異界にて、雄は資源と化す    作:Henon

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新大陸における知性種族の特異性及び不明点について

 

【新大陸における知性種族の特異性と不明点について】

 

機密区分:内部資料

作成部門:STF生態調査班

 

【概要】

 

本報告は、新大陸において確認された複数の知性種族に共通する、生物学的及び行動学的特異性について整理し、現時点で可能な範囲の科学的考察を加えるものである。

 

特に重要な問題として認められるのは、ドラゴニュートを含む複数の異種族が、人類男性に対して強い性的・繁殖的関心を示す点である。

 

当該反応は、単なる異文化的好奇心として処理するには強度が高く、かつ複数の種族に共通して確認されている。

 

さらに特異なのは、この反応が雌個体のみに限られず、雄個体においても確認される点である。

 

加えて、現在交流中のドラゴニュート集落においては、ドラゴニュート、犬人、その他複数の獣人種族が同一共同体内で生活しており、異種間の性的関係及び交配が、少なくとも社会的に完全な禁忌としては扱われていない可能性が高い。

 

また、ハーピーによるSTF隊員拉致事件の被害証言、保護した犬人集団への身体検査、ドラゴニュート村落における聞き取り及び観察結果を総合すると、この世界における雄個体は、単一の雄性器のみならず、両性器を保有している可能性が極めて高く、現段階では事実として取り扱うのが妥当であると判断される。

 

本件は、単なる異世界生物の特異な生態という範囲を超え、日本国の外交、安全保障、対外接触方針及び国民理解の在り方に深く関わる重大事項である。

 

【確認された観察事実】

 

第一に、多くの異種族において、雄雌ともに人類基準では女性的身体特徴を示す。

 

ドラゴニュート村落で観察された個体群、保護した犬人集団、ハーピー接触事例のいずれにおいても、雄個体は人類男性に見られるような明確な男性的外見を持たない。

 

体格差、匂い、内部構造その他の要素によって現地では性別が判別されているものと推定されるが、少なくとも視覚情報のみをもって人類側が判別することは極めて困難である。

 

第二に、人類男性に対する反応が異常に強い。

 

接近、凝視、匂いの確認、性的接触の試行、落ち着きの喪失等が複数種族で確認されている。これらの反応は、とりわけハーピー及びドラゴニュートなどの大型種族において顕著である。

 

第三に、当該反応は雌個体だけでなく雄個体にも見られる。

 

これは、地球人類における通常の異性愛的反応として理解するには説明が困難である。雄個体の側にも、人類男性に対する興奮、執着、接近、性的行動に類する反応が確認されている。

 

第四に、異種間交配が積極的に行われている。

 

ドラゴニュート集落では、ドラゴニュート、犬人、その他の獣人系種族が混住しており、性的関係及び交配そのものが共同体構造の一部として組み込まれている可能性が高い。

 

第五に、多くの種族で明確な性比の偏りが認められる。

 

これまで接触及び観察した範囲では、雌個体が多く、雄個体が著しく少ない傾向が複数種族に共通している。

 

第六に、知性種族間に明確な捕食関係が存在する。

 

ハーピーと犬人の関係はその典型であり、知性を有することが直ちに捕食対象から外れる条件となっていないことが確認されている。

 

第七に、現地知性種族の一部が、日本語と同一又は高度に類似した言語を使用している。

 

ドラゴニュート個体アルザとの接触及び聞き取りにおいて、同個体は日本語による意思疎通が可能であり、当該言語を「統一語」と呼称している。

 

アルザは、当該言語が少なくとも自身の母国又は出身地域で使用されていたと証言している。ただし、西方文明圏全体における使用範囲は未確認である。

 

本件は、生態学的特異性とは別系統の異常であり、新大陸と日本国又は日本語圏との過去の接触可能性を示すものとして、更なる継続調査を要する。

 

【人類男性への執着の原因について】

 

現時点で最も有力と考えられるのは、『匂い』すなわち化学的信号による仮説である。

 

人類男性の汗、皮脂、呼気、血液、体温由来の揮発性成分が、現地種族にとって極めて強い雄性信号として機能している可能性が高い。

 

