俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
誤字報告ありがとうございます。
それから前話の訂正をしておきます(2025年2月28日に訂正)
〝ロックブラスト〟→〝はたきおとす〟
変な間違い方してホントにすまん……これじゃアバゴーラくんが五つも技使ってることになるじゃんか。
「ポリさん。今日もクールだね」
久しぶりに戦闘の場に出されたというのに、ポリさんに焦りや緊張は全くなかった。頼りになる奴だ。これで普段の匙を投げたくなる自我の強ささえなんとかなってくれればな……。
「ほぉ……ポリゴンZか」
ハイネを仕留めきれなかったアバゴーラが、より強烈な闘志の気を発散しながら、ポリさんを睨む。
対してポリさんはこの落ち着きよう。明日地球が滅亡するとか言われても飄々としていそうだな。
「先手必勝か。アバゴーラ、〝アクアジェット〟だッ!」
「ポリさん! 避けるな! 受けろ!」
ハイネからもたらされた〝バトンタッチ〟により、ポリさんは〝リフレクター〟に守られた状態かつ、動体視力と俊敏さにも磨きがかかっている。その上〝めいそう〟まで。
生半可な攻撃は何ら痛痒にはならない。むしろこれはチャンスだ。〝からをやぶる〟で追うのが面倒になった相手が、向こうからやってきたくれたのだから。
「ポリさん今だッ! 〝10まんボルト〟ッ!!」
ホントはこれ、ライムに指示したかったやつ。
アバゴーラの〝アクアジェット〟が衝突する寸前に、俺の指示を全うしてじっと待ち構えていたポリさんが、溜め込んだ電気を一気に放電した。
「コァァァ……!!」
押し殺したアバゴーラの悲鳴が聞こえる。この至近距離だ。大ダメージは免れないだろう。
しかし、まだ倒れてはいなかった。いくら〝ハードロック〟で防御が高くとも、お互いの状況から鑑みて、受け切れる訳はない。
……となれば、トラノヲさんのアバゴーラの特性は〝がんじょう〟だったか。
「まだだアバゴーラ! 〝はたきおとす〟!」
ポリさんの首にかけていた〝いのちのたま〟がはたき落とされ、もちものに関しては無手となる。
〝いのちのたま〟による急激なエネルギー効果が絶たれ、のちの攻撃は少し威力が下がってしまうが、それでもポリゴンZの高い攻撃力と二回の〝めいそう〟分があれば、誰を相手にもお釣りがくる。
「トドメだ! 〝10まんボルト〟ッ!!」
再度至近距離から放たれた高電圧の電子放出が、アバゴーラの頭からつま先までを襲う。
「アバゴーラッ!」
声なき悲鳴を上げながらのけ反ったアバゴーラは、そのまま地面に潰れ、失神してしまった。
いい調子だ。ポリさんの攻撃力なら、直撃すればどんな相手でも二発も当てれば突破できる。そんな自信があった。
「くっ……よくやったアバゴーラ。休んでいてくれ」
2体を倒せば勝利となるので、次が最後のポケモンだ。ユリオの情報から予測すれば、あの六つのハイパーボールの中には、おそらく……。
「行ってこい! セキタンザン!!」
予想通り、トラノヲさんのポケモンには〝セキタンザン〟がいた。獰猛な鼻息が煙を上げて立ち昇る。
黒煙が渦巻く背後では、自信ありげなトラノヲの笑顔が深まっていた。
「ポリさん! 〝れいとうビーム〟ッ!」
「セキタンザンッ! 受けろ!」
受けろッ……!? いくら弱点ではないとしても、前から受けたらひとたまりも……。
「グァオオオオ…………!!」
セキタンザンは体の前でクロスした腕を解放し、自らの強靭な体を誇るかのように咆哮した。
「まじ……?」
無傷とはいかないまでも、まだ余力を残しているような雰囲気だ。どれだけ防御を鍛えたのだろうか。
「ポリさん! もう一度〝れいとうビーム〟!」
「セキタンザン! 反撃だッ! 〝パワージェム〟!」
両者の技が拮抗する。ただ、攻撃力にはこちらに分がある。いくら〝パワージェム〟で相殺しようと、〝れいとうビーム〟が貫通するはずだ。
「グォォ……!」
セキタンザンの体の横を〝れいとうビーム〟が掠めた。薄く氷を張ったセキタンザンの左腕が、瞬く間に氷解していく。
やはり、撃ち合いになればこちらに分がある。無意味な読みを効かせる必要はない……!
