

 それに、あんまりこう、昔のようにエルレイドを戦いの道具みたいに扱える気はしない。しようとも思えない。

 

「お……」

 

 エルレイドは何も言わずに両肘を地面につけて、うつ伏せの状態で片足を伸ばした。散々やってきたことだからか、体が覚えているようだ。

 俺もやるか……うわ、結構、バランス感覚がいるぞ、これ……。

 

「あだっ」

「うわ、顔面から……痛そ〜」

 

 早朝で醜態を誰にも見られないものと思いきや、後ろから意外な声がかかった。

 

「ミヤコ……」

 

 ラフな格好のミヤコが、変なものを見る目で見下ろしてきた。タイミングの悪いヤツ。カッコ悪いとこ見られたくないから早朝に起きて出てんのに。

 

「まだ5時だぞ。こんな時間に起きれるんだな」

「いや、寝てないだけ。徹夜ってなモンって訳だぃ」

 

 なるほどね……よく見ると目が赤い。合宿でテンション上がって眠れなかったのか?

 

「それで、シランはこんな時間からトレーニング? てか、それ君が一緒にやる意味ある?」

「あー、何というか……ポケモンの気持ちになってみたくなったんだ」

「何それ。分かる訳ないじゃん」

 

 特に早急で用意できる反駁の論もない。そのつもりもないし。これは単なる自己満足だ。俺が隣で一緒に苦しんだところで、エルレイドの負担が減る訳でもなし。

 ただ、上から指示するだけのトレーナーでは、これまでと同じだ。非力なら非力なりに、そこから脱しようとする努力の姿の一つでも見せなければ、バッジ八つ級の実力がある手持ちに示しがつかない。

 

「ふーん、それがシランのエルレイド……」

「見たことあるだろ」

「ちゃんとはないよ。チラッとしか」

 

 ミヤコは勝負師の目でエルレイドを値踏みしていた。バトルをふっかける気マンマンです、という表情で。

 前日あんなに運動してバトル練習して、挙句に徹夜でグロッキーなはずなのに、どこにそんな闘争心を隠しているんだか。

 

「あーあ……見ただけで分かっちゃう。強い強い。そりゃ君も強い訳だ。こんなポケモン隠してたんだから」

「別に隠してない」

「隠してるでしょ。研究会でも頑なに使おうとしないじゃん。手の内を見せたくないとか言ってさ」

 

 エルレイドの強さに関しては絶対の自信がある。真に心を通わせた時、俺とこいつとに敵う相手はいないと、本気でそう思っているくらいだ。だからこそ、現状に納得がいかない訳でもある。

 いや、実際に本気のグリーンさんなんかと戦ってみれば、それはもう酷い惨敗を喫するであろうことは想像に難くないが、まぁつまりは、それだけこいつの強さを信頼しているという話。

 

「……調整中なんだよ」

 

 エルレイドもだが、俺達にはどうやら多少のブランクがある。別に今の状態で戦いの場に出しても、百戦錬磨でいられるだろうが、それはそれとして俺が納得できない。

 

「はい嘘。ダウト。雑なハッタリだね。今の〝サイコカッター〟完璧だったじゃん。どう見たって絶好調だけど」

「最初から見てたのかよ……」

「へへ。だってウチが出て行ったら、途中で技をやめちゃうでしょ」

 

 よく分かっているようだ。誰にも見せたくないがために、こうして人のいない時間を選んでいるのだから。

 

「ん……?」

 

 あれ、気のせいか……いや、気のせいではなさそうだな。

 

「お? どしたの? ウチの部屋着姿はシランには刺激が強すぎたかな?」

 

 たわ言をほざいているが、そうではなく、ここ数日に感じていた違和感の正体が分かりそうだと言うべきか。

 

「なんか、ミヤコ、君さ……」

 

 最初は光の加減かと思ったけど、やっぱり気のせいではないようだ。

 

「んー? 何?」

「太った?」

 

 

 ………………。

 

 

「…………はっ? えっ!? 嘘でしょそれ本気で言ってんのッ!?」

「見間違いだとは思ったけどさ」

「そうじゃねーよノンデリバカッ!!」

 

