光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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押しかけ狼

 ここ最近の俺は寝不足である。

 毎晩、悪夢にうなされてまともな睡眠が取れていない。

 夢の内容はいつも同じ。

 いのりさんが俺の下から去って行った、あの日の光景だ。

 何度も繰り返し強制的に見せつけられる。

 それが、俺への罰だとでもいうように・・・

 

 彼女の厳しい眼差し、俺以外を先生と呼ぶ声、遠ざかって行く背中、

 届かない。

 届かない。

 もう届かない。

 

 やめてくれ。

 嫌だ。

 もう見たくない。

 こんな結果になると知っていたなら、

 コーチになんてならなかったのに、

 スケートを好きになったりしなかったのに。

 

 疲れた・・・

 楽になりたい。

 このまま消えてしまいたい。

 

『司さん』

 

 不意に俺を呼ぶ声が聞こえた。

 同時に、今までどんなに懇願しても止まらなかった悪夢の再生が停止する。

 

 誰だ?少女の声?

 いのりさんのものではない、だったら誰?

 

『私のコーチになってよ』 

 

 無理だ。

 俺は人を導くことができるような奴じゃない。

 

『一緒に金メダル取っちゃおう』

 

 簡単に言うなよ。

 それがどれだけ大変な事か解っているのか?

 金メダルを取るだなんて夢物語なんだよ。

 

『……』

 

 夢は所詮夢で終わる。現実にはならない。

 そうだろう?なあ?

 何とか言えよ。

 

『じゃあ、私と結婚しよう』

 

 じゃあって何!?

 急激な話題転換にビックリしたわ。

 俺の絶望と悲嘆をガン無視ですかい。

 

『二人で幸せになろうね』

 

 こっちの声、全然届いてないね。

 頭お花畑だね。

 えっと、確か俺は悪夢を見ていたはずでは?

 落ち込んで自己嫌悪していたのがバカバカしくなって来た。

 ・・・・・・・寝るか。

 

 どこか能天気な少女の声を聞きながら意識を手放していく。

 悪夢が繰り返される事はなかった。

 

 ●

 

 朝、自室ベッドで俺は目を覚ました。

 例の悪夢を見てしまったものの、今朝は幾分かマシな目覚めだった。

 夢の中で誰かが俺を守ってくれた気がする。 

 あれはきっと、どうしようもない俺を見かねて現れた天使に違いない。

 などと、バカな事を考えていないでそろそろ起きよう。

 

 そこで俺は気付いた。

 掛け布団ではない別の重みを感じる事に・・・

 体の上に何かが乗っかっている?

 

「羊さん?……じゃない!誰だてめぇ!!」

 

 長い黒髪を持つ何かが、両腕でがっちりしがみついているではないか!?

 ひぃぃ!悪霊なの?妖怪なの?

 何であれ朝っぱらから怪異に襲われる筋合いはない。

 放れろ!はーなーしーてー!

 

「……ん」

 

 妖怪が身動ぎして声を漏らす。

 その声を聞いた瞬間、俺は昨日あった出来事を一気に思い出した。

 そして妖怪の正体に思い当たる。

 

「光…さん?」

 

 狼嵜光。

 昨日、俺の新たなパートナーとなった少女。

 加護家に無理やりくっ付いて来た彼女を一晩泊めることにしたのだった。

 俺に夜襲をかけた彼女と、そのまま同衾することになり今に至る。

 

 この子やっぱり変だ。

 距離感おかしいし、無防備すぎる。

 密着されているので、狼嵜光という少女の情報が否が応でも飛び込んで来る。

 少女特有の柔らかさ、程よく熱を帯びた体温、蠱惑的な息づかい、何やら良い香りもするし、これはちょっといろいろマズいですよ。

 俺じゃなければ昨夜の内に、口にも出せない行為をされても文句言えないぞ。

 それはあとで説教するとして、早く起きてもらおうか。

 

「光さん起きて。おい、起きろって」

「……」

 

 起きる気配がなく、放してもくれない。

 ベッドから起きて立ち上がってみる。

 まだ放れないどころか、両足を器用に使い更なる拘束を加えて来る始末。

 何なの?狼じゃなくてコアラだったの?

