青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

38 / 45
ゲヘナシロモップ「先生(閲覧者)。いらっしゃい(羽パタパタ)」
ゲヘナヨコチチハミデヤン(エフェメラ・コア)「ふ~ん。よっぽど気に入ったのですね。まぁ?いいですけど?」
ゲヘナアシナメラレ「アコちゃん…そう言いつつ手帳に訪問日をメモしてたし、毎日確認してたんじゃ」
ゲヘナアカタイツ「イオリ、そこは黙っていた方がいいですよ。先生(閲覧者)、ゆっくり見ていって下さいね」



38.幕間5-2

幕間~猟兵達のカタプトロフォビア~(2)

 ※本話は「闇市場に潜む黒き絶壁」~「24日間戦えますか」までの内容を含みます

 

-ハルカサイド-

 

その後。敗北した条件に私達はブラックマーケットを案内する事になりました。

何がどうなってそうなったかは今一つ分かりませんでしたが、カヨコ課長も皆さんも納得されているのなら私なんかが何か言う事もありません。

それに途中で増援として駆けつけて来たのが、まさかあのレイヴンさんだったとは思いもよりませんでした。

このような顔つきをされた方だったのですね。

それにその目は――まるで光を失ったように虚ろで、何者をも関心を持っていなさそうな――。

いえ、私なんかがとやかく言うのは烏滸(おこ)がましいと思います。

ただ…幾らブラックマーケットが広いとはいえ、手がかりは何もありませんでした。

幾つかは辿れたものの、どれも途中で情報が途切れてしまうのです。

余りの空振り続きにムツキ室長が怒っていました。

これは少しでも気分が晴れますように、今しがた手がかりを失わせたこのお店を爆破するべきでしょうか?

そう思っていましたが、実行に移す前に通信が入ります。

 

『”オンちゃ…レイヴン、緊急任務をお願い”』

 

 

 

「ワフッ」

 

私を引き留めたレイヴンさんが首を横に振り、サラシだけ巻いたその胸元を親指で指します。

――シャーレの先生から通信が来て、ブラックマーケットの大きな闇銀行…そこに銀行強盗した為、治安組織のマーケットガードを撃退するという依頼。

私達も行くのか迷っていると、アル様の宣言でレイヴンさんと共に何部隊もの数を潰して回りました。

そして指定座標に着くと、超大型の兵器が闇銀行から飛び出してきたのです。

その兵器はアル様の狙撃すら弾き、カヨコ課長も渋い表情を浮かべています。

ここは私が前に出て時間を稼ぎ、策を皆さんに考えて貰おう…とした所でした。

私に任せろと言わんばかりのレイヴンさんを、私は改めてその身体を見ます。

――どんな事をしてきて、どんな目にあってきたのか。酷い痕が見え隠れする身体。

体毛による膨らみを考えれば私以上に細い体付きに、まるで千切れかけのような痛々しい翼。

指さした胸元付近には、剥げた体毛の奥に残るモノクロの片腕を模した刺青。

きっと、私が想像もつかないような生き方をしていたのだと思います。

 

それでも…自らが前に出ると。レイヴンさんは意志表示しています。

 

他の人だったら…今まで私が出会った便利屋の皆さん以外の人だったら、私に全てを任せて(丸投げして)どこかへ行って(逃げて)しまったのに。

それなのに…そんなレイヴンさんの姿が、私にはとても頼りがいがあるように見えたにも関わらず。

私のように「何かをしなければ自身に生きる価値がない」と思っているようにも見えました。

理由も何も分からないのですが、何か言わなければいけない気もします。

しかし私には何も思いつかず…黙って頷いて了承するしかありませんでした。

 

「行けるわね?それじゃ作戦、開始!」

 

アル様が号令を掛けて下さいます。

今は私なんかが何か考えても意味はありません。あの害虫を駆除するだけです。

――モヤモヤする胸の内を散弾銃の弾丸と共に吹き飛ばします。

 

 

 

ブラックマーケットでの戦いの後。

共闘報酬という事で頂いた現金で借金を返済したのは良いのですが、アル様達曰く、働きに対して現金が多すぎるという事だったそうです。

なので今日はレイヴンさんから追加の依頼という話をお聞きするために、アビドスの紫関ラーメン屋さんまで来ていました。

依頼人より先に現地待機しているのは基本と言う、アル様の素晴らしい心意気に従い先に伺うと店長さんからラーメンを頂かせて貰いました。

勿論代金はお支払いするのですが、アビドスのお友達という事で替え玉まで頂けるようです。

 

こんな贅沢を頂いても良いのでしょうか…!?

