俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
お気に入り、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
※ここは大体読み飛ばしていいです!
それから、誤字報告で表現に関するご指摘をいただき、これが誤字に該当するか迷ったのでその場では不適用とさせていただきましたが、折角気付いて修正しようとしてくれたのを無視するのも悪いので、そういったものは活動報告とかの感想に送ってもらおうかなと考えております。規約違反だったらどうしよ……とりあえず試しに執筆に関する近況報告をしておきます。
かつて11歳の齢でカントーの八つのジムを制覇した天才少年にして、現役ジムリーダーであるグリーン氏、その身に起きた悲劇と功罪について
センセーショナルな小見出しがついたタブロイド紙が、多分まだどっか引き出しの中に眠っている。
俺はあの時、間違いなく強かった。バッジを揃えて強者を待ち構える血の気の多いエリートトレーナー達も、俺の前ではトキワの森で虫網振り回してる短パン小僧に過ぎなかった。
多分あの人も、俺とおんなじような道を通ってきたのだろう。そしておんなじような壁にぶち当たった。俺よりずっと早い段階で。だから俺は知ってる。強いトレーナーってのは、強いポケモンを育てたトレーナーじゃないってことを。
どうやら最近のホウエンには〝おきがえピカチュウ〟なる風習があるらしい。
かわいい。これライムにもやりたいな。噂に聞く〝おきがえピカチュウ〟は女の子らしいけど、まぁ誤差だろ。だってライムもかわいいし。
「うーん……何着せてもかわいいな」
「ピ、ピカ……」
と思ってやってみたのがこれ。しっぽに緑のリボンを結んだライムが、照れて頭をかいているのを見ていると、もう全てがどうでもよくなる。
桃色のワンピースコーデ。名付けて春の薄幸美少女ピカチュウだ。ライムは男の子だけど、このかわいさの前には性別など単なる表示記号に過ぎない。
「ピィ、ピカ……」
真っ赤なほっぺをさらに赤くするライムのおててをにぎにぎと触りながら、かわいいかわいいと何度も伝えてやる。するとライムは段々、照れながらもちょっとまんざらでもなさそうな表情になってきた。
ホントにかわいいな。思わず抱きしめてしまった。ほのかに暖かくて心地いい。
「あ、もう今日はこのまま寝よ……」
「何バカなこと言ってんの」
枕元にアコニが立っていた。実は俺の知らぬ間に命を落としたアコニが夢枕に立っているのでないとしたら、本物か。
なんでこいつら人の部屋に入るのに扉をノックしねーんだよ。いやノックしたら入っていい訳じゃないけどさ、それにしたって最低限のモラルとかあるだろ。俺が着替えてたらどうしてたんだ。
「電話しても出ないからでしょ」
「電話を無視したりは……あ」
俺のスマホロトムくんは机の上で鼻ちょうちんを膨らませながら爆睡していた。どうやら充電切れだったらしい。
ポリさんといい、人工物が理屈では説明できない生理現象を受け入れているのはなぜなのか。
「ライム〜……代わりに説明しといて……」
「ピカ!?」
「何言ってんの! ほら! 起きなさい! あんたが呼んだんでしょ! 土曜日は話があるからって!」
あぁ〜、このままライムを愛でながら寝ていたい……お願いだから放っておいて……。
という訳にもいかず、一旦アコニには部屋を出てもらい、身支度をしてから再度招き入れた。
「……あんた、何か疲れてる?」
「あぁ……まぁ……」
結局あの後、あの後というのはトリトマ会長さんの勧誘のことだが、俺は勧誘を断った。アコニが入れなければたちまち意味はないし、同じ研究会に強化生が二人もいるのは、少しフェアじゃないような気がする。
何よりグリーンさんの名前を持ち出されたのが気に入らなかった。俺はあの人との親交を自分の利のために喧伝するつもりはない。
精々「尊敬する人は誰ですか?」とか何かで聞かれた時に、グリーンさんの名前を出すくらいだろう。それも、別に俺自身との親交を示唆するようなことを言う気はない。
「煮え切らない返事だけど」
「何か、絡まれんだよな……」
問題はそのさらに後。構内の生徒達から、なぜかやたらとバトルを仕掛けられるようになった。
