ノルガイア戦記〜転移傭兵の異世界戦乱奇譚〜   作:創世の怠け者

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旅とは、生きるための行為だ。
安住の地を求め、糧を求め、己が目的を果たす為に人は歩み続ける。
だが、時としてそれは望まぬ者に強いられることもある。
それはまるで風に舞う塵や枯葉のように、何処かへと流されていく。

俺か?俺はその「流された」側の人間だった。
そして、俺が流れ着いた場所はーー

俺の知る世界では無かった。


墜落

 

 

 

 

「……痛ぇ……」

 

意識がぼんやりと浮上する。

最初に感じたのは、身体を這い回るような鈍い痛みだった。

全身の筋肉がこわばり、鉛のように重い。

 

「……っ」

 

微かに息を吸うと、喉がカラカラに渇いていることに気づく。

唾を飲み込もうとしたが、うまく飲み込めず、喉の奥が焼けるように痛んだ。

 

次に感じたのは、関節の軋み。

まるで何時間も無理な姿勢で拘束されていたかのような、異様な疲労感が身体を蝕んでいた。

 

「……なんだ、これ……」

 

ようやく意識がはっきりし、ゆっくりと目をあける。

 

視界が明滅し、焦点も定まらない。

強烈な陽光が差し込み、瞳孔が対応しきれず、一瞬眩暈を覚えた。

瞬きを繰り返しながら、ゆっくりと視界を馴染ませていく。

頭の奥がズキズキと痛む。

耳鳴りが続き、周囲の音がぼんやりとしか聞こえない。

 

まるで高熱を出して倒れた後のような感覚。

 

だが、体の感覚が次第に戻るにつれ、疑問が浮かび上がる。

俺はどこにいる?何が起こった?

 

目をこすり、ゆっくりと体を起こした瞬間、俺の視界に広がったのはーー

 

見渡す限りの草原。

 

青々とした草が風に揺れ、波のようにうねっている。

地平線の彼方には霞むような山脈が連なり、雲がゆったりと流れている。

雲の影が草原を緩やかに移動し、その度に色合いが微妙に変化する。

 

だが、何よりも衝撃だったのはーー

どこを見ても人工物が存在しないということだった。

 

道路もない。建物もない。電柱もない。

 

俺の知る場所のどの風景とも一致しない。

これだけ開けた土地なら、どこかに鉄塔や建築物が見えてもおかしくないはず。

しかし、どれだけ目を凝らしても、人の気配がまるでない。

 

「……どこだ、ここ……?」

 

風が頬を撫でる。

どこか冷たく、しかし湿り気のない、乾いた風。

太陽の光は強いはずなのに、なぜか肌が焼けるような感覚はない。

日本の気候とは明らかに違う。

 

俺は確かに、日本にいた。

それが突然、この知らない場所に転がっている。

一体、どういうことだ?

 

「俺は、何をしていた?」

 

頭を抱えながら記憶を探る。

確かに、さっきまでは日本の都会にいたはずだった。

コンクリートのビル群、スマホの画面、人混みの中を歩く音……。

 

それが、次の瞬間にはこの場所に転がっている。

 

記憶の断絶。

それが俺の最初の違和感だった。

 

なぜ、こんな場所にいる?

夢か?それとも、現実か?

 

俺はとりあえず、ポケットを探った。

 

スマホ、財布、鍵――

 

――何もない。

 

まるで俺が日本で生活していた痕跡そのものが消え去っているかのように。

 

さらに、服装までもが変わっていた。

Tシャツとジーンズではなく、どこか見慣れない生地のシャツとパンツ。

しっかりとした縫製が施されているが、手作り感のある仕立て。

 

「マジかよ……」

 

吐き出した言葉が、妙に空虚に響いた。

呼吸を整えながら、必死に状況を整理する。

まず、俺は日本に居たが、ここは明らかに日本ではない。

それに、持ち物は全て消え、服装まで変わっている。

極め付けには、この異様な身体の疲労感。

 

これは夢なのか?

だが、こんなに生々しい感覚のある夢があるだろうか。

風の音、草の匂い、肌を撫でる空気の感触。

すべてが、あまりにも現実的だった。

 

夢か、現実か。

だが、この痛みがある以上、夢ではない。

ならば、俺は何かしらの理由で何者かにここに捨てられたのか?

 

――認めたくはないが、それ以外の説明がつかない。

 

「……クソッ」

 

掠れた声を絞り出しながら、俺は身体を起こした。

腕に力を込めると、全身の筋が悲鳴を上げる。

だが、それに構っている余裕はない。

混乱する頭を抱えながら、周囲を見回した。

 

――何をすればいい?

 

状況を確認すること。

それが、まず最初にすべきことだろう。

その時だった。

 

――カーン……カーン……。

 

微かな鐘の音が、遠くから聞こえてきた。

俺は息を呑む。

 

「……人が住んでいるのか?」

 

この静寂の中で、それはあまりにもはっきりとした音だった。

単なる風の音ではない。

誰かが意図的に鳴らしている鐘の音だ。

 

それは、かすかだが一定のリズムで繰り返されていた。

もしかすると、何かの合図なのかもしれない。

鐘の音が聞こえる方角に、遠く霞むような建物の影があった。

それが何なのかは分からないが、少なくとも人がいる可能性がある。

だが、それが「友好的な人間」かどうかは分からない。

見知らぬ土地に放り出された今、俺が取るべき行動は慎重に決めなければならない。

 

「……行くしかないか」

 

立ち上がると、全身の筋肉が悲鳴を上げた。

足元がふらつく。

疲労感が酷い。

まるで何日も歩き続けた後のような、鉛のような重さが身体を支配している。

だが、ここでじっとしていても何も変わらない。

 

