某澄通信技士「いつでも構わない。筆を進めていけ」
某焼野原通信技士「愛してるんだァ…
某焼野原通信技士「見せて見なァ、お前の
◆◇◆◇◆
-ユウカサイド-
――オンちゃんに初めてシャーレで出会った時は、言葉にならなかったわ。
いつかのシャーレ当番の日。いつも通り訪問して先生の姿を探していると、廊下に滴った水滴の跡が続いているのに気付いた。
朝シャワーでも浴びてて、何かあったのかしら?
水滴を辿っていくととある部屋に続いていたので、室内を覗き込む。
「先生ー?こちらですか?何だか廊下に水が滴って、ました…けど…」
そこにいたのは先生ではなく、見慣れない犬獣人の方がしゃがみこんだ姿勢のまま、首だけをこちらに向けていました。
風呂上がりだったのか、体中からポタポタ滴る雫。
それがまるで
あちこち剥がされた痕の見える毛皮の一部には、痛々しく刻み込まれた刺青(タトゥー)。
頭から被ったタオルの隙間から覗く、色彩を失ってしまったように虚ろな瞳。
冷蔵庫前でしゃがみこんだ姿勢から振り返ったその背に生える翼さえ、交通事故にあったよりも酷く傷つき折れ曲がって
僅かに荒い息遣い(風呂上り)はもはや限界が近いかの様に思えて、私は思わず駆け寄った。
「大丈夫!?今すぐ救急車を――っ!?」
「わふっ?」
駆け寄り支えた背から伝わるお湯の湿り気に、
僅かに目を見開いた様子と気の抜けた鳴き声を聞いて、私は我に返ったわ。
漂うのはいつもシャーレに補充しているシャンプーの香りで、決して命の危機を覚えるようなものじゃない。
何度か瞬きをして状況を整理した後、自身の胸に手を置いて大きく安堵の息を吐いた。
「良かった…大怪我してるのかと思ったわ」
「オン?」
頭を垂れて傍にしゃがむ私の傍で、不思議そうな鳴き声を上げる人。
息を整え、改めて様相を目にする。
大人の人――にしては小柄な体躯と、羞恥の欠片も見せず全裸(ケモセウト)でシャーレ室内を歩いてきたのか、床に水滴が散らばっている。
拭きが甘く未だ滴る雫をそのままに、小首を傾げて見せる姿はうち(ミレニアム)の手がかかる子達を思わせた。
「もう。どなたか知りませんが、ちゃんと拭かないとだめじゃないですか」
『すみません。手間を掛けます』
「!?」
思わずタオルへ手を伸ばし、濡れた身体を改めて拭いて上げていると思わぬ方向から声を掛けられてびっくりする。
身体を刎ねさせて声の出所へと振り返ると、机に置かれた通信機から合成音声が聞こえてきていた。
いつからこちらの様子を伺っていたのかしら。
『声だけで失礼します。初めまして、私はレイヴンの――今貴女が身体を拭いている人の、専属オペレーターをしている者です』
「ど、どうも。私は
どこから見ているのかとあちこち見渡してみるが、いつものシャーレの設備以外に普段見ないようなものはない。
一先ず声の出所である通信機に向けて会釈すれば、声の主は世話に対して礼を言ってきた。
…無意識の内に手を動かしていたみたい。心なしかこの人も気持ちよさそうにしている気がする。
「そういえば、今日は『オンちゃん』って人がシャーレに来るって、先生が言ってたような…」
『はい。その名前は「ぷらいべーと」用のものです。仕事時である今は「レイヴン」の名で活動していますので』
「…なるほど?」
本日の当番に来る際に、先生から事前に教えて貰った来客予定を思い出していると合成音声で補足される。
仕事、という事はやはりこの人は唯の子供ではないみたい。
…言わないでおこうと思うけど、全然そうは見えないわね…。
恰好の無頓着さといい、今の無抵抗に身体を拭かれている様子といい、下手をするとうちの子達より幼いのかもしれない。
――それなのに、こんな身体をしているなんて。
口元と共に、胸の奥がきゅっと引き締まる感覚。眉も思わず顰めてしまう。
『…私が知り合った頃よりも、キヴォトスに来てから随分と健康に過ごしていますよ。レイヴンは』
「…そうなのね。先生も事情はご存じで?」
『ええ。シャーレには親身にして貰っています』
もしやオペレーターさんが…という私の無粋な思考を読んだ訳じゃないと思うけれど、彼女(彼?)から補足が入る。
先生も知っているのかと聞けば、案の定世話を焼いているという答えが返ってきた。
生徒だけでなく困った人がいれば、手助けを無償で請け負ってしまう様子が手に取る様に見える。
そこが困り処であるし、それが先生らしいと思っちゃう私は甘いんだろうなぁ。
苦笑しながら鼻先とマズルを拭きあげれば、フスッと鼻息を漏らしていた。
「これでよしっと。歩き回るならちゃんと服を着てからよ」
『…
タオルを胴体に巻き付けてあげると、感心したような雰囲気でオペレーターさんが言う。
目を瞬かせて改めて思えば、初対面にするような事じゃなかった気がしてきた。
気まずくなって顔を逸らし、頬をかきながら目を泳がせる。
「あー…うちの学園は手のかかる子が多くて。それとフルネームじゃなくて、ユウカで構いませんよ」
『ありがとうございます。学園…制服から今調べましたが、ミレニアムサイエンススクールという学区でしたか』