「ポリさん! たたみかけろ! 〝れいとうビーム〟だッ!」
「セキタンザン! 耐えて〝にほんばれ〟だッ!」
ポリさんの〝れいとうビーム〟を体に受けながら、セキタンザンは光の球を頭上に打ち出した。途端にコートが明るくなり、明暗の濃淡が甚だしくなる。
「〝にほんばれ〟ッ……」
熱射がコート内を満たす時、セキタンザンの姿が一際大きくなったような気がした。まるで熱膨張するかのように、膨満な肉体が一回りの影を背後に生み出していた。
「焼き払え! 〝かえんほうしゃ〟だッ!」
「ポリさんッ! 〝れいとうビーム〟!」
両者の技が激突した瞬間、セキタンザンの吹き出す黒煙とは真逆の、白い蒸気が爆発するように膨れ上がった。
直前の〝めいそう〟のおかげで〝れいとうビーム〟は〝かえんほうしゃ〟に打ち負けなかったが、相手も〝にほんばれ〟で威力を増幅している分、先ほどのように貫通することはできなかった。
「互角か……ぬぅ! 試合が長引くのは好かん! 一気に行くぞ! セキタンザンッ! 〝オーバーヒート〟だッ!!」
セキタンザンの体が内部から激しく赤熱し、〝にほんばれ〟と合わさってコート内の温度が危険な数値にまで上昇していく。
「グァァァ……オオオオオッ!!」
小細工なしに一気に試合を決めにきたか。それは俺の好むところでもある。というのは、俺のここまでの〝れいとうビーム〟一辺倒の雑過ぎる指示からも大体察することができるのではなかろうか。
なんせポリさんは細かい指示とか聞いてくれないから、完全フルアタ脳筋構成だからなッ!!
「ポリさんッ!! 〝はかいこうせん〟だ!!」
大火力が大好きなポリさんは、大抵のポリゴンが選ぶであろうところの〝トライアタック〟を嫌がって、わざわざこっちを使いたがる。取り回しは悪いが、その分威力は壮絶だ。
ジジジ――ジジ――――ジジジッ!!
不安になるような音がする。先ほどのメテオビームにも劣らない……いや、遥かに巨大な光の束がポリさんの目前に収束していく。あまりにも強大な運動エネルギーの一団はプラズマ状態となって発光し、純粋な光量で言えば〝にほんばれ〟のそれよりも眩い。
ィ――ィィ――ィ――――……!!
衝撃は突如として訪れた。一瞬だが、耳に音が響かなくなる。目を開けた瞬間、コートどころかジム全体が薄く砂塵に包まれており、おそらく〝オーバーヒート〟と〝はかいこうせん〟がぶつかり合ったらしい部分が抉れ、真っ黒に焼けこげていた。
「…………」
セキタンザンは倒れ伏し、動かなかった。焦げた跡はポリさんよりも、セキタンザンの方に近い。〝オーバーヒート〟が〝はかいこうせん〟に拮抗したのは一瞬で、完全に押し切ることができたのだろう。
やっば……こんなに威力出たっけ、ポリさんの〝はかいこうせん〟って……もしや普段は手を抜いてるだろお前。
「セキタンザン、戦闘不能ッ!!」
フラッグがポリさんの方に上がる。ヒヤっとさせられる場面もあったけど、何とかこれで一つ目のバッジを手に入れることができたか。
「シランくん。おめでとう」
焼け焦げたフィールドがある程度落ち着いたのを見計らって、トラノヲさんがこちらへ歩いてきた。それでもまだ熱そうだけど平気なのか? 随分ゆったりと歩いているけど。しかしそれがまた威厳に溢れている。俺も年取ったらこんな感じの男になりたいなぁ。
「これが我がジムを攻略した証である〝セルロバッジ〟だ」
〝セルロバッジ〟は緑がかった黄色に光る六角形の中心に、八角形の穴が空いたバッジだった。
「荒削りながら、中々の健闘ぶりだった。この先のジム戦も、見事勝ち抜いていくことを期待する」
「ありがとうございます。トラノヲさん」
バッジケース買うべきかな……どうせ必要な時以外は持ち歩かないし、百均で買った適当な箱に入れてるけど、アレやめた方がいいかも。
バッジを受け取ってすぐにコートを退散しようとしたが、肩に手を置かれる。トラノヲさんの目は、まだ何か俺に語りかけてくるようであった。
「試合を始める前、グリーンくんから君を叩きのめせと言付かったと言ったな」
「え? は、はい。聞きました」
全くあり得る話だ。だってあの人そういうこと言いそうだもん。変なところで意地悪だし。
