異界にて、雄は資源と化す    作:Henon

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(描写的に)やべえよ…やべえよ…



間話
間話 攫われた男の苦難 その1


 

1日目、捕獲

 

気がつくと、俺は空を飛んでいた。

いや、正確には——飛ばされていた。

 

両腕を大型のハーピーに掴まれ、ぶら下げられる形で地上からかなりの高さを飛行している。眼下には山岳地帯の森林が広がり、ところどころ切り立った崖が見える。振りほどこうとしたが、鉤爪の力は強く、無理に抵抗すればこのまま落下する危険があった。

 

ハーピーは何度も俺を覗き込み、喉を鳴らしていた。まるで猫が甘えるような、低く響く音だった。

彼女は顔を近づけ、鼻先を動かしながら匂いを嗅ぐ仕草を繰り返す。さらに、頬を舐めるような動きも見せた。

 

他の個体も周囲を旋回しながら飛んでおり、時折「キュウ、キュー」と鳴き声を上げていた。彼女たちの間には何らかの音声によるコミュニケーションがあるのかもしれない。

 

およそ20分ほど飛行した後、彼女たちの巣と思われる場所に到着した。

そこは山岳地帯の断崖に位置する大きな岩棚で、地面には枝や羽毛が敷かれていた。風を防ぐためか、岩壁に沿って丸く配置されている。

 

俺を運んできた個体は慎重に地面へ降ろしたが、その直後、周囲を別の個体たちに取り囲まれた。

 

小柄な個体が、興味津々といった様子で近づいてくる。鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぎ、羽を広げて体を擦り寄せてきた。さらに、ズボンの裾を軽く噛み、引っ張るような行動も確認された。

 

一方で、大型個体は背後に回り、羽で体を包み込むようにして密着してきた。まるで巣に運んだ獲物を逃がさないようにするかのように。腕を動かそうとするたびに、彼女の爪がわずかに食い込み、無理に動けば危険だと本能的に理解させられる。

 

彼女たちにとって、俺は「捕まえた存在」であり、決して「客」ではない。

 

しばらくすると、大型個体が小動物の死骸を持ってきた。

それを俺の前に差し出し、じっと反応を伺っている。

 

これは……食べさせようとしているのか?

 

もちろん、その場で食べるわけにはいかない。様子を見ていると、彼女はしばらく待った後、「キュウ」と短く鳴き、自らそれを食べ始めた。まるで、「こうやって食べるんだ」と教えようとしているようだった。

 

ここまでの観察で、彼女たちの行動には何かしらの意図があるのは確実だ。

だが、それが何なのかはまだわからない。

 

————

 

巣に運ばれてから時間が過ぎ、夜になると彼女たちはさらに接触を強めてきた。

 

大型個体が俺の隣に座り、片方の翼で包み込むように抱き寄せる。密着することで体温を共有するつもりなのかもしれない。さらに、小柄な個体は膝の上に乗り、体を擦りつけるようにして落ち着いた。

 

…身動きが取れない。

 

彼女たちは今の所敵意を示していない。だが、それ以上に強い執着を見せている。

この執拗な接触は「ただの好奇心」ではない。

 

何か、目的がある。

 

それが何なのか、慎重に探る必要がある。

 

ーーーーーーーー

 

 

2日目、拘束と戯れ

 

朝、目を覚ますと、俺はまだ大型個体の羽に包まれていた。

体の熱がこもっていて、じんわりと汗が滲んでいる。

 

身動きを取ろうとしたが、彼女の腕と脚がしっかりと絡め取っていて、完全に拘束されていた。まるで、逃がさないという意思を示すように。

軽く身じろぎすると、大型個体が喉を鳴らした。低く響く音は、警戒なのか、それとも安心なのか——。

 

しかし、彼女は俺を離そうとはしなかった。

 

やがて、小型個体が起き上がり、俺の顔を覗き込んできた。

昨日と同じように鼻先を押し付けて匂いを嗅ぎ、小さく喉を鳴らしながら頬を舐める。

この行動には何か意味があるのか?それとも、ただの興味本位なのか?

