TSエルフのやりすぎ物作りダンジョン配信~家と動物とご飯と時々拠点に襲撃~   作:芦屋貴緒

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23 エルフ、探索者を泊める

 シロガネが門扉の前でこちらを呼んでいるので慌てて迎えに行くと、そこには全身血まみれ傷だらけの男の探索者がシロガネの背中に乗せられていた。

 

 シロガネの顔を見てみると「どう扱えばいいか分からないので訊ねにきた」と書いてある。どうやらシロガネが襲ったわけではないようだ。

 俺は急いでゲートの中にシロガネと探索者を通して家の中に運ばせる。

 

『怪我人、どうするの?』

 

「どうするもこうするも、今あるもので処置をして容態を持ち直させる! 一応、限定医療技師の免許は取ってるから犯罪にはならない!」

 

『なんそれ』

『正規の医者じゃないけれど迷宮内に限っては医療行為を許可する免許だよ。主に魔法を使えない〈錬金術〉とか〈メディック〉のスキルを持っている人向けのもの』

『人助けするのにも免許がいるんだな~』

 

 バッと男性……いや、少年の衣服を脱がそうとし、失敗。あとで怒られてもいいからと思い直し、ワイバーンの牙の短剣で服だけを裁断していく。

 念を送ってスマホには少年の傷口は映らないようにする。集合知に期待するには場面と場所がちょっと悪い。大学のカンファレンスであれば問題ないが、ここは配信サイトだ。

 

「うん、こいつは結構ひどいな」

 

 内臓がズタボロになっているなあ。この様子だと暴れ猩々(しょうじょう)あたりに腹パンでも貰ったのかもしれない。

 強い回復アンプルは身体が保たない可能性があるから……こいつは弱い効能のものを少し試してからじゃないと怖いな。

 

 アンチドートの丸薬を飲ませようとするが意識のない少年が嚥下(えんげ)することができない。

 そのため――

 

「それっ――」

 

『わ――』

 

 俺が指で砕いた丸薬を含ませる。

 アンチドートはすぐさま効果を発揮し始めるのであとは雑菌を生活魔法の水で洗い流す。中毒症状が出ないかどうかは気になるが、井戸の水はさすがに消毒には使えない。

 

 ざっくりと消毒を終え、色々とまろび出ている腹部に弱い効果の回復剤をわずかに垂らす。少年の肉体は若干のこわばりを見せる。こればかりに頼り切りになるわけにはいかなさそうである。まずアンプルを打ち込み――徐々に肉体が再成形されていく。ところが必要な魔力が足りないので少年の身体がゆっくりとではあるが痩せ細っていた。

 

 なにかないものか、とストレージの中を頭の中で精査していたときに、あるものが思い浮かび上がった。

 

 ヴィヴィアンの祈りだ。

 魔力を与え続ける水、霊水を湧かせる魔導具(アーティファクト)のひとつである。

 

 いま彼の身に起こっているのは肉体の再成形に伴う魔力欠乏である。肉体を得るために魔力となる肉体を食い尽くす状態を打破しうるもので一番強力な手札は魔導具だ。

 

 俺は〈ストレージ〉の中からヴィヴィアンの祈り……球体の魔導具を取りだして少年の身体に水を溢れさせる。するとみるみるうちにしわがれていた身体はみずみずしさを取り戻し、欠損していた部位も回復剤の効能によって快癒していくではないか。

 

「……〈クラフト〉による効能の上昇も善し悪しってところだな」

「わふ」

「シロガネ、よく拾ってきてくれたな、偉いぞ」

 

 わしゃわしゃと顔を撫でると気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らすシロガネ。こちらの鬼気迫る様子を見て疲れたのか、シロガネはご飯をねだることなく俺のとなりで横になって寝始めた。

 

『もう深夜だよ、寝ないと明日に響くよ』

『でも深夜に探索するパーティもいるよね』

『そこは人によるかなー』

 

「ん、俺も久しぶりに医者のまねごとしたら疲れたよ。……寝る」

 

 

「うわっ! ――てて!」

「ん……」

 

 少年の足が動いたのか、俺の顔に当たっていた部分が細かく衝突を繰り返して起きてしまった。

 バッと目が覚めると、そこには上半身裸で包帯を巻いたままの姿の少年がこちらを凝視してはまぶたをしばたたかせていた。

 

「うあ――」

 

 なんというか、ガチガチに固まったまま動かない。石化や停止の魔眼にでもかかったかのようにびくともしないのは不思議である。

 

「おーい、君、生きてるか?」

 

 寝袋に下半身が入ったまま上体を起こしただけの少年。そんな彼に動けるかだけでも測ろうと近づいたのだが――どん、と押された感覚と、慣れない感覚。

 

「あ、ち、ちが――」

 

 ……胸を揉まれていた。

 

「まあ、なんだ。それだけ元気ならあとは軽くなにか食べてかない? パーティからはぐれたなら捜索も手伝うよ」

「すみません! あの、もうちょっと離れてもらえると助かります……」

「ああ、大丈夫大丈夫、取って食いやしないよ」

「そうじゃなくて……目に毒なので」

 

