光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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オオカミ少女⑤

 季節は夏。

 

 例年通り今年もうだるような猛暑日が続き体調を崩す人が続出している。

 非常に稀なことだが、かく言う私も今日は何だか気分が優れない。

 今朝、妹分の汐恩が熱を出してしまい、エイヴァさんが病院に連れて行ったんだよね。

 だから余計に、私まで体調悪いと言い出せなかった。

 

 過酷なるヨダカレッスン、本日は午前中からお昼まで行われた。

 体調不良で精彩を欠いた私の動きに、ヨダカは『チッ!』と舌打ちをくれた。

 それに対して言い返す気力もなく、終了までの間、倒れないようにするのがやっとだった。

 去り際に『早く寝ろ』と言ったのはヨダカなりの気遣いだったりするのだろうか?

 

 そして今、私は炎天下の中を何とか帰路に着こうとしているのだが、体調は最悪だった。

 練習の疲れと、スケートリンクと外気温の落差が私をさらに追い詰める。

 何だか意識が朦朧として来た。

 フラフラと歩道を歩いている最中、それは起こった。

 

「あ……」

 

 これは・・・マズい・・・私、倒れ・・・る・

 

 全身から力が抜け受け身も取れないまま、体が傾いていくのを感じる。

 あー、顔からいったらヤダなぁ。痛いかな?

 どこか他人事のように思っている自分がいた。

 

 襲い来る衝撃と痛み、硬い物にぶつかる感覚は・・・あれ?来ない?

 前のめりに倒れた私を何かが受け止めていた。

 

「おい!大丈夫かキミ。しっかりしろ」

 

 耳元で男の人の声がする。

 ああ、誰かが助けてくれたのか。

 優しい人もいるんだな。世の中捨てたもんじゃないね。

 ごめんなさい。すぐにどくから・・・

 

「だい……じょ…ぶ……です」

「全然そうは見えない。待ってろ!今、救急車呼ぶからな」

 

 救急車だって?

 そんなの呼ばれたら鴗鳥家に連絡がいって、みんなに迷惑かけてしまう。

 ただでさえ汐恩が熱を出しているのに、私の事で余計な心配をさせるわけにはいかない。

 

「やめ…て…」

「何を言って」

「おね…がい……だか…ら」

 

 うまく伝わったかどうかわからないけど、大事にしないでくれと必死に頼んだ。

 

「訳アリか……仕方ない。ちょっと失礼するよ」

「……ゃ!?」

 

 急な浮遊感?

 え、今、どういう状況?

 背中とひざ裏に回された男の腕が私を抱き上げている、だと。

 こ、これは・・・お姫様抱っこというヤツでは!?

 視界も意識もハッキリしないままで、お姫様抱っこ初体験か。

 元気な時にやってほしかったなぁ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「すぐ戻るから、ちょっと待ってて」

 

 返事をする余力もない私は黙って頷く。

 男は私を公園のベンチまで運び寝かせた上で、水で濡らしたタオルを額に当ててくれた。

 ちゃんと日差しを遮る木陰のある場所を選んでくれたのも嬉しい。

 親切な人だ。回復したらちゃんとお礼をしないと・・・

 

「戻ったぞ。さあ、これを飲んで」

 

 大急ぎで行って戻って来た男の手には、500ミリペットボトル。

 わざわざ私のために飲料水を買って来てくれたようだ。

 喉が渇いてどうにかなりそうだったから、非常にありがたい。

 

「焦らないでゆっくり、そう、少しづつでいいから」

 

 うあぁ・・・全身に水分が染み渡る~。

 熱さに火照った体に、冷えた飲料が効く。

 でも、コレいまいち美味しくない。経口補水液?って言うのか、ふーん。

 せっかく買って来てくれたのに、味に文句付けるなんて失礼だよね。反省。

 冷え過ぎた飲料を一気すると体に毒だと聞いたことがある。

 男の言う通りチビチビとゆっくり飲んだ。

 

「~~~ぷはぁ」

 

 水分補給で、ちょっとだけ回復した。

 意識も大分ハッキリしてきたし、視界もクリアになった。

 どうやら私は熱中症になったしまったようだ。

 まだ少し頭がクラクラする。

 

 そうだ、お礼!

