東方二次SS ふたつのいろ If not for you 〜紅〜 作:赤井せりか
瞬間。
少女の姿がふっ、と掻き消えた。
魔法?
いや、違う。
これは
背後に気配。続いて、
「遅いぜ!」
黒白魔法使いの声。
私は振り向きもせずに身を半歩ずらすと、
ひゅんっ
私のすぐ脇。数瞬前まで立っていた空間を、一条の光線が薙いだ。
「外した!?」
気配感知と魔力感知、それと―――勘。それを元に躱したのだ。
ふふ、躱しただけでは終わらないわよ。
霊力を身体中に巡らせ流れる水をイメージ。ステップを踏み宙を渡る。
「……よいしょっと!」
少女の背後に回ると―――、
「 神霊―――」
懐から取り出した呪符を少女の背中にくっつけるように設置し、霊力をこめる。
「なっ!?」
初めて少女の声に焦りの色が見えた。
この距離、外さないわよ!
「 『夢想封印―――」
しかし。
「 彗星―――」
少女に魔力の集中を感じた。
馬鹿な、いくらなんでも
「―――瞬』!」
「―――『ブレイジングスター』!! 」
スペルカードの発動はほぼ同時。
まるで箒星が流れるかのように。
光の残像を振り撒きながら、少女が光速で間合いを取る。
私の霊撃は虚空を捕らえたのみだった。
げげげっ!? なんなのよその速さ!?
動揺を隠しつつ、私はさらに続けて霊撃を放つ。
「 夢符『二重結界』!」
「遅いぜっ」
私の放った弾幕がまるで止まっているかのように、少女はするするとその間をすり抜けていく。
躱して避けてすり抜けて、延々と避け続け――、
なんと霊撃が終わるまで避け続けたのだった。
「……残念だったな」
箒に跨ったまま、少し離れた私の正面へと再び戻ってきた。
にやり、と少女が勝ち誇った笑みを浮かべる。
見事避け切ったのは凄い。正直凄いわ。そこまでとは思わなかったもの。
けどね。
私は半眼で少女を見つめた。
「息、上がってるけど?」
少女はすでに肩で息をしていた。それが精一杯かしら?
腕を組んで少女の頭のてっぺんからつま先まで観察する。魔力の流れは不安定で、霊脈も気脈も乱れまくっている。
しかし、
「常に全力、だからな」
言って、あっけらかんと笑った。その声から読み取れる感情は決して虚勢ではない。だからこそ、少女の表情は自信に満ちあふれていた。
ふうっ、と大きく息をつくと魔法使いは帽子を目深に被り直す。目元が隠れたが口元は相変わらず不敵な笑みのまま。
「次は……
「そう」
私は油断せず懐から数枚のお札を取り出す。
「いくぜ?」
と、少女。
果たして彼女が手にしたスペルカードは、今までで一番の暴れんばかりの輝きを迸らせた。
これを正面から受け止めるには少々骨が折れそうね……。
一瞬、少女の周囲に魔方陣が展開、急激に集束したかと思うと――、
「 恋符――― 」
細い光が小型八卦炉から放たれ、私を貫いた。それはただの光。熱もエネルギーもない、破壊も呼ばない。ただただ真っ直ぐ伸びた、
背筋を冷たいものが滑り落ちる感覚。
勘が外れていなければこれから起こること、それを食らったらいくら弾幕ごっことはいえただじゃ済まないわ!!
ええい、ままよ!
私は身の危険を感じ、慌ててその空間から逃げ出す。
「 『マスタースパーク』! 」
瞬間。その背後を。
―――ぅおんっ!!!
先ほど躱した光線とは比べ物にならないほどの量の―――、もはや光線と呼ぶのもおこがましい。それはまさにエネルギーの奔流。―――膨大な破壊の光が空間ごとその導線上を焼き払った。
あっぶな……。下手に相殺しなくて良かったわ。
頬を冷や汗が流れ落ちた。
とんでもない威力の魔法だったわね。だけど、
「……あれだけの威力でも、当たらなければ意味が無いし、なにより距離が離れすぎ。いくらでも避けようがあるわ」
「私もそう思うぜ?」
苦し紛れの軽口かしら。
「今ならまだ謝れば許してあげるわ」
「もう勝った気でいるのか? 気が早いな」
「何を……」
私の言葉を遮るように、黒白の少女は指をパチンと鳴らす。
瞬間、スペルカードが光と共に回転しながら実体化する。
「当たらなければ―――」
スペルカードの無宣言起動!?
瞬間、
衝撃。
「―――当てるまでだぜ?」
私の胸元に、少女の顔があった。
不意の事に思わず少女を抱きとめる形になっている。
つまりこれは、彼女の攻撃を必中させるための―――!
「っつ……!!」
慌てて逃げようとするが、襟元をガッシリと掴まれていて間合いを取ることが出来ない!
「もう逃さないぜ?」
少女が顔を上げた。
襟元をグッと引き寄せられる。
お互いの吐息がかかる、そんな距離。
「この距離なら逃げようがないだろ?」
私と彼女の、目と目が合う。
どこか熱に浮かされているような、少女の眼差し。
―――もしかしたら私も―――。
瞬間、私の胸は高鳴った。
理解不能の感情の発露に、私は戸惑いと同時に不思議な高揚感を覚えた。
だから、躱すことも逃げることも出来ず、ただただ目の前にいる金髪の、黒白の魔法使いをじっと見つめ返すしか出来なかった。
まだあどけなさの残る少女の、桜色の唇が言葉を紡ぐ。
「命名するならばさしずめ―――そうだな、
大恋愛『ゼロ距離マスタースパーク』
とでも言ったところか」
お互いが弾幕ごっこで相対しているというのに。
私を見つめる少女の瞳は、
ああ、まるで夜空に煌めく無数の星々のように、
キラキラと輝いていた。
「―――覚悟するんだぜ?」
「後悔しない―――?」
「――――――」
私の問いに、私にだけ聴こえる声で答えると、黒白の魔法使いは声高らかに宣言した。
「 恋符『マスタースパーク』! 」
―――密着した二人の間で光が渦を巻く。
それは一瞬のこと。
だがその一瞬は―――、
途方も無い位に永く感じられた。
続く。