家に奇抜な柄の刀が来たので、 作:Raitoning storm
あの後、謝罪とともに色んなことに対する説明がなされた。
どうやらムラサメさんは人工生命体で、ある人たちを倒すために脱走してきたらしい。オセロではなく。
そして、
『ドン!ムラサメ!切り捨てsorry!』
というやかましい音とともに人型のムラサメさんが出てきた。誰の趣味なんだろう。ロックが好きなのかな。刀は僕も好きだしムラサメさんの色味も好きだけど、製作者さんと僕は音楽の趣味は合わないかもしれない。
せめてギターじゃなくて三味線とかにしたらよかったのに。
そしてムラサメさんは結構デカい。僕と同じくらいか10cm僕が低いくらいはある。
『初めまして』
「2回目ですけど初めまして」
『この姿では初なので』
「なるほど。そういうものですか」
『今まで隠していて申し訳ありませんでした。』
「いや、聞かなかったのは僕なので」
『…そうですか』
そう、だとしたらなんて聞けばよかったのだろうか。
「あなたは人工生命体ですか?」だろうか。そんなはずはない。そもそも人間はみな人間から生まれているのだから、人工生命体じゃない人がこの世にいるんだろうか。
そういう問題ではない気がしてきた。
「それにしても、今日はマザーさんが静かですね」
『マザーは、あなたに任せてみると言って交信を絶っています。なので僕はあなたの指示に従うことにします。』
「なるほど、では一緒にバイトに来てください」
『わかりました』
「ここで働かせてください。料理なら食べられるものくらいは作れます」
「…いいよ」
こうして僕は、面接や履歴書無しでバイトにありつくことができた。
喫茶『どんぶら』。僕が一年前までよく通っていた喫茶店。人があんまりいないこととマスターがいつも何か読んでいることで有名なこの店。
「はるか。新人が入ったから…彼はキッチンに入るから教えられることは少ないかもしれないけど、よろしく。」
「はい!私鬼頭はるか!これからよろしく!」
「はい。すぐに辞めるかもしれませんがよろしくお願いします」
(…言うな!そういうことは!)
キッチン、キッチンか。接客しなくてもいいのはありがたいな。友達に、話してるとIQが50下がると言われたことがある僕としてはありがたい。元気してるかな。
「案外すぐに決まってよかったですね」
『はい、マザーも喜んでくれると思います』
ムラサメさんはあるたー?モードになって小さくなった。そして僕の服の中に入り込んでいる。
「…じゃあ、ムラサメさんには切る作業をお任せしようと思います」
『はい。任せてください』
そして早速注文が入った。オムライスだそうだ。お店のメニューにないものだった。
でも不思議なことに材料は全てあった。ひとまとまりになって『オムライス用』って書いてあった。深く考えたら負けだと思った。
『僕は何をしたらいいですか?』
ムラサメさんが僕の脳に直接語りかけてきた。そういうことをするなら事前に知らせておいてほしかった。予定表にでも書いておいてほしい。
『…じゃあ、ニンジンとタマネギを5mm四方に切り刻んでください』
『わかりました』
ムラサメさんが一心不乱に切り刻んでいる間に僕はケチャップを必要分測っていた。作り終わる前にムラサメさんが作業を終えていた。いくらなんでも早すぎる。
料理は分量通りに作らないと失敗する。これはおばあちゃんの教えだった。そのおかげでおばあちゃんのご飯はいつも美味しかった。得意料理はおにぎりだったけど。
愛情がレシピの規定量以上に入っていたからか、ご飯はいつも常識量の2倍くらいの量があった。食べ盛りな僕はそれがとても嬉しかった。だいたい半分くらいは次の日の朝ごはんになってたけど。
でも愛は小さじでも大さじでも測れないものだから。あればあるだけ美味しいものなんだろう。あっできた。
「はるかさん。これ持ってってください」
「今無理!自分で持ってって!」
ひどい。事前に言われていた仕事以上の働きを求められた。労働基準監督署に訴えてやる。
でもそうしたら僕とムラサメさんの仕事がなくなってしまう。くそ。はるかさんはなんて卑怯なんだ。僕たちが働くことができる職場がここくらいしかないことを知っていてこんなことをするなんて
鬼!鬼!鬼!鬼!
「お待たせしました。オムライスです」
「あっ頼んだの僕じゃないです」
「お待たせしました。オムライスです」
「私は今、空想のコーヒーを楽しんでいる。」
「お待たせしました。オムライスです」
「…俺はそんなもの頼んでない」
はるかさんのせいだ。3回も間違えることになるなんて。やっぱり鬼じゃないか。
「頼んだのは俺だ」
「あっすみません。お待たせしました」
「別に構わない。いただきます」
こんな職場辞めたくなってきた。もしこのオムライスが想像を絶するほど美味しくなくて、
『不味すぎる。金を返せ』
『…クビだね』
とかなんないかな。
「…!悪くない。50点だ」
「えっ」
50点。50点か。お店としてはかなりグレーなゾーンだが、マスターが何も言ってこないということはクビではないんだろう。許せない。せっかく辞められるチャンスだったのに。
そしてはるかさんは地面に倒れ込んでどうしたんだろう。バイトの制服が汚れてしまう。
(私の得意料理の…ビーフストロガノフが…バイトの新人に…ダブルスコアで負けた…)
とりあえずバイトはこのまま続行になりそうだ。もはやどうにでもなってほしい。