光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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これはネコですか?

 どうも、明浦路司です。

 突然だが、みんな筋トレは好きかな?

 俺は大好だぁ!!

 筋肉は己を決して裏切らない。

 鍛えれば鍛えるほど大きく強くなっていく最高の友である。

 さあ、みんなも楽しく筋トレ始めようぜ!

 適度な休息を入れながら、超回復でムキムキのバッキバキになろうじゃないか!

 

「そういうわけで、本日は筋トレ中心のトレーニングをやっていくよ」

「どういうわけか、さっぱりわからないよww」

「先生が俺たちのために考えてくれたメニューだ。成し遂げてみせる」

「理凰は元気だなぁ」

 

 スケート場内にあるフィットネスルームにて、俺は教え子たちと共に筋トレ励むことにした。

 会員制のジム並みに揃えられたトレーニング器具を使って全身を鍛えていこう。

 それにしても、このスケート場なんでもあるよな。

 受付が呪術師な時点で大分おかしいけど、運営資金の出所とか闇が深そうだ。

 

「二人ともイイ感じだ!続けて!いいよ!筋肉が喜んでるよ!」

「ぐぎぎぎぎぎ!」

「ふぬぬぬぬぬ!」

 

 歯を食いしばりながらマシントレーニングを続ける二人が微笑ましい。

 ふむふむ。光も理凰君も中々筋がよくってよ。

 これは鍛えがいがありそうだ。

 一通りの器具を使ってみた後は、ストレッチエリアでの腹筋運動へと移行する。

 シットアップ500回を3セットぐらいでいってみようか。

 

「ほら頑張れ!できる!お前たちなら絶対できるって!」

 

 2セットに入った頃から二人のスピードがガクンと落ちたので、やる気を出させるためのエールを送る。

 その間も自分の動きは止めない。俺は既に5セットを消化中だ。

 

「俺も…先生みたいな…マッスルボディに…なって…やるんだぁぁーーー!!」

 

 理凰君の気合がすごい。

 やる気のある子は見ていて気持ちいいいな。

 

「ふ、腹筋割れたら…司さんに…お腹撫で回してもらう…約束…なんだからぁぁーー!!」

 

 光の煩悩がすごい。

 した覚えのない約束は守らないからな?

 

「あとちょっとだ!二人ともラストスパート!」

「も…うごか…な…」

「お腹…つりそ…う…」

「唱えろ!そして俺に続け!ヨダカジュンがなんぼのもんじゃい!」

「「ヨダカジュンがなんぼのもんじゃぁぁーーいぃぃ!!」」

 

 魔法の言葉で限界を超えた二人は見事、腹筋運動のノルマを達成した。

 

「教え子の腹筋割るの楽しすぎる!」

 

 もうルクス東山の子供は全員シックスパック標準搭載にしたらいいんじゃね?

 

「ヤレヤレ…司さんの筋肉フェチには困ったものだよ」

「さすが先生だ。未来を見据えた考えに敬服します」

「理凰の狂信っぷりが怖い」

 

 筋肉をいじめ抜いた後は、ストレッチをして体を休める。

 

「聖者ヴィシュヴァーミトラのポーズ!」

「うわぁ!どうなってんだそれ」

「人体ってそんな風になるんだ……キモw」

 

 体の柔らかい光がヨガの超上級ポーズを決めたのでビックリした。

 ヨガも嗜んでいるとは、やるじゃないの。

 夜道であったらホラゲーのクリーチャーにしか見えない。

 

「いのりー!いのりはどこおるのー?」

 

 三人で和気あいあいとしていると、威勢のいい声が響いて来た。

 

「なんだか、うるせーのがいるな」

「こっちに来るみたいだよ。狩っていい?」

「待て、この声は…」

 

 とりあえず狩ろうとするな。

 急に攻撃的な側面出して来る、光ちゃんが怖い!