 丸めたしおりで強めに頭をぶったたかれた。ミヤコの暴行にエルレイドもライムも不干渉で、ライムに至っては大人しく殴られろ、みたいな顔で呆れていた。

 しかし、実際そうは思わないか。入学当初は普段から運動をしている人間の筋肉であったのに、最近はなんかこう、幅というか……そう、幅だ。幅が広がったような気がする。

 

「前から無神経だとは思ってたけどここまでとはね! はぁ……君さぁ、よくあのお嬢様と仲良くできてるよね」

「アコニは痩せてるだろ」

 

 アコニの華奢な体は、たまに見てるほうが心配になるくらいだ。小柄というほどでもないが、どこか放っておけない。

 

「違うっつの!! サイコパスかお前ッ!」

 

 バシッ、と、胸にしおりを投げつけられた。さっきから痛いよ。

 

「あのさ、女の子に、いや女とか関係ねーわ。普通は相手に太った? とか失礼なこと聞かないの!! 言うにしてもせめてさ、もうちょっと相手を選ぶとかない訳ッ!?」

「いや……だからほら、アコニには言わないって」

 

 お前とあの子は違うんだよ。雰囲気とかもそうだけど、アコニに憎まれ口を叩かれるのは、実はちょっと嬉しい(断じてマゾヒストの類ではないと弁明しておきたい)くらいだ。でもミヤコに同じことを言われたとしたら、多分普通に少し腹が立つ。

 

「はあぁぁぁッ!? もう怒った!! ブリジュラス!! このクソバカぶっ◯せッ!!」

 

 ぶっころ……く、口悪っ。ヘリクスでももっと迂遠な言い方で濁してたぞ。

 

「い、いや、悪かったって! ちょっとからかっただけ……!」

「女の子に太ったはライン越えだろーが!! ノンデリカスは滅びろッ!!」

 

 やべっ、結構気にしてたのか。いや、意趣返しのつもりで少しからかっただけなのだけれど、こう言うと普通に俺が悪いな……。

 

「カケラも残すなッ……! エレクトロ……!」

 

 ライムが咄嗟に俺とブリジュラスの間に割り込んだ。ミヤコは見境がなくなっているようで、その小さな体が見えていない。

 いくらライムの〝ひらいしん〟があるからと言って、何の準備もなしにこんなところで大技を放ったら、砂浜のほうは無事では済まない。借りている場所を汚す訳には……。

 

「ちょ、それは流石にやべ――――」

 

 

 

「待て、ミヤコ」

 

 

 

 技の準備をしていたブリジュラスが、突如として強烈な眠気に襲われたように、その体を傾けた。

 発動寸前だった〝エレクトロビーム〟は、ロトムが激しく嫌がるような電磁パルスとなって放出され、ほどなくして霧散した。

 

「トリトマ会長……!」

 

 彼の隣では、アヤシシが朝日の眩さに目を細めながらあくびを噛み殺していた。どうやら〝さいみんじゅつ〟を使ったらしい。

 本人も〝さいみんじゅつ〟を食らったかのように眠そうだが、技の正確性に翳りはない。

 

「は、早いですね。もしかして起こしちゃいました?」

 

 コテージから離れているとはいえ、結構大きな声を出してしまった。あるいはそのせいで起こしてしまったのかもしれない。

 

「あぁ、いや、気にするな。単に朝型なんだ」

 

 アヤシシは鬱陶しそうに頭を振った。どうやら朝型なのはトリトマだけで、アヤシシ自体はそうでもないらしい。

 

「ちょっと会長? 邪魔しないでくれるかな。ウチ、今からこのデリカシーと脳細胞死滅男に引導を渡さないといけないんだけど」

「そう腹を立てるな。キサマが何に怒っているかは知らないが、ここは収めて、僕に任せてくれないか?」

「僕に任せ……? 何それ? どゆこと?」

 

 トリトマはふっ、と普段の硬い表情を綻ばせた。その目に一瞬でも映った、俺達のそれとよく似た闘争本能の光は、おそらく見間違いではない。

 

「シラン、僕と勝負をしよう。1対1でいい」

 

 先輩が、俺と?

