俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
チャットの通知の60件がグループではなく全て個人宛、つまり俺宛であることに気が付いた時、偉く肝が冷えた。
「やっば……」
私怒っています、という雰囲気を多分に醸すアコニの連投チャットよりも、ユリオのたった一言が恐ろしかった。
〝連絡に気付きましたら、早急にご返信ください〟
柔らげな丁寧語のほうがむしろ威迫が出るのはどういう理屈なのだろうか。恐ろしい。
スマホロトムは心配混じりの怒りチャットばかりを受信したせいで、怯えてピーピー泣きじゃくり始めた。俺のせいですまん。
ロトムの背面を撫でながら、もうとっくに本日の試合日程は終わり、休憩中であろうユリオに電話をかけた。
「あー、も、もしもし……」
『シランさん! よかった。私共、心配しておりましたのよ』
ユリオの第一声が思っていたよりずっと穏やかであったことに驚きながら、俺は内心安堵しつつ、ため息が彼女に聞こえないように画面から顔を離した。
「悪い。面倒事に巻き込まれてさ……」
『面倒事? それはどのような?』
「何つーか……あー……」
『お話していただくには、何か不都合があるのですか?』
「電話で話すには長い」
あまり要約やら口語の巧みさに自信があるほうではないので、俺は事の成り行きと顛末を電話で話すことを拒んだ。
『では、こちらに合流次第教えてくださるという訳ですね? 今どちらにいるのですか? 学園内ですわよね?』
「ここどこだ……? 少なくとも学園ではない」
『学園ではない……? よろしければ位置情報を共有していただけませんか?』
「それもちょっと……難しそう」
レブンの話では、この場所の位置情報は意図的に改ざんされているようだ。
確かにホテルを出る際、地図アプリで確認してみても、なぜか電波は通じているのに位置情報の読み込みはできなかった。
「変な場所にいるみたいで……位置情報が送れそうな場所に出たらかけ直す」
『事態を理解しかねておりますが……承知しましたわ。少なくともご無事ということですわね?』
「ああ。明日の試合も問題ない」
『それで結構です。では、後ほど』
ユリオとの電話が切れて、スマホロトムの画面に代わりに時刻が表示される。
午後4時半。朝から始まった大会の日程を考えれば、相当長い時間拘束されていたようだ。
「頭いてー……」
ただでさえ同年代ではワーストレベルの体力なのに、心身共に酷く消耗させられた。明日の試合に響かなければいいが。
適当に歩いて大通りまで出てきた俺は、見覚えのない街並みを眺めながら、休憩がてら近くのポケモンセンターに入った。
「みんな悪かったな……予定外のバトルに巻き込んで」
ポケモン達の検査を終えた俺は、空いた休憩所のソファに腰を下ろして、痛む体の力を抜いた。
空調が適切に働いているセンター内でくつろぎながら、じっとこちらを見つめてくるエルレイドの視線を受け流しつつ、ぼんやりと天井を眺めていた。
「俺も頭打ちかな…………」
アコニを見ていると、彼女に足りなかったものが指導者であるということを考えさせられる。彼女には才能がある。
おそらくは俺が来る前からも、自分でもいくらか練習や情報収集はしていたはずだ。しかし、個人でおこなうトレーニングには限界がある。まして新参のトレーナーが。
それが、近くで意見をする誰かが付いただけで、あの上達ぶりだ。半年という期間で……。
俺の頭の中ではずっと、膝から崩れ、地に手を突くシャグマの姿が、俺自身の鏡写しのように見えていた。
持って生まれたものの大小だ。シャグマだけではない。究極的には俺やトリトマ、他の芽を出しつつある生徒達、いや、グリーンさんだって……。
あの人はなぜシロガネ山にこもっているのだろうか? あまりの才能に孤独を感じているのだろうか。俺達が不甲斐ないばかりに。
「エルレイド……」
もしエルレイドが、俺よりも才気に富む別の誰かの手持ちだったら。
そうだったら、そのトレーナーは俺よりもずっと巧みにエルレイドに指示し、またエルレイドも今以上にその天才ぶりを発揮して、眩しいスポットライトの真中にいるのではないだろうか。
「お前本当はもっと――――」
エルレイドに話しかけようとした瞬間、ポケモンセンターの自動ドアから音がした。
