連邦生徒会をぶっ壊ァす   作:つくよん

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アウトローではない。テロリストだ。

 

 

 

 

 足音が聞こえる。それは一定の間隔を維持しながら、徐々に遠くなっていく。

 おそらくヒナが走り去ったのだろう。

 

 私は(・・)音が聞こえなくなるのを待ってから、物陰から顔を出した。

 

「うん、確かに思いついた。正解だよ、ヒナ」

 

 挑発で怒りを煽って騙す。それを見越される上で逆に誘導する。それすらも気付かれた場合、結局は2択の博打に陥る。だからこそ真ん中に逃げる安全性が目立つ。私でもその可能性を考慮するだろう。

 

 ──だけどまだまだ足りてないね。視野も思慮も。

 小細工は重ねてこそだ。それはペテンも同じく。

 

 そもそもの前提、私が既にこの場から去り、逃げているだろうという勘違いから始まり、その逃亡を強調するためにヒントを与える。

 そしてヒナが気づいた3択から2択に誤認させるという罠……それが私の"作戦"だと思わせるためにわざわざ3つのルートがあるこの場所を選んだ。

 よってヒナの思考、その全ては空回りしたどころか、無駄に終わったに飽き足らず。

 右か左かという、思考の開始地点がそもそも間違っていたということだ。

 

「私はすぐそばにいたよ。惜しかったね」

 

 これでヒナが追いかけた場所も割り出せた。あとは彼女と逆方向に逃げればいい(・・・・・・・・・・・・・)

 幸いなことにヒナが向かった逆側は、ヒナが現れた場所……つまりは風紀委員会が来た所だ。まさか空崎ヒナを通り抜けて、自分たちが向かっている方向と逆に逃げているなんて思いつくはずがない。

 それに十分時間も稼げたし、ワカモの心配は不要だろう。今頃はこの廃墟街を抜けているところか。

 

「我ながら腹立つ思考回路してるなぁ」

 

 ──それにしても、だ。

 

「気づいてるよ」

 

「えっ!?」

 

 私が視線を送った先、先程から壁の角で見え隠れしているツノが、分かりやすい動揺を持って震える。

 先程というのはヒナとの戦闘の前のことを指すのだが。

 まさか私たちを売ったやつじゃ……。

 

「ごめんなさい! 何も見てないから!」

 

「それは何かを見てしまった人のセリフだね」

 

 ──あ、絶対こいつじゃない……。

 なんか明らかな真面目属性眼鏡ちゃんが出てきた。

 あまりにこの場所とは不釣り合いと言わざる得ない人柄。もちろんいい意味でね。

 

「ほんとよ? ほんとに何も……」

 

 恐る恐る姿を見せたのは、おそらくゲヘナの生徒。

『おそらく』というのはイメージした学風にそぐわない印象の持ち主だからなのだが、制服に飾られている紋章を見てすぐに確信へと変わる。

 

「というかなんでここに? ここは君みたいな真面目な子が来る場所じゃないよ眼鏡ちゃん」

 

「真面目な子……眼鏡ちゃん……」

 

 初対面での気安い呼び方が気に触ったのか、あるいは他の理由があるのか、悪魔っ子少女は不服そうに私の言葉を復唱する。

 こんなの目を見れば……いやそもそも雰囲気からして分かるのだが、絶対に不良生徒と関わりなんてないだろうと思わせるほどの清楚っぷり。

 しかも八二分けかな? ……前髪の止め方がそこらのガリ勉生徒でもなかなか見ることは出来ない代物だ。

 

「実はここまで来るつもりはなかったのだけれど、いつの間にか迷ってしまって……さっきから砲撃音もずっと聞こえてるし、ここから出たくても動けなくて……」

 

 うん、100パーセントこの世界の人間じゃないね。

 ほな解散!

 

「それは運がなかったね。ここそういう場所だから」

 

 ワカモですら最初の頃は迷子になったしね。

 こんな奥底まで来れるなんて偶然にしては出来すぎだけど、気にしないで助けてあげようか。

 そう思い、私は純粋なる良心を元に手を差し出す。

 

「なら私もここから出るから一緒に……」

 

「そ、それよりも!あなたあの空崎ヒナに対して、あんな子供をあしらうかのように……っ!」

 

 うん? 流れ変わったね。

 連れ出して終わりじゃない? もしかしてこのイベントまだ続く?

