さて夏一辺倒のエヴァンゲリオン世界。年末年始と言う題材を使うでもなく、ただ本気を出した大人たちのエピソードを投下します。
様々な学校が大型連休に入ったこの日、ミサトのマンションの一室で加持とリツコがやってきて、リビングのテーブルを囲んでいた。理由は⋯⋯
「さ、この小学生の宿題を片付けるわよ〜」
「待ちなさいミサト。これはなんの冗談?」
「ふっ⋯⋯冗談だったらどれほどよかったでしょうね⋯⋯」
目の前には、国語、算数、理科、社会の4教科分のドリルと絵日記、自由研究と言う長期休みお馴染みの宿題の数々。
何故これがここにあるのかと言うと、NERVに資金提供しているスポンサーの1つが、子供と過ごす時間をとか言ってこれをゲンドウに押し付けた。それをそのままゲンドウが給料を盾にミサトに押し付け、少ない時間で効率的且つ迅速に確実に終わらせるために、リツコと加持を巻き込んだのだ。
因みに、子供達は三尉ズが海に連れて行っている。
「この宿題を押しつけてきた子供の親の顔を見てみたいわね」
「と言うか、そこまで大事なスポンサーなのか?」
「下から数えたほうが早いくらいよ。個人のスポンサーだし」
企業や団体や国が出資している中、下からとは言え個人で払っているのに最下位ではない相手、正直会ってみたいと加持は思ったが、小学生の子供の宿題をこっちに押し付けてくるあたり、まともな親ではないなとすぐに結論づいた。
「さてと。このクソ懐かしいのをとっとと始末しちゃいましょ」
「⋯⋯普通にやっても面白くないわね」
「え?リっちゃんなにする気?」
「フフ。簡単な話よ。私たちは大人。だから子供には社会勉強をさせて上げる義務がある。世の中そう簡単に事が進むわけないって教えてあげないといけないの。だからね、全力でやるのよ。この宿題を」
「さっすがリツコ!分かってるじゃな〜い」
「アナタもそれ目的で私を呼んだんでしょ」
「当たり〜」
そう言って、手始めに算数のドリルを開く。昔懐かしの文章問題から解くことにした。
問1、タカシ君は文房具屋で160円の定規と130円のノートを買って500円を出しました。お釣りはいくらでしょう。
「普通に考えれば、500−(160+130)だよな」
「えぇ。でも普通に解いたんじゃ意味がないわ」
「え?」
「その解答だと、小学校における学習指導要領の算数の域を出ないわ?」
「は?」
「算数の学習意義は、論理的思考能力を養うことにあるわ。だから、単純に答えを導き出すのはその狙いに対して『本気』じゃない。だから、2次方程式を使ってこの問題を解くわ」
リツコがヤバい方向に舵を切ってしまった。ミサトはウンウンと満足気に頷き、顔も知らない子供に対してザマァ見ろとでも言いたげな表情をしている。これを見ていた加持は、「あぁこれ止めるの無理だわ」と確信し、2人のやりたいように突き進ませることにした。
「こっちの問題は⋯⋯微積分でも使っちゃいましょう」
当然のことながら、小学生の算数において、そんなもの使う余地がない。それを無理やり使うため酷い遠回りをした計算になっている。それを加持が指摘するが、大人はなんでも遠回りする生き物だとミサトが諭していた。
「この問題は有限単純群の分類定理でも証明しつつ解きましょ」
「なにそれ?」
「15000ページ使う定理の証明。ミサトコピー用紙ちょうだい。余白足りない」
「はいはい。NERVからパクってきたのあるからじゃんじゃん使っちゃって」
「葛城お前、こうなること分かってたな?」
「何のためにリツコと加持くん巻き込んだと思ってるの?」
「お前はそう言うやつだよ⋯⋯」
そうこうしている間に、算数のドリルが9ミリ弾を受け止められそうなくらいの分厚さになってしまった。次はミサトが国語のドリルを手に取る。これは流石にやりようが無いんじゃないかと言われたが、次に取り出された墨と筆を見てミサトのやろうとしていることに気付いた。
「やっぱり大人として、綺麗な字は基本よね〜。筆と墨を使って楷書体で書きましょう」
「待ちなさいミサト」
「ん?」
「そこは、草書体にするべきじゃない?大人として」
「それもそうね」
こんなのが大人とか認めたくないと思う加持だった。が、ここで止めても仕方ないし、何より面白そうだからと言う理由で、自分は社会のドリルを開く。
「社会ね。私のやった算数やミサトが今やってる国語より本気でやるの難しくない?」
「そうでもないさ。右のページは思想を右に、左のページは思想を左にして書けばいいだろ。こんな感じで」
「「うわ〜⋯⋯」」
この2人が引いている辺り、どんな内容なのかはある程度予想が立つだろう。丸付けを担当する教師には本当に同情するレベルだ。恐らく採点中に様々な国の国歌が頭の中で流れるだろう。