 恩人にはちゃんお礼をしないと・・・

 

「よかった。顔色がマシになって来たな」

「はい。おかげさま……でッッッ!?!?!?」

 

 男の声に顔を上げた私に特大の雷が落ちた。

 もちろん比喩表現だけど、その位の衝撃が全身を激しく震わせたのだ。

 しびれた。マジでしびれた。

 本気で感電死するかと思ったわ。

 熱中症とか知らんわ!それどころじゃねえ!

 

「…………かっこいい////」ボソッ

「え?」

 

 私を助けてくれた恩人は、それはもうすごかった。

 有り体に申しますと、

 

 とてもとてもとても、とっても!

 素敵な男性だったのだ!!

 

 年の頃は二十歳過ぎぐらい。

 大柄で筋肉質、すらりと伸びた長い手足。

 シャープな顔立ちにオールバックにまとめた髪の毛。

 こちらを心配そうに見つめる瞳には、慈愛の精神が宿っている。

 爽やかイケメン!という言葉はこの人のためにあるのだと思った。

 

 この暑い中、私のために一生懸命走ってくれたのだろう。

 流れる汗、張り付いたシャツ、とてもセクシーというか正直エロい!

 

 目がおかしくなったのかな?

 なんだか、彼がものすごくキラキラして見えるんだけど。

 ま、眩しい!眩しすぎて直視できない!

 何だ?私はどうしてしまったのだ?

 

「ボーっとしてどうした?やっぱりまだどこか」 

 

 ググっと顔を近づけて来る男。

 ひょぇぇぇぃ!ち、ち、ち、近いっス!近すぎるよお!

 何だかいい匂いもするし・・・って変態か!私は!

 ふぁ~やっぱカッコイイ!!

 

 大混乱に陥っている私を嘲笑うかのように、更なる異変が身に降りかかる。

 

『ドクンッ!!!』

 

 うっ!?今の、何?・・・・心臓が跳ねた???

 

「痛っ!いたっ、い、イタタタタタッッ」

 

 何だコレ何だコレ何なのよこれは~!!!!

 

 突然胸を押さえてうずくまる私。

 その様子を目撃した彼は激しく動揺した。

 

「心疾患!心疾患なの!?俺の手には負えない!すぐに病院へ」

 

 やめて!

 よくわからないけど、これ医者に行ったら笑われる類のヤツっぽいから!

 マジでやめてください!

 今すぐにでも私を担いで病院へ突撃しそうな彼を必死に押し止める。

 

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

「平気です。ちょっと心臓が爆発四散しそうになっただけで」

「平気なわけないだろ!?空前絶後の異常事態だろ!」

 

 静まれ私の心臓、落ち着いてよ頼むから。

 これ以上の醜態を晒したら恥ずか死ぬ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「落ち着いた?」

「はぁ…はぁ…な、なんとか」

 

 心臓の鼓動が平常に戻るまで、彼は一緒にいてくれた。

 私だったら、こんな怪しい小学生放置して逃げているところだ。

 

 彼はチラチラと時計を気にしながら私を見ている。

 何か予定があったのかな?

 私を看病したせいで、待ち合わせに遅れてしまったのかも?

 そうだとしたら、申し訳が立たない。

 

「行ってください。もう、大丈夫ですから」

「いや、しかし」

「用事があるんでしょ?あなたが遅刻したら、私が困ってしまいます」

 

 男は少しだけ逡巡していたが、やがて意を決したようだ。

 

「病人を放置してまで優先するような事じゃないさ。迷惑じゃなければ、もう少し一緒にいさせてくれ」

 

 迷惑だなんてそんな。

 本音ではもっと一緒にいたかったので、彼の提案は渡りに船だ。

 

「えっと・・・じゃあ、もう少しだけ、お願いします」

「了解だ。と、言っても特に何かしてやれるわけじゃないが」

 

 調子が悪い時にひとりだと心細くて結構つらい。

 誰かがそばにいてくれるだけで十分だ。

 それが、私のピンチを救ってくれた彼ならば、文句などあろうはずがない。

 

 『家族に連絡をしておけ』という彼の言葉に従った。

 エイヴァさんの携帯に電話して、朝から体調が優れなかったこと、今公園で休んでいることを伝える。

 『どうして早く言わないの!』と怒られた。

 すぐに迎えに来てくれるそうなので一安心。お説教は確定らしい、泣けるぜ。

 熱を出した汐恩は既に回復して今はピンピンしているそうだ。こっちも安心した。

 

「怒られた…」 

「キミのことが大事だからだろう。家族にあまり心配かけるなよ」

「う、肝に銘じます」

 

 しょんぼりしていると、彼が手をこちらに伸ばそうとして・・・やめた。

 今の、私の頭を撫でようとして止めた?