しかも奴ら、わざわざライムを指名してくる。ピカチュウだからとナメてかかっているのだろう。
ハイネを人前に見せてなくて本当によかった。攻撃技のないハイネを標的にされたら、一対一ならまだしも、複数人に喧嘩を売られた時はヤバかったかも。
『ライム、〝なげつける〟』
『あぁー!! 俺のジヘッドがぁ!』
『次は俺だ! リングマ! 〝メタルクロー〟だ!』
『ライム、〝どろぼう〟』
『あぁ! 俺の〝たつじんのおび〟が! 頼む! それは返してくれ!』
昨日はずっとこんな感じ。
そいつらを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返しているうちに、一日が終わっていた。
十中八九トリトマの研究会傘下の生徒達だろう。おかげで実戦には事欠かないが、引きこもりの小学生より体力のない俺には激務だ。寮の部屋にまで突撃して勝負をしかけてこない良識には感謝したい。お前らのことを言ってるんだぞ、アコニ、ミヤコ。
「え、あれって……」
「何? もしかして俺が喧嘩売られまくる理由に心当たりとかある?」
「いや……目が合った人全員に、あんたから喧嘩売ってるんだと思ってた。カントーの人って目が合ったらポケモン勝負するんでしょ?」
誰だよその風説を広めたのは。いや、あながち間違いでもないけどさ……。
ジムバッジを集めている者同士は、問答無用でバトルに発展する。自らの力を図るため、あるいは賞金を設定して日銭を巻き上げるために。そうやってライバルを潰し合って、選び抜かれた幾人がジムへと突入する。
「全員が全員そうしてる訳じゃない。ジム巡りのトレーナー以外は、基本的に目が合っても断ってるよ」
「ふーん……」
アコニの疑わしげな視線をすり抜けて、ティーポットから紅茶を注ぐ。別に飲みものにこだわりなんてなかったのに、最近はユリオの影響か、すっかり紅茶党だ。ポケモンの特性で言えば〝たんじゅん〟かな。俺は。
「で、何で呼んだの? 今日は」
本題から逸れすぎて忘れるところだった。
「アコニの手持ちの二匹目を考えるって話」
そのためにワルビルの個性を書かせたり、ジム戦の映像を見せたりしたんだ。三日くらいは猶予を設けていたから、多分大丈夫だろう。
「それなら、書いてきたわ。ワルビル、というかワルビアルの特徴」
態度はトゲトゲしいが、ちゃんと言うことは聞くんだから、強くなりたいというのは安い出まかせではないではないようだ。
さて、何を書いてきたんだ?
・攻撃力が高い
・器用
・弱点が多い
・素早さがあと一歩足りない
・特殊攻撃に対する耐性も不安が残る
・フェアリータイプが重い
……なんかすっごいネガティブだな。贔屓目なしに悪い面を見れるのはいいことだけど、あんまり卑屈になりすぎるのもどうかな。
それに、まだ利点はいくらでも思い付く。
「ワルビアルの弱点の多さは〝じゃくてんほけん〟を発動させやすいって意味では有利だ。それに〝いかく〟があるから、物理的な攻撃には思ったより強い」
「〝じゃくてんほけん〟……」
特定のポケモンは、その見た目や迫力で相手を威圧し、いるだけで相手の攻勢を抑制する。ワルビアルもそういった〝とくせい〟を持つポケモンに含まれる。
「あと素早さに関しても、最近のプロシーンでよくみる起点作成ってヤツ、そういうポケモン達に一歩先を取れる場合が多いだろ」
「プロ……? リーグとかってこと?」
「あぁ。それに中堅層の大会でも流行りつつある。多分雑誌とかにも載ってるよ」
「…………」
実際、搦手に長けたポケモンというのは、敏捷性に問題がある場合が多い。何匹かはその〝とくせい〟や持ち前の機敏さを活かし、高速で場を整えてくるが、そういったポケモンも大体は他に弱点を抱えているものだ。
「それから、こいつ自身がその起点作成の役割を両立できるのもいい。〝ちょうはつ〟で相手の起点は潰しつつ、こっちは〝ステルスロック〟を打って圧をかけられる」
俺が思う最大の利点はこれだ。アコニ自身も自覚しているように、ワルビアルってのは純粋な攻撃にも、搦手にも転じることができるユーティリティプレイヤーだ。
俺だったらそうだな……ライムと同じように〝なげつける〟を使わせたりしていたかもしれない。あるいは〝いちゃもん〟とか〝いばる〟を使わせてもいい。