 そうこうしているうちに、声の主は扉を開け放ちフィットネスルームに入って来た。

 

「見つけただに!ってここにもおらん…いのり~」

「三家田さん?」

「なんだ、化け猫娘か」

「可愛い子だね。二人の知り合い?」

 

 現れたのは猫耳のような特徴的な髪型をした少女だった。

 勝気そうな瞳が揺れ動き、探していた人物がいないとわかり落胆している。

 

「くぉらぁ!ミケ太郎!人様の縄張りで走り回るんじゃない!」

 

 続いて登場したのは、ヤンキーっぽい風貌のこれまた元気な女性。

 

「ナッチン先生!ご無沙汰しております」

「え、誰?……まさか…司先生?」

「そうですけど、何か?」

「うえぇ……人相変わってる。なんか、ガラ悪くなりましたね」

「まあ、いろいろあったんで」

 

 二人とも俺と理凰君に面識のある人物だった。

 グラビティ桜通FSCのヘッドコーチ那智鞠緒(なちまりお)、通称・ナッチン

 その教え子である三家田涼佳(みけたりょうか)、通称・ミケちゃん

 

 そういえば今日は合同練習があるという話だったな。

 

「んん?いのりのコーチ?……こんな奴だったか?」

「ミケ太郎!失礼だろうが!」

「いいですよ。久しぶりだね三家田さん、元気にしていたかい?」

「見ればわかるら。それより、いのりは?ねえ、いのりはどこ?」

「いのりさんは…いのりさんはね…い、いの…り…さんは…」

「???」

 

 三田家さんはいのりさんと仲良しだった。

 それはもう、見つけたらベッタリくっついて放れないほどの……

 あの頃の俺は、まさか自分がこんな風になるとは思わなかった。

 ガッカリするだろうけど、ちゃんと言わなければ。

 

「ごめんね。いのりさんはもう、ここにはいないんだ」

「にゃ、にゃぁぁにぃぃーーー!?!?」

 

 ●

 

 いのりさんがいない事で三田家さんは大きなショックを受けた。

 そして生来の気性の荒さから癇癪を起してしまう。

 

「どういことだに?なんでいのりがおらんだら!」

「前もって説明しただろ。いのりちゃんは東京に行ったんだよ、話聞いてなかったのか?」

「ナッチンの冗談だと思ったでね。まさか本当だとは思わんらあ?」

 

 ナッチン先生と口喧嘩を始めてしまった。

 なんか悪い事をしたな。いのりさんが去って行った原因は俺だし……

 納得のいかない三家田さんは俺をキッと睨みつける。

 

「大人の癖に、コーチは何をしとったんだら!」

「……申し訳ない」

「いのりに何かしたのか?全部コーチのせいなんか!」

「そうだ、全て俺の責任だ」

「だったら!こんな所で何をしとる!今すぐ連れ帰って来るべきら?」

「それは、できない。いのりさんとはもう、別の道を歩んでいる」

「ミケ太郎!いい加減にしろ!司先生にも事情があるに決まってるだろ」

 

 俺を責める三田家さんの言葉に項垂れることしかできない。

 最近、ようやく吹っ切れたと思ったけど、まだ傷は癒えていないようだ。

 

「チッ!情けない大人だで、そんなんだから…」

 

「いのりに捨てられたんだに!!」

 

 三家田さんの言葉は鋭利な刃となって俺の傷口を抉った。

 思い出したくない光景が、脳にフラッシュバックする。

 

「あば、あばばばばばばばばばばば」

 

 メンタルをやられた俺は奇声を上げてその場に倒れた。

 ダメだ…俺ぁもうダメだぁ……

 猫娘の言う通り、いのりさんに破棄された生ごみ以下の男なんだ。

 

「うわっ、キンモー!なんだこいつ!?」

「先生!しっかりしてください、先生!このバカ猫!何してくれてんだぁ!!」

「司さん!落ち着いて私を見て、大丈夫、大丈夫だからね?」

「一体何が…ミケ太郎、お前地雷を踏んだみたいだぞ」

 

 そうです俺がキモいおっさんです。

 理凰君、俺なんかのために怒らなくていいよ。

 光、お前はいつ見ても可愛いな…どうか幸せになって…くれ…

 ナッチン先生、飼い猫のしつけはちゃんとしてください。

 

「フンッ、ミケ悪くないし。悪いのはいのりに捨てられた、この男だら」

「すてられたねこですよろしくおねがいします」

「先生が危険な状態に!?光!その害獣を黙らせろ!」

「OK!狩りの時間だ」

 

 暴言を吐き続けたネコの前にオオカミが立ち塞がる。

 

「ミケ太郎ちゃんだっけ?」

「あん?なんだらお前は!!」

「これ以上、私の大事な人を傷つけたら……壊すよ?」

「やる気かぁ!ミケ、ケンカで負けた事ないでね。泣いてもしらんし」

「おい嘘だろ…そんなまさか…止めろミケ太郎!!その子に手を出したらアカーン!!」

 

 黒髪の少女が誰なのか理解したナッチンは戦慄する。

 どうして彼女がここに?いや、そんなことよりミケ太郎が危ない!