 

「やっぱり見てたんだ」

 

「しっかりとこの目に焼き付けたわ! ゲヘナ最強を相手にずっと主導権を握ってて……それにあの侮辱すら生ぬるいほど苛立つ言葉の数々!」

 

 びっくりするほど見てんじゃねぇか。なんてツッコミは一旦置いといて。

 一応は賞賛されているのだろうか。後半に関しては褒める部分とは微塵も思えないが。

 というかヒナってゲヘナ内部では既に最強扱いなんだ?

 

「もしかしてとは思ったのだけど……あなたやっぱり……」

 

 悪魔種族らしからぬ魂の持ち主、そのキラキラとした眩い瞳が、何かに勘づいたかのように揺れる。

 おっとこれは、もしかして私の名が既に広まっていたり?

 まぁ最近はゲヘナで活動していたし? 在校生なら私の存在くらい風の噂で聞いているのでは?

 

「やっぱり?」

 

 私は期待の念を舌に乗せて問い返した。

 十分にそれは有り得るだろう。

 ついにここまできたかと。

 自分で言うのも恥ずかしいが、私は全力のドヤ顔を準備して耳を傾ける。

 

 ──そう、私こそが近年ゲヘナ風紀委員をイラつかせている主犯にして、至高の破壊主義者(テロリスト)である──

 

「裏社会で有名なアウトローだったりするのかしら!?」

 

 テロリストである……テロリ──なんて?

 

「あうとろー?」

 

「そう、あなたの素晴らしすぎる言動と手腕。悪名高きアウトローに違いないわ!」

 

 彼女の言葉に目をパチパチさせる私。期待により熱を帯びた頭が急激に冷えていくのを感じる。

 

 いやまぁ知ってたけどね?

 さすがに少し暴れたくらいでゲヘナ生全員に知れ渡るなんて思っていないよ。

 ちょっとは期待してたのは認める。けどあからさまなフラグを建てたことは記憶の隅で消しておこう。

 それで? 私は今何と間違えられてる?

 

「あうとろー、アウトロー? あぁ、悪党(アウトロー)か。間違ってはない……のかな? いやでもなんだろう響きが……得心ゆかぬ……」

 

 まぁ似てるといったら似てるのだが。

 根本的に追い求めるものが違う故、ちゃんと否定しておこうか。

 

「いや、私はアウトローじゃなくテロ」

 

「私実は立派なアウトローになりたくて……」

 

「人の話聞こうか」

 

 できることなら認識の齟齬を改めたいというか。

 そもアウトローになる以前に人の話をちゃんと聞くところから──ん、ちょっと待て、今なんて言った?

 

「成るって……なにに?」

 

 そう呟いた私に。

 瞳を爛々と輝かせて、目の前のゲヘナ生徒が黄色い声で答える。

 

「アウトローに!」

 

 嘘でしょ。

 

「……マジ?」

 

「大真面目よ!」

 

 ──いや無理だって、才能とかそういう次元(レベル)じゃなくて頭の構造的に悪行の機能が付いてないよ多分。

 もう良い人オーラが凄いんだから。そういう星の下で生まれてきたのかってくらい向いてないと思うけど。

 

「だがら先輩であるあなたにお願いがあって……」

 

「先輩やめようね? 違うから。まず私アウトローじゃなくて」

 

「私が立ち上げる会社の社員になってほしいの!」

 

 指摘も虚しく遮られ、ゲヘナ生徒は私の両手を握る。

 私は答えられないでいた。

 頭が飛びそうだ。

 

「もちろん無理を承知なのは分かっているわ。あなたは実力も経験値も私より上だろうし、こんなひよっこの下につくのには抵抗があるでしょうけど……」

 

 全然分かってないですね。

 半目で黙り込む私に、彼女は必死の表情でスカウトを続ける。

 

「必ず大きく(ビッグ)になって悪い思いはさせないから! だからお願いよ!」

 

「……」

 

 なんなのこの子。まずなんで相反する属性が両立してるの?

