連邦生徒会をぶっ壊ァす   作:つくよん

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のるなヒナ! 戻れ!

 

 

 

 ゲヘナ辺境区。

 風紀委員会を巻き切ったワカモは、臨時のために共有している合流地点へ足を運んでいた。

 

「……っ」

 

 積み重なる連戦が尾を引いたのか、敵の気配が消えた途端に息を吐く。

 

「流石はゲヘナの治安組織といったところでしょうか」

 

 "あの"ゲヘナの、そう強調を施されることは数多い。

 各学園に統制された組織は必ずしもと言っていいくらい存在するが、ゲヘナに関しては他の通髄を許さないほどの『慣れ』があった。

 

 師匠の教えに加え、ワカモ自身の才覚。さらに地の利があったからこそ、手玉に取るほどの余裕さはあったが。

 

「逃げるのがもう少し遅れていれば……」

 

 体制を整えられ、追い込み漁の如く縄に掛けられていただろうと、ワカモは己の経験値不足は否めないでいた。

 

「それよりも、お師匠様が言っていた場所は──」

 

「……お師匠様」

 

 思考を切り替え、自らのスマホで地図アプリを開くが、記憶の隅で己が師匠の顔が頭を過ぎる。

 

 ──今の風紀委員会は決して弱くはなかった。

 

 実際に相手をしてワカモはそう評価した。評価自体の整合性は彼女が抱える疲労感が物語っている。

 完全にワカモの領域(テリトリー)で戦っていたというのに、彼女を疲れさせるにまで善戦したことは、ワカモ自身も称賛せざるを得ない。

 

 ──ならお師匠様が相手をなさっている『彼女』は? 

 

 だからこそ、と。自らの懸念点が深まっていく。

 

「……空崎ヒナ」

 

 ワカモは以前にも、その名を口にしていた。

 

 

『そうそう、空崎ヒナ。ゲヘナ(ここ)で活動するなら彼女の顔と名前は覚えておいたほうがいい。私より強いから』

 

 2人の師弟関係が慣れ始めた頃。

 あまり世間知識に関心がなかったワカモに、それだけは真っ先に伝えておこうと彼女は語り始める。

 

『私トリニティ出身なんだけど、あそこってゲヘナと仲悪いからいろんな噂が飛び交うんだよね。ちなみに10割悪口』

 

『そこまで酷いのですか……?』

 

『最悪だよ。なんたってあそこの二校で相互差別してるからね。ツノが気持ち悪いとか、生理的に無理とか、野蛮すぎて見てられないとか色々……』

 

『あ、えーと……そう噂ね』

 

 熱くなった口数を抑え、彼女は自らの前髪を弄る。

 これは話を戻す時ものだと、ワカモは耳を傾けながら微笑む。それは弟子入りをしてから、ワカモが発見した癖の1つだった。

 

『その罵詈雑言の中にね、興味深いものがあったんだよ。それが──』

 

 ──2年後の風紀委員長がもう決まったらしい。

 

 ワカモはその文面を理解するのに時間がかかった。そしてその意味を理解してもなお、その噂について疑問が残る。

 

『それが空崎ヒナが強いとされる理由……それくらいならお師匠様でも……』

 

『それは買いかぶりすぎだよ。他にも風紀委員の先輩たちに勝ったという噂もあるけど、あの時の私にはできそうにないしね』

 

 この生活が始まってから、ワカモは時々違和感を覚えていた。

 己が師匠の語るその佇まいは、常日頃から自信と余裕に溢れてはいるが、ある特定の人物の話になると途端に謙虚になる。

 自らの実力を正確に把握しているからか。だとしても過小評価が過ぎるのでないかと、ワカモはそう勘繰り口を開く。

 

『申し訳ありません。この愚鈍には具体的に風紀委員会がどれほどの強者(つわもの)たちか知りえませんので……』

 

『うーん』と、手の甲を口に当てる。これもワカモが知りうる癖の1つだ。

 

『ワカモは私のこと強いと思ってるんだよね?』

 

「もちろんでございます」

 

『じゃあさ、私は過去に2度、手も足も出ずに敗北しているんだけど』

 

『1人は雑魚だった私を、もう1人は少し強くなった愚かな私を、それぞれボコボコにしている。後者がヒナだよ』

 

 

 

 

 出来れば思い出したくなかった最悪の回想。

 ワカモは己の記憶力に悪態を吐きながら、約束の場所へと足を急げる。

 

 既に賽は投げられた。ワカモ自身にできることはただ信じて待つことのみ。

 

「あぁ、お師匠様お師匠さまぁ……!」

 

『そんなことは分かっていますっ!』と。

『心配なものは心配』なのだと。ワカモは胸を押さえる。

 

 ──お師匠様は過去、空崎ヒナに敗北している。

 

 その事実が胸の渦を大きくさせていた。それに初めて出会えた理解者が矯正局に連行されるなど考えたくもない。

 まぁそうなったら助けに行けば解決する話ではあるのだが。

 