「…………」
「あ、アコニ? どうした?」
俺がベラベラ高説を垂れているうちに、彼女は下を向いて黙りこくってしまった。彼女の前に出した紅茶は、全く手を付けられていない。薄まりつつある湯気が香りを漂わせながら、ゆったりと冷えていった。
「な、何だよ。何か気に障ったか?」
「…………私は」
彼女はそこで言い淀んだ。適当な単語が見つからないのではなく、それを口にすること自体を憚っているようであった。
「考え付きもしなかった……私には、そんなこと全然……」
「それは、仕方ないだろ。今から知れば――――」
「私の力じゃない。それじゃ、説明書を読んでるのと同じ……」
冷えていく紅茶と同様に、アコニの目に横たわる直線形の光が短くなっていった。
「…………ごめん。もう一回、一人で考えてみる」
彼女は、たった今俺が話したことを全てメモ書きに残すと、冷めた紅茶を一気に飲み干して部屋を出て行った。
大丈夫かな……あんまり思い詰めなければいいけど。
次の授業への移動中にバトルを仕掛けてくる迷惑な連中を捌きながら、大教室へと滑り込む。これが一週間も続いたら、もう出るとこ出よう。厳密に言えば、アコニに頭下げて理事長に話を通してもらおう。
何せ体力が続かない。連戦は二戦が限界だ。それ以上は息が怪しくなってくる。
「はぁっ……はぁっ……くそっ……」
全ての授業を終え、教室棟を出る頃には、俺はいつもこんな調子だ。こんなにこれ見よがしに疲れている姿を見せても、仕掛けてくる奴は容赦しない。むしろ討ち取る好機とすら見ている可能性さえある。
「気は変わったか?」
「あ………?」
胸を押さえ、壁越しに歩いていた俺に声をかけてきたのは、緑色に髪を染めたツンツン頭の男だった。
「トリトマさんの下に付く気になったか、って聞いてんだよ」
「…………」
全く予想通りのセリフだ。予想通り過ぎて何ら面白みもない。
いい加減にしろよ。どいつもこいつもトリトマさんトリトマさんって。お前自身の力で強くなりたい奴はいねぇのか。
「ここ数日、オレはテメェのことを観察してた。何か病気とかあんだろ。でなきゃその疲労具合はおかしい」
「…………だったら?」
お見舞いの品でもくれんのか? くれるならバトルじゃなくてバッフロンヨーグルトとかにしてくれ。
「テメェに天下は取れない。そろそろ認めろ。どんなに強くてもな、そんな体のテメェにてっぺんは無理だ」
「……ふざけんのはそのひょうきんな髪型だけにしとけよ」
何の用事かは知らないけど、俺みたいな親なし友達なし恋人なしのカスに構ってる暇があったら、愛しのトリトマさんに媚びでも売ってくればいいんじゃないか?
「今ここで、オレとバトルをしろ」
なるほどね。今その媚び売りをしてんのか。俺を負かすことで。
「嫌だね。明日にしろ」
「逃げたって言いふらしてやるよ」
緑頭がそう言うと、建物や木の裏から誰かの視線が通り始めた。しっかり見届け人がいる訳ね。気が効くな。思わず手が出そうだ。
「トリトマさんの息がかかった奴は学校中にいる。テメェも明日には笑いもんだぜ?」
ポケットの中に適当に突っ込んでいる、俺の〝四つ目〟のボールが熱気を帯び始めた。
……やめろ。熱くなるな。俺のことは心配いらない。これくらいの苦境は、ジム巡り時代に何度も経験してきた。あの大紅蓮地獄みたいな死の山に比べれば、全ては温風だ。
「一対一だ。さっさと済ませよう」
俺にはここからバトルコートのある競技棟まで行く余力もなかったので、その場でライムを出した。
「はぁ……はぁ……」
「ピィッ…………!」
滅多に怒らないライムが、毛を逆立てて逆上していた。
君も、感情的にはなるな。いつも通りにやれば、いつも通りの勝利を君にもたらしてくれるから。
「一応名乗ってやるよ。精々あとでオレの名前を思い出して悔しがれ。オレは――――」
「ごちゃごちゃ言ってないで出せよ」
名前なんか聞いてる暇があるんなら、俺はさっさと帰りたいんだ。
「…………行け、スコヴィラン!」
出てきたのは、色の違う二つの頭を持った奇妙なポケモンだった。確か、パルデアとかいう地方に生息しているポケモンだったか。
「そんな小汚ねぇネズミ、オレがぶっ倒してやるよ」
「ピカッ……!!」
「ライム」