実際、視認前に反応した事例、残留した臭気への反応、男性隊員が距離を取った際の追従行動等は、視覚よりも嗅覚又はそれに類する受容機構が優先されていることを示唆している。

 

問題は、なぜ姿形の大きく異なる人類男性が、現地種族により「雄」として認識されるのかという点である。

 

無論、地球生物にも匂いによる識別や性的反応は存在する。

ただし新大陸種族における反応は、その強度・普遍性・種族横断性において、地球生物の範囲を明らかに逸脱している。

 

地球生物においては、まず同種性が確認され、その後に性別が識別される。しかし、現地種族においてはこの順序が逆である可能性が高い。すなわち、まず雄性信号の有無を検出し、その後で相手の種別を識別しているものと考えられる。

 

この場合、人類男性は「未知の種族」であっても、「極めて強い雄性を持つ個体」として先行的に認識されることになる。

 

この仮説に立てば、雌個体が人類男性に反応する理由については、繁殖対象への反応として一定の説明が可能である。

 

しかし、雄個体までが同様の反応を示す点についてはなお別途の説明を要する。

 

【なぜ雄ですら人類男性に発情を示すのか】

 

本件において最も異常性が高いのはこの点である。

 

仮に現地種族の雄が、地球人類のような単純な「精子提供個体」ではなく、群れ全体の繁殖刺激、周期調整、社会的順位維持等に関与する存在であるならば、強い雄性信号を持つ外来個体の出現は、雄個体にとっても無視できない刺激となる。

 

換言すれば、雄個体の反応は、相手をそのまま交配対象として認識しているのではなく、競争、服従、確認、繁殖刺激、群れ内秩序の変動が複合した生殖反応である可能性がある。

 

また、後述する両性器保有の事実を前提とするならば、現地における「雄」は、地球人類における男性概念と一致しない。

 

雄でありながら受容側機能を保持しているならば、人類男性への反応は、人類社会でいう同性間欲動として理解するべきではなく、より広い意味での繁殖参加可能個体への反応として捉えるのが妥当である。

 

すなわち、この世界においては、「雄であること」と「受容側になり得ないこと」が一致しない。

 

この一点のみをもってしても、現地種族の性差構造及び価値観が、日本社会の常識と根本から異なることは明らかである。

 

【雄個体の両性器保有について】

 

ハーピー拉致事件における証言段階では、現地雄個体が両性器を有する可能性は拉致被害者からの証言のみであった為、推測の域を出ていなかった。

 

しかしその後、保護犬人集団への身体検査、並びにドラゴニュート村落における観察結果を総合した結果、現地雄個体は両性器を保有していると判断するのが妥当である。

 

ここでいう両性器とは、単なる奇形又は個体差ではなく、種族全体の標準的特徴として、雄個体が受精側と受容側の双方の器官を備えていることを意味する。

 

この事実は、新大陸種族の繁殖構造を考察する上で極めて重要である。

 

仮に雄個体が両性器を保有し、かつ数が少ないのであれば、彼らは単なる希少な雄ではなく、集団内において多機能な繁殖資源として取り扱われている可能性が高い。交配相手の性別や種族を問わず、広範に繁殖体系へ組み込まれる余地があることになる。

 

これにより、異種族間交配の積極性、雄個体までもが人類男性へ反応すること、雄個体の希少性にもかかわらず集団が維持されること、さらには雄を巡る所有、保護、収奪が社会制度へ発展することについて、一応の説明が可能となる。

 

人類側の感覚からすれば極めて異様であるが、現地側から見れば合理的な繁殖戦略である可能性が高い。

 

【異種間交配が積極的な理由】

 

現在交流中のドラゴニュート集落には、ドラゴニュート、犬人、複数の獣人種族が共存している。

 

この事実だけでも、新大陸社会が種族単位で完全に分離していないことが分かる。さらに、これらの種族の間では、交配が例外ではなく、共同体維持の一部として受け入れられている可能性が高い。

 

考えられる理由は三つある。

 