 アニメや漫画によくある『かなり悪党よりだけど実は良い人でした』ならまだ分かるできるが、『すごく良い人けど実は悪党目指してます』は読者も困惑ものだ。矛盾した人柄の成立なんて混合機(ミキサー)に入れても不可能だろう。

 

「やっぱりダメ……?」

 

 少し悲しそうな顔がうるうると目を輝かせる。まるで餌を要求する子犬のような可愛らしさがそこにはあった。

 

 ──ふーむ、アウトロー会社の社員ね……悪くはない。いや別に可愛い顔に釣られたわけじゃないよ? 冷静になって考えれば楽しそうだし、なによりこの子自体は信頼できる。

 

 別にやってもいい。

 

 そう『昔の私』なら答えただろう。

 今の私にはワカモという愛弟子がいる。それにまだ目的も成就してないどころか、スタート地点にすら立ってないのだ。

 

 ──申し訳ないが。

 

「と、答える前に」

 

「保護者なら場を整えるべきじゃない? もう1人の君」

 

「えっ!?」

 

 自称アウトロー志望が驚きながら振り返る。

『バレてるじゃない!』とでも言いたげな表情で。

 そこは私がずっと目を付けていた場所だった。

 

 ──この子ほんとに分かりやすいな……。

 

 私もその方向に目を向ける。

 先程彼女が隠れていた場所とは少し離れた物陰から、ひょこっと予想より小さい子が飛び出す。

 

「保護者ってわけじゃないけどね♪ 気づいてたんだ?」

 

「最初から2人いたことくらいは」

 

 どうやら私の探知力を侮っていたらしい。まぁ無理もないか、キヴォトス人でこの手の技術が優れている者はそういない。ましてや私のような不良生徒には。

 

「私ムツキ。この子の幼なじみでぇ、未来の社員さんでもあるよ♪」

 

『くふふ』とムツキは愉快そうに笑みを浮かべながら、隣の幼なじみの腕に抱きつく。

 陽キャ、いたずらっ子、悪魔娘(メスガキ)、それらの印象を彷彿とさせる少女が、私の瞳を覗き見る。

 視線が交差した。

 

 ──なるほどね。面白そうなことには目がないタイプか。

 

「先程の演目(ショー)は君のお眼鏡にかなうものだったかな?」

 

「……へぇ」

 

 ニヤっとムツキの口元がさらに歪む。

 ヒナとの戦闘をどこまで見ていたかは不明だが、見世物としてなら退屈はさせなかっただろう。

 

「とても面白かったよ。あのゲヘナ最強にあそこまで善戦したのも凄かったし、なによりあのヒントの出し方がね♪」

 

 ムツキの指が指す方向には、私が以前取り付けたスピーカー機器が置いてある。

 どうやら私の小細工はお気に召されたらしい。

 

 まるでタネが割れたマジシャンのような気持ちで、私は自分の策略(トリック)を思い返した。

 スピーカーで声を届けるには、当然本人が実際に喋る必要がある。

 ならどうして近くに隠れている私に、ヒナは気づくことができなかったのか。

 答えは単純かつ簡単だ。

 

「あの声、録音したやつでしょ?」

 

「さっきから砲撃音も鳴り止まないけど、あの音声からは全く雑音も聞こえなかったし♪ 結構危ない橋を渡ったもんだね?」

 

 正直に言えば、この策はほぼ賭けみたいなものだった。

 ヒナの心理的思考力も把握し、彼女の理性も削いだ上で、作戦が通用するかどうかは良くて50%(五分)

 ヒナが4つ目の選択に辿り着く可能性も十分にあった。

 なんならそれまでの戦闘(下準備)で下手を打っていれば、今頃はヒナに髪を引っ張られている頃合いかって程に。

 

 ギリギリだった。

 まぁ今私の実力じゃ、あの理不尽相手にはこれが限度ってことかな。

 

「じゃ、じゃあ、ヒナがここに来ることも見越して……しかもあの言葉の数々も、全てが布石だったってこと? なによそれ凄すぎるじゃない!」

 

 だが一部始終の観戦者たちは、あれが快挙のように思えたらしい。

 まぁ予め用意した穴だらけな策も、見た目成功していれば、全て的確に計算したものに見えるのだろう。

 

 正直録音に関しては何パターンか用意してはいたが、ここに来るとしたらヒナだろうという予測はついていた。

 あの子重そうな銃持ってるわりには速いからね。

 電車で逃げても追いついてくるんじゃないかな?