 撫でられキャンセル略して、なでキャンされてしまった。

 

「撫でないの?」

「セクハラになるかと思って」

「なりませんよ。待っているんですから、遠慮なくどうぞ」

「いいのか?これ罠じゃないよな?カメラとかお巡りさんとか出てこないよな?」

 

 中々疑り深い人だった。

 ハラスメントに敏感な世の中では少女に対する接し方一つで、人生が終わる事もある。

 確かに、私も彼が相手でなければ全力で拒否していたところだ。

 悲しいことだが『ただしイケメンに限る』という言葉は真理である。

 

 頭を撫でてもらった。すごく幸せだった。

 エイヴァさんにしてもらうのとは、また違った幸福感。

 彼の方も『おぉ』とか言って感動していた。

 幻の珍獣に触れたような反応だ。コレ喜んでいいの?

 

「助けてくれてありがとうございます。あのままだと大ケガをするところでした」

「全然いいって。俺が役に立てたのなら幸いだ」

「あの、今更ですが、どうしてこんなに良くしてくれるんですか?」

「女の子が目の前でぶっ倒れそうになったんだぞ。普通助けるだろう?」

 

 そうかな?

 面倒事を避けるため、見て見ぬふりをする人だって大勢いると思う。

 倒れそうになった時、近くに彼のような人がいてくれた事に感謝するべきだ。

 

「それに、スケート仲間を見捨てるのは、俺のポリシーに反するからね」

 

 仲間?私が?

 彼が指刺したのは私のスケート靴が収納されたバッグ。

 

「スケートやるんだろ?実は俺もなんだ」

 

 そう言ってニッコリ笑った彼の笑顔は、やはり眩しすぎた。

 

 ●

 

 迎えが来るまでの間、私と彼は楽しくお喋りをした。

 話題は主にスケートに関すること。

 恩人がスケート経験者だったことにテンションが上がった私は普段より饒舌になる。

 彼の方も同じ気持ちだったようで、話をしている最中いろんな表情を見せてくれた。

 

「練習の帰りだったのか、頑張っているんだな」

「コーチがその、鬼畜を通り越した外道なので…」

「それでも、続けているんだ。えらいえらい」

「えへへ…そう言ってくれると報われます」

 

「俺もキミみたいにもっと早く始めていればな…」

「『始めるのに遅すぎることはない』って尊敬する銀メダリストが言ってました」

「さすがメダリストだな。いいこと言うぜ」

「私の軽蔑する金メダリストは、育児放棄した女児を友人宅へ置き去りにしました」

「誰だそいつサイテーだな!?」

 

「おぉ、結構いい靴使ってる…うらやましい」

「家族と一緒に選んだお気に入りです。お兄さんのスケート靴も見せて下さいよ」

「俺のは年季が入っているというか、ぶっちゃけボロボロだぞ。見ても楽しいもんじゃない」

「隠されると余計に気になる。いいから、みーせーてー」

 

 互いのスケート靴を見せ合ったり、あの技のどこそこが難しいとか議論したり、スケートあるあるネタで笑ったり、

 今日が初対面だということも忘れて盛り上がってしまった。

 

「ごめんな。勝手にいろいろ喋って、キミみたいな若い子と共通の話ができるなんて嬉しくってさ」

「全然問題ないです。私もすっごく楽しかったから」 

 

 楽しいなぁ。すごく安心する。もっとずっと彼とこうしていたい。

 

 話が一段落すると、彼が声のトーンを落とす。

 

「……潮時、なのかもな」

「お兄さん?」

「最後に前途有望な後輩と話せてよかったよ。これで心置きなく…」

 