第一に、雄不足である。

雄が少ない以上、同種内のみで繁殖を維持することは不安定である。他種族の雄、又は両性器を持つ個体を利用できる集団の方が、存続上有利となる可能性が高い。

 

第二に、形態差のわりに生殖互換性が高いことである。

外見は大きく異なるにもかかわらず、発生過程又は生殖細胞の互換性が高い可能性がある。子がどの程度どちらの種族に似るかについては継続調査を要するが、少なくとも「交配自体が成立しない」状況ではない。

 

第三に、交配が政治的・社会的関係でもあることである。

ドラゴニュートは防衛力を有し、犬人や獣人種族は労働力を有する。混合集落においては、交配は単なる欲望の発露ではなく、種族間の保護・従属・同盟・帰属を固定する役割を果たしている可能性がある。

 

すなわち、この世界における異種間交配は、個人的快楽のみならず、集団の存続及び秩序形成の機能を強く帯びているものと考えられる。

 

【捕食関係の存在】

 

ハーピーと犬人の関係は、新大陸の残酷性を最も端的に示す事例である。

 

犬人は知性を有し、家族を形成し、文明を持つ。にもかかわらず、ハーピーはそれをもってしても、捕食対象から外していない。

 

これは人類の常識からすれば受け入れ難い事実である。しかし新大陸においては、知性種族が単一の文明圏に属しているのではなく、それぞれが生態系上の異なる位置に置かれている可能性が高い。

 

空から襲うハーピー。

群れで逃れ、地を這う犬人。

それを庇護し、時に利用するドラゴニュート。

 

この関係は、戦争、奴隷制、捕食、生殖利用が未分化のまま同時に存在していることを意味する。

 

地球においては、知性が食物連鎖からの離脱を可能にしたが、新大陸においては、知性を持っていてもなお捕食関係が存在する。

 

この一点のみをもってしても、現地種族の倫理、恐怖、家族観及び種族観は、日本社会の常識と決定的に異なる。

 

【アルザの証言及び統一語に関する言語学的異常】

 

なお、本項は本来、生態調査班単独の所掌を超えるが、接触安全及び現地知性種族理解に不可分であるため、本報告に付記する。

 

それは、現地種族の一部が、日本語と極めて近似、あるいは同一と判断される言語を使用している可能性である。

 

アルザは、当該言語を「統一語」と呼称しており、少なくとも同個体の母国又は出身地域において使用されていた言語であると証言している。

本件については、現地隊員による追加聞き取りを予定している。

 

ただし、アルザは西方諸国の詳細な政治構造、使用範囲、教育制度、文字体系、及び当該言語の成立史について多くを語っておらず、現時点で確認できるのは、少なくともアルザの母国では当該言語が通用していたという点に限られる。

 

文明体系、歴史、種族構成、生物学的前提のすべてが地球と異なるであろう新大陸において、日本語と同一、あるいは高度に類似した言語が自然発生し、かつ複数種族間の共通語として使用されている可能性は、通常の言語進化の範囲では説明し難い。

 

地球上においても、偶然に類似した音韻や単語が発生する事例は存在する。しかし、文法構造、語彙、意味体系、会話運用が日本語と実用上の意思疎通を可能とする水準で一致するとなれば、偶然の一致として処理することはほぼ不可能である。

 

このため、生態調査班としては、当該言語について以下の可能性を検討対象とする。

 

第一に、過去に日本語話者、又は日本語を使用する集団が新大陸へ到達、漂着、転移、もしくは何らかの形で残留した可能性である。

 

この場合、現地の「統一語」は、日本語そのもの、又は日本語を基層として現地文明に定着・変化した言語である可能性がある。もしこの仮説が正しいならば、現在の日本国転移以前にも、日本又は日本語圏に関係する事象が発生していたことになる。

 

第二に、日本国と同種、又は類似した転移現象が過去にも発生していた可能性である。

 

現時点で、日本国転移が単発の自然現象なのか、あるいは再現性を持つ現象なのかは不明である。しかし、現地に日本語と一致する言語が存在する事実は、過去にも類似の転移、漂着、接触、又は干渉が存在した可能性を示唆する。