 

「やっぱりあなたという人材を見逃すわけにはいかないようね。意地でも私たちの会社に入ってもらうわ!」

 

 ムッと何か決心した表情を見せてくる社長さん。

 獲物を捕らえようとする狩人のような……にしては些か可愛いすぎるような気もするが。どうやら逃がしてはくれないらしい。

 

 ──ムツキを利用して話を逸らしてはみたが逆効果だったかな。

 どうしたものかね。

 

「長い付き合いだから分かるんだけど、こうなったら止まらないよ? 」

 

 ニヤニヤと愉しそうに小悪魔が耳打ちをする。諦めが悪そうなのは私も薄々と感じていたが、普通に断ろうとすると苦労しそうだ。

 

「うーん。そうだなぁ」

 

 私はこれでもかと悩む素振りを強調しながら、考えるフリ(・・)を続ける。

 実のところ少し前に妙案が1つ浮かんでいる。

 ただ少し大人気ないなと、良心がチクッとする感覚を味わいながら、私は口を開いた。

 

「条件を1つ提示しよう。それをクリア出来たら私から就職してもいい」

 

「ほんとう!?」

 

 パァっと明るくなる表情。

 私はその笑顔に幼子が喜ぶ姿を連想してしまった。

 

 ──悪党を目指すやつの姿か? これが?

 お隣のご友人笑ってますけど。

 

「あ、でも資金は今のところ目星が付いてなくて……少し時間が必要かも……」

 

「大丈夫大丈夫お金じゃないから」

 

 おかしいな。今会社作るのに事業資金が無いって言った? 融資も募金活動(クラファン)も頼らず?

 もしかしてアウトローってそこからなの? かなーり最序盤の段階で一般生徒の枠を逸脱しようとしてる?

 まずどんな会社かすら聞いてなかったけど、概ね傭兵ビジネスとか何でも屋みたいな幅広い事業でしょ。この子そういうの好きそうだし。

 

 ──ならまぁ、私の言う『条件』も君なら気に入って火がついてくれそうだね?

 

「名声」

 

「名声?」

 

「そう、それが私の条件」

 

 いまいちピンとこない顔だ。

 ムツキはその愉快そうな表情を崩さないが、私の言いたいことは察したのだろう。彼女から質問が飛んでくる気配はない。

 

「それって……」

 

「君たちの悪名がキヴォトスの広まり、その代表たる会社名が私の耳に入ってきたのなら、私自ら事務所の扉を叩きに行こう」

 

「君は私がいれば(・・・・・)会社が大きくなると言ったね? 本当にそんなのでいいのかな? 君の言うアウトロー(悪徳主義)とやらは」

 

「つまり……あなたを雇ってビッグになるんじゃなくて……先に私たちが強くなってから──いえ、あなたの実力に見合う会社になることが条件ってことね……」

 

 そう思考を整理させて考える姿、そしてその佇まいは意外と様になっていた。

 

「私たちを見定めるってこと?」

 

「勝手ながらね」

 

 ここでムツキが口を挟む。

 この子もこの子で友人の会話から間を見計らっていたりと、かなり頭の切れる印象を抱かせる。

 こういう子は相手にすると厄介なんだよねー。

 

 というかかなり上から目線で突き出してはいるけど、君たちがどれほど凄い組織なったところでどうでもいいし、私のこと過剰評価してはいるそうなので上手く使わせてもらったが、実力は特に関係ない。

 

 全部思いつきで言っているだけだ。

 これでどう出るか。

 

「ふふ、私たちを……随分と大きく出たわね」

 

「不服かな?」

 

