ーーアルケミ大陸 北西部 ヨア山の麓、帰らずの森ーー
(オルフェ、酷く傷ついた姿で現れる)
《おや、ごきげんよう!友よ》
(ウアス、傷だらけのオルフェに驚く)
【うわっ……!?お、オルフェ!?どうしたの!?】
(オルフェ、一歩進むごとに暗い血溜まりを足元に作りながら、ウアスに友好的に近づく)
《なぁに……飛んでいる間にうっかり滑って転んだだけだ。大したこと、ではーー》
(オルフェ、俯いて、ぼとぼとと音を立てて大量の血を口から吐く)
《………失礼。》
【か……”回復の風”!!】
(柔らかい温度を持った風がオルフェの暗く濡れた身体を撫で、全身の出血が止まる)
《ありがとう……友よ。気を遣わせてしまったな!》
【オルフェ……】
《どうした?そんなに沈んだ顔……お前さんらしくない。ほら、日だまり草だ!あの小さな友人に渡してあげてくれ》
(ウアス、非常に哀しそうな表情で、空洞となったオルフェの片目を見る)
【…………】
《……まぁ……人様の敷地内に勝手に忍び込んで庭を荒らすなど、害鳥のやることだな。特に、貴重なものをわざわざ選んで、など》
【オルフェ…本当に、本当にごめんなさい……】
(オルフェ、楽しげにくちばしをカチカチと鳴らす)
《おいおい、ちょっと待て?どういう意味だ……それは?お前さんから頼まれて、私はこれをしているわけではない。なにか誤解があるようだな……》
(震える声で)
【で、でも……オルフェは……】
《ウアス、我が友の中でも最も心優しき竜よ……一つ、聞いてもらいたいことが?》
【……い……いや、だ。聞きたくない……】
《すまないが、日だまり草を集められるのは次で最期と思っていただきたい。これを機に、ちょっとした旅行に出かけようと考えていてな……おそらく、それからはもう会うこともないだろう》
【いやだ……いやだよ……】
《私は……”フレスベルグ※1”は、誰かの死を呑み込むことでしか生きることができない。背中を見送るばかりなど、もう飽きたのだよ?誰かの生をつなぐ一端となれた……私は満足している》
【オルフェ……!】
(オルフェ、ゆっくりと離陸する)
《また会おう、友よ。それでは、ごきげんよう!》
ーーアルケミ大陸 北部 リリオール自然保護区域 近辺ーー
(武装した狩人、幾人かによる怒号が響く)
いたぞ!!9時の方角!
害鳥の次は駄竜※2か!?
これ以上増える前にカタをつけろ!!日だまり草を守れ!!
(ウアス、飛来する矢を避け、あるいは弾き、美しい草原を踏み荒らさないようにしながら風のように駆け抜ける)
【オルフェ……僕は本当にバカだった……!こうなることを知っててキミを行かせてしまったんだ…!】
(魔法を伴った鋭い矢が二つ、ウアスの身体に突き刺さる。狩人たちが低い歓声をあげる)
【誰かを傷つけることも…自分が傷つくことも怖くて……大事な人が傷つくのを黙って見ていたんだ……っ!!】
(ウアス、一際大きな木の陰に、暗い巨大な鳥が横たわっているのを発見する)
【オルフェッ!!】
(鳥は何も応えなかった。ただ、いつもに比べればほんのわずかな量の日だまり草が、血に塗れても柔らかさを失わない、ふわりとした羽根の内側に隠されていた)
ーーアルケミ大陸 北西部 ヨアの村ーー
(ハル、窓の外の何も飛んでいない空を物憂げに見つめている。その様子を見たイデアが声をかける)
「ハル……今日も?」
(ハル、振り返らず窓の外を見つめたまま)
『うん……今日もオルフェは飛んでないみたいだ。もう1週間にもなる…』
「ふふっ……さすがに、1週間も同じクッキーをおやつにして食べてたら、飽きない?」
『ま、しょーがないね……やっぱり、焼きたてが一番美味しいからね』
「きっと明日こそ……オルフェに受け取ってもらえるよ!」
『うん……僕もそう願ってる。』
(ハル、自らの手のひらを見る)
『もらうばかりじゃ……駄目なんだ。与えられる人に……なりたい』
「与えられる人……?」
『お母さんからの、教えだよ。数少ないうちの……一つ。』
(イデア、柔らかい表情で)
「ハルのお母さん、お父さんにも……きっとまたすぐに会えるよ」
(ハル、わずかに微笑みを取り戻して)
『……ありがとう。』
※1 フレスベルグ
高山地帯に生息する巨大な鳥の1種。特に腐肉を好んで食することで知られる。一部地域では、このフレスベルグに遺体を食べさせるという葬儀方式があり、それは非常に名誉あるやり方なのだという。
※2 駄竜
だりゅう。ドラゴン種をあざけって言う呼び名。あるいは、単にドラゴンの中で低級であるロウドラゴンを指す。