「何故人は、人に暴力を振るうの?」
「…………え?」
この日、綾波の保護者代理兼教育係りの山本玲三尉は、綾波からの突然な質問に一瞬思考が停止した。いつもは三尉が言葉を教えたり、遅れている学校の勉強を教えたりしていて、滅多なことでは質問してこない。特に三尉が教えないことには、積極的に疑問を持つことは無い。そんな綾波からの質問に、どう答えるべきか悩んでいる。
「あ、焦げてる」
「え?うわっ!?……やっちゃった……」
野菜炒めが焦げてしまった。幸い綾波の分ではなく自分の食べる分のため、このまま食べれば良いやとなった。皿に盛ってテーブルに並べ食卓に着くと、また綾波が同じ質問をした。
「ねぇ三尉。なんで人は人に暴力を振るうの?」
「ん~……難しいな」
「難しい?」
「確かに法律上とか、社会通念上は人に暴力を振るっちゃダメさ。でも、時には暴力を使わなくちゃいけないときもある」
「どんな時?」
「分かりやすいのが戦争や、何かを守らなくちゃいけないときかな」
具体的な例を上げて、暴力が必要になるときを教える。戦争時や大切なものを守るとき、自分の身を守るとき、明らかな敵を倒すときと教えていく。だが、どれを聞いても綾波はピンと来ていなかった。
「何かあったのかい?」
「……司令が殴られた」
「あぁ、シンジ君。初号機のパイロットの話ね」
なるほどと、三尉は納得した。確かにアレはさっき教えたどれにも該当しない。綾波が理解できなかったのも納得だ。
「アレはね、正直司令が悪い」
「そうなの?」
「10年以上の育児放棄。突然呼び出して道具のように扱う言動。殴られるのは当然さ。むしろ素手でやってるだけシンジ君優しいよ」
「理由はどれにも該当しない。でも悪いことじゃない?」
「う~ん。家族の問題だからね。ボクらは口出しない方が良いよ」
「私も三尉に……」
「なんでボクがレイに殴られるのさ……せめて理由がある暴力にして」
焦げて苦くなった野菜炒めを食べながら、綾波を嗜める三尉だった。
「そう言えば、司令とレイはよく話をしてたね」
「うん。でも最近は三尉や赤木博士と話す方が多い」
「そう。司令が殴られて嫌な気持ちになった?」
「ちょっとだけ、モヤモヤした」
「そっか。でも、それだけでシンジ君を糾弾したらダメだよ。彼には彼の事情がある。そして親子の事情が。だから自分の感情だけで突っ走っちゃダメだよ」
「分かった」
結論から言うと、自分達はその事に深く関わってはダメと言うことを教えて、苦くてジャリジャリした食感の野菜炒めを平らげる。それとほぼ同時に綾波も食べ終わり、流しに食器を持っていく。
片付けるかと袖を捲る三尉に、綾波はリツコからと1つの封筒を渡す。『臨時健康診断』赤文字で記載されている。
「臨時……え?なんで?!」
「三尉がいつも私にお菓子の事を教えてくれるから」
「ん?」
「私がどんな食べ物って聞くと、毎日食べても良いって教えてくれるって博士に言ったら、臨時で入れてくれた」
「スゥゥゥゥ……マジか~」
三尉は和菓子洋菓子問わず、綾波にお菓子の事を教えまくっていた。三尉は大の甘党で、取っ付きやすい内容のものから教えようと言うことで、それを中心に話していた。それをそのままリツコに伝えたことで、三尉しだけ臨時健康診断がブチ込まれたのだ。
「一応、健康優良児って言われてるんだけどな~」
その辺の10代よりも数値が良いのが取り柄だった。
確かに毎日食べても良いとは言ったが、実際に毎日食べているわけではない。そもそも綾波の保護者になってからと言うもの、食事にはかなり気を使っている。主に綾波が肉と魚を食べられないからだ。一応、三尉の食育により改善の兆しは見えてきている。
「日程は……明日?!」
「予定が空いてないって言ってた」
「断る……いやダメだ……あの人の新薬の実験台になるのだけは避けないと」
しかも内容的にほぼ人間ドックだった。1日潰れることが確定した。ため息を吐きながら、綾波には断片的な情報だけではなく、付随して様々な情報もまとめて教えるように教育しようと決意した。
次の日、綾波の朝食と昼食の弁当を作りNERV本部へ。指定された診断を受けて回ることになった。何故かミサトも一緒に健康診断をするようだ。
「あれ?葛城一尉、どうしたんですか?」
「山本君こそ」
「自分は赤木博士が急遽入れた健康診断を。毎日大量に甘いものを食べていると勘違いされたようで……」
「あ、そっちもなんだ。私もお酒飲み過ぎだから受けてこいって言われちゃって。全くイヤなっちゃうわ。リツコったら大袈裟なのよ」
アンタの酒に関しては大袈裟でも何でもないだろ。と思ったが、口には出さなかった。が、顔に出ていたのか頬を摘ままれて「何か文句でも?」と言われた。
「ひへ……はんでもひゃりまひぇん……」
「よろしい」
そんなわけで、健康診断に1日を使った。通常業務?当然溜まっている。代わりに今日中に結果が2人に渡された。リツコが2人を呼び出して結果を伝える。
「まずミサトだけど……あんなに飲んでる割には良いのよね。肝臓の数値」
「当然よ。私の肝臓は人より優秀なんだから」
「割にはって言ってるでしょ。数値は普通に悪いから、休肝日を設けるとか、飲む量を減らすとかなさい」
「えぇ~」
「……改善しないようなら、シンジ君に伝えます」
「待ってリツコ!それだけはマジで止めて!私の命が危ない!!」
この人にここまで言わせるシンジ君って何者なんだ?と直接会ったことのない三尉は思った。
「次に三尉ね。全部正常ね。レイが甘いもの毎日食べても良いとか言ってたって聞いたから、身構えてたんだけど……その辺の10代よりも数値良いわね」
「まぁ、自分は酒もタバコもやりませんから。運動もしてますし」
「結構。ただ、今後はあんまりレイに適当な事は教えないように」
「はい……」
綾波には二度と適当な事は話さないようにしようと、心に固く誓う三尉だった。
今日は綾波と三尉、主に三尉のお話でした。ではまた次回。感想や評価、次回予告募集の活動報告もよろしくお願いします!
次回予告!
新たなる遠距離特化の使徒!出オチともならなかった陽電子砲!救出イベが入らない綾波!さぁぁて次回もぉ?サービスサービス!