東方二次SS ふたつのいろ If not for you 〜紅〜 作:赤井せりか
「―――結局、あの紅い霧はお前じゃあ無かったんだな」
黒白の少女はさしてがっかりもしてない様子で呟いた。
だから最初から違うって言ってたじゃない。
私は無言でお茶を啜った。
少女もまた隣に腰掛けてお茶を啜っている。
私も少女もボロボロの格好だった。
密着状態から放たれた少女の魔法を、私も
全く。そうじゃなかったらふたりとも酷い怪我だったろうに。
「楽しかったぜ」
の一言だけであった。その後、ひとしきりお茶を啜っていたが、
「じゃあ、な」
と少女が立ち上がった。
「あら、もう行っちゃうの? もう少しゆっくりしていけばいいのに」
滅多に人の来ないこの神社に、久しぶりに来ているお客さんなのだから。
少女は喜んだような、困ったような顔で私を見つめてくる。なによ。その表情。私もどんな顔したらいいかわからないじゃない。
「何よ」
「いや―――」
ぽりぽりと後ろ頭を掻く黒白の魔法使い。
「そんな事を言われるとは思わなかったぜ」
「そう?」
「もっと、嫌がってるかと思ったぜ?突然押しかけてあれだけ暴れて。しかもこんなところにひとりでいたんだ、こういう煩いのは苦手かと思ったぜ」
「
「ああ、変な意味じゃなくて―――」
「まあね。ひとりは気楽で良いわ」
「だよなあ」
「でも、あなたとの弾幕ごっこ、存外に楽しかったけど?」
私の言葉に黒白の少女はまじまじと見つめてきて、
「お前、面白いヤツだな!」
と嬉しそうに笑った。
その言い草があまりにも素直すぎて―――なんだか少しくすぐったかった。
「ふふふ」
不思議と笑みが溢れた。
そんな私の反応に、魔法使いは目を細めて笑った。
「まあ、兎に角だ、あれをどうにかしなきゃなんで、私は行くぜ」
そう言って箒にまたがる。
「お茶、ごちそうさま。美味しかったぜ」
「どういたしまして」
「ところで―――」
思い出したように少女が言った。
「あ―――。いや、尋ねる前にまず、答えろだったな。
私の名前は『霧雨魔理沙』。
普通の魔法使い、だぜ」
そんなちょっとおどけた様子の少女がなんだかとても――、私は気に入った。
「私は『博麗霊夢』。博麗神社の素敵な巫女さんよ」
「『博麗霊夢』、だな」
「ええ『霧雨魔理沙』さん」
「じゃあ、霊夢って呼ぶぜ? だから―――」
「解ったわ、魔理沙」
お互い顔を見合わせ―――、笑った。ひとしきり笑った後、
「霊夢」
魔理沙が帽子を目深にかぶりなおし、背中を向ける。
「私はこれからあの紅い霧の原因を探りに行くぜ」
「そう」
「ああ」
「……」
「……」
「それじゃあ、な」
「ええ」
「……私は黒と白……」
「は?」
魔理沙が、突然変なことを言い出した。
「霊夢は、紅と白」
「はあ」
「人にはそれぞれ色があって……いわば、特色ってやつだぜ」
「うん」
「二人がいれば、あの、そのな、特色が……いや、なんでもないぜ!!」
「あ、ちょっと!?」
そうして、台風のような少女『霧雨魔理沙』は飛び去っていってしまった。
◇
ひとりぼっちは良かった。
誰にも気兼ねしないし、その居心地は決して悪く無かった。
まあ、望んでそうなったと言うよりは状況が私をそうさせた、と言う方が正確なのだけれど。
この広い博麗大結界。
この狭い幻想郷。
その中で私はひとりだった。
そう、彼女が―――『霧雨魔里沙』が現れるまでは。
もし彼女が現れなければ、私はずっとひとりのままだった。
ふと、神社の境内を見回す。
落ち葉が散乱し酷い有様だ。
だが、此処には誰もいない。
私ひとり。
さっきまで、ふたりだったのに。
「……よし」
私は立ち上がるとお払い棒とお札、それと陰陽玉を準備し、残りのお茶をぐいっと飲み干した。
―――どうせ、誰も来ないし、ね。
心の中で呟く。
もしかしたら―――望んでいたのかしら。
ふわり
宙に浮くと、魔理沙が飛び去っていった方向を見据える。