 

そう考えていた私を一喝するように、アル様が叫ばれた後説明して頂けます。

 

「私達は仕事の話をしにここに来ているの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!!なのに何なのよこの店は!お腹一杯食べれるし、温かくて親切で!和気藹々のほんわかしたこの雰囲気!」

 

どうやらアル様的にこのお店は雰囲気も品格も合わず、なくすべきだと考えていらっしゃる様子です。

そうであれば事前に準備しておいた通り、このお店は爆破してしまいましょう。

何の役にも立たない私が、ようやっとお力になれる時です。

 

――レイヴンさんの選んでくださったお店を、消してしまうのは少し気が引けますが――っ!?

 

起爆装置を取り出した私の手に衝撃が走ります。

視線を発砲音の方向に向ければ、レイヴンさんが銃口から硝煙を上げる突撃銃をこちらに向けていました。

遅れてシャーレの先生がカウンターの席から転んでいましたが、今はそれどころではありません。

 

「邪魔しないで下さい!ようやくお力になれる所なんです!」

 

私は叫びレイヴンさんを睨み付けます。

ブラックマーケットの戦いで、レイヴンさんは何故か私と似た考えを持っている可能性を感じました。

それなのに…今こそアル様の役に立てるという時にも関わらず。

他ならない貴方が何故私の邪魔をするのですか!?

もしも…もしも、レイヴンさんがアル様の邪魔をする害虫ならば。私は―――!

 

”待った待った!落ち着いて、ね!”

「流石に店内でドンパチは遠慮して貰いてぇ所だな」

 

ブローアウェイ(散弾銃)のトリガーに指を掛けた時、転んでいたシャーレの先生とカウンター向こうから店長さんが私達の合間に入ってきました。

一般の方に銃口を向ける訳にもいきません。

私が躊躇うと、その間に便利屋の皆さんが銃を下ろす様に止めてきます。

アル様もこのお店自体は消すべきではないと仰ったので、どうやら私の勘違いのようでした。

…またやってしまいました。しかも唯の失敗ではなく、早とちりだとわかって恥ずかしくて仕方ありません。

皆さんへ平謝りするしか私にはありませんでした。

――その程度で済むと思っていた私は、愚かどころではありませんでした。

 

”オンちゃん何してるの!?”

 

驚く先生の声に、お辞儀していた頭を上げて声の出所へと顔を向けます。

そこでは…あのレイヴンさんが…床で、土下座をしていました。

正座で背中を丸め込め、獣人のマズルが煩わしいとばかりに顎を引いて…額を床に、文字通り擦り付けていたのです。

飲食店で掃除されているとはいえ、お世辞にも綺麗とは言えない床に、です。

その上、滅多に感情を見せない筈のレイヴンさんの目元には涙も見えます。

 

私は…私はとんでもない事を仕出かしてしまったのに、今更気付きました。

 

このお店は、恐らく殆どご馳走を(碌な食事すら)食べた事のないレイヴンさんが食すことの出来た御店です。

きっとその味も思い入れも、想像もつかない程の大きなものなのだと思います。

感情が希薄のように見えるレイヴンさんが、それでも出会えた大切なお店。

それを、私は吹き飛ばそうとしてしまったのです。

呆然とする私達の前で、先生に抱き上げられてあやされるレイヴンさん。

落ち着いた頃にようやっと動き出せるようになった私は、恐る恐る近寄ります。

謝って許されるような事ではないかもしれません。

ですがそれでも、私は謝らなければいけないと思うのです。

 

「…あ、あの。あの、ご、ごめんなさい。私が、爆破しようとしてしまったから…」

 