 だが、彼女の警告はあまりに遅すぎた。

 

「狼嵜流制圧術!五六(ゴロ―)ノ型・阿々無路苦(アームロック)

「ぎにゃぁぁぁーーー!?!?」

 

 一瞬で間合を詰めた光は、ミケの腕を捻り上げ肘関節を極めてしまった。

 ミケの絶叫が部屋中にこだまする。

 

「折れる!折れる!おれるぅっっーー!?」

「折るね☆」

「謝れミケ太郎!今なら腕一本ですむ。全身折られる前に謝るんだぁ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」

「あ~~~聞こえんなぁ~!!」

 

 光は嗜虐に満ちた表情で負荷をかけ続けた。

 泣きながら許しを請う哀れなミケ。

 自分は敵に回してはいけない奴を怒らせたのだと、痛みと恐怖の中で彼女は後悔した。

 

「そこのメガネ君なんとかしてくれ!このままじゃミケ太郎が再起不能になる」

「阿々無路苦、謎の美食家ゴローが態度の悪い店員を懲らしめるために使用した奥義『それ以上いけない』という呪文を唱えるまでは決して解除されないという…フッ、光のやつまた腕を上げたな…」

「誰が技の解説をしろって言ったよ!」

「ねこはいます。ねこはどこにでもいます」

「お願い司先生戻って来て!オオカミを止めてぇ!」

「じぶんのせいですよ。あとはよろしくおねがいします」

「司先生~!」

「もうめんどくさいです。よろしくおねがいしました」

 

 騒ぎを聞いて駆け付けた瞳さんが事態を収拾するまで、ミケとナッチンは泣き叫んだという。

 ねこはいました。

 

 ●

 

「スゥー…ハァー…スゥー」

「そうそう、ゆっくりでいいからね。はい深呼吸~」

「スゥー…ハァー…」

 

 猫娘に何かを言われてから少しの間、記憶が欠如している。

 トラウマを刺激された俺は発作を起こして錯乱状態だったらしい。

 鬼の形相で現れた瞳さんが光の頭をハリセンでブッ叩いて止めた、それはそれは見事な光景だったと、理凰君から教えてもらった。

 そしてなぜか俺もブッ叩かれて目が覚めた…

 監督責任不行き届きだって怒られちゃったよ。

 

 今はお薬を吸入して心を落ち着かせている最中だ。

 

「アレは何をしているん?」

「治療の一環だ。司先生は光を吸うことで精神の均衡を保とうとしている」

「うん、まったく意味がわからん」

「はぁ?大の男が女の子に抱き着いて匂い嗅ぐとか…変態だで」

「ミケちゃん?何か言ったかな?」

「何も言っておりません!光様は司先生の治療に専念してください!」

「絶対服従になってるww」

 

 腕を折られる直前で解放されたミケは、その恐怖から光に隷属することにしたらしい。

 ナッチン先生は教え子が無事だったことに安堵し、ミケと一緒になって謝って来た。

 やる事やって去り行く瞳さんから、いのりさん事件の顛末を聞いた二人は俺に同情を示してくれた。

 

「司先生…いろいろ言ってごめん。ミケ、いのりがおらんって聞いて、ついカッとして…ごめんなさい」

「もういいよ、三家田さんの気持ちもわかるし。それより、うちの光がごめんね。腕大丈夫?」 

「平気だに。光様が手加減してくれたでね」

「えっへん!」

 

 誇らし気に『えっへん』している光を褒めてもいいのだろうか?

 いくら俺のためとはいえ、相手の腕をへし折ろうとするのは良くない。

 暴力をふるって"いい"のは、異教徒と化物だけだと、偉い神父さんも言っているのだ。

 え?化け猫だった……なら仕方ないね!