「あれはな、冗談だ。本当はそんなことは言われていない」
「え?」
冗談? あれが? どういうつもりであんな冗談を言ったんだろう。
というか、それはグリーンさんの名誉的な意味でどうなんだろう。一瞬でも疑ってしまったじゃないか。いや、ホントは信じてたけどね。そんなこと言う人じゃないって。
「すまん。分かりにくかったか?」
「あぁ、いえ、はは……」
分かりにくいなんてもんじゃなかったよ。
「無論、全力は尽くしたさ。ただな、グリーンくんから言われたのは、そんなことじゃない」
「では、何と?」
「あいつは強いぜ、とだけ。仕事を共にしたのは一ヶ月にも足らない間だったが、驚いたよ。自信家で、あまり人を手放しで褒めない男だという印象だったからな」
グリーンさんが、そんなことを……。
「彼の言う通りだった。全国でも最高峰の難易度と呼び名の高い〝トキワジム〟を突破したトレーナーなだけはある」
「……ありがとうございます」
握手したトラノヲさんの手は、炭坑夫のように硬く、広かった。
「シランさんは、〝トキワジム〟を……」
観客席からは、思い詰めたような表情で手を膝の上に揃えるユリオの視線があった。
何か呟いていたようにも見えたが、距離のせいで内容は全く聞こえない。自分の番を前にして緊張しているのだろうか。
目が覚めた時、既にユリオのバトルの勝敗は決していた。
一戦を終えて疲れていたのか、席を占領して寝転がった瞬間に意識を失っていた。自覚よりも消耗していたようだ。
「シランさん! やりましたわ! 私の勝利ですわ!」
意識を呼び戻したのは、いつも一定の声量を超えないユリオの嬉しげな声だった。
「悪い。見られなくて。応援したかったけど……」
「謝罪には及びませんわ。おかげでトラノヲさんの使うポケモンを事前に見ることができましたから」
体を起こしてユリオに謝罪するが、彼女は気にしていない様子だった。生で見られなかったのは残念だが、スマホロトムが撮影してくれている。帰りの電車では感想戦ができそうかな。
「おめでとう。これで二人揃ってバッジ獲得か」
「そうですわね! これがセルロバッジ……宝石のように綺麗ですのね……」
ユリオは喜びのあまり震えてすらいた。その表情にはある種悲壮感すら漂う。まるで悲願を達成したかのような、そんな壮絶さがあった。
「……やったな、俺達」
「えぇ……! シランさんも……!」
彼女の優しさに返報する訳でもないが、なぜ一つ目のバッジでそこまで大袈裟に喜ぶのか、とは聞かないことにした。誰にだってその人にしか分からない都合がある。
今はお互いの健闘を称えることにしよう。それから何より、頑張ってくれたポケモン達を。
ポケモンセンターで試合後のポケモン達の体調を確認してもらったあと、俺達は予定していた通り、お土産屋に寄ろうと町の中を散策している道中であった。
「そういえば、シランさんはポリゴンZとクエスパトラを手持ちにしているのですか」
「ん? あぁ……」
二匹ともバトル以外で人前には出さないからな……ポリさんは飯をくれる以外の他人に興味とかないし、ハイネは引っ込み思案で警戒心が強い。
ポリさんはともかく、いい機会だし、人に慣らすためにもハイネを出してみるか。ユリオなら乱暴にはしないだろう。
「ハイネ、出ておいで」
「キュ……! キュ、キュキュ……」
ハイネはユリオと目が合った瞬間に、その大きな体を俺の背中に隠そうとした。無理だって、はみ出てる部分の方が面積大きいだろ。
「ごめん。こんな感じで……」
「いえ、かわいらしいですわ。人見知りですのね」
ユリオが俺を挟んでハイネの羽を撫でた。知らない人に触れられてビクッとしたが、その優しい手付きに絆され、とりあえず震えだけは収めてくれた。よかった。大丈夫そうだな。
「技構成は……〝めいそう〟と〝リフレクター〟、〝まもる〟、〝バトンタッチ〟でしたわね」
「俺としては〝ルミナコリジョン〟を使ってほしいんだけどね……」
「あら、覚えさせればいいのでは?」
「使ってくれないんだよ。こいつ、誰も傷付けられないんだよな」
虫も殺せない、とか言えばいいだろうか。こいつは誰かが痛い思いをしているのを見ることすら嫌がる。例えばホラー映画とか。ライムは単に怖いから見たがらないが、ハイネは血の表現やバイオレンスな表現に過度に感情移入してしまうようだ。