 

「ちょっと光さん。朝だぞ朝!ほら、放しなさいってば」

「う…ん……」

 

 ペシペシと頭を軽く叩いてみると僅かな反応が返って来た。

 

「う……つ…司さん……」

「起きたか?」

「…逃げて……それと戦っちゃ…ダメ」

 

 まだ寝ぼけているのらしい、光は要領を得ない寝言を呟く。

 

「それ…‥ただのズゴックじゃない……中身……アスラン…」

「何の夢見てるの!?」

 

 なんで俺とアスランがやり合う事になってんだよ。

 嫁の裸で精神攻撃する奴とは戦いたくないわ!

 夢の激闘に手に汗握ったのか、光の締め付けが更に強くなる。

 

「いだだだだ!こいつ、なんてパワーだ!?」

 

 見た目からは想像できない程に力が強い!

 抱き着きの効果音は『ぎゅ~』という可愛いものではなく、

 『メキメキ!ミシミシ!』という痛みと恐怖を感じるものだ。

 胴体千切れたらどうしてくれる?

 

 何とか拘束を解こうと頑張ってみたがどうにもならない。

 1人では無理だと判断した俺は光を体に引っ付けたまま、仕方なく1階へ向かう。

 リビングでは家主である加護耕一さんが、朝の日課であるコーヒーを淹れている最中だった。

 

「おはよう司君。ゆうべはお楽し…みっ!?」

「おはようございます。いきなりで申し訳ないんですが、こいつを引き剥がすの手伝ってくれます?」

 

 俺と光の状態を視認した加護さんは、マグカップ手にしたままポカンと口を開ける。

 うん、予想通りのリアクション。

 

「そ、その状態は()()ってことでいいのかな?」

()()ではなく()()ですね」

 

 加護さんの発言を即座に訂正する。

 どう見ても事故です。合体事故的なヤツです。

 

「合体事故だって!?ダメじゃないか司くーん、そこは年上のキミが優しくリードしてあげないと」

「何ひとりで盛り上がっているんですか?」

 

 加護さんは完全に誤解していらっしゃる。

 もじもじしながら『キャッ!』とか言って照れるのやめてください。

 

「ふぁ…おはよ~。朝から騒いでどうしたの?」

 

 眠そうな目を擦りながら羊さんがリビングに現れた。

 俺と加護さんが挨拶を返すと、羊さんの目は俺の胴体部に釘付けになる。

 

「何それ?」

「何でしょうね?俺は人にしがみつくタイプの妖怪だと思います」

「光ちゃんだけズルい!私もやる~」

「ああ!?羊さんまで、三身合体はやめて~」

「朝から三人でなんて////司君のすけべぇ」

「言ってる場合か!見てないで助けてくださいよ」

 

 加護さんの手を借りて妖怪二人を引き剥がした。

 朝からドッと疲れた。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 加護家の食卓。

 全員揃ったところで朝食を頂く。

 

「もうちょっと優しく起こしてくれてもよかったんじゃない?」

「仕方ないだろ。全然起きない、光さんが悪い」

 

 ハムエッグとトーストを食べながら、光は不満の声を上げる。

 ちゃんとサラダも食えよ。

 

「だからって、私の背中に氷を入れるなんて酷いよ」

「『うびゃあ!』とか言って飛び起きたなw」

「うんうん。天井付近まで飛び上がってたねw」

「えー何それ見たかった」

 

 羊さんは父親の手により簡単に俺から外れた。そのまま洗面所へ連行。

 一方、光は全然起きなかったので、冷凍庫から拝借した氷ブロックを使ってみた。

 作戦は成功。見事、妖怪は退治されましたとさ。

 

「ショック死したらどうするの?コンビ結成二日目で殺す気か!」

「熱湯をかけて溶かすプランもあったんだぞ?氷を選択した俺に感謝しろ」

「司さんの鬼畜!それでも好き!」

「DV旦那に支配されたダメ女かな?」

「誰がDV旦那だ!」

「司さんに人生を狂わされたダメ女…ちょっといいかも///」

「喜ぶな!」

「息ぴったりの夫婦だなあ」

 

 加護親子が面白がって要らぬ発言をする。

 夫婦とか言わないで!