 

今だに彼女達の真意をはかりかねている俺をよそに、小型個体は俺の腕を引っ張り、立ち上がるように促してきた。

その様子を見て、大型個体は渋々といった様子で羽をたたみ、俺を解放した。

 

だが、それは一時的なものだった。

 

大型個体はすぐに俺の背後に回り、肩に顎を乗せるような形で密着してくる。

まるで、俺の動きを常に把握しておきたいかのように——。

 

小型個体はさらに距離を詰め、俺の手を取り、指を弄び始めた。

一本一本じっくりと観察し、時折、こちらを見ながら甘噛みする。

 

——まるで反応を確かめるように。

 

しばらくすると、満足したのか、翼を広げて俺の腕に巻きつき、抱きつくような体勢になった。

そのまま体を擦りつけながら喉を鳴らし、小さく鳴く。

 

小型個体はまるで遊びのように、俺の服の裾や袖を軽く引っ張ったり、甘噛みを繰り返したりした。

時折、軽く飛び跳ねながら翼をバサバサと広げる。

——喜んでいる?

 

その姿はまるで、親に甘える子供のように思えた。

 

しかし——。

 

突然、大型個体が俺の腰を引き寄せ、低く唸った。

 

その瞬間、小型個体は驚いたように一歩引き、俺の腕を放した。

そして、大型個体は小型個体の顔に鼻を押し付け、深く息を吸い込む。

 

その後、大型個体は小型個体の頬を軽く甘噛みした。

それは威嚇とも違う、どこか優しげな行為だったが、小型個体は少し不満そうな声を上げて俺に再び寄ろうとした。

 

しかし、大型個体はそれを遮るように翼を広げた。

 

そして、俺の肩を掴み、後ろから包み込むように抱きしめる。

顔を近づけると、鼻先を俺の首筋に押し当て、深く息を吸い込む。

そして、まるで確認するように軽く甘噛みした——。

 

小型個体と戯れている間、大型個体は俺を観察するだけだった。

しかし、それが一定のラインを超えると、途端に「囲い込む」ような動きを見せる。

 

それがどういう意味なのか、まだはっきりとは分からないが……。

 

ーーーーーーーーー

 

3日目、帰還の足跡

 

目が覚めると、俺は再び大型個体の羽の中にいた。

昨夜も変わらず密着されたままだ。

この状況にはある程度慣れたとはいえ、自由を奪われている感覚は強く、息苦しさを覚える。

 

大型個体は俺が目を覚ましたことを察すると、喉を低く鳴らしながら顔を寄せてきた。

彼女の長い睫毛がかすかに震え、縦に割れた瞳孔が俺をじっと見つめる。

そして、例のごとく鼻先を首筋に押し付け、深く息を吸い込んだ。

 

さらに、軽く甘噛みするように歯を立てたかと思うと、今度は舌先で舐めるような動作をする。

昨日よりもさらに執着が強まっているように感じた。

その動きを追うように、小型個体もすぐに俺の側に寄ってきた。

彼女は俺の肩を引っ張りながら喉を鳴らし、肌の匂いを嗅いで小さく鳴き声を上げる。

 

そんな状況がしばらく続いた後、俺は彼女達に巣の外に連れ出された。

太陽はすでに昇り、温かい風が岩棚を吹き抜ける。

ここに来てから初めて、巣の外に出る許可が下りたらしい。

 

しかし、それはただの散歩ではなかった。

 

大型個体と小型個体は俺を挟むようにしてぴったりと寄り添い、

翼を俺の背に沿わせるような形で覆いかぶせていた。

まるで、俺が逃げないようにしているかのようだった。

 

しばらく歩いたところで、俺はふと空を見上げた。

何かが視界の端で光を反射した気がした。

 

その瞬間、聞き覚えのある電子音が風に紛れて聞こえた。

 

——ドローンだ。

 

救助が近い。

 

俺はすぐに気がついた。

特地調査隊が捜索のために派遣したドローンが、上空を旋回している。

 

高高度を飛行しているため、すぐにはハーピーたちにはまだ気づかれなかったようだが、

俺にははっきりとその人工的な動きが見えた。

 

