不老不死ノ少女   作:イヌスキー

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 これはもしもの物語です。ifの中では最も幸せなルートかもしれません。1話にまとめたためかなり長くなりましたが、どうぞ。


番外編
if〜もし、暁と共に村を逃げ出せたら


 不老である事を暁と村の人達に話したその晩の事でした。

 

 村長の家の客室でクレアルは眠りにつきました。安心しきって眠っていたとき、カタンと音がして目が覚めます。寝ぼけ眼で顔をあげると、そこには…暁が居ました。

 

『え……暁?どうしたんですか、こんな時間に。』

 

『クレアル……静かにするんだ。荷物を纏めて一緒に逃げるぞ。』

 

『え?何を……。』

 

『悪い。説明する時間も惜しい。とにかく、このまま村にいたら……危険だ。』

 

 クレアルは混乱しましたが暁の言う通り荷物を纏めました。暁はクレアルにとって村の中で一番付き合いの長い相手で、師匠で、想い人。最も信用できる人でした。暁が何を持って危険だと言うのか、何故時間が惜しいのか。クレアルはよく分からないまま暁とともに村長の家を抜け出しました。夜の村をクレアルは暁に手を引かれ駆けます。

 

 そして村を出ても、暁は駆け続けます。ある程度村から離れたところで、ようやく立ち止まりました。

 

『あの……暁?結局どうしたんですか?』

 

 夜に想い人と2人きりで、その相手は真剣な目で自分を見つめてきている。それに思わず頬を染めていると、暁は重々しく口を開きました。

 

 そこから暁が語ったのは、信じがたいことでした。信用していた村の皆が、クレアルを殺して喰らおうとしていたというのです。ですが、暁がそんな嘘を言うとも思えない。クレアルは形容しがたい感情を抱きました。

 

 そうしていると、村の方から灯りが見えました。そして、いくつもの声が聞こえました。

 

『不老不死はどこにいった!』

 

『探せ、まだ近くにいるはずだ!』

 

『不老不死を喰らって、永遠を生きるんだ!』

 

『暁の奴め…自分だけ不老不死になるつもりか!』

 

 それは、クレアルが信用していた村の人々の声でした。

 

『くそっ……気づかれたか。逃げるぞ!』

 

 暁に手を引かれ、クレアルは駆けます。村の皆は、クレアルの名を呼ばなかった。『不老不死』と呼んでいた。これまで共に過ごした時間も、不老不死の魅力の前には無意味だったのかと、クレアルは絶望を感じました。

 そうして2人で走り続け、夜が明けた頃。2人は村から遠く離れた場所までたどり着きました。

 

 本当は、聞くのが怖くて仕方ありませんでした。それでも、クレアルは聞きました。

 

『暁……なんで……なんで助けようとしてくれるんですか…?』

 

 長い時を生きてきたというのに、震える声を出して怯えている自分にクレアルは自嘲します。そんなクレアルに気づいているのかいないのか、暁はいつもの仏頂面で答えました。

 

『……俺は、不老不死に興味とかないし。何より、クレアルを犠牲にして自分は永遠に生きるなんて……そんなのは嫌だ。それだけだ。』

 

 暁のぶっきらぼうな、けれど隠しきれない優しさを感じる言葉にクレアルは涙を流します。そんなクレアルを見た暁は、少しの躊躇いのあとクレアルを抱きしめました。

 

『村の奴らに関しては気にするな。クレアルはこれまで、村の為にと努力してきたのに不老不死だなんだと……あんな馬鹿げた奴ら、忘れちまえ。覚えてる必要もねぇよ。』

 

『……っ!あ、あか、つき……!』

 

 クレアルは泣きました。暁の胸で、声を上げて泣きました。こんなに泣いたのは、一体何百年振りだろうとクレアルはぼんやりと考えます。

 

 信じていた者の裏切り。

 

 愛している者の優しさ。

 

 クレアルはぐちゃぐちゃになった感情のまま、ただ泣きました。

 

 そうしてようやく泣きやんだクレアルは、暁と共に旅に出ました。クレアルは、暁に想いを告げませんでした。不老不死である自分は、必ず置いて逝かれるからと。

 対して暁も、クレアルに想いを告げる事はありませんでした。そもそもクレアルは暁が自身を想ってくれているのかわかりませんでしたが、暁は言いました。

 

『不老不死のクレアルを、俺は必ず置いて逝ってしまう。……だから、俺は俺が死ぬ時まで、ずっとお前の側にいる。俺との思い出で少しでもお前の孤独が癒えるように。』

 

 優しい、その言葉の通り。暁はずっとクレアルの側居てくれました。少しでも思い出を残そうとしてくれました。

 