 俺たちはフィギアスケートを続けるために組んだ。

 いわゆるビジネスパートナーである。

 それ以上でも以下でもない。

 

「その態度がいつまで続くか見ものだね」

「は?俺の忍耐力なめんなよ」

「イキった司さんも可愛いね」

 

 いくら光が俺の好みドンピシャの美少女でもなあ。

 小学生に手を出すほど落ちぶれちゃいない!

 一緒に寝た事に今更ながらドキドキとかしちゃいない。

 忍耐力が限界まで削られてやせ我慢もしていない。

 狼嵜光なんかに負けたりしない。

 

「光ちゃんには勝てなかったよ」

「身も心もドロドロに溶かされた司君。光ちゃんをご主人様と呼びながらあられもない姿を」

「俺のバッドエンド想像しないでくれます?」

「ハッピーエンドだよ、司さん」

「お前だけな」

 

 アホな会話を交えつつ朝のひと時は過ぎて行った。

 

 ●

 

 迎えの車が来て、光のおいとまする時間となった。

 運転手は慎一郎さんではなく、奥さんのエイヴァさんであった。

 彼女は俺を見るなり目を輝かせ『娘をよろしくお願いします』と両手でしっかりと握手をして来た。

 以前お宅訪問した時に軽く挨拶した程度なのだが、なんだか異様に好感度が高い気がする。

 光に『どういうこと?』と訊ねると『司さんの人徳だね』と、よくわからない返しをされた。

 

「お世話になりました。一宿二飯のご恩は忘れません」

「またいつでもおいで。光ちゃんなら大歓迎だ」

「今度は私と一緒に寝ようね。司君の面白エピソード聞かせてあげる」

「うん。約束だよ」

 

 加護親子にも光は気に入られたようで何よりだ。

 エイヴァさんと加護さんたちの挨拶も終わり、あとは車に乗り込むだけとなった。

 光がごく自然に抱き着いて来る。

 スキンシップは嫌いじゃないが、一日でこの懐きようはチョロすぎて不安だ。

 加護さんたち三人が『バカップルがいるわ』みたいな目で見て来るので余計に照れる。

 

「それじゃあ、一旦戻るね」

「おう、気を付けて帰れよ」

「またすぐ会えると思うけど、寂しかったらいつでも連絡して」

「わかったわかった。ほら、もう行け」

「お別れのキスは?」

「そこに電柱があるじゃろ」

「無機物としろと!?でも、司さんの命令なら」

「やらんでいい」

 

 嵐のような少女を見送った後、これからの事を考える。

 俺はともかく狼嵜光は有名人だ。

 恐らくだが周囲が騒がしくなるのは避けられないだろう。

 この先のゴタゴタを思うと憂鬱ではある。

 しかし、俺はもう光と歩む道を選んだのだ。

 

「頑張らないとな」

 

 ●

 

 ルクス東山の応接室にて、俺は上役の高峰瞳さんと向かい合っていた。

 昨日から今日にかけて起こった事態、狼嵜光と出会い彼女のコーチを引き受けた事を説明するためだ。

 全てを話し終えると、それまで黙って話を聞いていた瞳さんは深いため息をついた。

 

「司君、あなた疲れているのよ」

「確かに憑かれましたよ。なんかヤバい女の子に」

「今すぐ入院しましょう?いいクリニックを紹介してあげる」

「俺の話、信じていませんね?」

「信じるも何も、話が急展開すぎて妄想だとしても怖いぐらいよ」

「それは確かに」

「大体、司君は狼嵜選手と接点あったのかしら?いのりちゃんの友人兼、強すぎるライバルのはずよね」

 

 それがあったんですよ。

 夜会話で心を抉るような罵倒をされ叫び返すようなイベントがね。

 そんな相手とコンビを組む事になろうとは、人生何が起こるかわからないものだ。

 

「嘘はついていません。昨夜は一緒のベッドで寝て、朝起きたら合体事故を起こしていたんですよ!」

「何言ってるの!社会的に死にたいの!ロリコンだったの!?」

「あいつの体の柔らかさとか、髪の毛のサラサラ具合とか、ちょっと低い体温やメッチャいい匂いがすることも全部覚えています」

「やめなさい!彼女のファンに殺されるわよ。その前に私が裁くわよ!」

「ここまで言っても信じませんか?頑固な人だなあ」

「この男、檻付きの病院に入れないとヤバい。はっ!まさか、いのりちゃんは司君の性癖を見抜いたから…」

「俺がいのりさんをそんな目で見るわけないでしょう!ちょっと変な気持ちになったのは光さんに対してだけです!」

「OK、病院の前に警察に連れて行くわ」

 