 

「やり過ぎるなよ…スゥー…ハァー…もしゃもしゃ…」

「先生!?光の髪を咀嚼してはダメです!そんなもん食ったら腹壊しますってば!」 

「あ、あぁ、私の髪の毛が愛する人の一部に…なんという喜び///」

「ミケ太郎よく見ておけ、人間ああったならお終いだよ」

「光様、バレンタインチョコに異物混入してそう」

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 合同練習ということで、三家田さんも筋トレに参加してもらう事になった。

 

「ふんぬっばら!!」

「お!これを上げるか、やるねぇ三家田さん」

 

 目標重量以上のバーベルを上げた三家田さんに、思わず感心してしまった。

 小さな体に似合わない優れた身体能力、何よりも彼女は負けず嫌いで根性がある。

 この子も鍛えがいがありそうで、オラわくわくすっぞ。

 

「……ふっ……ミケならこれぐらい当然だら。司先生、次は?」

「やる気十分だね。待ってて、今、三家田さん用のメニューを脳で練り上げているから」

「『さん』なんて言わんでええし、先生の好きに呼べば」

「いいの?いのりさんに捨てられたゴミクズ野郎なのに、本当にいいの?」

「結構根に持ってるら!?」

 

 酷い事を言ったお詫びのつもりなのだろう。

 だったら遠慮なく呼ばせてもらおうかな。

 

「わかった。よろしくな、太郎」

「なんでそっち!?残すならミケの方らあ?」

「じゃあ、ミケランジェロで」

「ルネッサーンス!ってそれもちがうだら!?」

 

 この子、イジると面白いな。ナッチン先生の気持ちが少しわかった。

 好きに呼べと言った癖に、太郎もミケランジェロも嫌みたいなので、素直にミケと呼ばせてもらおう。

 

「み、ミケ太郎がデレた!?」

「先生はもっとヤバイ餓狼も従えているんだ。たかが猫一匹、朝飯前だろ」

「ぐぬぬ…司さんが私以外の女と楽しそう…腹立つからナッチン先生の胸揉んでいい?」

「好きにしろよ」

「おいメガネ、なんで勝手に許可を出した!?」

「揉ませてやってくださいよ。それで光が大人しくなるなら安いもんでしょ?」

「司先生だけじゃなく、キミらも大概どうかしてるな!」

 

 筋トレで汗を流した後は、氷上を滑ることにする。

 あのまま筋肉を鍛え続けていたら、スケーターからボディビルダーに転向するところだったぜ。

 それもいいかもと一瞬思ったけど、ガチムチの光やミケちゃんは正直見たくない。

 女の子はムキムキより、しなやかで美しい体形が好みだ。

 ()ムキぐらいがベストだな。

 

「今のジャンプどうでした?」

「すごくいい!前より格段にうまくなってますよ」

「ありがとうございます。やっぱり、ジャンプ練習はナッチン先生に教わるのが一番ですね~」

「うんうん、私も教え甲斐があって……なんで!私が司先生を教えとるんじゃい?」

「ノリツッコミもお上手です」

 

 俺はナッチン先生にジャンプのコツなどを教わっていた。

 現役時代、四回転サルコウを跳んだ事もあるナッチン先生の指導はすごく解りやすい。

 同時にいのりさんが全日本ノービスで四回転を成功させたのが、奇跡のような出来事だったのだと実感できた。

 俺は三回転すら難しいというのに…

 

「私が直接、光ちゃんたちに教えた方が早くないですか?」

「まあ、そうなんですけどね。俺も上達しなければならない理由がありまして、申し訳ないですが、先に俺から指導して頂ければと」

「司先生のお考えはわかりませんが、子供たちのためになるなら協力は惜しみません」

「ありがとうございます。ナッチン先生、好き///」

「ひぃぃ!唐突に告らないで!そ、そうやっていろんな女性に好き好き言ってるんでしょう?」

「ええ、まあそうですね。何かおかしいですか?」

「この男…やはり壊れてやがる」

 

 いい女に好意を伝えるのは挨拶みたいなものだ。

 俺は羊さんにも瞳さんにも、よく行くスーパーのおばちゃん店員にも伝えている。

 光には…まあ…そのうち……

 

「司先生を教える、その代わりと言っては何ですが、ミケ太郎を光ちゃんとメガネ君の練習に混ぜてやってください。あいつアレでも仲間に飢えているんでw」

「承知しました。仲良くするように言っておきます」

 

 俺とナッチン先生がジャンプ練習をしている頃、教え子三人も交流していた。

 

「光様、三回転ルッツ跳んで!三回転!」

「ミケちゃん…もう様付けはいいよ。ビビられ過ぎて飽きた」

「わかったで、ヒカルー!三回転ルッツ見たい!」

「いいけどさぁ。ミケちゃん懐いたらグイグイ来るな…」

「光、跳ぶならMPの残量に注意しろよ」

「え?私MP消費しながら跳んでたの!?0で跳んだら失敗するの?」

 