 あ、そういえばいま一般的に見てすげー格好をしてるんだったな。しばらくずっとこれを着てるから感覚が麻痺してたよ。

 すすす、と後ずさりをすると少年は顔を赤らめつつもどこか調子を取り戻したのか、ほっと一息をついた。

 

 俺は〈ストレージ〉からジャージやインナーなどの着替え一式を取り出すと少年に向かって放り投げる。

 

「サイズは目視だけど合ってるはず。外で朝食を作っておくから、支度が終わったら出ておいで。……えっと、なんて呼べば良い? 俺はまひろ」

「えっ、あっ、亮一(りょういち)っす、十神(とがみ)亮一。今回はソロなんで、メンバー捜索とかは……ないっす」

「ん、そっか。格好いい名前じゃん」

「ま、まひろさんも素敵な名前だと思いますよ」

 

『ういヤツよのう』

『リアリティショーの新章始まった?』

 

 俺はコメント欄を努めて無視し、「そう言ってくれたの初めてだよ」と笑ってみせる。するとなにがいけないのか亮一君はますます顔を真っ赤にして押し黙ってしまう。こうなるとちょっとコミュニケーションにも困るのでそれとなーく抜き足差し足で部屋から出て外にある石のかまどの前に座る。

 

「ワウ」

「連れてきてくれてありがとうな。あと警戒もお疲れ、シロガネ」

 

 外に出ると焚き火の前で暖まっていたシロガネがこちらにするりと近寄ってくる。褒めろと言わんばかりに顔を差し出してくるので思い切り撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らすシロガネ。

 

「今日はカリカリの日だぞー」

 

 お皿に大量のドッグフードを盛ってシロガネの前に置くと、そのまま彼は食べ始める。それを見届けてから自分と亮一君の朝食へと取りかかることにする。

 

 切り込んで醤油に漬け込んでおいたワイバーンの肉をタレごと鍋にぶちこみ、肉を再加熱させつつパスタを茹でる。ゆで汁の醤油が沸騰していくくらいになると麺がアルデンテになってちょうどよくなるのでそこでバターを投入。風味付けである。

 

 ワイバーン肉のソテーパスタ、いっちょ上がり。

 

「シロガネはこのまま外で食べる?」

「わん」

 

 亮一君を怖がらせたくないとの事だそうだ。気遣いのできるやつではあるが、子供なんだからそこまで考えなくてもいい気はする。ここはもうちょっと俺がちゃんとしないといけないところなんだろうなあ。

 

 霊水をピッチャーに入れておいて、焼きレンガの家に再度突入。

 すると座禅を組んでなにやら雑念を祓おうとしている亮一君の姿がそこにはあった。こちらが部屋に入ると同時に少年は背筋をピンと伸ばし、こちらを見たかと思うとなにが恥ずかしいのかそっぽを向くばかりである。

 

「ご飯、いらないの?」

「……食べさせていただきます!」

 

 亮一君にお皿を渡すと、彼はお腹が空いていたのか黙々と食べ始めた。回復アンプルを使うとエネルギーも消費するからお腹が空くんだよねえ。

 

「どうして冥境(めいきょう)にひとりで?」

 

 これは聞いておくべきか迷っていたが、踏み込んでおこうと思った。ひとりで挑んでいる俺が言える話ではないが、そもそもがソロに向いているダンジョンではない。仲間を募り、計画を立てて、強い心を持ち不撓不屈の志でトライするのが最難関ダンジョンというものだ。

 余程の理由がない限りソロでのダンジョンアタックなんてしない方が良い。

 

 こちらの問いかけに、少年は食べる手を止めて悔しそうにぎゅっと手を握る。

 

「元いたパーティを追い出されたんです、幼なじみからもう要らないって言われて……。彼女、裏で男と付き合っていたんですよ……」

 

 お、重い……!

 寝取られなのかBSSなのかよく分からないけれど初対面の人から告げられるにはそこそこ重い事実が来たなこれ。

 

 その幼なじみ、もしかして小さな頃は結婚の約束とかしてない?

 パスタのバター味に涙が混ざってさらに塩味が利きそうになるくらいの大粒の涙をこぼし、歯噛みをする亮一君。

 

「……それはつらかったねえ」

「探索者としてもアイツのほうが上で、でも負けたくなくて……」

 

 ああー、思春期特有のコンプレックスか……。俺は人と関わらないという方法で心を保ってきたけれど、そのぶん社会には疎くなっている。それに自分がそうしたからといって「じゃあ君もそうすればいいよ」と安易に従わせるのはよくないのだろう。

 彼を助けた段階か、あるいはこうやって餌付けをして話を聞いた段階で船には乗りかかったのだ、最寄りの港までは付き合ってやりたいものだ。

 

「俺は恋愛とかなんにもわかんないからそこらへんは面倒を見られない」

「うっ……」

 

 亮一君はこれで「自分がいま面倒くさいことを言っていた」と自覚しただろうが、そこを言いたいわけでもないんだな、これが。

 

「ただ、探索者としてはちょっと先輩だ。君がそいつを見返すための助走くらいにならなれるさ」

「えっ」

「土手っ腹に大きな損傷。おそらく暴れ猩々(しょうじょう)……大きな猿にやられたんだろう? そいつにリベンジできるように鍛えてあげるよ」

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