俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
「全く肝を冷やしましたわ……シランさんが行方不明と聞いた時には」
「3人とも、本当にすみません……」
研究会大会2日目、B日程の第1グループがバトルを始めた頃、俺は控え室で3人に向かって頭を下げていた。
「いいですわよ。巻き込まれたのはあなたの責任ではありませんもの」
「そォだな。シャグマさ……シャグマのやったことだ。テメェに非はねーよ」
ユリオとカンゼキはこう言ってくれているが、その後ろでリビナがキレたチョロネコみたいな声で俺を威嚇してきていた。
「で、今日のバトルに支障はねーんだろ?」
「大丈夫」
昨日は早めに寝て、体力の回復に努めた。今日を楽しみにしていたくらいだ。まだ、アコニに見せたいものがある。
「ほーん……ま、それならいいけどよ。練習とかほざいて人のことを散々ボコしてくれたんだ。這ってでも出場しやがれ」
「だから出るって」
個人的な意欲のためだけではなく、大会に出るのはアコニのためでもある。
彼女に俺ののバトルを見せ、また勝ち上がってきた彼女と戦うこと。それがこの大会にエントリーした目的の9割だ。
「ところで、シランさん、そのベルト」
「これか?」
ユリオは、たまにTシャツがめくれた時に見え隠れするものが気になっている様子であった。
俺のシャツの下に隠れているのは、ベルトにつけたボールホルダーだ。おそらく彼女はこのベルトに付いた「六つ目」のボールのことを言っているのだろう。
「私の記憶違いでなければ、これまでシランさんの手持ちは……」
「おお、そういや、五つだったろ、お前のボール」
やはり例に漏れず、金欠の子供がよく使う普通のモンスターボールだ。他のポケモン達が入っているボールと違うところは、エルレイドのボールと同じように、年季が入っているところか。
「新たに仲間を増やしたのですか?」
「ああ」
厳密には、増やしたのではない。カントーから呼び寄せた、元からの俺の仲間。
「どんなポケモンですか?」
「おぉ。オレらにも見せてみろや。試合までまだ時間はあるだろ」
「すぐお披露目になる」
「けッ……勿体ぶりやがって」
この子はあまり人目を好む性質ではない。試合前に集中力を削ぐような真似はしたくなかった。
会場は静まり返っていた。
「…………」
私は観客席から、トリトマ研究会のみんなで今の試合を見下ろしていた。この試合だけは、何としても見逃せなかった。
そうして息巻いて早くに客席に入って、実際の試合時間は3分にも満たなかった。
西側のトレーナーボックスには誰もいない。しかし東側のトレーナーボックスには、膝を突いて放心している男の子がいた。
彼の名前は、確か、ネクタと言ったか。シラン達と同じく強化生の一人で、ガラルから来たという。
今回の大会では、あの一大バトル地方のガラルから来た強化生ということで、優勝候補の一人にも数えられていたはずだ。
実際、ネクタにとって2戦目であるこのバトルの前、強化生ではないとはいえ、三年の実力者相手に、彼は大立ち回りを見せた。
「壮絶だな…………」
トリトマ会長は、未だボールに戻されず、コートに倒れ伏したダイオウドウを見て、僅かに冷や汗を流していた。
ネクタの対戦相手はシラン。シランのニドクインだった。
「あのニドクイン……」
「知っているのか、アコニ」
「彼が、カントーでバッジを集めていた時の手持ちだそうです」
観客席にいた生徒達が皆、驚愕と恐怖とで言葉を失うほど、一方的な試合だった。
ニドクインは、私が映像で見たような、後続のポケモンをサポートする動きではなく、自らが矢面に立ち、コオリッポ、そしてダイオウドウという2体を相手取った。
どちらも、ニドクインが得意とするほどの相手ではない。ダイオウドウには毒が効かず、コオリッポには弱点を取られる。
それが、蓋を開けてみれば、ほぼ無傷での完全勝利。2体目を出すまでもなく、シランは決着のついたコートから早々に引き上げていった。
「客席冷えっ冷えじゃん。あいつホントにあーいうとこあるよね」
今の試合を不機嫌そうに眺めていたミヤコが、これまた不愉快そうに鼻を鳴らした。