―――誰かが、こんな風に
「悪く、ないわね」
気がつけば、私は笑っていた。
こんなに楽しい気分になったのは、
こんなに嬉しい気持ちになったのは、
本当に、
久しぶりだった。
「ふふ、腕が鳴るわね」
私は紅と白。
魔理沙は黒と白。
対照的な、けれども似たような、色の組み合わせ。
そして共通する、白。
はんぶんは共通しているところがあるのだ。
「案外―――」
自然と顔が綻んでしまう。
どこか、似たものなのかも知れなかった。
「気が合うのかもね、私達」
言って、魔理沙を追いかける。
きっとそうだ。
なんせふたつのいろのうち、ひとつはおなじいろなのだから。
程なくして、魔理沙に追いつき、その横に付ける。
「―――先に行っちゃうだなんてずいぶん薄情じゃない?」
「わっ!?」
驚きの声を上げる魔理沙。
そんな魔理沙をジト目で見やる。
「あなたが来なきゃひとりでのんびりしてたのに」
「……迷惑だったか?」
「そう見える?」
「うーん……」
困る魔理沙。そんな魔理沙が―――、ちょっと可愛い。
だから、私は悪戯っぽく笑って舌を出してやった。
「―――ふふ、責任とってよね?」
終
◇
Extra Stage , START !
◇
「命名するならばさしずめ―――そうだな、
大恋愛『ゼロ距離マスタースパーク』
とでも言ったところか」
マスタースパークは発動後、まずは熱無き光線が発生し、一拍置いてその光線が膨張し熱と破壊を生む。
よく見れていれば、先程の霊夢のように躱すことは可能だ。
だが、こうやって襟首を掴まれて逃げ場が無い状態での魔理沙の
視線を外さず、真っ直ぐ霊夢の目を見る魔理沙。
(躱してくるか?)
霊夢は魔理沙に襟元をガッシリと掴まれている。それを振り切って逃げるか。
(否、それはないな)
霊夢の目は真っ直ぐ魔理沙を見つめ返している。
(なら、相殺するか? 否、それもないな。見た所、そこまで高火力のスペルカードを持っているとも思えない)
ほんの僅かの逡巡。だが、魔理沙は確信していた。霊夢なら―――、
(そう、
と。
それは敗北の確信ではない。
(―――博麗霊夢。こいつはなんせこの幻想郷を覆う博麗大結界を司る博麗神社の巫女だ。それが私のスペルカードひとつどうにかできないわけない)
魔理沙は霊夢を知らない
霊夢の実力も、霊夢がひとりでいることも。
最初は博麗の巫女として興味があった。
知れば知るほど、興味が湧いた。
そうして魔理沙は、霊夢という少女に惹かれている自分に気がつく。
それはまさに―――、
だから魔理沙は確信のもと、スペルカードを放つ。その確信とは、己の全力をこの可憐な巫女の少女なら受け止めてくれる、そんな確信だった。
身震いする。想像するだけで胸が躍る。
「―――覚悟するんだぜ?」
その言葉はあるいは、自分自身に言い聞かせたもの。全力を、全力の想いをぶつけて、霊夢がどんな反応を見せるか。躱されるのか、消滅させられるのか、それとも。
それまで真剣な目付きだった霊夢が、ふっと優しい眼差しになる。
「後悔しない―――?」
どきん、と自分の胸が高鳴るのを魔理沙は聞いた。
頬が紅潮する。
抱き締めたくなる衝動を抑え、 口を開く。
「お前に出逢う為に、私は此処に―――」
ずいっと顔をさらに近づけ、喘ぐように口を開くが、その先が言葉にならない。
言葉の代わりに、覚悟を決める。
魔理沙は自分の胸元でスペルカードを発動させた。
ミニ八卦炉がカタカタと音を立てて大きく振動する。
「 恋符 『マスタースパーク』 !」
スペルカードが大きく光を放つ。それは一条の細い光線となり霊夢を貫く。だが、その光はまだ熱も破壊も持たない。
霊夢が魔理沙にだけ聞こえる小さな声で、優しく答える。
「来なさい、あなたの全てを受け止めてあげる」
―――それは一瞬のこと。
だがその一瞬は、
途方も無い位に永く感じられた―――。
魔理沙と霊夢の間に光の方陣が展開する!