俺は我が目を疑った。
「シラン」
入ってきたのはアコニだった。今頃は学園にいるはずの彼女が、なぜか。
「な、何で君がここに……!」
俺は思わず立ち上がってしまった。半開きのだらしない口が閉じなかった。
なぜここにいる? というか、なぜこの場所に俺がいると分かった? 先ほど確認した位置情報によれば、ここまで車でも30分程度はかかるはずだ。
「どうしたの、その怪我」
彼女は、荒事に巻き込まれているうちにできたらしい俺の顔の擦り傷を指差した。
「そ、それよりアコニは、何でここに」
「答えてよ。言えないようなこと?」
答えなければ絶対に前をどかないとでも言いたげな表情で、彼女は両腕をだらりと下げたまま、俺の傷を見つめてきた。
「これは……別に……」
「別にって何」
「……階段から落ちた」
投げ飛ばされたり、吹き飛ばされたりしたものだから、俺の格好の乱れ具合は丁度そのような感じになっていた。
「階段から……?」
「考え事してたから、ちょっと。それで外の病院に行ってたんだ。今はその帰り」
我ながら、よくもこんなに続け様に嘘の話が出てくるものだ。
別に嘘や詭弁の類が得意という訳ではないのだが、彼女を前にすると格好を付けたがる己の見栄が顔を出す。
「病院……?」
「ああ。でも、別に大したことないって。足の打撲くらいで、頭も打ってないし」
とでも言っておけば、この後疲労で少しフラついたとしても、誤魔化せるだろう。
「…………」
彼女は俯いて黙りこくった。
「どうした……?」
突然顔を上げた彼女の表情は、殺しきれない多大な悲嘆に暮れていた。
「どうして何も教えてくれないの……?」
今まで見たこともないような表情のアコニがそこに立っていた。
「何もって、何が……」
「本当は、いつも本調子じゃないんでしょう……? 私に見えないところに隠れて、薬を飲んでることも知ってる……!」
すぐにトリトマの顔が思い浮かんだ。俺の事情を知っていて、アコニにその話をしそうな人間と言えば、彼しかいない。
「そ、それは、別に……」
「それだけじゃない……今日のことも、カントーの仲間のことも、新しい練習生のことも、家族のことも! 何もッ!!」
彼女の背後に、大きな窓に反射した俺の表情が見えた。俺の目は大きく見開かれ、分かりやすい驚愕を表していた。
彼女が俺に父母のことを語ってくれた時のことを思い出した。俺はあれを、単なるメンタルの不調から来る多少の弱音程度にしか感じていなかったが、そうではなかったということか?
「…………」
「どんな理由があって隠してるの……? そんなに私は信用ならないのッ……!?」
「いや、そんな……」
「じゃあ教えてよ」
今更、彼女に何を話せばいい。惨めっぽく八年あまりも腐っていた頃の話をするのか? それが彼女にとって何の益となる?
「…………」
ただ、困惑させるだけではないのか。自分の苦労話をひけらかして同情を誘う趣味はない。
それに、彼女の前にいる俺は、弱みのない頼りになる人間でなければ……そうでなければ、人を教える立場を続けるなんて、とても……。
「何で教えてくれないの……!? それともあなたにとって私は……! 私は、ただ学園に在籍し続けるための条件でしかないのッ……!?」
「ち、違う。そんなことじゃ……!」
彼女はつかみかかる勢いだった。閑散としていた平日のポケモンセンターだが、少しはある人気がこちらに注目していた。
機材を運んでいたハピナスや、自分のポケモンの検査をしにきた老女が、心配げにアコニを覗き込んでいる。
女性どころか対人経験にも薄い俺は、このような時には、何と言って相手を宥めればいいものか、想像も付かなかった。
「私だけなの……!? あなたを単なる強化生じゃないと思ってたのは……!! 私だけが打ち解けたと思ってたのッ!? 私だけがずっと、バカみたいに……!」
内心をまくしたてる彼女の剣幕に、言葉を差し込む余裕はなかった。
俺は開いた口を塞ぐこともできず、彼女の怒りに晒されることしかできなかった。
「あなたにとって私は……! 私は、どうでもいい人間なのッ!?」
俺はずっと、トレーナーとしてのアコニしか見ようとしてこなかった。
エルレイドやカントーの手持ち達を、戦いの道具のように思っていたことと何が違う?