「まさかここでナッチン先生に会えるとは」

「お前、那智先生のこと知っていたのか?」

「うん。女子ノービスの間では伝説の人だよ」

「ナッチンはボイン過ぎてジャンプ跳べんくなったって有名だでw」

「マジか!いや、確かにでかいな…」

「チッ、男って奴はどいつもこいつも脂肪の塊に夢中か!司さん、私ので満足してくれるかな?」

「ナッチンはよく牛乳飲んどるでね。ミケも真似しとるよ」

「牛乳か……」

「お前ら、跳べなくなってもいいのか?」

「揺らしながら跳べば問題ない!」

「サービスカットインだにー!」

 

 俺が何か言うまでもなく光たちは仲良くなっていた。

 順応性が高いのも、この子たちの美点だよな

 

 ●

 

 本日の練習を終えて生徒たちは各々解散していった。

 最初こそバタバタしたけど、ナッチン先生たちとの合同練習は概ねうまくいった。

 他クラブとの交流は新鮮でよい刺激になるんだよな。

 去年の夏合宿を思い出したよ……今年は、どうなることやら…

 

「じゃあ司君、あとをよろしくね」

「はい。お疲れ様でした」

「ふふ、ナッチン先生と飲むの久しぶりだわ~今日は朝まで語り合うわよ」

「女死会ですか。ほどほどにしてくださいね」

「もう女子だなんて!そんな年齢じゃないわよw」

 

 女()のニュアンスが伝わらなかった。

 普段なら速攻で突っ込んで来るのにな。こりゃ相当浮かれてるぞ。

 今夜、瞳さんはナッチン先生と飲み会の約束をしているらしく、機嫌よく帰って行った。

 俺も雑務を片付けたら早く帰ろう。

 今日は耕一さんが遅くなる日なので、夕飯は俺が用意する。

 腹を空かせた子供たち待っているからな、買い物をしてから帰ろう。

 

「ただいまー」

「お帰り~。お仕事お疲れ様~」

「司さん、お帰りなさい。荷物預かるね」

「お帰りだでね。お腹すいた~」

 

 ヒュー!美少女たちのお出迎えで仕事の疲れもぶっ飛ぶぜ!

 俺は幸せ者だなぁ。

 はいはい、今すぐご飯にしますからね~。

 三人ともちょっと待ってて……三人?

 

「あ、そうだ。見て見て司さん!でかいネコ拾ったwww」

「ねこだでね。よろしくおねがいしますだら」

「今すぐ返して来なさい!!」

 

 なんでミケが家にいるんだよ!?

 

「どういうことですか!先生?ナッチン先生!アンタ酔ってるだろ、何?瞳さんも承諾済みって、俺は許可してねぇよ!あ、おい切るな……クソッ、あのへべれけ女死どもめ!!」

 

 電話をかけたけど酔っ払いどもは『俺に任せたw』と抜かして役に立たない。

 スケート場の外に出てもミケが光を記憶している事から、瀬古間さんもグルだと考えられる。

 だとすると・・・俺は家の持ち主に電話をかけた。

 

「もしもし耕一さん?今、家に人型のネコがいてどう対処していいか…え?瞳さんから聞いてる?一晩ぐらいいいだろって…そうやって甘やかした結果、とんでもない奴が住み着いたの忘れたんですか!こっちは食べ盛りのヒツジとオオカミがいるんですよ!ネコまで面倒見切れませんよ。どうせ全部俺に押し付ける気でしょ?多頭飼い反対!…………チッ、逃げたか」

 

 『あー電波が悪い~』とか言って電話を切られた。

 残念ながら、耕一さんもグルであった。

 家主が許可しているなら俺は従うしかない。

 食材、多めに買ってきて正解だったな。

 

 アニマル娘たちが俺の判断を待っている。

 上目遣いでジッと伺うのやめて!可愛すぎて悶えそうになるわ!