俺は、鐘の音が響く方角へと重い足を引きずりながら歩き出した。

草原を渡る風が、髪を揺らす。

草の香りが鼻をくすぐり、乾いた土の匂いと混じり合う。

どこまでも続く草原は、まるで世界に俺一人しかいないかのような錯覚を与える。

遠くの山脈は、先ほどよりも少しだけ近くに見えた。

青空の下、雲がゆっくりと流れ、地平線へと消えていく。

そして、俺はその風景の中をひとり歩き続けた。

日差しは強いが、日本の夏のような不快ではなく、むしろ心地よい。

しかし、気温はそれなりに高いのか、額にじんわりと汗が滲んでくる。

 

数十分ほど歩いただろうか。

やがて、地平線の向こうにうっすらと人工的な構造物の影が見え始めた。

徐々に近づくにつれ、その影の正体が明らかになっていく。

 

まず目に飛び込んできたのは、高い木製の柵だった。

直径30センチ以上の太い丸太を垂直に並べ、隙間なく組まれている。

簡素な作りに見えるが、頑丈に補強されており、見た目以上の耐久力がありそうだ。

その高さは、ゆうに3メートルを超えている。

柵の上部には槍のような鋭い突起が取り付けられ、外部からの侵入を拒んでいるのが一目で分かった。

 

――これは、ただの農村ではない。

 

これほどまでに頑丈な柵を作る理由は一つしかない。

この村は戦うことを前提にしている。

柵の内側にはいくつもの建物が立ち並んでいる。

どれも簡素な木造の建物だが、耐久性を重視した作りになっている。

屋根は芽葺きのものもあれば、木の板を重ねたものもある。

村の中心には広場があり、そこには人々が集まっていた。

 

家々の間を歩く男たちは、皆どこか厳しい顔つきをしていた。

彼らは武器を携え、革や毛皮の服をまとっている。

その姿は、まるで戦士の集団のようだった。

そして、村の入り口には、大きな木製の門が構えられていた。

分厚い木材で作られ、鉄の補強が施されている。

門の上部には見張り台があり、そこには槍を持った男が立っていた。

 

俺の姿を見た瞬間、その男はすぐに何かを叫んだ。

 

「……おい、止まれ!」

 

低く響く声が、俺の足を止めた。

門の前には、槍を持った男たちが数人立っていた。

彼らの身体つきは逞しく、動きに無駄がない。

どの男も戦い慣れた者の雰囲気を漂わせていた。

そして、その視線には明確な警戒心が宿っていた。

 

――敵を見る目だ。

 

俺は無意識に息を飲んだ。

彼らの顔立ちは、日本人とはまるで異なっていた。

肌はは浅黒く、鋭い目をしており、髪は長く後ろで束ねている者が多い。

顎髭を生やしている者もいれば、頭を刈り揃えた者もいる。

 

「どこの者だ?」

 

低く唸るような声。

そして、その言葉を聞いた瞬間、奇妙な違和感を覚える。

確かに彼らは日本語を喋っている様に聴こえる。

だが、彼らの口元がどこかぎこちない。

そう、まるで吹き替え映画や海外のインタビューを見ているように。

 

――口元の動きと、聞こえる言葉が一致していない。

 

「言葉が……違う?」

 

彼らの唇は、俺が知る日本語の発音とは明らかに違う動きをしている。

それなのに、耳に届くのは確かに日本語だった。

言語が違うのに、何故か意味が分かる。

翻訳機を通した様な感覚で、彼らの言葉が耳に入ってくる。

 

見知らぬ土地に飛ばされた上に、言語適応までされている?

ならば、これは単なる偶然の事故ではない。

そう理解するまでに、時間は必要なかった。 

 

「もう一度聞く、どこの者だ?」 

 

村人たちの視線が突き刺さる。

この村の人間たちは、明らかに俺を警戒している。

当然の反応だ。

どこの誰かもわからない、オマケに人種すら違う男が、突然現れたのだから。

俺は無理にでも落ち着いた声を作り、ゆっくりと口を開く。

 

「俺は、ちょっと迷ってここまで来たんだ。悪いが、水を一杯もらえないか?」

 

なるべく穏やかな声調で話す。

だが、男たちはなおも警戒を解かない。

 

一人が、腰に吊るした短剣の柄に手をかけた。

もう一人は、槍の柄を握り直し、いつでも突き出せるように構えている。

その空気の重さに、俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

−−そして、その緊張を破る声が響いた。

 

「待て!そいつを殺すな!」

 

村の奥から、一人の男が現れた。

 

村人たちの視線が、俺ではなく、新たに現れた男に向けられる。

俺も、その存在感に息を呑んだ。

背は高く、堂々とした体躯を持ち、長い髪を後ろで束ねている。

深い青色のマントを羽織り、風にたなびかせながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

背中には長槍を背負い、両刃のロングソードのような剣が吊るされている。

 

村人たちは、その男を見ると僅かに態度を改めるのが分かった。

この男が、村の中で一定の地位を持っていることは明らかだった。

 

「……あんたが、こいつを?」

 

槍を持った男が、その戦士に尋ねる。

 

「あぁ。俺が話を聞く。そこの男を連れてこい。」

 

男たちは、一瞬ためらいながらも彼の言葉に従い、俺を囲むようにして村の中へと誘導した。

その瞬間、俺の背中をた覆っていた冷たい圧力が、ほんの少しだけ和らいだ。

だが、それは決して「信用された」わけではない。

 

俺は、この村で何を知ることになるのか。

この戦士との出会いが、俺の運命を大きく変えることになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。

 




お久しぶりの方はお久しぶりです。
初めましての方は初めまして。
久しぶりに筆を取ってみました。
よろしくお願いします。
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