 

第三に、現地文明側が過去に日本の残留物、文書、機械、施設、又は人的集団と接触し、それを何らかの形で吸収した可能性である。

 

この場合、統一語は単なる言語ではなく、過去の外来接触の痕跡である可能性がある。特に西方文明圏において当該言語が広く用いられているならば、それは一部集落の偶発的接触ではなく、広域的な歴史的影響を示している可能性がある。

 

第四に、より慎重な仮説として、我々の認識過程に何らかの異常が介在している可能性である。

 

すなわち、現地個体が実際に日本語を話しているのではなく、日本人側が何らかの未知の要因により、それを日本語として認識している可能性である。ただし、現在までの会話記録、発話応答、固有名詞、文脈理解の整合性を見る限り、少なくとも実用上は日本語として機能していると判断せざるを得ない。

 

本件は、生態学的調査のみで解決できる問題ではない。

 

言語学、歴史学、考古学、地理調査、文字資料の回収、現地教育制度の確認、西方文明圏における文書体系の解析が必要である。

 

特に重要なのは、当該「統一語」が口語のみで存在するのか、文字体系を伴うのか、またその文字が日本語の仮名・漢字に相当するものを含むのかという点である。

 

仮に文字体系まで日本語と一致又は近似する場合、本件は偶然の範囲を完全に逸脱し、過去の日本関連事象の存在を強く疑うべき段階に移行する。

 

また、当該言語が西方文明圏において広範に使用されているならば、日本側にとっては外交上の利点となる一方、重大な危険も伴う。

 

日本語が通じるという事実は、接触初期における意思疎通を容易にする。しかし同時に、現地側が日本語を通じて日本人の発話、命令、恐怖、混乱、内部会話を理解し得ることを意味する。

 

特に軍事任務、交渉任務、避難誘導、捕虜救出、秘匿行動において、現地個体が日本語を理解する可能性は重大な作戦上リスクとなる。

その為、この情報は現場運用に直ちに反映されるべきである。

 

本件は、新大陸の異常性が生物学的領域に限られないことを示している。

 

すなわち、この世界は、我々と全く無関係な異世界であるとは断定できない。

 

むしろ、過去に日本、又は日本語圏と何らかの接点を有していた可能性を、現段階で完全に排除することはできない。

 

【試作フェロモンスーツについて】

 

上記の生殖関連反応及び臭気反応に関する観察に基づき、現在、生体臭及び揮発性成分の拡散を抑制する試作フェロモンスーツを通じて、正式採用を前提とした装備開発が進行中である。

 

当該装備の目的は、男性隊員を保護することのみにとどまらない。現地種族側の過剰反応を抑制し、接触現場の安定性を確保することにある。

 

現地種族が人類男性の存在そのものに強く反応する以上、外交交渉、村落滞在、調査任務のすべてが不安定化する危険を内包している。

 

特に、ドラゴニュートのような大型種族、ハーピーのような捕食性種族、犬人のような嗅覚優位種族が同一地域に存在する場合、一名の男性要員が複数種族に同時に刺激を与える危険がある。

 

よって、正式スーツの開発は急務である。

 

【不明点の整理】

 

現時点において、生態調査班が把握している主要な不明点及び未解明事項は、以下のとおりである。

 

一、姿形の大きく異なる人類男性を、現地種族が一貫して「雄」として強く認識し得る点。

 

二、現地種族において、雄雌ともに人類基準では女性的身体特徴を示す点。

 

三、雄個体ですら、人類男性に対して発情的又は生殖関連反応を示す点。

 

四、異種間交配が例外的現象ではなく、積極的かつ継続的に成立している点。

 

五、多くの種族において、雌個体が多く、雄個体が少ないという著しい性比の偏りが共通して認められる点。

 

六、知性を有する種族間において、なお明確な捕食関係が成立している点。

 

七、雄個体が両性器を保有するという、地球生物学上きわめて特異な身体構造を示す点。

 