「そういえば、ユリオのもう一体、誰だったの?」
「え? あぁ、そうでした。私ばかり手札を見せていただくのも不公平ですわね。出ていらっしゃい、ボスゴドラ」
ずん、と大きな音がした。ボスゴドラ、鈍重ながら、数多くのポケモンの中でも随一の防御力を誇るはがねタイプのポケモン。
「おぉ〜。かっこいい」
びっくりしたハイネはボールに戻ってしまった。そんなに怯えなくてもいいのに。
「そうでしょう? 卵の時からずっと一緒ですのよ」
ボスゴドラは頭を下げ、ユリオにも触れられる高さまで背を屈めた。穏やかな表情をしている。賢そうな子だった。
「もしかして、ホウエンの元チャンピオンを意識してたりする?」
石ばっか探してるせいでリーグ本部に怒られ、挙句追放になった、とか不名誉な噂で有名な元チャンピオンのツワブキ・ダイゴ。
彼は確かはがねタイプのポケモンの使い手だった。詳しいことは知らないが、手持ちにはメタグロスとボスゴドラがいるとか。
「……やはり気付かれますか。その通りですわ。私の父は、デボンコーポレーションの系列会社の社長をしておりますの」
デボン……俺でも知ってる大企業だ。シルフカンパニーと営業成績を競う全国的にもトップクラスの企業だったと記憶している。
ひえぇ。超絶お嬢様だ。そう思うと今までの態度は大分失礼だったかな……いや、今更他人行儀にする方がおかしいか……?
「ですから、トレーナーを目指そうと志した時から、決めておりましたの。誇り高きホウエンチャンピオンのように、はがねのように強いトレーナーになろうと……」
何かのインタビュー動画で、現チャンピオンのミクリが言っていた。「本気になれば誰よりも強いのに、穴掘りばかりに興じているせいで、私に足を掬われたのさ」とか。
馬鹿な奴だ、などと言っていたが、その反面ミクリの表情には落胆の色が浮かんでいた。何だかんだ言いながら、ダイゴの本気を望んでいるのは、他でもないミクリなのかもしれない。
「そう……私は、デボンの名に泥を塗る訳にはいかない…………」
俯いたユリオは、両手を固く握りしめていた。上品な見かけは下唇を噛む姿まで様になっているが、それだけに眉をひそめた面持ちは痛ましげだった。
「あっ……申し訳ありません。気を遣わせてしまいましたか」
「いや、俺も人のこと言えないし。ほら、あったよ。お土産屋」
「あら……? 思ったより歩いていたようですわね。ご迷惑おかけしたお詫びということで、ここは私がお支払いを……」
「いやいやいや!! 迷惑なんか一つもかけられてないし! つーか迷惑の度合いで言ったら俺の方がデカいのかけてるから、むしろ俺が――――!」
「いえ、私が――――」
奢りたがり(お詫びたがり?)の男女が店先で繰り広げた奢り合いは、店内から不審に思った店員が様子を見に来るまで続いた。とか言っておけば、今回のジム戦行脚を結ぶ言葉になるだろうか。
俺自身の名誉を弁護するために付け足しておくが、奢りは何とか阻止した。結局個別に、という、至極真っ当なところに落ち着いただけなんだけど。
タコス風、臨海「スッパサダ」ハドリアアレンジ
味 :★★★★☆
栄養:★★★★☆
他 :★★★☆☆
総合評価:★★★★☆
アローラ名物の揚げパン「マラサダ」の中心に切れ込みを入れ、ひき肉、トマト、玉ねぎ、アボカド、レタス、チーズなどを刻んで炒めたものを挟んだ料理。ハドリアの西、沿岸部で好んで食されている。今回のものは「スッパサダ」。若干のお酢を効かせることにより、空輸でもマラサダの保存が効くようにしているようだ。
ライム評:★☆☆☆☆
備考
ピ〜……(酸っぱいのきらーい)
シラン評:★★★★★
備考
学食にあったので注文したみたヤツ。個別に旨みの多い具材がいくつも入ったタコス的な……何だろう、惣菜パン? ひき肉やチーズがくどくなりそうだが、丁度いい酸味が口当たりよく、食べ勧めても飽きさせない。
この大ボリュームにして一食620円というお手頃価格。ちょいカロリー過多なことに目を瞑れば栄養価は文句なし。金なしの俺の財布にも優しい。しかも学生証を見せれば学割が効く!! 学食最高!!