声が詰まり、震えます。怖い、怖い、怖い。

レイヴンさんの怒りも怖いですが、それよりも許されず思い出の場所を汚してしまった事が恐ろしくてたまりません。

ですがレイヴンさんは首を横に振りました。そしてすぐに先生を指さしたのです。

――その姿から、私の事を一ミリたりとも責めてないのがわかります。

こんな事をしでかした私を、ようやっと感じ入る事ができたお店の味を破壊しようとした事を許して下さったのです。

強く、そして心が広い。そう思いました。

アル様達のような温かさとは違う心強さ。そんなレイヴンさんに、いつかこの御恩を返したい。

そう、思った瞬間。御店が吹き飛びました。

 

 

 

紫関ラーメンを吹き飛ばしたのは、私達便利屋を追ってきたゲヘナ学園の風紀委員会の方々でした。

シャーレの先生の指揮の元、風紀委員会の方々を撃退すると行政官の天雨アコさんが現れます。

色々小難しく説明していましたが、その最中にレイヴンさんが珍しく威嚇の唸り声をあげます。

何度かお仕事をご一緒しましたが、こんなに怒っているのを初めて見ました。

やはり、このお店はとても大切なのだと思います。

先生の補足に驚いている様子の風紀委員会の方々に対し、アル様達が非難の声を上げます。

私も僭越ながら咎めるように見つめさせて頂きます。

アビドス高校の対策委員会の方々もこれにはお怒りのようでした。

あまりの怒り具合に空気が冷えているようにも感じます。

あああ、もしお店を爆破していたらこの怒りは私に向かっていたのでしょうか。怖い怖い怖い…。

恐怖に怯えていると、アル様とカヨコ課長が相談し合っていました。

どうやら話し合いの結果、逃げずに風紀委員会の方々と戦うようです。

なら、今が許して下さった御恩の返し時です。ブローアウェイ(散弾銃)を抱え直して、宣言します。

 

「わ、私やります。アル様の言う通り、食事の恩も…止めて貰った恩も。返さず逃げれません!」

 

レイヴンさんの強さには及びませんが、それでも私なんかにも何かできる事をします。

今ならアル様達もいらっしゃいますし、アビドス高校の方々やシャーレの先生もいらっしゃいます。

きっと、お役に立てると思うのです。

 

 

 

 

「かふ…ゴプッ」

 

――何か、お役に…。

そう思っていた私の目の先で、レイヴンさんが血を吐いて倒れました。

 

 

 

 

 

『便利屋68。こちらはレイヴン専属オペレーターです。貴方達の実績を見越して、依頼があります』

 

電子メールで届いた依頼文に、私達は外出準備をします。

…ヒナ風紀委員長の介入により戦闘終了し、レイヴンさんが倒れた後。

レイヴンさんを緊急搬送し、ゲヘナ学園とアビドス高等学校で戦後処理のやりとりを行うのを見届け私達は事務所に戻りました。

命に別状はないとの事ですが、このキヴォトスであそこまで重傷を負った方を見るのは初めてでした。

血だまりに倒れる、レイヴンさんの姿が瞼の裏から離れません。

アル様達も思う所があるのか、先程届いた依頼メールを精査した後すぐに準備に取り掛かり始めていました。

私も。今度こそ役に立って見せます。

 

私なんかを許して下さった、レイヴンさんの力に今度こそ。

 

そして依頼メールの指示された座標に近付いた時、激しい戦闘音が聞こえてきました。

 

「社長、もう始まってるみたい。急ごう」

「せっかちな人達だねー。まぁあの元・依頼人じゃしょうがないけどさぁ」

 

まずは仕事の詳細を聞きに行く、という方針だったカヨコ課長が急かします。

ムツキ室長も少し苦笑交じりに軽く笑っていました。ここまでは。

そう、もう戦場では戦っていたのです。つい先日に血だまりに倒れた筈のレイヴンさんも。

――オートマタの方々を蹴り飛ばして粉砕し、まるで路傍の石コロのように扱う事を当然とした姿で。

感情を失ってしまった表情。目の光は色あせて虚ろなのに、次の標的(石コロ)を即座に補足して逃がさない。

その疾走する様子は人ではなく、まるで獲物を狩る猟犬のようでした。

私の脳裏に過去の光景がよぎります。

 

初めて仕事をご一緒した後に私をじっと見ていた瞳。

何度目かの仕事後に、打ち上げに誘った時に揺れていた気がした尻尾と翼。

アビドスのラーメン屋で静かに落涙していた横顔。

ブラックマーケットで巨大兵器に立ち向かった頼りになる背中。

涙を浮かべながら土下座する丸まった後ろ姿。

そして、血だまりに崩れ落ちた重症の姿。

 

今、真横を駆け抜けて行ったレイヴンさんはその光景のどれとも違います。

もしかしたら、人を人と見ず本当に石コロと大差ないとでも言わんばかりの苛烈な攻撃は…本当に殺す気なのでしょうか?