八、西方文明圏に属する個体アルザが、日本語と同一又は高度に類似した言語を「統一語」として使用しており、少なくとも同個体の母国又は出身地域において当該言語が通用していた可能性がある点。

 

以上の各事項については、それぞれ個別に説明を試みる仮説を設定すること自体は可能である。

 

しかしながら、それらを相互に整合的に接続し、新大陸知性種族全体の在り方として統一的に説明し得る自然な理屈は、現段階においてなお確立されていない。

 

特に問題となるのは、これらの特異性が単独で存在しているのではなく、複数種族にまたがって反復的かつ共通的に認められる点である。

このことは、各種族を個別に観察するのみでは全体像を把握できないことを示している。

 

よって、生態調査班としては、現地種族をそれぞれ孤立した単独種として理解するのではなく、共通した繁殖構造、生殖反応及び生態的役割を内包した複合的生態系として把握する必要があると判断する。

 

すなわち、新大陸における知性種族群は、単に複数の異種族が並存している状態としてではなく、相互の繁殖、保護、捕食、従属及び共同体形成が複雑に連結した、一つの大きな生態的構造として理解されるべきである。

 

【個人的所見】

 

以下は報告者個人の所見であり、現時点で生態調査班全体の統一見解ではない。

 

しかしながら、この世界の生物的特徴から生じる価値観の乖離は、遅かれ早かれ日本国民に対して説明されるべきであると考える。

 

我々が相手にしているのは、見た目が異なるだけの異民族ではない。雄雌の概念、繁殖観、家族観、所有観、保護観、捕食観、そのいずれもが日本社会の前提と根本から異なる知性種族群である。

 

特に、知性種族間の捕食関係、人類男性への過剰反応、異種間交配の常態化は、我々の倫理観と直接衝突する。

 

これを隠蔽したまま交流及び外交のみを進めれば、将来的に現場で現実を見た者と、見ていない者との間に、致命的な認識断絶が生じる可能性が高い。

 

この世界の現実は、日本人の常識からあまりにも遠い。ゆえに、段階的であるとしても、国民に対する説明責任を果たす必要があると考える。

 

【結論】

 

新大陸の知性種族群は、地球生物学の常識では説明し難い特異性を共有している。

 

ドラゴニュートを含む異種族が人類男性に欲情的反応を示す理由として、現時点では匂いに由来する強い雄性信号仮説が最有力である。

 

しかしながら、それのみでは、雄個体の反応、異種間交配、両性器保有、性比偏在、捕食関係に至るまでを十分に説明することはできない。

 

したがって、生態調査班は本件を単なる文化差ではなく、新大陸知性種族全体の繁殖構造及び生態系に関わる重大問題として取り扱う。

 

今後も、試作フェロモンスーツの改良、混合集落の長期観察、雄個体の医学的検査、異種間出生例の追跡、捕食圏調査を継続する必要がある。

 

そして何より、日本側はこの世界を「人間に似た異種族の住む土地」としてではなく、我々の常識がそのまま通用しない、全く別の生物学と価値観の上に成り立つ世界として理解しなければならない。

 

また、ドラゴニュート個体アルザの証言により確認された「統一語」の存在は、新大陸の異常性が生物学的領域に限られないことを示している。

 

日本語と同一又は高度に類似した言語が、西方文明圏に属する地域において使用されている可能性は、過去に日本語話者、日本関連物、又は現在の日本国転移と類似する事象が新大陸に存在した可能性を示唆する。

 

現時点で断定は避けるべきであるが、本件は今後の調査において、生態調査と並行して確認すべき最重要事項の一つである。

 

以上。

 

特地調査部隊 生態調査班 主任研究官

大島 亮一より。

 

ーー

 

天野副司令よりコメント

 

報告書の提出に感謝する。

現地観察、被害証言、身体検査、聞き取り結果を相互に照合し、断片的な事象を単発の逸話としてではなく、生態構造上の問題として整理した点は高く評価する。特に、人類男性に対する異種族側の反応を、単なる文化差として片づけず、繁殖構造、生態系、接触安全、装備開発の問題へ接続した点は有益である。