「大丈夫なのでしょうか……」

 

『──大丈夫大丈夫、師匠を信じて』

 

 溢れ出る記憶の奔流(ほんりゅう)の中で、少し前に聞いた声が頭に響く。

 目的も思惑も何ひとつ明かさない(本人は隠す気はない)人だが、それでも絶対といえる事柄が存在していた。

 

 ──あの人は私に嘘をつかない。

 

 己が師匠の身を案じながら、されど信頼だけは硬く、ワカモは祈りを込めて呟く。

 

「お師匠様……」

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 空崎ヒナの目が開いた。

 未だ聴力に不調が残る耳だが、これくらいなら追うことできると辺りを見渡す。

 不良生徒は消えていた。十中八九目眩(スタン)状態の隙を見て、この場から去ったと見るべきだろう。

 その証拠に……。

 

『あーテステス、はろーヒナ。さっきは良い負けっぷりだったね?』

 

 煽り全開の文言が機械音で流されていた。

 

「あのスピーカーね」

 

 少し視線を上げた先から、その声は響いている。『随分とうざすぎる(手の込んだ)ことをする』と、彼女は照準をその音声機器に合わせ──

 

『もしかして壊そうとしてる? やめといた方がいいよ。私如き捕まえられない可哀想なヒナちゃんにヒントをあげるから』

 

 トリガーに触れる指が震える。だがギリギリのところでヒナは耐えきった。この弾丸(憤り)を機械ではなく、本人にぶつけるために、彼女は眼光を鋭くして続きを待つ。

 

『……我慢して偉いね。ご褒美に逃げた方向を教えてあげよう』

 

『ちなみに何故教えるのかって思うかもしれないけど、私の弟子が逃げ切るために君を誘き寄せないとっていう簡単な理由があるだけだから安心してね。というかここまで教えてあげる私って優しくない?』

 

「言いたいことがあるなら早く言いなさい」

 

 プツンと血管が割れる音を感じながら、ヒナは握り潰す勢いでなんとか怒りを抑えた。

 

『あとこれ、私の声の一方通行だから、君の声は聞こえないんだ。あ、お馬鹿なヒナちゃんにはもう遅いか、ごめんね?』

 

殺す。こいつは殺さないとだめだ。

 生まれて初めて本心から叫んだ殺意。再度デストロイヤーのトリガーに指が掛かる。

 もういい。ここら一帯を全て破壊すれば探す手間も省ける。そう思い、弾ける心を露わにしようと──。

 

『右だよ右。前に3つ通路があるでしょ? 頑張って追ってきてね』

 

 ヒナは全速力で走り出した。

 前方にそれぞれ真ん中と左右に通路が見える。

 彼女を捻り潰すならなるべく早くしなくては。でなければ自身の無差別攻撃が全てを襲いかねないと、ヒナは右方向に舵を切り──

 

「違う違う違う違う」

 

 自らの理性が下した停止信号に従い、ヒナは足が折れんばかりに急ブレーキを入れた。

 

 ──絶対に違うっ! バカか私は! あいつの口車に乗ってどうする!? 

 

 あの憎き女狐がどこから来たか。それはおそらく彼女の拠点があるであろう左から。

 普通なら自らの拠点に向かって逃げるのでは。そもそもの話、ここまで怒りを煽られたのも私の判断力を鈍らせるためなら、彼女のヒントに信憑性はない。

 自分の勘に従うなら左。

 あの犯罪者の弟子愛を信じるなら右。

 

 ──いやそもそも弟子ってなに? 

 

 弟子がいるなんて報告はヒナの耳に入っていない。

 前に戦った時にも、そんな者がいるようには思えなかった。ならばここ最近で出来た関係?

 敵は2人いる? けどあの者たちの情報(・・・・・・・・)には複数犯だとは一言も……。

 まさか同一人物だと見せかけていた? 身に付けていた百鬼夜行の面はまさか。

 

 さらに増える情報量。

 ヒナの思考が急速に回転していく。

 今の彼女なら、宇宙の端から端までを秒で往復するほどの速さで、脳内の電子を動かせるだろう。

 

 そしてその際に決定される2択。

 右か左。

 

 ヒナの前頭前野は告げる。

 

 テロリストの発言など信じるに値するか。

 否である。

 

 だがあの騙し狐がその裏をかかずに、安直すぎる嘘の手法を取るか。

 否である。

 

 ならば──

 

「裏の裏ね」

 

 どちらでもない3択目(真ん中)

 2択に狭められた視野を、ヒナは冷静さと共に取り戻す。それは決してやぶれかぶれでも、考えすぎということもなく。あのクソカス(ペテン師)なら思いつくだろう、称賛と信頼を兼ねて。

 

 ──お願い神様。絶対に殺すので見つけさせてください。

 

 ヒナはそう祈りながら走り出した。

 

 

 






トリカスの噂のくだりは妄想。
けど絶対陰口は言ってるという信頼はある。
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