東方二次SS ふたつのいろ If not for you 〜紅〜 作:赤井せりか
翌日―――。
「今日もいい天気ねー」
境内の掃除やらなんやらと日課を終えた私は今日も今日とて縁側に座って平和な幻想郷を眺めていた。
傍らにはお盆に乗せた急須と茶碗。
あの妖怪茶飲み饅頭もとい、黒白魔法使いは姿を見せていない。
「今日は来ないのかしら」
もっとも、「またな」とは言われたけれども、翌日来るとは言っていなかったわね。
「……なによそれ、まるで私が……」
言いかけて、私は立ち上がる。
違和感。
「あれは?」
遠くのものを見るように目を細める。
実際、はるか遠くを視ているのだが。
「紅い……霧?」
湖の畔に居を構える洋館がある。
そこが、その周辺が濃い紅い霧に包まれていた。
否、よく視れば。
幻想郷全域が紅い霧に包まれているではないか。
ただの霧ではないのは明白だ。
紅い霧なんて聞いたことがない。……外の世界では赤い雨が降りその飛沫が霧となる、なんて話も
それが、いつの間にこんなに?
普段だったらもっと早くに気づいてもおかしくない。それなのにこれほどの異変に気づかなかったなんて……、
「そこの紅白―――」
「んあ?」
唐突にかけられた声に振り向く。が、
「おや?」
振り向いた先、神社の庭には誰もいなかった。
「……ふむ」
気のせいね。
うん。
気のせい気のせい。
気のせいということにして。
それよりもあの紅い霧だわ。
「待て待て待てっ!」
ちっ。やっぱり気のせいということにはできないか。
こっそりとため息をつきながら空を見上げると――そこには箒に乗った黒白の少女がひとり。
声の出元は間違いなく彼女だ。聞き覚えがある。
昨日来たあの妖怪・茶飲み饅頭だ。
「そこの紅白っ!」
もう一度、繰り返す。
言われて私は自分のいでたちをくるりと見回した。
うむ、確かに紅白。
きっと私のことだ。
「何か、用かしら?」
自分で言っておいて可笑しな事を尋ねたものね、と思った。
用がなければこんな神社になんか誰も来やしない。
ここはそういう場所だ。
そんなところへ2日も連続で来るだなんて余程の理由があるか、余程の暇人だ。
などと私の思考は他所に、しかし、箒に乗った少女は白い歯を見せる。
「人にモノを尋ねるときはまず自分から答えるもんだぜ?」
「……したり顔、してやったり、ってところ悪いけど、それは人に名前を尋ねるときの話でしょう? 私はいまあなたに何の用かと尋ねたのよ? 先に答えろ? じゃあ答えるわ。私は、いま、あなたに、何の用か、尋ねてるの。あなたが不審者だから」
「ふむ――不審者扱いか。それは困るかも、な」
さして困っていないような口ぶり。
むしろ楽しんでさえいる風に聞こえる。
私は、はあ〜、と大袈裟に溜息をついた。
「そうよ、黒白不審者。それにもしかしたらアナタは妖怪かも知れない。化け物かもしれない。もしそうなら『人』の範疇からは外れるわけだから『人にモノをを尋ねるときはまずは自分が答えろ』っていう理屈は適応されないけどね」
私は人差し指をビッと突きつけ、
「だいたいにおいてよ? 昨日いきなりやってきて、私のいない間に私のお茶を飲み、勝手に饅頭も食べ、そうして帰っていった。ナニソレ? あなたやっぱり新手の妖怪、妖怪・茶飲み饅頭だわ今確信した今決めた良いわねこの饅頭!」
「はは、なんだそりゃ滅茶苦茶だな」
「まあね。けど、それが通用するのが幻想郷でしょ? だから私は、あなたが少なくとも不審者だと疑っているの。饅頭のくせにさっきから空に浮かんだまま高いところから話してくるし。怪しさ大爆発じゃない」
言いながら、私も自分の立ち位置を、上昇させる。
つまり、宙に浮き上がった。
そのまま黒白の少女と同じ目線まで上昇すると、
「疑わしきは罰よ」
「成る程。何事も疑ってかかるのは科学の基本、ってところだな。でもそうやって人間は進歩していくもんだぜ?」
「箒に乗った少女など、おおよそ科学とは無縁の存在でしょうに。そんなファンタジーが科学を語る?」
「まあ、でも大局的にモノを見れば同じ事だぜ。人間も妖怪も、魔法も科学も。おそらく宇宙時間からすればどんな大事だってほんの些細な事。そんな事にかまけていたら先には進めないぜ。
それに、だ。私は饅頭でもなければ妖怪でもない、昨日も言ったがれっきとした普通の魔法使いだぜ」
「そう」
「ああ」
言って、またにっこり。
全くと言っていい程に邪気が感じられない。
最も魔力に関しては半端無い物を感じるけれども。
「それに、巫女が空を飛ぶなんて聞いたことないぜ?」
「そうかしら?今日びの巫女に必須の能力だし、けっこうそういうもんじゃない?」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんよ」
「うーん」
言いつつごそごそと懐を探る黒白の少女。
何が「うーん」なのかしら。
何処か思案げな顔で私を見てくる。
「えーっと、その……ほい」
取り出した“それ”を私の方へと投げてよこす。
ひらり、しかし風に流される事無く、まるで意思を持っているかのように私の方へとまっすぐと。
瞬間、私は“それ”が何であるか理解し―――、少女の顔を睨んだ。
「あなた、それは―――」
「そう、確かに言ったな私は。人にモノを尋ねるときはまず自分から答えろって。だから今度は自分から答えるぜ?
“これ”は―――そう、
少女は帽子を目深にかぶり直していたため、目元を伺う事は出来なかったが―――、
口元は、笑っていた。楽しそうに。
「 魔符『スターダストレヴァリエ』 」
続く。