 当の取引相手は、先程とは違って不気味な笑みを漂わせる。

 眼鏡の奥にある彼女の双眸から、炎が燃え上がっているのを私は見た。

 

「……いいえ、実にアウトローらしい条件だわ。それでいきましょう! 」

 

 よーし。

 やっぱこういう『っぽいもの』には燃えるよね。熱くなってくれて助かるよ。

 どうやら私の予測は大当たりだったようだ。

 

「それじゃ、そういうことで」

 

 私はゲヘナ生の傍まで近づき、ポンっと彼女の肩を叩く。突然の接触に少し驚いたのか、動きに若干のぎこちなさを混ぜながら、アルの視線が私の瞳を追う。

 

「期待しているよ、眼鏡ちゃ──いや、陸八魔アル。次会うときはブラックマーケットかもね」

 

『えぇ』と短く返すアル。本人はクールさを意識したようだが、言い直した私の名前呼びに嬉しさ隠しきれていないようだ。

 

 ムツキも特に反応を示さなかったので、私はそのままアルの横を通り過ぎる。彼女たちは私を呼び止めたりはしなかった。

 そしてヒナが作ったクレーターを踏みつけて思う。

 

 ──まったく、本当に向いてないと思うけどなぁ君。

 少しは疑うことを覚えなさい。

 

 私は困惑を通り越して呆れを感じながら、やっとの思いでその場を後にした。

 だいぶ時間は取られたけど、未だ風紀委員会がこちらに迫ってくる気配はない。ヒナが失敗したことで諦めたか、それともワカモの破壊工作に蹂躙されたか。

 

 どちらにせよあの子のことだから私のことを心配しているだろう。早く帰ってあげなければ。

 

 私は少し急ぎながらも、今日の収穫品をじっくりと眺めていた。

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

「ふふっ……。私も立派なアウトローになれば……今日は良い日になったわね! ムツキっ」

 

 未来への期待に心を踊らせるアル。

 ムツキは満足そうな彼女に笑みを見せるが。

 

「それよりアルちゃん良かったの?」

 

 アルの頭の上に『?』が浮かぶ。なんのことかさっぱりといった顔だ。

 ムツキは彼女のことを思ってか否か、いや純粋にアルの反応が見たいのだろう。ニヤりとした笑みを崩さずに真相を紡ぐ。

 

「あの人が言った条件は私たち名声が広まることだよね? それであの人は会社名が自分の耳に入ったらって言ってたわけだけど……」

 

「えぇ、だから……」

 

「私たち会社名言ってないよね? というかまだ決まってすらないよ」

 

 アルの顔が固まった。

 瞳だけパチパチと開閉させながら。

 

 ムツキは最初から気付いていた。だが敢えて指摘はしなかった。

 それは何故か。単にあの不良生徒が信じきれないのも1つだが、本命の理由は……

 

(くふふ、アルちゃんの面白い顔♪)

 

 一方アルは驚きと悔しさを隠しきれないでいた。

 

(騙された!)

 

 確かにあの人は私たちの名声とは行ったけど、肝心なことについてはしっかりと指定していた。『代表たる会社名』なんてわざわざ強調して。

 なんて立派なアウトローなの!

 

 アルは己の教訓と共に奥歯を噛み締める。

 当の本人がまだいれば『騙したなんて酷いな〜君たちの落ち度でしょ』と減らず口を叩くところだが、幸いなことにヒナの二の舞になることはなかった。

 

 だがそれでも悔しさを拭えないようで、アルの表情は固い。

 

「まぁまぁ、もう諦めようアルちゃん。他にも目をつけてる人はもう1人いるし……」

 

「68……」

 

「えっ?」

 

 ぼそりと呟いたアルの英数字。ムツキの困惑をも無視して、アルはそのまま拳を握り──

 

「会社名は便利屋68よ! 」

 

 まるで負けてられないわ、と言いたげな表情で、アルは決心を顕にそう宣言した。

 突然の表明にムツキは考える。

 

(なるほどね。陸八(・・)魔の……)

 

「確かにあの人、私たちの名前は知っているだろうし、そこから連想できる会社名なら、ギリギリ条件達成としてはセーフかな?」

 

「そうよ! 元々会社名はずっと決まらなかったし、我ながら完璧な名案だわ!」

 

 そう言うアルの表情は、何か勝ち誇ったように感じられた。面白いところもそうだが、こういった思い切りの良さもムツキが彼女を慕う理由の1つだ。

 それにこれなら、先程の詐欺紛いの理屈も何とか押し通せるかもしれない。

 

(まぁあの人が私たちの名前を覚えてくれていたらだけど……ん?)