彼女もまた、今のシランの試合内容に圧倒された一人であった。不機嫌はその裏返しであり、同じ研究会に所属する者は皆、薄々ミヤコが内心に抱える焦りに気付いていた。
「ミヤコ、キサマはいつか、手加減するなと言ってヤツに掴みかかっていたな」
「これで分かったでしょ。シランのヤツ、普段からナメてんだよ、ウチらのこと」
憮然としてそう言ったミヤコに、今度ばかりは誰も異論を挟むことはなかった。ここにきて、まだその実力の底を隠していたのか、と。
「それでも、負けません」
負ける訳にはいかない。約束したから。他ならぬシラン自身と。
「そうか」
会長は嬉しそうに笑った。その横では、ミヤコが面白くなさそうな顔でこちらを睨んでいた。
B日程。俺の対戦相手は第3試合の、ガラルの強化生とかいう人と、第5試合、トリトマ研究会に次ぐ研究会の副会長だった。
結果は、どちらも勝利。1試合目はニドクインが単騎で、2試合目はポリさんが単騎で相手ポケモン2体を打ち負かした。
「……嫌味なほどの強さですわね、シランさん」
2試合目を終えて、さっさと控え室に引っ込んだ俺を待ち受けていたのは、あまり気分がいい風には見えないユリオであった。
「嫌味?」
「当然の如く白星を上げるものですから」
「カンゼキも、ユリオ達のペアも2勝だろ」
「カンゼキさんには悪いですが、彼の2試合は辛勝と言い表すべきですわ。私達も、快勝ではありませんでした」
見たかった。特にカンゼキの試合。練習を付けたまではいいものの、具体的な成果らしき成果を見たことはない。
カンゼキも、アコニも、どんな試合を演じたのだろうか。二人とも心配はしていなかったが、それはそれとして内容は気になる。
「アコニはどうだった?」
「余裕ですわね。今は、あなたの試合の話をしておりますのよ」
「見てただろ」
「…………ミヤコさんの気持ちが少し分かったような気がします」
ユリオは遠慮がちなため息をつくと、手を預けているテーブルを遠い目で眺めながら、パイプ椅子の上で足を組み直した。
「いえ、これはただの八つ当たりね……申し訳ありません。今のは忘れてください」
どこか様子のおかしいユリオは、普段の彼女なら絶対しないような落ち着きのなさで、カタカタと指でテーブルを叩いていた。
「……私には婚約者がいる、ということは、お話ししたことがありましたか」
「いや、初耳だけど……」
「そうですか」
学園内で人気のある彼女だ。今の話が漏れて伝われば、少なからずショックを男子学生が何人いることやら。
「…………これも、忘れてください。あなたには関係のないお話でした」
ユリオは白いフレアスカートの後ろを手で押さえながら、鞄を持って立ち上がった。
「連勝、おめでとうございます。このままあなたが優勝することを期待していますわ。私自身のためにも」
あまり気のない応援の言葉を述べながら、彼女は幽霊のように不確かな足取りで控え室を出て行った。
「ユリオ……?」
彼女は不機嫌だった。あるいは、俺に何か伝えたいことがあったのか。怒りか、疑惑か何かは知らないが、あまり他人の感情如何に敏感ではない俺からすると、返答の仕方も分からない。
放心気味に彼女が去って行った扉をしばらく眺めていると、外から扉をノックする音が聞こえてきた。
「見てたわよ」
「アコニ」
ユリオと入れ替わるようにして、アコニが控え室に入ってきた。
「試合で戦ってたニドクイン……あれ、カントーでバッジを集めていた時の手持ちでしょ?」
「ああ。ワルビルに見せたから、知ってるのか」
結構な荒療治になってしまったが、ワルビルが取り組むべき課題を自覚させるために、あれは必要な措置だった。
「
「な、何? 何だよその含み笑いは」
アコニは上機嫌にも、普段の真面目一辺倒な無表情ではなく、イタズラを企む子供のような笑顔を浮かべていた。
「何でもないわ。すぐ分かるもの」
「怖いな。いいけどさ……」
「それより、もうあなたは今日の試合は終わったでしょ? 少し早いけど、夕食に行かない?」
彼女は黒髪を指に巻きながら、少し弾むような声色ではにかんだ。
「ああ。昨日言ってた店?」
「そう。少し遅いけれど、研究会大会に向けた決起集会をしましょう」
「いいな、それ。準備させてくれ」
アコニの行きつけとなれば、普段の動きやすさ重視の見すぼらしい格好ではいけない。