 参ったな全然信じてくれないよ。

 これは、光本人を召喚して瞳さんと直接話してもらうしかないか。

 その前に警察のご厄介になることは避けないと。

 汚物を見る目になった瞳さんにどう話を切り出そうか思案していると、彼女のスマホに着信があった。

 『そこを動くんじゃないわよ』と、俺に命令をしてから瞳さんは電話にでる。

 

「お世話になっております。ええ、はい……うえぇ!?いや待ってください、本気で言ってます?あの、彼は今精神的に非常に不安定でして、とてもじゃありませんが……あ、彼女の強い希望で……それでしたら別の者に……え?引退も辞さない覚悟があると…」

 

 瞳さんがとても焦った様子で話をしている。

 俺は瞳さんが誰と話しているか検討がついていた。

 予想通りなら、この後の展開も読める。

 

「今から来るって……鴗鳥先生と狼嵜選手…司君、あなた…やらかしたわね?」

「説明した通りでございます」

「妄想で終わった方がマシだったわ……小学生に手を出した犯罪者め!」

「出してねーわ。むしろ俺が被害者側だわ」

 

 ヒステリーを起こした瞳さんに散々罵られた。

 最近、女性から言葉で責められる事が多い。何かに目覚めたらどうするの?

 

 ・・・・・・・・・・

 

 程なくして光と慎一郎さんがやって来た。

 理凰さんを迎え入れた時以上にスムーズに話が進む。

 二人とも前もって準備をしていたかのような完璧な応答だ。

 

「最後に確認しますが、本当にいいんですね?」

「はい。よろしくお願いします」

「光さんの意思はよく解りました。鴗鳥先生も同意とみなしてよろしいですか?」

「この選択が光の為になると信じます。司先生ならば安心して、この子を任せられる」

「きょ、恐悦至極に存じます」

 

 慎一郎さんの評価が高くて嬉しいやら畏れ多いやら。

 夫婦そろって俺のこと信頼し過ぎじゃないですかね?

 理凰さんによって美化された話を聞いて過大評価されていなければいいが。

 

 必要書類にサインを終え問題がないことを確認した瞳さんは、経営者としての顔つきになる。

 まだ少し戸惑っているようだが、彼女も覚悟を決めたようだ。

 

「狼嵜光さんの移籍を承認します。ようこそルクス東山FSCへ」

 

 狼嵜光、名港ウインドFSCからルクス東山FCSへ移籍完了。

 揉める事なくアッサリと終わってしまった。

 光ならここまでの展開を読んで根回しをしていたとしても、別に驚かない。

 短い付き合いだが、こいつならそれぐらいやるという妙な信頼がある。

 

「やったね、司さん。教え子が増えるよ」

「その言い方、何か激しく嫌だわ」

「司先生。光を、娘をどうかよろしくお願いします」

「やめてください。理凰さんの時も思いましたが、俺はあなたに頭を下げらるような人間では…」

「何卒、何卒お願い致します」

 

 慎一郎さんの腰が益々低くなってしまう。

 いやいやいや!憧れの銀メダリストに平身低頭させる俺ってば何様だよ!

 この状況を作り出した元凶がニコニコしているのがすごく癇に障る。

 

「光さん、慎一郎さんを止めてよ。申し訳なさすぎて辛い」

「結婚前の挨拶、そのリハだと思って頑張って」

「頑張れるか!」

「司君、責任を取らずに逃げるつもり?このやり逃げ野郎!!」

「やってねーわ!?」

「今後に期待だね」

 

 期待するなバカ。

 慎一郎さんにペコペコされ、瞳さんには罵倒され、光にまとわりつかれた。

 もう昨日からずっとこんなのばっかりよ。

 

「いつから来れる?」 

「明日は予定があるから、最短で明後日からかな」

「了解。それまでに諸々の手続きをやっておくか」

「司さん、明日は家にいてよ。事務処理なら家でもできますよね、瞳先生?」

「そうね。こっちは問題はないわよ」

「決まり。そういうことで、司さんは家で羊ちゃんたちと待機すること。わかった?」

「なぜお前が俺の仕事を割り振るのか疑問だ」

「ふふ、さっそく尻に敷かれるいるな、司先生」

 

 慎一郎さん!?