 潮時?それってつまり・・・

 これは良くない。

 何かとても良くない事を彼が言おうとしている。

 この先を言わせてはならないと、私の本能が警鐘を鳴らす。

 

「ダメ!!」

「…!?」

「や、やめるとか言わないで、そんなの絶対にダメ」

 

 あんなに楽しそうに語ってくれたじゃないか、

 少し話しただけで、あなたがどれだけスケートが好きか嫌でも伝わった。

 なのにスケートやめてしまうなんて、そんなの悲しすぎる。

 

 靴の傷、見せてもらったからわかるよ。

 いっぱい練習して、いっぱい転んで、いっぱい無茶して、できた傷だって。

 長い時間、真剣に打ち込んでるってちゃんと証明されているんだよ。

 

 私も最近ちょっと悩んでて、練習は本当にキツイし大変だし、いつも何のために頑張っているんだろうとか考えちゃって。

 そもそも私がスケートを始めた動機が『人に気に入られたい』などという不純なものだ。

 スケートが大好きで、どうしてもやりたくて堪らない、という純粋な気持ちからではない。

 鴗鳥家に取り入るため、居場所を確保するための、生き残る手段の一つ。

 それがスケートだったにすぎない。

 そこに義務感のようなものはあっても、あなたの様な熱意はなかった、最初から存在していなかったのだ。

 

 でも、でもね。

 

 今日あなたの話を聞いてスケートってすごい、頑張ってる私もすごいんだって思ったんだよ。

 これからもスケート続けていこうって、続けてもいいんだって、

 いつか『スケート最高!』って言える自分になりたいと、思えるようになったんだよ。

 

 私をその気にさせた癖に、ズルいよ、逃げないでよ。

 そんな辛そうな顔で引退宣言するぐらいなら、何がなんでもスケート続けなよ!

 

 思いの丈を一気にまくし立てた。

 言葉も途切れ途切れのバラバラで、聞かされた方からすれば『何言ってんの?』と一蹴されるような戯言の数々。

 それでも止まらなかった。

 

「ごめんなさい。事情も知らずに、わかったようなことを……」

 

 迷惑だよね。

 生意気だって、お前に何がわかるって、思われただろうな。

 

 所詮、これは私のわがまま。

 彼がスケートやめてしまうと私との縁も断たれてしまいそうで、それが気に入らなかったのだ。

 人を思いやるフリして結局我が身が一番か、サイテーだな私。

 はぁ・・・何やっているんだろう・・・

 

 自己嫌悪に陥る私。

 その様子を彼は目をしばたたきながら見ていた。

 珍獣を見る目だ。

 

「すごいな‥‥‥キミは」

 

 心底感じ入ったような感嘆の声が彼の口から発せられた。

 

「今わかったよ。きっとキミみたいな子が、メダリストになるんだろうな」

「私が?メダリストに…」

 

 本気で言ってる?ホントにホント?

 彼の優しい眼差しは『本気だ』と伝えてくれる。

 

「よし!」

 

 両手で自分の頬を勢いよく張った彼。

 何かが吹っ切れたような清々しい顔をしている。

 

「子供相手に情けないところを見せた。俺はダメな奴だ」

「そんなことない。私の方こそ生意気言って」

「続けるよ」

「へ?」

「スケート続けるよ」

「本当ですか!」

「ああ。未来のメダリストに応援されたんだ。俺もまだ捨てたもんじゃない気がしてきたよ」

 

 よ、よかったぁ~。

 お兄さん思い止まってくれたよ。

 いろいろと恥ずかしい事をぶっちゃけた甲斐があった。

 

 ホッとしたのと照れもあってか、私は今の状況がおかしくなって笑ってしまう。

 彼も一緒になって笑ってくれた。

 二人の間に得も言われぬ心地よい空気が漂った。

 私たち相性いいのかも?きっとそうだ。そうに違いない。

 

「私頑張る。いつかテレビで特集組まれるぐらい、有名なスケート選手になる」

「いいねぇ夢がでかくて。俺の目標はそうだな…スケートに関係する仕事に就くことかな」

「お兄さんならなれます。私ずーっと応援しますから!」

「ありがとな。俺もキミの成長を心から願ってる。楽しみだなぁ、どんな選手になっているんだろう」

 

