「君をこの槍で殺さないと対等にならないと思っていたんだ」
この槍を撃ち込まねば、それは本当に思っていた。圭介は槍をじっくりと眺め回して、改めて自分の理解を再確認する。
「この地の大地は、教師のようなものだった。槍は、ただの暴力だった。クレー射撃も、珈琲屋でさえも、ただの暴力にすぎなかった。暴力に対する憧れをミソジニーで思い浮かべていただけだったんだ」
地震の残骸の方から吹く爽やかな風は、本当に気持ちが悪かった。彼女は、整えた眉毛を傾けて少し怒りっぽいような顔をした。圭介は、彼女にそんな顔をして欲しくはなかった。まるで、少女を突き刺したあの槍のような傾きの顔。
彼女だって、辛かった。突然、狂い出した彼氏の槍のことが心配ないわけない。ふとしたきっかけで暴力を振い出す人間がいないわけではない。それでも、超然としたふりをして彼氏のことを見てやるのは、愛がないとできないだろう。
「だから、僕は情けないやつだ」
そんなことないよ、と生ぬるい珈琲のようなことを言って欲しいのか? 彼女だって困惑している。それこそ本当の甘えだ。ただの甘えではない。唾棄すべき中途半端に理性のこもったよくない甘えだ。
認識ははっきりとしているのに理性が弱く精神は病んでいてだからこそ甘える。
「……確かなものは」
彼女は言い淀んだ。
「槍だった」
すると、彼女の足元には槍があった。あの半分竹製で金属部分は不可思議な色合いのある槍だ。槍は、まるで神のようだった。
「その槍は本物だし、本当に人のことを傷つける。だから、決して人のものに使ってはならない」
彼女はそうやって当たり前の警句を述べた。だが、いや、だからこそ、人生は逆説の連続だ。だからこそこの槍を彼氏に撃ち込まねば、そう思うのではないか。
「撃ちなよ、撃って、首を切って、人思いに殺して仕舞え」
それなるこそ、本当に甘えだった。彼女への挑発がやめられない。
「僕には槍が本当に効くだろう。そうして、君は血溜まりの上を悠々と歩くがよい」
──僕は、君のように確かでもなんともないんだ。自嘲を込めた嘲りだ。果たして、どちらに向けた悪意だかわからない。
「甘えなのはわかってる。情けないのも!」
……。いや、それは現実だった。ここにはイカれた雲も行方不明な害意もなかった。彼女に撃ち込む槍もなかった。彼女の手にあったのは、槍ではない。ただ、ただこの山道を歩くための杖だ。
「君が何を言っても甘えてしまう」
現実感のある極めて滑らかな肌の表面は、凹凸と幻影の美しさを同時に備えていた。彼女の風貌を近くと遠くで交互に確認した。この感覚は圭介独自のものだった。近くにあり、遠くにあること。そして、悪意と善意が表裏一体であること。
だから、槍を撃ち込みたかった。全てを破産させるために。そんな圭介のことを耐えられない害悪だと思っているに違いないはずだ。
────そこまで考えたところで、彼女はやっと口を開いた。
「そんなこと、思ってないよ」