「…………」
彼女は無言で俺を睨み付けていた。
……宥める、などとは上から目線だった。これは俺自身の怠慢が招いた不信だ。
アコニは俺にここまで外聞もなく内心を教えてくれているのに、一人だけカッコ付けて、冷静ぶっているのでは、彼女が激怒するのも無理はない。
「…………ごめん」
「ごめんって何」
ようやく開いた我が口は、単純な謝罪の言葉を述べるので精いっぱいだった。
「隠してたこと」
「…………」
俺の身上や周辺のことなどを話しても、アコニの成長のノイズにしかならないと思っていた。それを彼女が知ったところで、一体バトルにおいて何の役に立つのか、と。
しかし、逆にそれが彼女がここまで思い詰める原因になっていた。
俺は、なんてバカ……。
「アコニ……変わったよな。初めて会った時なんかさ、俺ら……」
「そ、それは……!」
「嘘だよ」
慌てて両手を突き出して振る彼女の様子がおかしかった。怒っていたのは彼女のほうであるはずなのに。
グリーンさんの、俺に対する悪いクセのようなものが、俺にも移っていたのかもしれない。
今のアコニが思っているような疑問や怒りと同じような感情を、俺も彼に抱いたことがある。もっと教えろよ、と。
そんなことすら忘れていた。彼女にとってよき指標であろうとすることばかり考えて、お互いが人間であることを無視していた。
「つまんないぞ。俺の話……俺ホントは、結構暗いしさ……」
「……知ってる。どっちも」
アコニは無表情だったが、怒り慣れていない人間にありがちな、感情の昂りに耐え切れずに潤んだ目が、夕暮れ時に眩しいほどに光っていた。
アコニの家の使用人が運転する車に同乗し、後部座席で彼女と並んで、俺はぽつぽつとまとまらない過去の話を彼女に聴かせていた。
「じゃあ、今でも、ポケモンは怖いの……?」
「どうかな……野生は、まだ少し。父親のこともあるし……」
アコニは、話し慣れない俺の下手くそな語りに何ら水を差すことなく、悲しみとも、喜びとも付かない淡い表情で聞いていた。
俺のほうを向いたまま、一度も目を逸らすことなく、真剣に……。
「悪いな……君の担当が、こんな情けない強化生でさ。がっかりしただろ……」
「決め付けないでよ。そんなの……」
時折何を話すべきか迷った挙句、言葉が詰まるのを、彼女が都度工合のいい相槌を入れてくれたおかげで、話し続けられていた。
「カントーでジム巡りをしてる時には、一人だけ競い合ってたヤツがいたんだ」
また話が飛んで、自分でもこの繋ぎはおかしいかと口ごもりそうになるも、彼女の目は続きを促していた。
「……俺達より一つ年上で、最初の頃は、バトルでも俺の上をいってた」
「あなたより強かったの?」
「お互いにバッジを四つ集めるまでは、全く歯が立たなかったくらいだ。でも、その頃から実力が埋まり始めた」
このことを話すのは、あるいはグリーンさんにもなかったかもしれない。
成り行きで体のことが他人に知られることがあっても、ここまで昔のことを誰かに言って聞かせた覚えは、少なくとも思い出せる範疇にはなかった。
「あいつは……自分より後からジム巡りを始めた後輩達が、どんどん実力で自分を追い抜いていくのが耐えられなかった」
五つ目のバッジを取った時だ。俺は何の前触れもなく、突然ヤツに胸ぐらを掴まれたことを覚えている。全く余裕のない目だった。
「それで、ヤツは6個目のバッジで挫折……というか、その頃には、同年代でジム巡りに挑んでた子供は大体リタイアしてた」
俺がバッジを八つ集めてから、新たにカントーのジムを八箇所踏破したトレーナーが現れたという話はない。