 あの、本気困るのでやめてください。

 俺と光を保護者公認カップルみたいにしないで。

 

「嬉しいくせに~」

「往生際の悪い男はみっともないわよ」

「くそっ!全員敵か」

 

 ルクス東山に光が来ることに決定。

 この日はこれで解散となった。

 別れ際に光はまた抱き着いて来たが好きにさせておいた。

 下手に抵抗すると面倒臭いのだと学んだ俺です。

 

「お別れのキスは?」

「そこに瞳さんがおるじゃろ」

「え?」

「電柱じゃないだけマシなの?でもでも、初めてのチュウが同性って……もう!旦那が性癖豊だと苦労するよ////」

「なるほど。司先生は性癖豊なのか…さすがだ」

「慎一郎さん。バカ娘の戯言を真に受けてはダメです」

 

 何がさすがなのか全くわからない。

 娘さんに全幅の信頼を寄せるの改めた方がいいですよ?

 

「ちょ、光ちゃん!?迫って来ないで、イヤァー!私既婚者なのー!」

「フフフ、嫌よ嫌よも好きうちってね」

「キス魔に制裁を加えます。よろしいですね?」

「夫婦間の問題に私は口を挟まない。司先生に任せるよ」

 

 だから夫婦じゃないって!

 瞳さんを襲おうとした光は関節を決めて大人しくさせた。

 『痛気持ちいいぃ!』とか言って喜ぶので、引いた。

 

 ●

 

 翌日、加護家にて。

 頭の痛くなるようなサプライズを受けた。

 開いた口が塞がらないを体験してしまった。

 

「今日からお世話になります。ふつつか者ですが、どうかよろしくお願いしますね」

 

 狼嵜光がとびきりの笑顔で挨拶をした。

 またいつでも来ていいと言ったが、昨日の今日だぞ。

 しかも・・・

 

「引っ越して来るなんて聞いてない!」

「言ってないからね」

「サプライズだからね」

「司さんドッキリ大成功~」

 

 『イエーイ!』と言ってハイタッチする三人。

 マジかよ、加護さんと羊さんもグルだったなんて。

 いつの間に?

 昨日の短い時間で家主を説き伏せ、引っ越しまでやるか普通?

 この様子では鴗鳥夫妻からの許可も取っているのだろう。

 甘かった、光の行動力を甘く見ていた。

 こいつ、一度走り出したらとことんまで追求するタイプだ。

 

 作業着の業者が手際よく家具を搬入していき、いくつかの段ボール箱を残して光の引越しは早々に完了した。

 光の部屋は、俺が使っている部屋の隣に決定した。

 空き部屋だったそこを、加護さんたちが早朝から掃除をしていた理由が今わかった。

 

「これでずっと一緒だね」

「もうどうにでもなれ」

 

 光の包囲網に戦々恐々としながら、俺は諦めの境地に達していた。

 ま、退屈はしなさそうだな。

 

「羊ちゃん。仲良くしようね~」

「うん。光ちゃんが来てくれて嬉しい!」

 

 羊さんも喜んでいるし、加護親子が納得しているなら俺は何も言うまい。

 

「加護さんも大胆な事をしてくれましたね」

「光ちゃんにどうしてもってお願いされてちゃって、司君にも彼女が必要だと思ったからさ」

「……すみません。いつもいつも」

「謝る必要はないよ。家族が一人増えたんだ。とても喜ばしいことじゃないか……芽衣子ならきっとそう言うだろうね」

「ありがとう…ございます」

 

 大らかな加護さんにはいつも助けられてばかりだ。

 この人に俺は一生頭が上がらない。

 

「でも司君。これだけは言っておくよ」

「な、なんでしょうか?」

 

 急に姿勢を正し真面目な声色を出す加護さん。

 何か重要な事を伝えようとする雰囲気に、俺も身構える。

 

「避妊はちゃんとしてね////」

「ぶっ飛ばしますよ」

 

 その日、光の歓迎パーティー(二日目)が開催された。

 食事はもちろんお寿司だった。

 

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