 

「勝負って、つまり……」

「我々の間に勝負という単語が持ち出される場合に、それ以外の選択肢があるか?」

 

 バトルか……それも会長と。実質ランク1位の会長と戦えるというなら、願ったりだ。

 

「かいちょ、ちょっとそれ……! はぁ……まぁいいや。じゃ、せめて完膚なきまでにボコボコにしてやってよね。そうじゃなきゃ譲ってあげる意味ないし」

「最善を尽くすよ」

 

 アヤシシは、その寝ぼけ眼をしぱしぱと開けては閉じるを繰り返している。それだけ見ると、全く戦えるようには見えない。

 ということは、トリトマは別のポケモンを出すつもりなのか? しかし、会長の別のポケモンなど知らない。彼は俺達の中でも特に、その手の内を見せていない人間だ。普段のバトルでも、アヤシシのみを出してきている。

 

「キサマもそれでいいか? シラン」

「いいですよ。ずっと気になってたんです。会長のポケモン」

 

 実力者と戦ってみたいというのは、競技者としてはかなり当然の思考であり、というかこれもある種、闘争本能の一種なのだろうか。

 ミヤコも表面上は怒り収まらない風な表情をしているが、俺達の勝負に対する興味の色が隠しきれていない。

 

「場所を変えよう。ここでは砂浜を汚してしまう」

 

 当然のようにミヤコも付いてきた。トリトマもそれに文句はないようだ。

 そろそろトリトマの秘密めいた実力から、暗幕を取り攫っておきたかった気分だ。

 

 

 

 防火スプレーでコーティングされた、砂浜の特設コートに移動した俺達は、同時にボールを繰り出した。

 

「行け、ライム」

「出番だ、ダイケンキ」

 

 そう言ってトリトマが出したのは、俺の記憶の中のダイケンキとは違うものだった。

 

「こいつが、ダイケンキ……?」

 

 俺の知っているダイケンキはあんな色ではなかった。赤い中心線が鎧のような黒い頭部に走り、その〝アシガタナ〟も赤黒く変色している。

 だが、血液が滲んだ古傷という訳でもなく元からその色であったかのように定着していた。ダイケンキと言えば、あの黄色い〝アシガタナ〟ではなかったか?

 

「アヤシシが特殊なポケモンなのは知っていよう。このダイケンキもその類でね。研究も兼ねて僕の手に任されているが……そうだな、詳しいことは言えないが、古代シンオウには、このような姿であったという」

 

 古代ね……そう言えば、各地方の考古学者達の最近の興味関心は、もっぱらシンオウに集中しているらしい。

 というのも、去年シンオウ地方のある場所で、今から100年から200年程度遡った程度の劣化具合である、複数の鉄器が発見されたとかいう話だ。考古学者でもあるシロナが見解を発表し、どっかの新聞の一面を陣取っていた。

 

「それで、強いですか、そいつ」

 

 その方面の研究に厚い研究者各位には申し訳ないが、正直言って古代のロマンとか、俺には全く興味に値しない事柄だ。

 俺達のような競技者からすれば、最終的にバトルにおいてどのような影響があるのか、その一点に帰着する。

 

「安心しろ。すぐに分かる」

 

 そいつはいい。そうでなければ困る。思わずこぼれた笑みに反応して、会長もニヒルな笑顔を浮かべた。

 

「二人して盛り上がるのもいいけどさ、バトル、始めないの?」

「あぁ、そろそろ始めよう」

 

 トリトマは、つまらなさそうにコートの外側に立っていたミヤコに、審判が立つボックスを指差した。

 

「じゃ、1対1でいいんだっけ? さっさと始めてよね」

「シラン、準備は?」

「いつでもどうぞ」

 

 とっくに準備はできている。

 

「じゃ、始めぇー」

 

 ミヤコのやる気のない手掌振りを合図として、ライムとダイケンキが機を同じくして動き始めた。

 

「ライム! 〝かけぶんしん〟ッ!」

「ダイケンキ! 〝ひけん・ちえなみ〟ッ!」

 

 何だその技ッ!?