八つ目は当然ながら、キバナにも勝ると噂されるグリーンさんが固めているので、カントーのジム巡りの難易度は高い。というか、リーグ本部があえてその辺りを引き締めている感がある。
しかし問題は、ヤマブキジムやグレンジムでの脱落率が高いということだ。その二つのジムはトキワジムに次いで、一つ目に選ぶのはやめておくべきというのが常識。
「……いい気分ではなかったよ」
仲間ではない。ライバルというほどでもなく、ただの競争相手だ。
それでも、一人、また一人と、隣を走っていたはずの人影が失われていくのは、辛かった。
「だからって……君のジム巡りは、絶対に完遂しろとまでは言わないけど――――」
「絶対に八つ集めるから」
ここまで行儀よく話を聞いていたアコニが、突然俺の言葉を遮った。
「私は絶対、あなたを……」
そこまで言って、はっとしたように言葉を止めたアコニは、急にそっぽを向いて、車窓から外の景色を眺め始めた。
「…………」
語ることもいよいよなくなって、車内には無言の時間が流れ始める。空気を読んで黙っていた運転手の使用人さんが、フロントミラー越しにこちらを覗く視線があった。
「ねぇ……シラン」
こちらから目を逸らしたまま、アコニは穏やかな声色で俺の名前を呼んだ。いつもより艶のある彼女の声で名前を呼ばれるのはくすぐったかった。
「私、勝ったよ。2戦」
「そっか」
「……驚かないの?」
「君なら勝つと思ってた」
「………そう」
本当は飛び上がるほどの思いだった。アコニの手をとって、褒めちぎりたい彼女が嫌がる前まで褒めちぎりたいくらいだ。
でも、そういうのは、大会が終わってからにすると決めた。それまでは敵同士。少なくとも大会の土俵では、余計なことは言わない。
「それと、春休みは……」
「まだ夏休みも終わってないのに、次の長期休暇の話か?」
「もう。聞いてよ。あのね……」
少し頬を赤くしながら、アコニはこちらに振り向いた。
見る者が皆、恋に落ちてしまいそうな可憐なかんばせに、花を咲かせるみたいに、小さくはにかんだ。
「春休みは、二人でハドリアを巡りましょう」
アコニの穏やかな表情をフロントミラーで確認したらしい運転手が、ギョッとした表情で肩を震わせた。
「運転手さんがブンブン首振ってるけど……」
「いいの。別に。お父様はきっと、私がどこで何をしていようと、興味はないわ」
運転手の男性は明らかに大量の冷や汗を垂らしていた。代表の一人娘がどこの馬の骨とも知れぬ男と二人旅など……という顔だ。
「それとも、あなたは嫌なの?」
その聞き方は……俺に選択肢なんてないのではないか。
いや、先に運転手さんを引き合いに出して、本音を誤魔化そうとしたのは俺のほうか。こうして誘ってくれている彼女に失礼だった。
「…………嫌じゃない。嬉しいよ」
同年代で仲のいい人間なんていなかった。セキエイ高原を目指していたトレーナー達の間に、中途半端な馴れ合いはなかった。
俺自身、それでいいとも思っていた。これまでも一人で生きてきた。不便に感じたことは何もない。
しかし、彼女は、俺にとって……。
「いつか、あなたがカントーに帰る時、今日みたいな、嫌な記憶ばっかり思い出してほしくないから……」
電柱に夕陽が遮られる度に、コマ送りのように彼女の顔が明滅する。夏も終わるこの頃には、沈む心にメランコリーな陶酔を隠し切れなくなる。
「……君がいる」
「え?」
「ハドリアもそんなに悪くない」
おまけ 寂しかった
学園に帰って直後、一度部屋に戻って身を休めるため、アコニと別れようと挨拶を交わした直後のことであった。
「ピィーカァーっ!!」
