東方二次SS ふたつのいろ If not for you 〜紅〜 作:赤井せりか
「ほほう?」
ピクン、と右眉が跳ね上がったのが自分でもわかった。
「ほほうほうほう、
「ああ、ぬるい」
ずず、と音を立てて茶を啜る黒白の少女。
まあ少女といっても見た目的には私とそう大差ない年の頃に見えるだろう。
ただ、白いフリルのエプロンがちょっと幼さを強調しているとは思うけど。
スカートから覗かせた細い脚―――靴は黒、靴下はやはり白だ―――の、膝から下をぱたぱたと交互に振る。
「客へのおもてなしがなってないぜ?」
「そうね、次は気をつけるわ」
「よろしく頼むよ。……お?」
黒白の少女は私の手の中にある饅頭に気がつくと、
「お茶請けか、これでおもてなしプラマイゼロだなっ」
言うが早いか、私の手からひょいと饅頭を取るとそのまま大きく口を開けて、半分パクリとやりやがった。
ああああああっ!?
私のとっておき!
「もぐもぐ…………うん、美味しかったぜ」
コイツ妖怪か!? ひとの家の縁側に上がり込んでひとのお茶飲んで饅頭食ってく新手のステレオタイプの妖怪か!?
よく見ればほっぺたもムニムニしてるし、饅頭か、饅頭の化身かコイツ!? あれ? てことは私の饅頭食べてたし共食い?
注意深く目の前の妖怪·茶飲み饅頭(仮)の顔をじっと見る。
……いや、この気配は人間か……。
そんな私の視線に気がついた少女は、にっ、と白い歯を見せて笑うと、
「よっと」
縁側から立ち上がり、スタスタと歩いていく。10歩くらいだろうか、おもむろに立ち止まると、
「じゃあ、
振り向いたその表情はやっぱり笑顔で。
屈託のない笑顔が、輝いて見えて。
そのせいか全く気づかなかったが、少女の右手にはいつの間にやら箒が握られていた。
絵本等で魔女がよく持っているような、アレだ。
成る程。
ポン、と手を打つ。
黒い出で立ちに黒いとんがり帽子はそういうことか。
「あなた、魔女?」
「私は、普通の魔法使いだぜ?」
そう答えると、黒白の少女から魔力の波動が溢れる。
体内を魔力が巡っている証拠だ。
風が、普通の魔法使いの周辺を渦巻き、庭の木々を揺らし、落ち葉を散らしていく。
ああああ! いったい誰が掃除すると思ってんのよソレ!
そんな私の悲痛な心の叫びなど彼女はもちろん聞こえるわけもなく。
「またな」
と言い残すと、自称·普通の魔法使いさんは箒に跨って飛び去っていった。
まるで疾風のように。
残されたのは、空になった茶碗と、半分食べかけの饅頭と、呆気にとられた私。それと―――、
落ち葉だらけの庭。
こめかみを押さえつつ、小さく息を吐く。
今度会ったら、掃除を手伝わしてやる。
あと饅頭。食い物の恨みは怖いのよ。
―――しかし、
「……変なやつ」
変なやつだった。
散々自分勝手に振る舞われたのに、何故だか不思議と嫌な気持ちにならない。
それどころか、それこそ一陣の風のような、爽やかすら憶えている。
「変なやつ」
繰り返すと、私は残された半分の饅頭をひょいと口にいれると、親の仇かのように力いっぱい思いっ切り噛み砕いてやった。
もぐもぐもぐもぐもぐ。ごくん。
そうして、咀嚼した饅頭をすっかり飲み込むともう一度。
「変なやつ、ふふ」
ん? 私今、笑った?
◇
―――これが、自称·普通の魔法使いさんとの、はじめての出逢いだった。
◇
続く。