 

「ライムッ……!」

 

 幾重にも重ねられた黒い斬撃が、始動を兼ねた先頭の〝かげぶんしん〟を吹き飛ばした。

 そして、ライムの分身を飛ばした斬撃の影から、フィールドに貝殻のかけらのようなものが散乱する。

 

「これは、〝まきびし〟……?」

「一目で分かるか。そうだ。これは〝まきびし〟に同じ。どういう原理かなど、僕に聞くなよ」

 

 トリトマは今の技を〝ひけん・ちえなみ〟と言ったか……? そんなもの、見たことも聞いたこともない。

 

「どうしたシラン。まさか、今ので戦意を失った訳ではあるまい」

「…………お気遣いどーも。それだけはないですよ」

 

 いいじゃないか。未知の技、未知のポケモン。つくづく己の勉強不足を痛感させられる。勉強して知ることができる類のものかは甚だ疑問だが、そんなことはどちらでもいい。

 

「ライム、ちょっと予定が変わったけど、俺達もやろう」

「ピィッ……!」

 

 ヘリクスとの激戦を乗り越えてから、俺はライムの技構成を改めた。

 あれから結構な日数が経つが、彼のストライクの洗練された動きが、いつまで経っても目蓋の裏から離れない。敏捷性とテクニックを両立させたあの姿に、俺はすっかり魅了されてしまった。

 ライムでもできるはずだ。最高速では一線級に一歩及ばずとも、その小回りを活かした方向に、そして、攻撃力も犠牲にしないように。

 

「…………ん? 何? ウチのほう見ても、判定甘くしてあげないよ」

「いや……」

 

 研究生大会まで、ミヤコにこれを見せる気はなかった。というか、他の会員やアコニにすら秘密にするつもりだった。

 しかしこうなれば仕方ない。こっちも負けるのは勘弁なんでね。

 

 

「ライム! 〝くさわけ〟ッ!」

 

「何ッ……!?」

 

 ごちゃついた3つのライムの姿が突然足並みを揃えて、3方向から〝くさわけ〟による突撃を繰り出した。

 ダイケンキは横腹に慮外の突進を食らい、思わず呻き声を漏らした。どうやら俺の知ってるダイケンキと同じく、みずタイプではあるらしい。

 

「事前の情報と違うな……キサマのピカチュウの技に、〝くさわけ〟はなかった」

「そうですね。変えてから、今日まで秘密にしてました」

 

 口は悪かったが、ヘリクスの実力は確かに一流のそれだった。素早さで劣る相手の誘い出しといい、あの〝カウンター〟の使い方といい、所詮はピカチュウなどと、心のどこかで諦めていた俺のつまらない早合点を、一瞬で取り払ってしまった。

 

 あれが俺達にもできれば、俺とライムは一歩先に行く。

 

「…………なるほど、侮れないな」

 

 惑う旅路こそ敵に知れ。あのストライクこそ、俺とライムの目指すべき理想形……!!

 

 





特製醤油ダレのアスベル海産大盛り浜焼き

味 :★★★★☆
栄養:★★★☆☆
他 :★☆☆☆☆

総合評価:★★★☆☆

 火を降ろしていたグリルから突然音がしたかと思えば、トリトマが海鮮を焼き始めたので何事かと思った……蓋を開けてみれば単なる浜焼きだったからいいものの。
 各種の貝や殻付きエビ、イカ丸々一杯、釣りが趣味の会員が釣ってきた魚等を、網の上で醤油を塗って焼いただけの豪快料理。
 炭に〝かえんだま〟を混ぜて火勢を強めていたらしい。また、海の家でもらった特製の出汁醤油を使っている。詳しい製法はトリトマ家の秘密(何を秘密にしているんだ)らしいが、出汁にはどうやら〝きちょうなホネ〟を使っているということだけは聞き出した。

ライム評:★★★☆☆
備考
 ピィー! ピカ(お魚好き! でも貝は嫌い……)

シラン評:★★★☆☆
備考
 海鮮を網焼きにしただけの料理と言うべきかも判断に困る品物。しかし小細工を弄さずとも、素材だけで充分勝負になっている。どれも塩気があって好評だったが、個人的にはイカ焼きが一番うまかった。
 焦がしてもいいとかいう出汁醤油は、ほのかに感じる甘味のためにマイルドで、どちらかと言えばエビに塗るのが一番合っていた。
 問題は味以外。トリトマが火力にこだわって〝かえんだま〟を仕込んでいたことがのちに判明し、火の始末でてんやわんやさせられた。しかも煙と匂いがすごい。ビーチには会員しかいないのに、この時ばかりは海辺のシャワーに行列ができていた。
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