彼女は気にするなと言ってくれるが、その彼女に恥をかかさないためにも、少しはフォーマルな装いに着替えてこなければ。
「じゃあ、私は寮の出入り口で待ってるから。あんまり待たせないでね」
本気ではないかわいらしい催促を最後に付け足して、彼女はユーモラスな笑みを浮かべた。
「ははは。分かってる。すぐに――――」
どかっ。
「おーっすシラン。戻ってっか」
下品にも音を立てながら扉を開け、ノックもなしにズカズカと控え室に入ってきたのは、上機嫌のキマワリを連れたカンゼキだった。
「…………」
沈黙が痛い。
久々に上機嫌なアコニの顔を見ることができて嬉しかったのに、彼女の表情は仲直りをする以前の無感情に戻っていた。
「お、おう……もしかして邪魔したか?」
俺は、アコニからは見えない彼女の背後の位置から、カンゼキに目配せをした。すまん、と。すまんけど今日のところは帰って。
『おいシラン! お前この女何とかしろ! オレを睨む目つきが怖ぇんだよ!』
『無理! ごめん! 俺も怖い!』
タイミングがよくなかった。あるいはカンゼキが先に部屋に来ていて、アコニが後から来ていたのであれば、ここまで気まずいことにはならなかったのかもしれない。
カンゼキの足下では、状況を理解できていないキマワリが、彼の脚をペタペタと触りながら、部屋に入らないのかと催促していた。
『く、くそ……貸し一つだぞ……今度からイチャつくならもっと他の場所にしろ!』
『悪い……』
イチャついていた訳ではないと反論したいところだが、そもそもアコニとカンゼキを会わせること自体、慎重になるべきだ。
彼女はカンゼキに悪感情しか抱いていない。俺に卑怯なバトルを持ちかけた上、今ではむしろ俺に取り入ろうとしている悪徒。それがアコニの中でのカンゼキ評だ。
「あ、あー……部屋間違えたわ。わり。じゃあオレは帰る――――」
「待ちなさい」
空気を読んで踵を返したカンゼキを呼び止めたのは、今の今まで柔らかい表情で俺と話していたアコニの、背筋が凍るほど冷めた声だった。
さっきまでは、見ているほうが照れてしまうような可憐な表情であったというのに、カンゼキの登場と共に、突然彫刻を思わせるほどに感情が消えてなくなった。
「あなたには、言っておかないといけないことがあるわ」
カンゼキのほうから、生唾を呑み込む音が聞こえてきた。かろうじて俺は我慢したが、この件はおそらく俺にも関係のあることだ。
何ならこの件の発端は、彼女との仲直りを先送りにして、カンゼキの特訓に逃避していた俺の怠慢だ。
「な、何だよ……」
怒りとも平然とも付かないアコニの無表情に見つめられ、カンゼキは一歩引かせられるほどたじろいだ。
この場でアコニのプレッシャーに負けていないのはキマワリくらいだ。相変わらずのいい笑顔に癒される。できれば別のところで見たかった。
「はっきり言っておきますけど……」
アコニは腕を組み、足を肩幅程度に開いた。明らかにカンゼキを威嚇している。さっきまで後ろで手を組んで、控えめに立っていたのに。
「私はシランの
そこにこだわりがあるとは俺も知らなかった。これから彼女の前で、あまりカンゼキを優先するようなものいいをするのは控えたほうが円いか。
「だ、だから何だよ……?」
カンゼキはやや怯えた表情で、何なら何があってもいいようにか、スコヴィランのボールに手をかけた。
アコニはカンゼキの怯えを知ってか知らずか、気怠げに目を細めたまま、体重をかける足を変え、上位者の振るまいをしていた。
「私には敬語を使いなさい」
斜め上の通達が来た。思わず椅子から転げ落ちそうになる。その重圧を放っておいて要求がそれなんだ。
「なっ、何でだよ!! テメー、シランと同い年ならオレより年下だろ!」
「関係ないわ。普通の業界では、参入した時期で先輩後輩が決まるでしょう」
アコニは頑なだった。ここできっちり上下関係をはっきりさせておこうという意思を感じる。
「おい! シラン! 何だこいつ!! お前の練習生だろ! 説明しろ!」
「い、いや……け、敬語使ってあげれば?」
「テメェまでそっち側かよッ!? つかなんでオレがこんな敵視されなきゃならねーんだよッ!?」
俺にはアコニに不安な思いをさせてしまった負い目がある。おそらく向こう一年くらいは彼女に強く出られる自信がない。
それに、いいじゃないか。こういう一面があるのも、彼女のかわいいところではないか。
