TSエルフのやりすぎ物作りダンジョン配信~家と動物とご飯と時々拠点に襲撃~   作:芦屋貴緒

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04 エルフ、ラタトスクの商人と出会う

「こりゃあしばらく外には出られないね。行かないとは思うけれど出ないようにね」

 

 この辺は数十分で天気が変わることもあるんだよ、と吹雪く空を眺めて名うての観測員のように呟く五十鈴さん。

 いま外の枝に出てしまえば雪に滅多打ちにされること間違いなし、そして下手をうつと足を滑らせるかもしれない。

 

 ……次こけたら本当に死ぬかもしれない。

 

 落下死の想像をしてしまい胃の辺りがきゅっと縮こまる。

 

「まひろさん?」

 

「……な、なんでもないっ」

 

『ビビってますねー』

 

 こちらがどうも挙動不審になっているのか、メリイさんは深い笑顔をたたえたままこちらの手を優しく握る。

 

「いざという時はわたしが風の魔法で近くの枝に引っかけますから。もし駄目だったときは……その時はちゃんと責任をもって復活させます!」

 

「転ばぬ先の杖が欲しいんだよー」

 

『てかさらっと復活って言わなかった?』

『さすがランカー、お金持ち』

 

 視聴者からのコメントにメリイさんはきっぱりとこう答える。

 

「落ち着いている場所であれば欠損をなくして蘇生させるまでならなんとかできますので」

 

 ケロリと言ってのけるがそれが出来るのは世界のトップ層だけだ。

 それだけではなく元素魔法も使えるようなので、魔法と奇跡、両方のスペシャリストということだ。一般的にそういった人は習熟に時間がかかるものだが、遅咲きの才能というわけでもないらしい。

 

 ……なんだか会う人みんな化物みたいなスペックしてるなあ。俺なんて女神に会うまで弱小スキルでコツコツ活動していたものだからちょっとうらやましいものがある。

 

「まひろさん、嫉妬してますけれどレガリアスキルを実質三つ持っている貴方が一番規格外なのわかってくださいね?」

 

「それとこれとは話がべつなんですぅー」

 

 やっぱりナチュラルボーンエリート、血統書付きってやつへの憧れってのはあるわけなんだい!

 

 でもメリイさんの言うことはもっともだ。〈レガリア〉は一つ持てば世界が変わる。いわんや、実質的に三つを持つ者は。

 ……慣れないといけないのだ。この冥境(めいきょう)を攻略したければ手足のように使いこなさなければならないのだ。

 

 だがこれはこの身体になることで手に入れた力だ。男に戻るときには手放さなければならないものかもしれない。そういったものに慣れないといけないというのは、少し……怖い。

 女神に返しに行くものに頼る恐ろしさと、しかしそれなしではやっていけない現状。その板挟み。

 

 その辺の感情とも折り合いをつけていかなければならないのだろう。迷いを抱えたまま攻略できるほどダンジョンは甘くはない。

 

 口をとがらせて押し黙っていた中、顔を上げると、メリイさんは何も言わずに笑顔でいてくれていた。

 

 落ち着いたかい? と五十鈴さんが問いかけ、会わせたいのがいると案内を買って出たのだった。

 行きましょうか、とメリイさんが俺の手を取ろうとすると、シロガネが機嫌を害したのか間に割り込んでこちらにべったりと引っ付きながら道を行くことになった。

 

 

 迷宮の中に迷宮があるかのような。

 木を粗っぽく削り出して作られた町並みは、どれも俺たち人間には小さすぎるミニチュア模型ばかり。そしてミニチュア模型のような精緻さもない、実に原始的な『巣穴』ばかりだ。

 

 そんな『巣穴』から栗色の毛色をした手のひらに包めるほどの大きさのリス――ラタトスクたちがせわしなく世界樹の幹に空いた穴を行き交っていた。

 

 要所要所に人間用のテーブルや椅子があるのは五十鈴さんたちのような先駆者が残していったものだと察せられる。

 フロア中央の幹の芯は特に太く、そこもまた枝分かれをしている。そこに居住地を持つ者はラタトスクの中でも上役なのだという。

 

 探索者の感覚で言えば『取るに足らない』モンスター相手に恭しくお辞儀をし、五十鈴さんは椅子にかけているこちらに紹介をする。

 

「こちらはこの世界樹の商工会会長、レルムさん。この人の声かけで集まらない素材はこの世界樹内にはないって話です」

 

 俺たちが見上げる形でレルムさんに挨拶をする。栗色の体毛の下にでっぷりとした脂肪を蓄えてはいるが、枝の上での動きは俺なんかよりずっと俊敏そうだ。

 

「どうも、俺は――」

 

「ああ、ええよ、名乗らんで。隣の妖狐のお嬢ちゃんも、もう少し仕事をこなしたらそのときにね。ああ、でもお客様としてはいつでも歓迎しとるからね」

 

 こちらの神経を逆なでするキザったらしい声音に思わず小剣を抜きたくなるが、我慢だ我慢……!

 隣を見ればメリイさんが左手で火炎の魔法の術式をこっそりと構築してやがる。こちらが手で押さえ、魔力で攪拌(かくはん)して雲散霧消させるとなんだかうっとりし始めている。

 

 ……この人をパーティに入れたの間違いだったのかもしれないな?

 

『これってキマシタワー?』

『いや、この世界樹をメリイさんが炎で吹き飛ばそうとしていた』

『パワハラ上司を思い出したんだろうね……』

 

 ああ、そういうことか……。

 神代の世に再び突入してもハラスメントはなくならないんだね……。

 

 いやでもいきなり大火災を起こそうとするのはダメでしょ!?

 

 お目通しはこれで終わったのか、五十鈴さんはこちらの機嫌を取るように視線で「ごめんねぇ」と訴えかけるがもう遅い、メリイさんは動き出している。

 

 ジャブ。ストレート、ジャブ。

 

「すんませんメリイさんっ! でもこれも見られてるんでセーフハウスでやってくだせえ!」

 

 忖度なしの本気の拳をぱぱっと難なくいなす五十鈴さんもさすがは冥境に潜っている探索者の手並みだ。本職の攻撃でなければ取るに足らないということだろう。

 

 メリイさんはこめかみに青筋を浮かべて憤懣やるかたないと言った模様。

 再び彼女が拳を握り始めたので、今度は俺が彼女の手を握って落ち着かせようと言葉をたぐり寄せる。

 

「えっと……あー……あれ、収まってる……」

 

 なぜだか分からないが天井を仰いで恍惚とし始めたので、セーフハウスに戻るまでシロガネに運んで貰うことにした。

 もちろんシロガネは嫌がったが、好きなこととひとつ引き換えにすると交渉。じっくり甘える時間をくれと言われたのでその後甘えさせてやったらまたメリイさんが魂が抜けていたので、なんだかシロガネの中でのメリイさんの扱いが決まってきたようである。

 

 おれ(シロガネ)より下であると。

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