 お互いの未来に思いを馳せる。

 気持ちが通じ合っているのが嬉しくて、何だかすごく満たされた気分だ。

 

 ●

 

 私のスマホに通知が入る。

 エイヴァさんの運転する車が到着した事を知らせる合図だ。

 楽しい時間はあっという間だったな。

 

「じゃあな。体には気を付けろよ」

「はい。本当にありがとうございました」

 

 私と彼は最後にしっかり握手をしてお別れをする。

 彼の姿が雑踏に消えゆくまで、私はずっと手を振り続けていた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 公園から出てすぐの駐車スペースに見慣れた車を発見。

 助手席に乗り込むと同時に運転手へと謝罪する。

 

「…心配かけてごめん」

「いいのよ。元気そうで安心したわ」

「親切な人が助けてくれたの」

「それは幸運だったわね。ちゃんとお礼はしたの?」

「うん」

「それで、その人の名前は何て言うの?」

「なまえ………???………っ!?」

「光、あなたまさか……恩人の名前を聞いていないなんとこと…」

「そのまさかだよ」 

 

 あああああああ!!しまったぁーーーー!!

 

 痛恨のミス!!あまりにも楽しすぎて完全に忘れていた!

 彼の名前聞いてないよ!私の名前も教えてないよ!

 バカバカバカ私の大バカもんがぁーー!!

 

「エイヴァさん、タイムマシンってどこにありますか?」

「ないわよ。そんなもの」

「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した…」

「まったく、しょうがない子ね」

 

 車の中で頭をかかえる私を、エイヴァさんは生温かい目で見ていた。

 

 自己紹介をすっ飛ばすという、ありえないミスを犯した私。

 連絡先なんてもちろん知るはずもなく・・・

 自分のバカさ加減にショックを受けた私は丸一日寝込んだ。

 熱中症?気合で治ったんじゃね。知らんけど。

 

 ●

 

 あの日からもう半月が経とうとしていた。

 倒れかけた歩道に行ったり、たくさんお喋りした公園にも行ってみたのだが、彼と会うことはできなかった。

 スケートクラブに出入りしているのでは?と思って方々から情報を集めてみたが結果は空振り。

 あの時、連絡先を交換しなかったことが本当に悔やまれる。

 せめて名前だけでも教えてもらっていたら・・・私ってホントバカ。

 

 会いたい。もう一度だけじゃなく何度でも。

 私も頑張っているって伝えたい。

 これだけ探して見つからないなら、向こうから見つけてもらうしかない!

 

「慎一郎さん。次の大会っていつですか?」

「大きなヤツは来月だな。それに合わせて調整していこう」

「了解。あの人にも伝えておいてくださいよ。基本、私の言う事聞かないんで」

「夜鷹と多少なりとも会話できている。光は立派だよ」

 

 フィギアスケートの大会には積極的に参加するようにした。

 表彰台に登って好成績を残す。そして名前と顔を売るのだ。

 いつの日か、彼に見つけてもらえるくらい有名になってやる。

 

 目標ができるとヨダカ仕込みの練習(拷問)にも気合が入る。

 奴の動きを一瞬たりとも見逃さない。

 ヨダカの、金メダリストのスケーティングを私のものにする!

 でも、あの性格だけは真似したらアカン。

 

「何か、変なものでも食ったのか?」

 

 気合の入った私を訝しく思ったのか、珍しくヨダカが質問をしてきた。

 食ってませんけど?

 私だって一生懸命になりたいお年頃なんです~。

 ヨダカにはわからんでしょうねww

 

「拾い食いはやめろ。みっともない」

 

 だから食ってねぇって!言ってんだろが!

 私のこと、どんだけ意地汚い奴だと認識しているんだよ。

 ヨダカとは一度じっくり語り合う必要がありそうだ。

 拳でな!