「理科は⋯⋯まぁ細胞とか元素記号とかで詳しく書いて、略図とかも必要ね」
「生物の部分はなるべくリアルな写真使いましょ」
「この辺の画像使っちゃうか。先生吐かないといいけど」
「学校に置いてある標本とかで見慣れてるから大丈夫よ」
ある意味、理科のドリルが1番カオスなことになっている。拗らせた教授がやるレベルと言われるようなものになった。
「絵日記は⋯⋯私たちの日常でも書きましょう」
「ミサト⋯⋯機密に触れる内容はダメよ?」
「大丈夫大丈夫。ほらこんな感じで⋯⋯今日は22時間働きました。でも勤怠上は8時間です。悲しかったです。残業代も貰えませんでした」
「葛城、お前意外と絵の才能あるんだな」
「恨みを込めて描いたら上手く行ったわ。こんな感じで絵日記は機密に触れない私達の日常を書けばいいのよ。次は⋯⋯上司が息子さんにボコボコにされていました。普段の時間外労働分の対価が貰えてなかったので、見ててスカッとしました。っと」
「じゃ、私は⋯⋯いつも無茶ばかり言ってくる同僚が、職場の若手にぶん殴られて空中で一回転していました。面白かったです」
「あ、俺は、未払いの残業代を全額請求したら、上司がブッ倒れました。すごい金額だったようです。1回1回払わないと後が怖いんだなって思いました。っと」
こんな調子で、絵日記は順調に終わっていき、社畜の絶望と積み上げられた残業代の恐怖、同僚の失態の数々でページは埋められいった。最終的にはホラータッチなギャグマンガみたいななにかが完成した。
「私達の日常を絵日記にしてみたけど、こうして見るとエバー抜きにしても凄まじいわね」
「その凄まじいの一翼を担っているアンタがなに言ってるの」
「指令の失態も多いけど、3割は葛城の失態だからな」
「ちょっち自分の生活見直しましょうかね⋯⋯さて、最後は自由研究か。ん〜⋯⋯最新AI概論とか?」
「いや植物学とかも中々面白いぞ〜?俺NERVの敷地でスイカ作ってるから、その過程でもいいし」
「宗教の矛盾とかは?」
「ん〜⋯⋯パンチが弱いわね」
正直、大人がいくら全力を出したところで、所詮は小学生の宿題。小さいコップに大量の水を注ぎ込んでいるようなもので、当然溢れ出る。早い話が限界なのだ。小学生の宿題をこれ以上こんがらがった物にするのは。だから、3人は最終手段にでた。
「自由研究の紙、こんな方眼紙じゃ足りないわね。メモにしかならないわ」
「論文書くのに使う原稿用紙ならここにあるぞ」
「ピカピカな10円玉とか泥団子とか、チャチな内容じゃなくてガチな内容で作るわよ。題材は、「量子力学における不確定性原理についての証明」で行きましょう」
「俺たちが大学の頃3人がかりで取り組んだアレだな」
「えぇ。私たちもアレからかなりの経験と知識と研鑽を積んだわ。つまり、今ならいける。あの時以上の論文を!」
腹ごしらえを済ませ、テーブルの上に大量のエナジードリンクと栄養剤を並べ、物置から取り出してきた過去の教本や大学ノートを広げる。部屋は一瞬にして、限界大学生のような雰囲気に変わってしまった。
3日後、三千世界の烏をブチ殺す勢いで仕上げた総ページ300ページ超えの超大作。小学校の自由研究どころか大学の卒論レベルの物が完成。それをなに食わぬ顔でスポンサー様に渡した。
偉く達筆な国語ドリルに、バカみたいに分厚くなった算数のドリル、専門用語だらけで本来分かりやすくする為の略図が更に答えを難解にした理科のドリル、思想が左右に行っている社会のドリルは、採点した先生を恐怖に陥れた。絵日記は絵日記じゃないだろと読んでてツッコミを入れてたし、ほとんど大学の卒論と化した自由研究は先生の頭を大いに悩ませた。当然保護者とその子供は呼び出しをくらい、宿題の再提出を命じられた。
「葛城三佐、これはどう言うことかね?」
「何のことでしょうか?」
「とぼけるな。君に与えた件の仕事、何故完璧に完遂しなかった?今朝正式に苦情が私のもとに届いたぞ」
「お言葉ですが、小学生レベルの解答をしろとは言われませんでした。指令からの指示は「完璧に宿題を完成させろ」との事でしたので、私達の知識を総動員して文字通り完璧な宿題を作り上げたのです。なにもオーダーには反していません」
「ふむ。であれば葛城三佐達の行動に間違いはないな。彼女らに責任を問うことはできんだろう。下がりたまえ」
「冬月!」
「は〜い。じゃあ業務に戻りま〜す」
この後、ゲンドウは冬月から指摘に部下を利用するなとお叱りを受けた。
元ネタはテイコウペンギンです。それをこの3人でアレンジしたものになりますね。皆さんの夏休みの宿題の思い出とかあります?私は⋯⋯なんで休みに大量の宿題を出すんだよ意味分かんねぇよと思ったことですかね。