 クレアルの不老不死がバレないよう、2人は各地を転々とし続けました。そして、ついにその時はやってきます。

 

 

 

『……クレアル。いるか?』

 

 年老いた暁がクレアルに声をかけます。その老いた目は既にクレアルを写しておらず、暁は寝たきりになっていました。

 年老いた暁が動けなくなってから、2人はある森の奥の小屋で過ごしました。人と会わないよう、細心の注意を払って2人で過ごしました。

 

『……側にいますよ、暁。』

 

 クレアルはわかっていました。暁の生命力はもう殆ど残っていないということ。それは、死が近いことを意味します。

 

『なぁ……クレアル。お前は俺に故郷を捨てさせた事、後悔してただろ。俺はな……お前を犠牲にしようとするような奴ら、どうだってよかったんだ……。』

 

 暁は、うわ言のように言います。クレアルは一語一句聞き逃さないよう、暁の手を握って耳を傾けました。

 

『いいか、クレアル…自分のせいで、なんて思うんじゃねぇぞ。全部俺が決めた事だ。………俺は、お前と過ごせて、間違いなく幸せだった…。』

 

『暁っ……!』

 

 暁の生命力が抜け落ちるように弱まっていくのがわかり、クレアルは悲鳴のように名を呼びます。暁は、もう何も見えない目をクレアルに向けました。しわだらけの手で、クレアルの手を強く握りかえしました。そして、泣きそうな笑顔で言いました。

 

『……クレアル。俺は、実はお前が……好きだったんだ。ほんとは、言うつもりなんて、なかったんだけどよ……。やっぱ、どうしても言いたかった……。ごめんな。』

 

『……っ!暁、暁…!私、私も!私も、暁が、好きです……!』

 

 クレアルは堪えきれなかった涙を流し、震える声で叫びました。その叫びが聞こえたのでしょう。暁は、いつものような笑顔を浮かべました。

 

『はは……それなら……もっと速く……言えば、よかっ……たな……。』

 

『……やだ、やだやだ!暁、暁……!』

 

『ごめんな……クレアル。こんな俺と……過ごしてくれて……あり、がとう……。』

 

『っ……ぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!暁っ……暁ぃ……!!!!』

 

 暁の最期は、柔らかな笑顔でした。クレアルは泣き続けました。泣いて、泣いて、けれど暁をそのままにはできないと泣きながら弔い小さな墓を作りました。

 

 本当は、暁との最期を過ごしたこの小屋にずっといたいと思いました。けれど、暁はそれを望まないでしょう。だから、クレアルはまた旅に出ました。

 

 

 

 それから長い時が過ぎました。暁の事を忘れた事など片時もなく、不老不死故に頻繁にはむりですが数十年に一度は暁の墓を訪れるようにしていました。

 

 そして旅の最中、訪れた竜が住むという山。そこで我が子を犠牲にしてまで生きようとする竜をクレアルは見つけました。クレアルはその竜を討伐しました。その竜の雛が、人を襲わないという保証はありません。ですがまだ卵の雛をクレアルは見逃す事にしました。……きっと、暁ならそうしただろうから。

 

 そうして卵に背を向けて立ち去ろうとしたとき、パキリと音がします。驚いて振り返れば、卵から竜の雛が生まれていました。

 

『……まま!』

 

『えっ……?』

 

 クレアルは驚き、困惑します。恐らくは鳥の刷り込みのようにクレアルを親と思い込んだのでしょう。ですが、不老不死のクレアルはいずれ来る別れに耐えられると思えませんでした。暁との別れだけでも、クレアルは精一杯なのですから。

 ですが、産まれたばかりの、自身を母と慕う雛をクレアルは無碍にできませんでした。そうしてとりあえず雛を抱きかかえようと触れた時、クレアルは気づきます。

 …生まれたばかりの雛は、クレアルと同じく不老不死でした。クレアルは思わず、涙をこぼします。

 

『ままー?どうしたの?』

 

 本当は。暁が死んでからずっと、ずっと寂しかったのです。自分を置いていかない存在を、どこかで求めていたのです。クレアルは雛を抱きしめました。雛は無邪気にきゃらきゃらと笑います。

 

 そして、それからは2人で旅をしました。空を飛ぶのが好きな雛には『(エーテル)』と名付けました。

 

 ……以前の墓参りから数十年が経ち、クレアルは暁の墓に行く事にしました。……もう、自分は1人ぼっちじゃないよと、エーテルという家族ができたよと。…暁の事を、ずっと忘れないよと。そう伝えるために。

 

 クレアルはエーテルと旅を続けます。いつか、2人で終わりを迎えられる日を信じて。……暁に、沢山の思い出話ができる日が来ると信じて。

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