取り合うな。やれば分かる。それでいい。
俺はその場にしゃがみ、いつもより毛羽だったライムの体を撫でた。過敏に高まった闘争心を均して、普段通りの呼吸をさせる。
呼吸は、リズムになる。スポーツ選手が小刻みに動いているのは、静止状態よりも次の動作の瞬発力が高まるからだ。ここが乱れていると、全ての動作も乱れてしまう。
だから、焦るな。焦らなくても、君の強さは知ってる。
「始めんぞ。何でトリトマさんがテメェに執着してるかは知らねぇが、ここでぶっ倒して、テメェにそんな価値はねぇって証明してやるよ」
俺は無言で顎をしゃくってアピールした。先手は譲るよ。いつでも、好きなタイミングでかかってこい。
「ナメやがって……後悔しろッ! スコヴィラン! 〝エナジーボール〟ッ!」
「ライム! こんなもんを食らうなよッ! 〝かげぶんしん〟ッ!」
ライムの姿が三匹に増えた。そのうちの一匹に〝エナジーボール〟が接触するが、そのまま体をすり抜けて背後の地面で爆散した。
「くだらねぇ曲芸でドヤってんじゃねぇぞ! スコヴィラン! 〝かえんほうしゃ〟で焼き払え!」
「ライム! 〝なげつける〟だ!」
三匹のライムが一斉に振りかぶる。残念だが、機敏さで言えばスコヴィランに勝ち目はない。
三方向から同時に投げられては、スコヴィランも回避のしようがなかった。本当に投げられる〝でんきだま〟は一つしかないので、よく見ればどれが本物かは判別できるが、咄嗟に見分けられる動体視力は、ポケモンはともかく人間にはあり得ない。
「クソがぁッ! 何やってるスコヴィラン! さっさと〝かえんほうしゃ〟だッ!!」
麻痺した体にムチ打って、スコヴィランは口に溜めた火炎を一気に吐き出した。
「ライム突っ込め! 〝どろぼう〟だッ!」
ピカチュウの耐久性では、攻撃は一度受けるのが限界だ。それでよかった。そもそも、ライムは基本的に短期決着を前提に動きを考えてある。
スコヴィランに叩きつけた尻尾が掠め取ったのは〝いのちのたま〟だった。ポリさんは親近感でも感じてるんじゃないか。俺ならスコヴィランにこれを持たせないけどな。
「汚ねぇ技ばっか使いやがってッ!! スコヴィラン!! その小賢しいドブネズミはもうひん死だ! 〝オーバーヒート〟でとどめをさせッ!」
「ライム! 〝きしかいせい〟ッ!」
麻痺でまともに動けないスコヴィランの二つの頭を、硬質化したライムの尻尾が殴り飛ばし、緑頭のトレーナーの腹にまで突き飛ばした。
「ガハッ……!」
掠め取った〝いのちのたま〟と〝かえんほうしゃ〟のダメージで、確かにライムは戦闘不能直前だ。だが、バトルってのはダメージが蓄積しているほうが常に不利って訳じゃない。
耐久の低いポケモンってのはこうやって活かすんだよ。
「く、クソ……! 何で……!」
声を張りすぎて息が苦しくなってきた。酸素の足りない頭では罵倒語も出てこない。
「はぁっ……はぁっ……!」
「ピッ……ピカ……!」
「平気だ……よく頑張ったな、ライム……」
俺はスコヴィランの下敷きになった緑頭をその場に残して、学生寮に帰ることにした。物陰から隠れて見ていた連中は、緑頭を介抱するでも、俺に追い討ちを仕掛けるでもなく、勝敗が決した瞬間に消え失せていた。
オリーヴァオイルのアスパラマリネ
味 :★★★★☆
栄養:★★★★★
他 :★★☆☆☆
総合評価:★★★★☆
ミネラル、脂肪酸の豊富なオリーヴァのオイルを使ったマリネ。玉ねぎ、プチトマト、アスパラ、ニンニク、薄切りの赤身肉を、オイルと塩、レモン、白ワインを合わせた調味液に漬けたもの。バジルが一振りかかっている。
元はパルデアでよく食べられているカルパッチョに端を発する。ハドリアに伝来する途中で、より保存の効く調理法を求めた結果、このような形となった。
ライム評:★☆☆☆☆
備考
ピィカ!(酸っぱいの嫌だってば!)
シラン評:★★★★☆
備考
アコニが通っている学内のレストランで提供されている料理。一食1800円。興味本位で入店したが、実は店の扉を開いた時点で少し後悔した。
同時に漬け込んだニンニクと、後からかけられたバジルの風味を、シンプルな味付けが下支えしており、見事に調和している。また柔らかい赤身肉やトマトに対応して、玉ねぎやアスパラの歯に抵抗する食感が楽しい。