ありえない、と即座に私は考えを振り払います。

だってこのキヴォトスで、それは絶対に持ちえない考えです。

私なんかですら、言葉の綾としか思いませんし、それに。

 

――あんなに無機質な表情と感情(殺意すら擦り切れて無感動)で行える訳がありません。

 

幾らレイヴンさんが今まで見た事がない位に表情薄くても、きっとそんな気はない筈…です。

それを証明するかのように、オペレーターさんとシャーレの先生が会話した後にレイヴンさんは止まりました。

どうやらレイヴンさん一人で、この大群をやるつもりだったみたいです。

それは疲れもすると思います。

倒れかけるレイヴンさんをアル様が支えて下さいました。後はお任せください。

 

「ふふっ、ふふふ…準備はもう済ませました、アル様。予備の爆弾もまだまだ沢山ありますので…レイヴンさんの分ももてなして(・・・・・)見せます」

 

御店でははやとちりしてしまいましたが、今度は間違えません。

戦いの合間に、あちこちにムツキ室長と一緒に仕掛けた爆弾の位置も忘れてません。

アル様の御威光…と、レイヴンさんの御眼に叶うよう、派手に行かせて頂きます。

 




御閲覧、しおりや御気に入り等頂いておりまして、ありがとうございます。
また、UA4万突破頂き、誠にありがとうございます!!
後日、記念に何か書こうと考えております。…時期は過ぎるかと思いますがクリスマスか年始物とか…?

ハルカ視点、なんとか前後半で締めました。締めます。
閲覧頂けるだけでも嬉しいですが、もっと見たい続きのシーンが他にもあるが?という方がもしいましたら、ここすきやお一言だけでも頂ければ幸いです。
筆者の心の中のミルクトゥースも喜びます。


今回も少しずつ、お名前記載をさせて頂きます。
一部時間順ではない場合もありますが御了承の程、お願いします。
(閲覧、しおり、ここすきはお名前が表示されず、感想は今の所個別で返信するため割愛とさせて頂いてますが、いつも感謝しております!)

またもしも「あれ、順番飛んだ?」と思われる方は、下記の活動報告にて御記載させて頂いておりますので、よろしければ御照覧下さい。
 ⇒活動報告一覧(https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=479630


坂井泉水様、白厨様、ⅡBC様、金髪先生様、yasu1987様、
赤い革コート様、キャス孤⭐様、卍メロン卍様、旨味様、伝統芸能V様。
お気に入りに御登録して頂きまして、ありがとうございます!
新しいご友人ですね!素敵だ…共に踊れることを光栄に思います。
美食と芸術がコラボされた方…でしょうか?
協会、または数学に強い方だったりするのでしょうか。筆者は(こんなですが)文系ゆえ、数学はからっきしだったりします。
シロコ!何故こんなにも可愛いんだ!
赤…と言うと、筆者はトライガ○やヘルシン○、デビルメイクラ○をイメージしますね。きっと由来のものも素敵なのだと思います。貴方様もご友人(物書き)になりませんk(耳鳴砲音)
良妻賢母な方ですね、わかります!!ケモミミは…いいぞ(語彙消失)
新しいご友人!ご訪問頂き光栄だ…(筆者の心の中のブルートゥと)ミルクトゥースも喜んでいます!
能楽(狂言)、歌舞伎、文楽、雅楽、日本舞踊で5つ、という事でしょうか。てっきり(ヴァーチャル)の方かと思ってました…!



オマケの話:
必 須 再 来?(ミチルドレス実装予定)
投稿主の石の貯蓄はゼロよ!(周年見越す場合)
HA☆NA★SE☆彡(課金ボタン前で乱心)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。