「ら、ライム……! ご、ごめんね!」
ライムをボールから出すと、一目散にアコニの胸の中に飛び込んだ。彼女は怒るでもなくそれを受け止め、ライムの背中を撫で始めた。
「お、おい、ライム! いきなり飛び付いたら危ないだろ!」
「気にしないで。ライムに悪気がないのは分かるから。寂しかったんでしょう?」
このところ、俺がアコニを怒らせてしまっていたせいで、ライムは彼女に甘えられていなかった。そのせいで寂しい思いを募らせていたらしい。
「ピィー……」
ライムはアコニに背中を撫でられ、ご満悦で鳴き声を漏らした。尻尾も小刻みに揺れており、かなり機嫌がいい。
「ふふ……私のこと、好き?」
「ピ」
「ありがと……私も好きよ」
どっちも非常に羨ましい。ライムは最近俺に辛辣だし、アコニのようなかわいい女の子に抱きついても咎められないライムも羨ましい。好きとか言われてるし。
ポケモンはいいよなぁー……寂しいなどと素直に感情を出して、飛び付いても怒られない。俺もピカチュウに生まれてきたらなぁ。
「何? シラン、羨ましいの?」
「え、は、はッ!?」
「嫉妬してるんでしょ!」
「す、するかッ!!」
する訳ないだろ……! 俺が、ぽっ、ポケモン相手にそんな、情けないこと……!
「嘘。面白くなさそうな顔してたよ」
「だ、だからッ! 俺はそんな顔……!」
「別にいいわよ。そういう気持ち、私も分からない訳じゃないから」
「え……」
あ、アコニにもそういう気持ちになることがあるのか……!? だ、誰を相手に……!?
いや、思えば彼女は母を亡くし、父親に関心を向けられず、幼い頃から寂しい思いをしてきたと言うではないか。
そ、そういう気持ちのことを言っているんだ! 誰か好きな男がいるとか、そんな……。
「いいよ。羨ましいなら」
「い、いいよっ、て……?」
「だから、シランも、ほら」
「え、ええぇッ!?」
だだだっ、ダメだろ! それはッ!!
「そんなに慌てること?」
「あ、慌てるだろ! そりゃっ……!」
こ、恋仲でもない男女がそ、そんなことをしてはいけない!! 特に彼女はコンソリド代表の大切な一人娘だ。それをこんな……!
い、いや、これはチャンスだ……! 俺にもそういう欲や気持ちがあるのだと、彼女に分かってもらう絶好の機会ではないか!?
「ほら、何してるの?」
い、いいのか……? 本当に?
「はい。いいよ」
「い、行くぞ……!」
「ふふっ。そんなに気合い入れること?」
気合いも入るというものだ。乱暴にして彼女に痛い思いをさせてはいけない。とにかく傷付けないように力を抜いて……い、いや、あまり力を抜くと、それはそれで受け止められないか……?
そうして逡巡していると、ぎゅ、と。向こうから胸に入ってくる感覚があった。
「あ、アコニ……!?」
い、意外に積極的なのか!? 家柄や性格からして、色恋にはとことん真面目で、段階を踏みたがるタイプだとばかり思っていたが……これは……!
こ、これが……小さくて、柔らかくて、ふわふわしとした毛並みが……!
毛並み?
「ピ」
ピ?
「シランも、かわいいところあるわよね。ライムが私にばっかり甘えるのが寂しかったんでしょ?」
「ピカ」
俺の腕の中には、非常に慣れ親しんだ毛並みの心地よい触り心地があった。俺の体温よりも少し高い熱に、柔らかい体。
こいつライムだ。
「チャ〜」
「ふふ。二人とも、いつも仲良しね」
「あ、あぁ、うん……」
抱きついて頭を擦り付けてくるライムは、三歳児みたいでかわいかった。
それから、少しだけアコニの匂いがした。甘くない、さっぱりとした香水の匂い。柑橘のような匂いがした。