 

「光……おい、光!」 

「ん…ああ。ごめん、何?」

「お前、何かあったのか?最近ずっと変だぞ」

「んー。別に普通だよ」

 

 また彼の事を考えて、心ここにあらず状態だったようだ。

 生返事をした私に理凰が疑いの眼差しを向けて来るが無視。

 

「ジジイに何かされたとか?」

「あの人はいつも通りだよ」

「じゃあ一体何が…」

「ねえ、理凰」

 

 しつこく問い質されそうな雰囲気を察した私は逆に問いかける。

 

「男の人って何が好きかな?」

「ガンダム」

「うん。質問を変えるね。男の人はどんな女の子に魅力を感じるのかな?」

「うぇ!?そ、それは、だな」

「それは?」

「…………長い黒髪とか……いいんじゃねーの////」

 

 ふむふむ。

 男は黒髪ロングが好きと、覚えておこう。

 お、私条件クリアしてるじゃん。やったね!

 邪魔になるからそろそろ切ろうと思ったけど、長さはこのままキープして。

 スケート中は適当に結んでおけばいいか。

 あれ?どしたの理凰さん顔赤いっスよ。風邪か?

 

 ヨダカにも理凰にもツッコまれた。

 そのうち慎一郎さんや汐恩にも何か言われそう。

 私も自分の症状に自覚がある。これは病気なのだろうか?

 心配になった私は我が家の頼れるゴッドマザーに相談することにした。

 

「エイヴァさん。折り入ってご相談が」

「いいわよ。家族会議する?」

「いえ、エイヴァさんとだけ内密に」

「おっけー」

 

 快く時間を作ってくれたエイヴァさん。

 二人きりなのを確認して私は口を開いた。

 

「私、どうやら何かの病気みたい」

「そうなの!詳しく話してちょうだい」

 

 私の身に現在進行形で起こっている事を説明する。

 

 ある男性が気になっていること。

 その人のことを考えると胸が苦しくなって頭がボーっとして、

 でもそれが嫌じゃなくて、ずっと彼のことばかり考えるのが止められない。

 夢に見るようになったり、似たような背格好の人を無意識に探したり、

 会いたい、話したい、近くにいたい、触れたいし触れられたい。

 それでずっと気分がモヤモヤして、同じぐらいポカポカしている。

 

「と、まあこんな感じなんですが。どう思います?」

「まあまあまあまあ!光にも遂に春が来たのね」

「ハル?」

 

 エイヴァさんのテンションが激しく上昇した。

 この食いつき具合、エイヴァさんは何か知っているな。

 

「気になる男性ってもしかして理凰(うちの子)かしら?」

「全然違う。もっと年上」

「ガーン!?……理凰ったら何やってるのよ……油断するなとあれだけ言ったのに…」ブツブツ

 

 ガーンと声に出してショックを受けるエイヴァさん。

 なぜここで理凰の名前が出るのか意味がわからない。

 

「年上ってことは、よだ……」

「エイヴァさん。私、あなたのこと、大好きなままでいたいです」

「んんん!!そうね!アレはないわね!アレは」

 

 不快な名前を出しそうになった養母に圧をかけて黙らせた。

 もう、こんなことさせないでよね。

 

「ふーん。私の知らない人なんだ。いつの間に?」

「まあ、偶然の出会いというヤツでして。で、私の症状について心当たりは?」

「もちろんあるわ。誰もが一度はかかる病気ね」

「それは一体」

「教えません!!!!」

「なんで!?」

 

 なんでだよ!知っているんなら教えてよ、意地悪~。

 

「これは光が自分で気付くべきことなのよ。その方がおもし……素敵やん」

「今、面白いって言おうとしたな」

「あーでもそっか、そっかぁ……あの光がね~子供の成長ってホント早いなあ」

「エイヴァさん?」

 

 エイヴァさんは汐恩にするみたいに優しく抱きしめてくれた。

 何だかとっても嬉しそうだ。

 あったかいな。この人はいつもあったかい。

 

「あなたは自分の感情に戸惑っているでしょうね。大丈夫、それはとても尊くて素敵なことなのよ」

「よく、わからないよ」

「時にそれはあなたを傷つけ、またある時には成長を促してくれるかもしれない」

「ますますわからん」

「今の気持ち大事にね!人生をもっと楽しんじゃいなさい」

 

 エイヴァさんによる謎の励ましを受けた。

 結局、私の病気については教えてくれないのね。

 疑問だけが残ったが、これは自分自身で知るべき事なのだろう。

 ゴッドマザーが言うのだからそうなのだと無理やり納得した。

 

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