この状況を本部が把握しているなら、救助は近い。

 

だが——その考えが顔に出たのかもしれない。

 

突然、大型個体が低く唸った。

彼女も空を見上げ、ドローンを感じ取ったのかもしれない。

 

次の瞬間、彼女は俺の肩を強引に抱き寄せ、首元を甘噛みした。

だが、今までとは違う。

 

明らかに力が強い。

 

軽く身を引こうとすると、さらに強く噛み込んできた。

 

それに続いて、小型個体も俺の腕に噛みつき、離さなかった。

痛みこそないが、まるで「ここから離れるな」と言わんばかりの圧力を感じる。

 

俺が「帰る」ことを感じ取ったのか?

 

俺は息を整え、冷静に考えた。

 

——この状況で無理に振りほどけば、逆に彼女たちを刺激する可能性がある。

 

——ドローンが俺の位置を特定できたのなら、救助部隊が来るのも時間の問題だ。

 

焦るな。

 

慎重に機を伺い、隙を見つけて行動しなければならない。

 

救助隊は、もうすぐそこまで迫っている。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

4日目 - 夜の出来事

 

 

昨夜のことだ。

 

巣の中で、俺はいつものように大型個体の羽に包まれていた。

この数日間、彼女たちの過剰な接触にはある程度慣れたものの、警戒心が完全に解けたわけではない。

 

相変わらず大型個体は俺を抱き寄せたまま眠っていた。

彼女の体温がじんわりと伝わり、規則的な寝息が聞こえてくる。

動こうとすると、彼女の脚と翼がしっかりと絡みつき、まるで逃がさないと言わんばかりだった。

 

そんな状況の中——微かな物音で目を覚ました。

 

暗がりの中、かすかな月光が巣を照らしていた。

そっと目を開けると、大型個体と小型個体が向かい合っていた。

 

珍しく夜遅くまで起きているなと思いつつ、彼女たちに目を向ける。

小型個体は仰向けになり、羽を軽く広げている。

その上に覆いかぶさるようにして、大型個体がじっと小型個体を見下ろしていた。

 

そして——

 

唇を重ねていた。

 

俺は一瞬、思考が止まった。

あれは単なるスキンシップなのか? それとも、それ以上の意味があるのか?

 

大型個体は小型個体の首を甘噛みし、鼻先を擦りつけながら喉を低く鳴らしていた。

小型個体は身を縮めながらも、それを受け入れている。

 

その様子は—— まるで男が女を支配するかのようだった。

 

しばらくそうした行為が続いた後、大型個体は小型個体の首筋に鼻を押し付け、ゆっくりと息を吸い込んだ。

そして、軽く舌を這わせるようにしながら、もう一度甘噛みする。

 

小型個体はかすかに鳴き声を漏らしたが、抵抗する素振りは見せなかった。

むしろ、それを受け入れるような態度だった。

 

まるで、恋人同士が刹那を交わしているように。

 

俺は目の前で繰り広げられた光景に驚きつつ昨日のことを思い出した。

 

—— 昨日、大型個体は俺と小型個体の接触を見ていた。

そして、俺が小型個体と触れ合うと、すぐに俺を後ろから抱きしめ、首筋に噛みついた。

まるで、自分の所有物を確認するように——それは独占を示す行動だったのではないか?

 

そして今夜、同じ行為を小型個体に対して行っている。

 

これは、大型個体が小型個体に対して「立場」を示しているのではないか?

「お前は私のものだ」と——。

 

 

俺は息を潜めながら、その光景をじっと観察した。

 

小型個体は完全に大型個体に従属しているように見える。

それならば、俺に対しても同じような扱いをしているということなのか?