幸い二人は気にした様子もなくて、わざわざ制服から調べたらしいオペレーターさんへ向けて(取敢えず通信機に向けて)、胸に付けていたIDケースをかざして見せる。
校章を見れば一目瞭然だもの…と思った所で、ふと気づく。
幾らうちが三大学園の一つとは言え、着ている制服の見た目だけでキヴォトスに数千ある学園の中から、ミレニアムだと目星を付けるなんて。
もし言葉通り今の約4秒以内で調べたとしたら――そこらにいるような、腑抜けた大人達(企業)とは少し違うようね。
「ええ。因みに今日はどのような仕事でこちらに?」
「わふ」
『それは――』
近くで見上げていたのでつい、オンちゃんさんの頭に手を置いて撫でてしまう。
鳴き声を聞きながらオペレーターさんから受けた説明(シャーレへ慰安)に、この後私は頭を抱えてしまったわ…。
◆◇◆◇◆
-???サイド-
―――英雄よ、貴方を待ってました。
私達の世界「千年化学国」が今、危険に晒されています。
その危険を排し、返却(返還)命令からゲーム開発部…いえ、千年化学国を助けれるのは貴方だけです。
辛く苦しい道になります…それでも、どうかお願いします。
その道の先にどのようなテストやミッションがあるのか。
今はまだ分からないけど、最後までノリ(勇気)だけは無くさないで下さい。
英雄である貴方の隣には、僚機となる少女達も居る筈なので。
そして貴方は彼女達から「英雄」ではなく、適当(相応しい)な名で呼ばれます。
その名前とは―――。
◆◇◆◇◆
”で、それで呼ばれたのが私だった訳なんだけども…”
「…はぁぁ…」
過剰な装飾で飾られたロッカーが数個並ぶ、ならず者達の居住空間よりも幾分綺麗な一室の中。
金属棚には本や雑貨などが並び、床には古めかしい映像表示機(テレビ)とコードで繋がる
敷かれたマットやクッションの他にも香ばしい匂いを残す食べ物の欠片が散りばめられており、機器類に興味を引かれて来た技師達を嗅覚からも楽しませようと言う心配りを感じられる。
ホワイトボードにはギッシリ書き込まれた文字と共に図解が書き込まれており、更に幾つものメモ書きが貼り付けられていた。
近くに積まれた本類がある事から、恐らく
部屋に一つだけ備え付けられたソファに腰かけた先生が、この一室――ゲーム開発部に手紙で呼び出された理由を話してくれた。
先程の話は、私にわかりやすいよう意訳してくれたものである。訳者はもちろんエア。
それを聞いて隣に立つユウカさんが盛大に溜息を吐くと、私達の前に正座中の少女達が二人共ビクリと身体を震わせた。
ピンクと黒の猫耳を思わせるヘッドホンを被り、金の
目の色はヘイローと同じくピンクで、白のシャツ。
黒いサスペンダー付の黒スカートの裾には、羽織ったジャケットの裾と同じくフリルがついている。
ユウカさん同様ジャケットははだけていたが、その前部分は大きめの赤リボンで閉じていた。
水色の幅広なネクタイを締めた首元に、白のラインが入った黒のニーソックス。
丸いふわふわ(ファーとポンポン)の付いたピンク色の靴は、部室の入口で雑に脱ぎ捨てられていた。
そんな彼女、
その傍らには彼女と容姿がそっくりな妹――双子らしい少女。
姉であるモモイさんのピンクの配色部分を緑色にした様相で、こちらはスカートでなく短いズボン――ショートパンツと言うらしい――を履いている。
またサスペンダーや裾にフリルもなく、靴のデザインも違う。
今は脇に置かれている突撃銃と狙撃銃といい、双子といっても好みや手癖などはやはり違うようだ。
しかし何よりも気になる点がある。
猫耳にみえるのはヘッドホンを被っているという事で、わかる。
しかし後ろに見え隠れするソレ。黒地の尻尾のような何かは何なのだろうか。
飾りにしては垂れていないし、ゆらゆら揺れているのも確認できた。
獣人のソレとは大きく違い、コードの類にも見える尻尾は飾りなのか生えているのか。
「「ご、ごめんなさーい!!」」
私がじっと二人を見ていると、笑みを浮かべていたモモイさんも固まってたミドリさんも、慌てて床に手をついて頭を下げた。
今この場に居ない彼の代わりに私が腕を組んで頷いておいた。うむ、百億万点。
頭の中でエアが溜息を吐く波形が見えるが、頷く私を見て先生も怒るユウカさんをなだめ始めた。
そんな彼女は怒りを抑え込みながら、先生に事の次第を補足していく。
先程私も聞いた説明…この部屋の持ち主、ゲーム開発部が廃止となる理由と経緯。
そしてモモイさん達が持つ、唯一の成果と呼べるものがある事。
「例えコンテストに受賞して1位だとしても、批評も評価も散々なそれを成果とするのは…うん?」
「オン」
首を振って否定の言葉をしかけるユウカさんを止めるよう、私は彼女の服の裾を摘まんで引く。
1位、というものが簡単に取れないのは知っている。
あの
他の部隊のトップ達も、私が想像もつかない努力をしてきたのだと思っている。
ルビコンのAC乗り達のような、力こそ全てなシンプルな世界ですら私はこの体質なくして
分野が違うとはいえ、それがどれほどの努力と研鑽の積み重ねた成果であるか。
考えるだけでも私には尊敬するしかない。
”1位なんてすごいじゃない!そのゲーム気になるね!?”