と、思ってしまうのも、いよいよ俺も浮かれた恋愛脳共を笑えない傷病に陥ったものであるか。
「それともバトルで決着を付ける? この研究会大会で、より戦績のよかったほうが、今後もシランの練習生を継続する」
ここでアコニからとんでもない提案が投げかけられた。半年前の彼女なら想像もしないような強気ぶりだ。自分のバトルに自信を得始めた証左でもあり、何だか嬉しい。
「じょ、上等じゃねーかッ……! 負けたほうはどうするンだよ」
「練習生を辞すか…………勝ったほうに一生敬語。今から選んでおきなさい」
「ふ、ふざけんな!! オレが勝つ! テメェこそあとで吠え面かくんじゃねーぞッ!」
何だか予想だにもしなかった方向に話が進んでいるが……むしろよかったかもしれない。こうして対抗意識を前面に出して衝突するほうが、お互いに避け合って影で嫌い合うよりは。
続く試合、トリトマ、ミヤコの両人も2戦を快勝で終え、着々と本戦トーナメントへの面子が絞られ始めていた。
2日目はA日程の試合が予定より早く終わったことを考慮して、三日目におこなわれる予定だった試合のうち、競技者双方が合意した組の試合を前倒しでおこなうことになった。
2日目B日程の初戦は、キレンゲ、そしてアローラから来たという強化生のバトルで始まった。
南国風の赤いカットソーに、健康的な褐色と麦わら帽が特徴的な、茶髪の少女。いかにも常夏の地域から来ましたという出立だ。
「くっ……! 溜めろ! スピードに惑わされるなヨノワールッ! 〝シャドーパンチ〟だ!」
「いくよルーちゃん! 〝アクセルロック〟!」
オレンジの体毛を風に揺らすルガルガンが、目にも止まらぬ速度で浮いた岩の上を高速移動し、ヨノワールの背後から身を打ちつける。
あのルガルガンは〝たそがれのすがた〟とかいう形態だ。日射のみが関係する他二種とは違い、その進化方法には時間帯、地域、そしてイワンコ自身の資質が関わってくる。
「ぐっ……捉えきれんッ……!」
圧倒的な速度差と、浮遊させた石の跳び継ぎを混ぜた三次元的な動きに、足で劣るヨノワールは見事に翻弄されていた。
「キレンゲ、さん? でいいのよね。シランの同郷の。お友達なの?」
「どうだろ……友達でいいのか……?」
「何それ。こんな質問の答え、イエスかノーしかないでしょ?」
強化生に選ばれるだけあって、俺が挫折して色々サボっていた間に、ヤツも7つまではバッジを揃えているらしい。ふざけた言動に惑わされがちだが、実力は確かだ。
そのキレンゲですら、トキワジムの高すぎる壁に挑戦を阻まれ続けているという。全国全てのジムを合わせ、ここ5年間のチャレンジャー通過率最下位の看板は伊達ではないということか。
「ヨノワール! 周囲の岩を狙え! 〝れいとうパンチ〟だ!」
「ほほー! そうきますかー! いいセンいってるねー! でもダメー」
ルガルガンが空中移動の足場にしている岩を狙おうとしたヨノワールであったが、それを見越した相手トレーナーは、地上での一撃離脱に切り替えた。
岩を攻撃する前に、ルガルガンが鬣のような岩を掠らせて妨害する。有効打を狙っていない動きだ。あちらとしては機動力で水を開けている相手に対して、一撃離脱が成立している現状、無理をして攻撃に転じる必要がない。
「対戦相手、知らないヤツだな……」
「メメロさん、だそうよ。アローラから来た唯一の強化生……らしいわね」
アローラのリーグは新設の上、単純なジム巡りとは形式が違うので、指標的なもので実力を測るのが難しい。強化生が一人しか来ていないのもその関係だろうか。
そういえばグリーンさんが一度旅行に行ったとか何とか言っていたっけ。結局アローラでもバトル三昧だったような話をしていた。
それにしても、さっきから気になっていることがある。
「趣味悪いな、アローラの……」
「メメロさんね……趣味って?」
「わざと試合を長引かせてる」
防戦で手一杯のヨノワールに比べて、ルガルガンは半分程度しか地力を見せていない。おそらくはあのメメロとかいうトレーナーの指示だ。
晴れ舞台を長引かせるパフォーマンスか、あるいは単にそういう趣味か……。
「そっか……私も見ていて違和感があったの。あのルガルガン、余裕そうだから」