 

これまでの行動を振り返ると、大型個体は明らかに俺を 「客」として扱ってはいなかった。

むしろ「囲い込む」ようにして接触を繰り返し、「逃がさない 」という意図を感じさせる行動の方が多かった。

 

そして今、俺が彼女たちの「関係性」を目にしたことで、

自分がどのような位置に置かれているのかはっきりと理解し始めた。

 

——これは、単なる保護ではない。

俺は彼女たちの社会に組み込まれようとしている。

 

自分の状況を理解した俺だったが、今は逃げ出せる状況ではないことは明白だった。

 

思考に区切りをつけた俺は、もう寝ようと思い、未だに身体を包んでいる羽に顔を埋め、目を閉じた。

 

その瞬間、荒い鼻息が近づいてくる気配を感じた。

 

「……っ」

 

目を開けなくても分かる。

ハーピーの大型個体がこちらを覗き込んでいるのだ。

 

次の瞬間、首筋に鋭い感触が走った。

 

——甘噛み。

 

「……っ」

 

小さな痛みがあったが、抵抗する気力はもうなかった。

日頃の疲れを溜め込んだ俺は、そのままゆっくりと意識を闇に沈ませた——。

 

 

朝、目を覚ますと、今まで俺を包み込んでいた大きな羽の持ち主は姿を消し、代わりに俺の腹の上に小柄なハーピーが密着するように寝ていた。

まだ微睡んでいる俺をよそに、小型個体は俺の首筋に顔を擦り付ける。

まるで大型個体の真似をして、俺の匂いを嗅ぎ、小さく「キュッ……」と鳴いた

 

その仕草に、俺は違和感を覚えた。

 

——この行動は、雌がするものなのか?

 

この小型個体の体つきは、これまで俺が見てきた雌個体と大差がなかった。

しなやかで柔らかく、丸みを帯びたフォルム。

腕も細く、肌も滑らかで、まるで女性的な体に見える。

 

—— だが、「何か」が違う。

 

昨夜の光景が脳裏をよぎる。

 

大型個体が小型個体に覆いかぶさり、首筋を甘噛みし、支配するように振る舞っていた。

この小型個体はその行為を受け入れていた。

 

俺はゆっくりと目を開き、まだ寝ぼけている小型個体を観察した。

顔立ちはどこか幼さが残るが、可愛らしい女性にしか見えない。

 

—— だが、違うのではないか?

 

「…すまん!」

 

何かが引っかかる。

俺はその違和感を確かめるために、そっと手を伸ばし、小型個体の体に触れてみた。

柔らかい腹部をゆっくりと撫でると、ハーピーはくすぐったそうに喉を鳴らし、小さく身じろぎする。

 

「キュッ……?」

 

小さな声が漏れ、彼女?は目を細めながら俺に体を預けてきた。

…まるで甘えるように。

 

—— だが、その瞬間。

 

俺の指先が、明らかに「雌には存在しないもの」に触れた。

 

「……っ!」

 

小型個体はビクリと震え、突然体を強張らせた。

驚いたように俺を見つめたかと思うと、頬を赤らめ、小さく「キュウ……」と鳴く。

 

そして——

 

俺の身体にぎゅっと身を寄せ、頬を擦り付けてきた。

 

「……おいおい」

 

あまりにも女性的な反応に俺は息をのんだ。

動揺して身体を離そうとすると、小型個体は俺の手を掴み、指を追うように甘噛みし、喉を鳴らす。

 

—— いや、これは……。

 

ようやく俺は事実を理解した。

 

小型個体は「雄」だったのだ。

 

昨夜の光景が、頭の中で繋がる。

大型個体は小型個体を「つがい」として扱い、従わせていた。

それは、単なるスキンシップではない。

 

「……そういうことか」

 

俺は確信する。

 

ハーピーの雄は、雌とほぼ同じ身体的特徴を持っている。

見た目だけでは雌と区別がつかず、むしろ「受け入れる側」として育てられているのではないか?

 

それなら、俺は——?

 

この数日間、大型個体の接触は単なる縄張り意識などの行為ではなかった。

それは、自分のものとして確保しようとする行動だったのではないか?

 

「……っ」

 

考えれば考えるほど、寒気がした。

俺はただの「捕虜」ではなく、彼女たちにとって異なる存在として認識されている可能性がある。

 

小型個体は、まだ甘えた声を漏らしながら俺の手を弄んでいる。

尚も自身の身体に引っ付く可愛げな「雄」を見ながら俺は考える。

 

—— 俺は、ここから抜け出せるのか?





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