光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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オオカミ少女⑨

「……ただいま」

「おかえり。どうだった?話はできたの?」

「汐恩、後にしなさい。光は先にお風呂入っちゃって」

「うん……」

 

 帰宅した私はエイヴァさんのお言葉に甘えて風呂に入る。

 湯船に浸かりじんわりと体が温まっていくのを感じながら、外であった出来事を思い返していた。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 私は念願が叶って司さんと会う事ができのだ。

 

 向こうから『狼嵜光選手ーっ!』と声をかけてくれた時は、心臓が口から出そうになった。

 道路を高速滑走する私をよくぞ見つけてくれました。

 見つけてくれなかったら、周辺の道を何十周もする覚悟だったよ。

 追いかけてくれたのは嬉しいけど、交通整理のバイトはいいのだろうか?

 司さんって結構勢いで行動しちゃうタイプなのかな?

 

 あくまでさりげなく偶然を装って『いのりちゃんの先生?』と返答する私。

 マスコミ相手に鍛えた演技力が役に立った。

 実は私あなたのことメッチャ知ってますからー!

 何なら養母はあなたの位置まで把握してますからー!

 とは、口が裂けても言えない。

 

 ローラースケートを巧みに操り司さんの方へ向く。

 少し体勢がグラついたが問題ない・・・え、ちょ、なんで!?

 司さんが河川敷の草地を滑り落ちていった。

 私が転倒すると思って助けてくれようとしてくれたみたい。

 それを躱すような形になってしまった。

 ひぇ、ごめんなさい!

 

 奇妙な体勢で倒れた司さんを上から見下ろす。

 そして、理解した。

 

 嗚呼、この人は私を覚えていないのだと。

 

 少なくとも、あの夏の日に助けた少女が私だとは認識していないのだ。

 わかっていたはずなのに、酷く残念に感じる自分がいた。

 『私は一日たりとも忘れたことが無かったのに!』

 一方通行で理不尽な怒りが湧いてしまう。

 

 だからだろうか、心配してくれる彼に、

 『1人で帰れます』などと、拒絶の意思を込めた言葉を浴びせた。

 勝手に期待して、それが叶わなかったら不機嫌になる。

 ガキかよ・・・

 内心で自分自身を嘲っていると、司さんが胸を押さえて苦しみ出した!?

 

 まさか、ケガをしたの!?

 慌てて近づく私、大丈夫と言いながら電話をかけようとする彼。

 ダメ!電話なんかしないで、迎えなんていいから、

 今は私を・・・

 

 ちゃんと私を見てよ!!

 

 私は彼の手からスマホを遠ざける。

 ローラースケートを履いたままの足で、草地に転がる彼の手元を払ったのだ。

 もう少しで彼を踏みつけにするところだった。

 どう考えても乱暴で危険な行い。

 人に向けてこのようなこと、普段なら絶対にやらない、ましてや彼は恩人だ。

 それなのに・・・私は何をしている!?

 

 仰向けになった司さんを、またぐようにしてズイッと顔を近づける。

 彼は私の突飛な行動に驚いたようで動けない。

 私の長い髪が彼の頬をくすぐる。

 自分でやっておいてアレだが、なんつーマウントのとり方だ。

 『明浦路先生が家まで送ってくれませんか?』

 そんな提案が私の口から漏れていた。

 

 司さんと見つめ合う。

 そこに至り、私は自分が何をしたか、何をしているのか、遅すぎる理解をした。

 

 なぁにをやっとんじゃ私はぁぁぁー!?!?

 

 違うの!こんなことするつもりじゃなかったの!

 自分の考えと行動に激しい齟齬が生まれている?

 何だコレは、私は自分で自分をコントロールできていない!?

 どうしてこんなことに、これではまるで、まるで、

 素直になれず、ちぐはぐな行動をしてしまう・・・

 

 ラブコメのヒロインみたいじゃないか!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇ?

 

 頭の中に散らばったパズルのピースが高速で組み合わさっていく。

 エイヴァさんの言ったこと、自分で気付くべきという何か。

 ラブコメ漫画をすすめてきた汐恩。彼女が怒鳴った理由。

 私がストーカーになってしまったこと。

 いのりちゃんと理凰への嫉妬心。

 全てが繋がり至極単純な結論へと私は導かれる。

 

 私・・・司さんのことを・・・

 

 マジで?

 つまり、そういうこと、なの?

 うそ・・・だろ・・・

 何で今まで気付かなかったの?

 バカなの?頭湧いてるの?

 

 私はもうどうにかなりそうだった。

 つ、つつ、司さん。

 硬直してないで、何か、何か言ってよ。

 そうじゃないと私、私、脳が焼き切れる!!

 

 そうだ!汐恩が何か言ってたよね。

 顔を見て友達結婚がどうとか・・・

 ちょうど今、司さんの顔が至近距離にあるからね!

 カッコイイお顔を、よーく見ちゃおうかなあ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・ぎゅお!?

