東方二次SS ふたつのいろ If not for you 〜紅〜 作:赤井せりか
If not for you ……. 〜異聞紅魔郷 序〜 1
―――極論を言えば、ひとりぼっちは良かった。
誰にも気兼ねしないし、その居心地は決して悪く無かった。
まあ、望んでそうなったと言うよりは状況が私をそうさせた、と言う方が正確なのだけれど。
この広い博麗大結界。
この狭い幻想郷。
その中で私はひとりだった。
そう、彼女が現れるまでは。
◇
If not for you ……. 〜異聞紅魔郷 序〜
◇
その日の私は、いつものように神社の境内を箒と塵取りを持って歩き回っていた。
別段、掃除するつもりなど更々無い。
いや、やる気はあったがどうにも面倒だった。
やる気だけ、はある。
やろうという意志は何よりも大切だ。
―――無いよりは。
うん。
よし、じゃあその大切な思いを胸に、今日もこの辺で掃除を止めにしよう。
……まあ、さして参拝客が来るわけでも無いし。
明日にでもやれば良い。
明日出来る事は今日やるな。
人生を楽しく生きるコツのひとつ、だと私は思う。
それよりも人生平和が一番。
こんな平和で長閑な日は平和な縁側に腰掛けて平和に茶でも啜る方が全く有意義だ。
そうしよう。
そうと決めた私は箒と塵取りを適当に片付けると、台所から用意したお茶セットを手に縁側へと腰掛ける。
空は既に秋から冬へとその色を変え、天の高さは蒼の深みと共に何処までも広がっている。
風は冷たかったが、日差しはやや強め。日向はむしろ調度好い感じ。
絶好のお茶日和だ。こりゃもうますます掃除なんて、勿体ない。うん、私の選択、間違いなし。
急須から少し大きめの茶碗に波々と注ぐと、冬の寒さも手伝ってかなかなかに好い案配だった。
「ぷは」
今日も幻想郷は静かで何よりだ。
人生全て事も無し。こうやって縁側で暢気に茶を啜るのが一番好い。
さて、もう一杯。
と。
……そう言えば何か摘む物を用意するのを忘れたなぁ。
「お茶請けお茶請けっと」
台所に行くと、茶棚の引き出しをあける。そこにあったのは、饅頭だ。
とっておきを隠しておいたのだ。
「るん♪ るる♪」
鼻歌のひとつも歌いたくなるものだ。
軽くスキップなんかも織り交ぜてみたりして。
そんなこんなで縁側に戻ってくると―――、
おやぁ? 誰かいるぞ?
さっきまで私以外いるはずのない縁側に、こちら側に背中を向けて座る誰か。
白いフリルをあしらった黒の、おそらくはスカートだろう。
同じデザインのつばの大きなとんがり帽子は、魔女がよくかぶっているそれに似ているが、それにしてはフリルがかなり多めのデザインだ。
ゆるいウェーブのかかった金髪が、華奢な肩から背中へと無造作に流れている。
「ふんふーん♪」
鼻歌に合わせて帽子が左右に揺れる。
ぬぅ、不法侵入者も鼻歌まじりとは。……この不審者と同じ行動がなんだか悔しい。
しかしまあ、邪気の欠片も感じないときたもんだ。
油断はせず、警戒は忘れず、それでもあくまで自然に、無言でその隣に腰掛ける。
ちらり、その少女の顔を盗み見る。
幼さの残る横顔。まるでお人形のようにお淑やかで可愛らしい顔をしている。
私の視線に気づいた彼女は、私の方を見るとにっ、と白い歯を見せた。
先程までのお淑やかさはどこへやら、まるで悪戯好きの少年のような輝きがあった。
「―――お茶、ちょっとぬるいな?」
続く。