まるで曼荼羅のようだな、と魔理沙は感じた。しかしそこに描かれているのは神でも仏でもない。魔理沙には解読不能の、不可思議な文様が幾重にも描かれている。
それと―――、黒と白の双魚の印。
ふたりの間に展開したのは、中心に大きな黒と白の陰陽玉が描かれた、霊力で出来た巨大な方陣だった。
「太極図―――? 否、これは
戸惑う魔理沙に、霊夢はキッパリと言い返す。
「
魔理沙のマスタースパークが熱と破壊を帯びる。しかし、
「まさか!」
驚きの声を上げる魔理沙。
確信はしていたものの、いざ目の当たりにすると驚かざるを得なかった。
その太極図には複数の陣が幾重にも連なっており、森羅万象がそこには記されているのを魔理沙は直感的に理解した。
そんな高度な太極図を、魔理沙は見たことが無かった。
「言ったでしょ?
悪戯っぽく笑う霊夢。
マスタースパークはやがてその出力を落とし、徐々に輝きも弱くなっていく。
(負ける?)
これが自分の全てか? 魔理沙は自分に問いかける。
(否、
霊夢の襟首を掴んていた手はそのまま、空いた方の手でもう一枚のスペルカードを無理矢理に同時展開させる。
マスタースパークを―――、
「もういっちょ、
「ちょっ―――!?」
霊夢の展開させた
霊夢自身この太極図を完全に制御しているわけではなかった。膨大な熱とエネルギーの塊であるマスタースパークを一発受け止めるので精一杯だったのだ。
「 恋心 『ダブルスパーク』 !」
さらに重ねるように、二本目のマスタースパークが発動した。
「ああっ! もう!!」
霊夢が声を荒げた。
自分の襟首を掴む魔理沙の手を振りほどき大きく突き飛ばすと、霊夢もまたスペルカードを発動させる。
太極図から溢れるマスタースパークのエネルギーを、もう一枚のスペルカードで抑え込むつもりだった。
「 神技 『八方―――」
ふたりの間で抑えきれなくなったエネルギーが弾け、大爆発を起こす―――、
その直前。
「―――龍殺陣』!」
太極図に重ねてさらに八角形の光の方陣が発動し、全てを包んで爆縮する!
しかし。その全てを抑えきることは出来ず、霊夢と魔理沙の間で霊力と魔力が破裂した!
◇
声無き悲鳴を上げ、魔理沙は吹き飛ばされる。
(―――やっちまったぜ。 これはさすがの私もヤバいか?)
吹き飛ばされ、墜落していく。
覚悟を決める魔理沙。
しかし、地面への激突はいつまでたっても、無かった。
ふわり、いい匂いがする。
魔理沙の頬に触れる、柔らかくてあたたかいもの。
目を開けると、
「……全く、無茶するんだから」
魔理沙の顔の横に、霊夢の顔。
吹き飛んだ魔理沙の身体を霊夢が抱き締めるようにして助けていたのだった。
「―――けど、あなたの全力、確かに受け止めたわ」
その言葉が嬉しくて、恥ずかしくて、魔理沙は言葉も発せずに霊夢の胸に顔を埋めるしかなかった―――。
Extra Stage , Finished .