『…レイヴンも賞賛しています。それに、
先生の興味を引いたのを聞いて、エアも私の考えを代弁してくれた。
それと共に先程聞いたユウカさんのゲーム開発部への評価を伝えると、ユウカさんは顔を赤くして口を開閉する。
…床に座る姉妹達が先生の驚き様に苦い物を食べた様な表情になった気がしたが、すぐに驚いたように口を開けてユウカさんへと揃って顔を向けた。
「ちょっ、オペレーターさん!?…コホン。とっ、兎に角!もし自分達の活動にも意義があるって言いたいなら、証明して見せなさい」
慌てた様子から咳を挟んで、ユウカさんは姉妹達に行動を促す。
――ミレニアムのセミナーは評論家でも務まる様だな。
ちらりと姉妹達の方へ顔を向ければ、期待をかけている事に気付いたようでやる気のある表情に変わっていた。
ゲーム開発部!不言実行の手本を見せてやれ。
頭の中で
それを見たモモイさんはファイティングポーズを取り、がばりと立ち上がった。
「…分かった。証明する」
「お姉ちゃん…!」
「ユウカも応援してくれるってわかったんだもん。切り札も揃ったし、『ミレニアムプライス』に私達のゲーム…『テイルズ・サガ・クロニクル2』を出すんだから!」
…不言実行じゃなくて
まぁいいかと思いながら私も
そんな姉妹達と先生、私と頭の中で溜息を吐くエアを見ていたユウカさんは幾つかの言い訳を残し、赤い顔で部屋を後にした。
セミナーとしての体面だとか何とか言っていたが、そんなに大事なのだろうか?
それと後で撫でると言っていたのは良かったのだろうか。
まぁ必要になれば依頼が来るか、シャーレに来て先生と一緒に撫でるだろう。
今まさに先生が背後から
御閲覧、しおり、感想、御気に入りに、ここ好きも頂きまして、ありがとうございますっっっ
何度か見直したものの、ユウカサイドの書きぶりに今一納得できない…もっとユウカっぽい雰囲気を出したいのに。むむむ。
いつか見直して手直しするかもです。
今回も少しずつ、御名前記載をさせて頂きます。
一部時間順ではない場合もありますが御了承の程、お願いします。
(閲覧、しおり、ここすきは御名前が表示されず、感想は今の所個別で返信するため割愛とさせて頂いてますが、いつも感謝しております!)
またもしも「おンやァ…順番飛んだ?」と思われる方は、活動報告一覧の方にて御記載させて頂いている場合がありますので、よろしければ御照覧下さい。
咏葩様。
高評価を頂きまして、ありがとうございます!
美しい花を詠まれる方のようで…そのような方に目を掛けて頂き、光栄です!
黒白クロ様、サイキライカ様、端之目 葉下様、螺旋黄粉棒様、瑞雲さん様、
胃潰瘍様、■■■■■■様、庵惱 織馳様、レイン・ワールド様、深淵歩きの首輪付き様。
お気に入り登録して頂きまして、ありがとうございます!
なんと、長編をお書きになられているご友人でしたか。ご先達の方に目を掛けて頂き、恐縮です!
歴史的な土地の区画などの由来があるそうですね。趣を感じます…!
よく駄菓子で頂いておりました。今もたまに無性に食べたくなりますよね、きなこ。
もしかして…特別な瑞雲…!?ご友人な水上偵察機とは。素敵だ…。
おおう、胃腸もお大事に…無理なさらないよう。
検閲済み!?一体何が…?
もしや動画投稿されてる方でしょうか…?筆者こういう独特な言語の歌とか割と好きだったりします。
ご友人!このような僻地(筆者作)まで見に来て下さるなんて。光栄です。どんどん手を出していきましょう!
英雄でリンクスな方ですと…!?古参の方でいらっしゃいますねきっと!夜渡りでもコスお世話になっておりまする。
御影鈴様。
ミレニアム編、1話の誤字報告を頂きまして、ありがとうございます!
投稿後確認したと思ったら、特殊タグがうまくいってなかったようで…修正報告いただき感謝ですっ
オマケ?の話:
前回募集しましたアセンブル案につきまして、今の所特にないようでしたので次回更新までに締め切り延長とさせて頂きます。
それでもなければ本試みは不評という事で、以後募集は止めようかと思います…。