 

 そこでムツキは何かに気づく。

 少し前から違和感はあった。何か引っかかるもの、それがアルの思いつきによって点から線に繋がる。

 

「私は自己紹介したけど、アルちゃんって自分の名前言ってたっけ?」

 

 先に核心をついたムツキの疑問。アルもそれを聞いて思い至る。彼女に見つかってしまい勢いで飛び出してから今まで、ただ1度も名乗っていないアル(自分)の名前を、あの女生徒は確かに呼び直していた。

 

『期待してるよ。眼鏡ちゃ……いや、陸八魔アル──』

 

「そういえば私まだ……途中まで眼鏡ちゃんってからかわれてたし、なんで……」

 

 アルの様子からして、自分の疑念は間違っていない──

 そう理解して、ムツキは先程の記憶を掘り出し、その光景を細部まで思い出す。

 不良生徒が陸八魔アルと呼び方を言い直した瞬間、特に気にとめなかったが、今思えば不自然な動作が交えてあったこと。

 

 手の動きはムツキからは見えない位置。いや恐らく見えないように立ち位置を選んで……

 

「っ! ……やられたね」

 

 いつもの悪戯をする時のようなものではなく、獰猛さを感じさせる笑みに顔を歪ませながら、ムツキは口を開く。

 

「アルちゃん多分だけど……学生証盗まれてるよ」

 

『えっ』と小さい声を漏らすアル。まさかそんなわけないと曖昧な自信で自らの身体を探って確かめるが……次第に彼女の顔色が青くなっていく。

 

 そして──

 

「ななな、なっ、何っ──」

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 

 

ですってええ──

 

ぇぇ──

 

 木霊する声が私の耳に届く。

 ──今気づいたんだ、思ったより早いね。

 

 廃墟街を抜ける。街中は光が通りにくいので分からなかったが、夕陽は既に沈みかけていた。

 夕暮れに照らされた学生証を掲げながら、私は考える。

 

「さーて、どう使おうか」

 

「身分の偽装……いや、何かあった時の保険……うん、これだね。適当に濡れ衣でも着せようかな」

 

 ──ワカモの変装技術を用いれば、上手く作用はできるだろう。

 それに彼女のアウトローになりたいという願望を手伝ってあげるんだから、私も人が良すぎるってものだ。

 

「実践は初めてだけど、案外上手くいくものだね」

 

 元々戦闘時のために身につけた窃盗技術。その成功と自らの成長に酔いしれながら、私は沈みゆく太陽を追いかけた。

 合流地点にはまだ遠いので、到着するまでの猶予時間を思考に費やす。

 

 ──ゲヘナでの活動はもう無理だ。よりによって1番重要な拠点が潰された。

 

 今日までに幾度もなく拠点を破壊され転々としてきたが、今回の損害は再起不能の痛手だ。ワカモの目前には余裕を保ったが、流石に笑いでは済まされない。

 

 それにヒナは私を潰すために躍起になる可能性がある。私欲で委員会業務を疎かにするとは思えないが、自由の学園ゲヘナはその校風に反して私に鎖を掛けにくるだろう。

 

 前より動きずらくなったのは明白。

確かに損失は絶大。笑えるはずもないが。

それはそれとして。

 

「半年間楽しかったよ。風紀委員会」

 

 

 次はどこにしようかな。

 

遠足に行く前日の子供のように。

私は明日を楽しみに、その足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっ。結局彼女たち置いてきちゃった。

まぁいいか。

 

 





その日のヒナに近づく人は誰もいなかったらしい。
そして案の定アルたちは数日間彷徨うことになりましたとさ。めでたしめでたし。
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