 

 ここから私の記憶は曖昧だ。

 司さんに家の近辺まで送ってもらったはず。

 その時、犠牲がどうとか小難しい話をしたような気がする。

 オートで動いた私が司さんに無礼な態度を取っていないか、

 それがすごく心配。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「…私ってこんなにポンコツだったかな?」

 

 風呂上り、疲れていた私は『報告は明日にする』といって早く寝る事にした。

 

 ●

 

 次の日。

 すっかり私の相談役になったエイヴァさんと汐恩を招集した。

 

 慎一郎さんは仕事関係の飲み会、理凰はルクス東山で居残り練習中だ。

 都合よく男性陣のいない内に、女だけの会議を始めよう。

 

 神妙な面持ちでテーブルについた私は相談役たちを睨みつける。

 

「なんで…なんで何で教えてくれなかったの!」

「いきなりキレてるよ」

「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着きなさい」

 

 全部知っていたくせに、

 知っていて、ずっと私を笑い者にしていたな。

 おのれ、二人とも許さぬぞ。

 

「え、何?ハッキリ言って?」

「そうね。光が何に対して怒っているのか、わからないわ」

 

 だから・・・私が・・・

 

「私が司さんのこと『()()』だって知っていたんでしょ!////」

 

 うう、口に出すと余計に恥ずかしい////

 

「うん。知ってたw」

「あれでわからない方が無理よw」

「やっぱりな!ちくしょーめ!!」

 

 そうなのです。

 

 私、狼嵜光は明浦路司のことが好きなのです。

 ただのスケート仲間や恩人としてだけでなく、

 ひとりの男性として彼の事が好きなのです。

 お恥ずかしいことに今私は・・・

 人生初の『恋』をしちゃっているのです。

 

 めちゃくちゃ遠回りをしたけれど、

 この度ようやく自分の恋心に気付いた次第です。

 

「一時はどうなる事かと思ったけど、自覚できたようで安心したわ」

「あー長かった。光ってば全然気付かないんだもん」

 

 一仕事終えた感じでホッコリしているんじゃないよ。

 

「私の初恋を弄んで楽しかった?」

「弄ぶだなんてとんでもない。ずっと応援していたのよ」

「私とママが後押ししなかったら、喪女一直線だったくせに~」

「う、うるさいな」

 

 言いたい事は山ほどあるが、

 自分の気持ちに気付かせてくれたこと、二人には感謝している。

 二人がいなければ汐恩の言う通り"喪女スケーター光"になるところだった。

 

 ●

 

「で?で?どうだった?二人で何を話したの?」

 

 興奮気味に尋ねて来る汐恩。

 身内のリアルな恋愛トークに興味津々といった感じだ。

 

 私は昨夜の出来事を説明した。

 自分が司さんに塩対応してしまったことも含めて。

 

「それは、ウラジーも災難だったね」

「ツンもいきすぎると毒になるわ。気を付けなさいな」

「もうホント、自分が信じられない」

 

 恋心が暴走した結果、あの様な態度になったわけだけど。

 司さんからすれば、

 『人が心配してやってるのに、何様だこのガキ』

 と、思ったのではないだろうか?

 

「どうしよう。嫌われたかも…」

「やっちまったもんは仕方ないよ。くよくよすんな」

「今回の反省を生かして、次につなげましょう」

「そう、だね。頑張る」

 

 まだ、昔自分が助けてもらった事を話せていない。

 次こそはちゃんと、自分の正体を明かしてお礼言いたい。

 その時に、自分の気持ちも伝えられたらいいな。

 

 人生の先輩であるエイヴァさん、やたらと耳年増な汐恩には今後も相談させてもらおう。

 二人とも頼りにしてるよ。

 

 ・・・・・・・・・・

 

「それで、ウラジーの顔見て結婚したいと思った?」

「結婚?ハッ!そんな生易しいものじゃなかったよ」

「と、いいいますと?」

 

 至近距離で見つめ合った瞬間、私は思ったのだ。

 結婚は当然として、

 

「司さんの子供を産みたいなーってね!!」

 

 子供が生まれ幸せ太りした司さんと幸せに暮らすところまで妄想した。

 アケウラジデイズが始まっちゃう。

 

「「うわぁ…」」

「引かないで!私の乙女心にドン引かないで!」

「なにが『乙女心』だよ『メスの本能』の間違いでしょ」

「それが何か問題でも?」

「開き直るな」

 

 時には本能に従う事も必要だよ。

 私だって女の幸せを望んでもいいじゃない。

 

「光の気持ちもわかるわ。私も乙女心の望むままに慎一郎さんと結婚したもの」

 

 エイヴァさんの惚気が始まってしまった。こうなると長いんだよなあ。

 なるべく手短でお願い。

 

「乙女心がハッスルして生まれたのが理凰、そしてあなたなのよ…汐恩」

 

 今明かされる出生の秘密!