 

また、雄個体の身体的特徴、異種間交配、性比の偏在、捕食関係、混合集落の構造、及び統一語に関する未解明事項について、観察事実と仮説を区分して記述していることも妥当であり、現段階の資料として十分に価値を有する。現場の混乱や感情に流されず、報告書としての体裁を維持している点も評価したい。

 

その上で、いくつか指摘しておく。

 

第一に、本報告が扱う内容は、生態学又は医学の範囲にとどまらない。

現地種族の繁殖構造、価値観、人類男性への反応は、今後の外交、治安維持、接触任務、情報統制、装備開発、さらには国内世論にまで波及する。よって、生態調査班が本件を重大問題として位置づけた判断自体は妥当である。司令部としても、その認識は共有する。

 

第二に、現時点で示されている諸仮説は有力ではあるが、なお検証途上にある。

特に、匂いによる雄性信号仮説、雄個体の両性器保有、異種間交配の社会的機能については、今後の追加資料により修正又は限定を要する可能性がある。したがって、引き続き報告にあたっては、観察事実を主とし、考察はあくまで従として記載されたい。資料としての信頼性は、その節度によって守られる。

 

第三に、試作フェロモンスーツの開発については、本報告の指摘どおり急務と判断する。

これは単に男性要員保護のための装備ではない。接触現場における現地側反応の抑制、交渉安定化及び任務全体の安全確保という観点からも優先度は高い。司令部としても、必要な支援は検討する。

 

第四に、アルザ証言及び統一語に関する記述についてである。

本件は、生態調査班の所掌を一部超える内容を含むが、現地知性種族が日本語と同一又は高度に類似する言語を使用している可能性は、接触政策、安全管理及び情報保全上、極めて重大である。

 

特に、現地個体が日本語を理解し得るという前提は、今後の現場運用に直ちに反映されなければならない。部隊内会話、交渉時の不用意な発言、任務目標の口頭共有、無線通信及び記録資料の扱いについては、従来以上の秘匿措置を要する。

 

また、過去に日本又は日本語圏と類似する存在が新大陸へ到達していた可能性については、現時点で断定してはならない。しかし、完全に排除することもまた危険である。

当該言語が単なる偶然の一致であるのか、過去の接触、転移、漂着、残留物、又は未知の認識作用によるものなのか、現段階では判断材料が不足している。

 

以後、情報部門及び調査班との連携を図り、現地文字資料、古文書、教育制度及び宗教儀礼における統一語の使用実態を確認されたし。

 

第五に、本報告末尾の個人的所見についてである。

貴官の問題意識そのものは理解できる。現場で現実を見た者として、いずれ国民がこの問題に向き合わねばならないと考えるのは自然であり、その懸念にも一理ある。

 

しかし、そこで一線は引かなければならない。

 

国民に対して何を、いつ、どこまで、どのように公表するかを決めるのは、生態調査班の任務ではない。

それは政治の領分であり、政府及び司令部上層が負うべき責任である。

 

現場が担うべきなのは、結論を先取りすることではなく、判断のための材料を誇張なく、欠落なく、継続的に積み上げることだ。

現場が政治判断に踏み込み始めれば、報告書は資料ではなく意見書になる。そうなれば、せっかく積み上げた事実の重みまで疑われる。

貴官らの報告が重要であればあるほど、その線引きは厳密でなければならない。

 

誤解のないよう付言する。

司令部は、貴官の問題提起を軽視しているわけではない。むしろ、政治が将来向き合わざるを得ない論点を、現場がすでに掴んでいること自体は重要である。

だが、その判断を下す責任まで現場が負うべきではないし、負わせるべきでもない。

 

以上を踏まえ、本報告は今後の接触政策、安全管理方針及び情報保全方針を検討する上で有用な資料と認める。

引き続き、混合集落の長期観察、保護個体への医学的検査、出生例の追跡、捕食圏の把握、現地種族間関係の分析、並びに統一語の使用範囲及び成立背景の調査を継続せよ。

 

特地調査部隊 副司令

天野 透より。

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