東方二次SS ふたつのいろ If not for you  〜紅〜   作:赤井せりか

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 If not for you ……. 〜異聞紅魔郷 序〜 5

 瞬間。

 

 少女の姿がふっ、と掻き消えた。

 魔法?

 いや、違う。

 これは()()()()()()()

 

 背後に気配。続いて、

 

「遅いぜ!」

 

 黒白魔法使いの声。

 私は振り向きもせずに身を半歩ずらすと、

 

 ひゅんっ

 

 私のすぐ脇。数瞬前まで立っていた空間を、一条の光線が薙いだ。

 

「外した!?」

 

 ()()()、ではない、()()()のだ。

 気配感知と魔力感知、それと―――勘。それを元に躱したのだ。

 ふふ、躱しただけでは終わらないわよ。

 霊力を身体中に巡らせ流れる水をイメージ。ステップを踏み宙を渡る。

 

「……よいしょっと!」

 

 少女の背後に回ると―――、

 

「 神霊―――」

 

 懐から取り出した呪符を少女の背中にくっつけるように設置し、霊力をこめる。

 

「なっ!?」

 

 初めて少女の声に焦りの色が見えた。

 この距離、外さないわよ!

 

「 『夢想封印―――」

 

 しかし。

 

「 彗星―――」

 

 少女に魔力の集中を感じた。

 馬鹿な、いくらなんでも()()()()()

 

「―――瞬』!」

 

「―――『ブレイジングスター』!! 」

 

 スペルカードの発動はほぼ同時。

 まるで箒星が流れるかのように。

 光の残像を振り撒きながら、少女が光速で間合いを取る。

 私の霊撃は虚空を捕らえたのみだった。

 

 げげげっ!? なんなのよその速さ!?

 

 動揺を隠しつつ、私はさらに続けて霊撃を放つ。

 

「 夢符『二重結界』!」

 

「遅いぜっ」

 

 私の放った弾幕がまるで止まっているかのように、少女はするするとその間をすり抜けていく。

 

 躱して避けてすり抜けて、延々と避け続け――、

 

 なんと霊撃が終わるまで避け続けたのだった。

 

「……残念だったな」

 

 箒に跨ったまま、少し離れた私の正面へと再び戻ってきた。

 にやり、と少女が勝ち誇った笑みを浮かべる。

 見事避け切ったのは凄い。正直凄いわ。そこまでとは思わなかったもの。

 けどね。

 私は半眼で少女を見つめた。

 

「息、上がってるけど?」

 

 少女はすでに肩で息をしていた。それが精一杯かしら?

 腕を組んで少女の頭のてっぺんからつま先まで観察する。魔力の流れは不安定で、霊脈も気脈も乱れまくっている。

 

 しかし、

 

「常に全力、だからな」

 

 言って、あっけらかんと笑った。その声から読み取れる感情は決して虚勢ではない。だからこそ、少女の表情は自信に満ちあふれていた。

 ふうっ、と大きく息をつくと魔法使いは帽子を目深に被り直す。目元が隠れたが口元は相変わらず不敵な笑みのまま。

 

「次は……()()()()()だぜ?」

 

「そう」

 

 私は油断せず懐から数枚のお札を取り出す。

 ()()()()()の言葉に違わず、少女の魔力は膨れ上がっていた。

 

「いくぜ?」

 

と、少女。

 果たして彼女が手にしたスペルカードは、今までで一番の暴れんばかりの輝きを迸らせた。

 

 これを正面から受け止めるには少々骨が折れそうね……。

 

 一瞬、少女の周囲に魔方陣が展開、急激に集束したかと思うと――、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「 恋符――― 」

 

 細い光が小型八卦炉から放たれ、私を貫いた。それはただの光。熱もエネルギーもない、破壊も呼ばない。ただただ真っ直ぐ伸びた、()()()()

 

 ()()()()

 

 背筋を冷たいものが滑り落ちる感覚。

 

 勘が外れていなければこれから起こること、それを食らったらいくら弾幕ごっことはいえただじゃ済まないわ!!

 

 ええい、ままよ!

 

 私は身の危険を感じ、慌ててその空間から逃げ出す。

 

「 『マスタースパーク』! 」

 

 瞬間。その背後を。

 

 ―――ぅおんっ!!!

 

 先ほど躱した光線とは比べ物にならないほどの量の―――、もはや光線と呼ぶのもおこがましい。それはまさにエネルギーの奔流。―――膨大な破壊の光が空間ごとその導線上を焼き払った。

 

 あっぶな……。下手に相殺しなくて良かったわ。

 頬を冷や汗が流れ落ちた。

 とんでもない威力の魔法だったわね。だけど、

 

「……あれだけの威力でも、当たらなければ意味が無いし、なにより距離が離れすぎ。いくらでも避けようがあるわ」

 

「私もそう思うぜ?」

 

 苦し紛れの軽口かしら。()()()()()を避けた時点で私の勝ち。もはや目の前の魔法使いには打つ手無し。

 

「今ならまだ謝れば許してあげるわ」

 

「もう勝った気でいるのか? 気が早いな」

 

「何を……」

 

 私の言葉を遮るように、黒白の少女は指をパチンと鳴らす。

 瞬間、スペルカードが光と共に回転しながら実体化する。

 

「当たらなければ―――」

 

 スペルカードの無宣言起動!?

 

  瞬間、

  衝撃。

 

「―――当てるまでだぜ?」

 

 私の胸元に、少女の顔があった。

 不意の事に思わず少女を抱きとめる形になっている。

 つまりこれは、彼女の攻撃を必中させるための―――!

 

「っつ……!!」

 

 慌てて逃げようとするが、襟元をガッシリと掴まれていて間合いを取ることが出来ない!

 

「もう逃さないぜ?」

 

 少女が顔を上げた。

 襟元をグッと引き寄せられる。

 お互いの吐息がかかる、そんな距離。

 

「この距離なら逃げようがないだろ?」

 

 私と彼女の、目と目が合う。

 

 どこか熱に浮かされているような、少女の眼差し。

 

 ―――もしかしたら私も―――。

 

 瞬間、私の胸は高鳴った。

 

 理解不能の感情の発露に、私は戸惑いと同時に不思議な高揚感を覚えた。

 だから、躱すことも逃げることも出来ず、ただただ目の前にいる金髪の、黒白の魔法使いをじっと見つめ返すしか出来なかった。

 

 まだあどけなさの残る少女の、桜色の唇が言葉を紡ぐ。

 

「命名するならばさしずめ―――そうだな、

 

  大恋愛『ゼロ距離マスタースパーク』

 

   とでも言ったところか」

 

 お互いが弾幕ごっこで相対しているというのに。

 

 私を見つめる少女の瞳は、

 

 ああ、まるで夜空に煌めく無数の星々のように、

 

 キラキラと輝いていた。

 

「―――覚悟するんだぜ?」

 

「後悔しない―――?」

 

「――――――」

 

 私の問いに、私にだけ聴こえる声で答えると、黒白の魔法使いは声高らかに宣言した。

 

 

「 恋符『マスタースパーク』! 」

 

 

 ―――密着した二人の間で光が渦を巻く。

 

 

 

 それは一瞬のこと。

 

  だがその一瞬は―――、

  

   途方も無い位に永く感じられた。

 

 

 

続く。

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