 みたいな空気感を出されましても・・・

 母親のハッスル宣言に汐恩が反応に困った顔をしている。

 

「私も司さんとハッスルしたい!いや、するね!」

「何て酷い決意表明w」

「だったらまず、ちゃんと光の気持ちを伝えないとね」

「告白イベント来た!勝負はここからだよ、光」

「こ、告白////」

 

 告白・・・司さんに『好きです』と伝える。

 うぁ////大会の直前より緊張するよ。

 でも、これは避けては通れない必須イベントだ。

 

 ちょうど今、大きな大会を控えている。

 『全日本ノービス選手権』

 中部ブロック大会で活躍した、いのりちゃんも出場するはず。

 狙うはもちろん優勝だ。

 やっと戦えるね、いのりちゃん。 

 

 そこで、自分のこの気持ちにも決着をつけよう。

 優勝して私は・・・

 

 司さんに告白するんだ。

 

「勢い余って罵倒したりしてw」

「そんなことするか!」

「今のフラグかしら…」

 

 ●

 

《全日本ノービス選手権》

 

 日本各地から集った『メダリストの卵』たちがしのぎを削る戦場。

 可憐な少女たちが頂点目指して舞い踊る姿は、ひたすらに美しい。

 

 フフフ、どいつもこいつもギラついてやがる。

 そりゃあそうだよね。

 一番になるにはこの私を、狼嵜光を倒さなきゃならないんだからねえ!(歓喜)

 ふぁ~みんなの敵意が刺さりまくって心地良いんじゃぁ~。

 

 今日の大会は、いのりちゃんがいる!(大歓喜)

 嬉しいよ。初めて会った時とは見違えるほどに強くなってくれたね。

 さあ、存分に死合おうぞ!

 

 そして更に!

 司さんが来てるーーーっ!!!(狂喜乱舞)

 イヤァァァァァァァッホゥゥゥゥゥ!!

 

 いのりちゃんのために来たのは知っているけど、

 私の滑りを見てくれることに違いはないよね。

 今日は私の120%を見せるから期待しててね!

 

 いや、みんなすごいわ。

 100点越え連発やんけwww 

 暫定一位の子なんて110点だよ。

 すごいなぁ、本当にすごい。

 氷の上なのに、みんなが残した熱気がまだ冷めやらぬって感じがするよ。

 

 そんな風にされたらさあ。

 私も我慢できなくなっちゃうよ。

 

 私の番が来た。

 

 狼嵜光の演技が始まる。

 無垢で残酷なオオカミが今、その口を開けた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 いい!いいぞ!

 会場も私のボルテージも最高潮だ!

 身体が思うように動く。

 ロシアでの修行は無駄ではなかった。

 若干胡散臭いレオニードさん、ありがとー!

 バレエで培われた姿勢と、見る者を虜にする振付が効いているのを実感する。

 

 見ろ!見ろよ!私を見ろ!

 もっと、もっとだ!もっと飲みこまれてしまえ!

 この会場の全て、私が食らい尽くす!

 

 ねえ、いのりちゃん。

 見てる?

 私を倒す方法しっかり考えてくれているかな?

 

 ねえ、司さん。

 見えてる?ちゃんと見てくれている?

 私は、ここにいるよ?

 

 もう終盤、最後のジャンプだ。

 疲れがないとは言わないけど、失敗する理由もない。

 正直、ヨダカの鬼畜レッスンの方がキツイわ。

 失敗なんかありえない。

 

『ここで失敗する自分ならいらない』

 

 三回転アクセル!

 オイラー!

 三回転サルコウ!

 

 アクセル、オイラー、サルコウのコンボでキッチリ着氷。

 

 ヒュー!うまいこといった!

 ね?全然大丈夫だったでしょ。

 土壇場でジャンプの構成変えて正解だったね。

 

 最後のポーズも決めて完走!

 あぁ・・・最高ッ!に楽しかった。

 

 鳴り止まぬ拍手の中、私は退場する。

 さあ、次はいのりちゃんの番だよ?

 司さんと積み上げた、あなたの全部を、

 

 私に魅せてね。

 

 ●

 

 いのりちゃんは頑張った。

 本当によく頑張った。

 四回転を二連続で跳んだ時は震えが走ったよ。

 惜しみない賞賛を送りたいと思う。

 

 しかし、現実は残酷だ。

 

 結果は私が一位で優勝。

 いのりちゃんは四位となり表彰台を逃した。

 

 勝算はあったはずだ、だけど彼女は私に届かなかった。

 それは何故か?

 ヨダカの言うように『犠牲』が足らなかったのか?

 今よりも、もっと多くの犠牲を払えば、いのりちゃんは勝てたのか?

 例えばそう、ヨダカといのりちゃんが組んでいれば・・・

 

 私が司さんと組んでいれば・・・

 

 結果は違ったのかもしれない。

 バカバカしい。あり得ない妄想だ。

 いのりちゃんと司さん、二人だからこそここまで来れたのだ。

 あの二人が離れ離れになることはないと、

 二人の絆をずっと見て来た、自分が一番よくわかっているじゃないか。

 私はヨダカの下から巣立つ気満々だけどね。

 

 ・・・・・・・・・・

 

「こんばんは」

 

 その日の夜。

 雨の中、私は意中の彼、司さんと再び相対する。 

 

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