彼女が本戦トーナメントまで上がってくると少し厄介か。魅せるバトルも長期戦も、俺の得意とするところではない。
変なペースに持ち込まれたら、こちらの調子をうまく崩されるかもしれない。
「あなたとは正反対ね。さっさと終わらせてさっさと帰って……挨拶のあと、すぐに控え室に下がるの感じ悪いわよ」
「うるさいな……どんな顔すればいいか分からないんだよ」
トリトマなどは手慣れているようで、試合後に自分への歓声に対して軽く手を振ったりしていた。
彼の場合はそういうファンサービスも、キザったらしさより生真面目さが勝つ。実際応援してくれている人に何も言わないのは悪いとか思っているのだろう。
「もうそろそろいーかなぁー。じゃあルーちゃん! やっちゃって! 〝かみくだく〟ッ!」
突然トップギアに入ったルガルガンの姿が、人間の動体視力では到底追い切れない速度まで一気に到達する。
ブラー処理のかかった太い曲線が乱れ描きされる三次元空間の中で、ヨノワールは全く適応できずに首を回していた。
ザク、と、ヨノワールの首筋に噛みついたルガルガンの姿が突然現れた。
ヨノワールは驚愕の表情を浮かべたままうつ伏せに倒れ、キレンゲもそれを同じような顔で見ていた。
「ヨノワール戦闘不能! ルガルガンの勝利!」
メメロの2体目は不明。キレンゲは一体目に出していたゲンガーも打ち取られ、一矢報いることもできずに敗退。
「はーい会場のアホ面共注目ー! この大会の主演のメメロちゃんでーす!」
メメロは挨拶もそこそこに、観客席へ笑顔を振りまき始めた。まるでアイドルのような軽やかな動きで、ピースとかしながら飛び跳ねている。
彼女は一頻り会場に手を振ると、左手を脇腹に当て、柳腰でポーズを取り、こちらに人差し指を突きつけてきた。
「あの人、もしかしてあなたを指差してる?」
「面識ないぞ」
俺を指している……とは考え難い。俺は彼女の顔すら今知ったほどだ。
「あなたが知らなくても、相手には知られていてもおかしくないでしょ」
「悪目立ちだよ」
「そうとも限らないわよ。それらしい異名が付けられるのも、一目置かれている証拠だと思わない?」
「不名誉だろあれは」
ただでさえ強化生というもの自体、敵愾心や好奇心を伴った目で見られやすいのに、なまじ実力が高いので、強化生同士で集まりやすい。
その中でも変な二つ名を付けられた(自称しているキレンゲは除き)数名は、その名ばかりが一人歩きして、人格を見られていない感が強かった。
「有名ですものね。〝雑魚狩り〟改め〝最強〟の強化生さん」
「やめてくれ……」
ヘリクスとのバトルの話が、このところどっかから漏れたらしい。その辺で細々と噂になっているくらいならいいものの、色々と尾鰭が付いた。
そもそもだ。
「ならよかったかもね。ほら」
アコニが指差したスタジアムのデカい掲示板には、勝ち上がりの選手達の名前が列記されていた。
「電光は〝雑魚狩り〟のままだから」
「どっちも嫌だって言ってんの!」
飛び散ってはねるモモンのパテ 〜紳士を騙るお坊ちゃん風〜
味 :★★★★☆
栄養:★★★☆☆
他 :★★☆☆☆
総合評価:★★★☆☆
ミアレシティは「リストランテ・ニ・リュー」の通常コースにおける前菜。の、冬季限定メニュー。の、さらに再現メニュー。
ペースト状にしたジビエのレバーに、各種ハーブを練り合わせ、パイ生地で包み焼きにしたカロス料理。細切れ(みじん切りではない)モモンのみを混ぜることで獣臭を消し、また口当たりもよくしている。
ジビエは冬季限定で、普段はスーシェフ自らが選定した脂身を使っている。こちらは通常のものよりも舌触りがしっかりとしており、歯切れの感触が強い(らしい。カロス本店のは食ったことねーから知らね)
ライム評:★★★★☆
備考
ピカ!(好き!)
シラン評:★★★☆☆
備考
たまにモモンのみの食感を感じる独特のパテ。そもそも「パテ」なる料理を初めて食べたので、何かと比較して評価することはできないが、少なくとも不味くはなかった。
しかし本場に忠実すぎるというべきか、小市民の俺には高尚すぎる味だった。本店は二つ星を継続している相当な有名店であり、おそらくさらに高度で繊細な味わいの一皿であろうことがうかがえる。
ファミレスくらいの感覚が性に合っている俺には過ぎたシロモノだった。あと財布が痛い……。