 

「一泊だけだ。明日になったらナッチン先生に迎えに来させる、それでいいな?」

「やった!司さん、愛してる!」 

「ミケちゃん、よかったね~」

「お世話になるでね」

 

 三人が遊んでいる内に夕飯を作ってしまおう。

 羊さんのために、女子ウケしそうなメニューは一通りマスターしたつもりだ。

 玉子が安売りしていたのでメインはアレで決定、付け合わせにサラダとスープも準備してっと…

 

「すごっ…コレ、本当に司先生が作ったの?」

「ふふん。司君の料理は下手なレストランより美味しいんだよ」

「料理上手な旦那様って素敵///」

 

 料理の工程が終盤に差し掛かると、腹ペコたちが匂いに釣られてやってきた。

 配膳を終えて今から最後の仕上げだ。

 

「ん?チャーハン完成したんじゃないの?」

「バターライスだよ。この上にチーズオムレツを乗せて、縦に切れ込みを入れて広げると…」

 

 トロトロの中身がチーズと共にバターライスの上に展開された。

 うむ、イイ感じだ。

 期待に満ちた少女たちの目がキラキラを増して来ている。

 

「あ!お店で見た事あるヤツだ!おいしそう~」

「ふわっとろっのオムライスだで!!」

「まだ終わりじゃないぞ。トドメにデミグラスソースをかけて、完成だ!」

「「「きゃぁぁぁ!!めっちゃ美味そう!!!」」」

 

 全ての皿に同じ仕上げを施した。

 テンションMAXの女子たちが、待ちきれないとばかりに席に座る。

 早く!早く!と俺の号令を待つ姿がなんだか可愛い。

 みんなちゃんと『待て』が出来て偉いぞ。

 

「よし、いただきますだ」

「「「いただきますっ!!!」」」

 

 スプーンを手に取り一口…‥うん、まずまずの出来だな。

 今度は、昔ながらのケチャップライスで作ってみようかな。

 街中華のオムライスを参考にしてみよう。

 

 羊さんと光は『美味しい』を連呼しながらオムライスをパクパク食べている。

 見ていて気持ちのいい食べっぷり、作った甲斐があるってもんだ。

 

「おいしいか?」

「……っ‥‥っ!」

 

 ミケは食べるのが忙しいのか、俺の問いにコクコク頷いている。

 感想を言う暇も惜しいぐらい夢中になってくれて嬉しいよ。

 みんな慌てずによく噛んで食えよ。おかわりもあるからな?

 

 全員のお腹が満たされて一息ついた頃。

 食後のお茶を飲んでまったりしていると、ミケが口を開いた。

 

「司先生…‥ナッチンと結婚してやってくれんね?」

「ブーーーッッッ!!!」

「光ちゃん!?」

「なにやってんだぁ!?」

 

 光がお茶を盛大に吹き出した。

 お前、可愛いからって何でも許されると思うなよ?

 もう掃除が大変じゃないか…俺たちにぶっかけなかったことだけは褒めてやる。

 

「ご、ごめん。ミケちゃんが、いきなり変なことを言うから」

「ん?司先生は家事得意みたいだで、ズボラなナッチンにはピッタリだと思って」

「あのねぇ…司さんは既に売約済みなの!私が予約してるんだから!」

「そんなの知らんで、大体、ヒカルと先生じゃ歳が離れすぎとる」

「愛があれば歳の差なんて関係ないの!そうだよね、司さん!」

「羊さん、お風呂入っておいで」

「はーい」

「あ、逃げたで」

「つかささぁぁんんん!!」

 

 俺はノーコメントを貫いて、三人娘を風呂へ送り出した。

 加護家の風呂は大きいので子供三人ぐらいなら余裕で入れるのだ。

 耕一さんのこだわりが詰まった、最新型の風呂は俺もすごく気に入っている。

 後片付けをしていると、風呂場から楽しそうな声が聞こえて来た。

 女三人寄ればかしましいとは、よく言ったもんだ。

 しばらくすると、風呂上りの三人がやって来た。

 三人ともしっとりホカホカである。

 

「お先に~」

「ふぃ~いいお湯だった。司さん、いつものお願い」

「あいよ。ひとりづつ、そこに座れ」

「何が始まるん?」

 

 今日は羊さんからか。

 準備していたドライヤーとヘアブラシを持って椅子に座った羊さんの下へ。

 髪を乾かしてブラシで整えていく。

 もう、何回も行った作業なので手際よく事を進めて行ける。

 

「そろそろ自分で出来るようにならないと」

「むー、司君にしてもらうのが一番なのに」

 

 羊さん、めんどいから美容師と結婚するとか言い出しかねないな。

 やればできる子なのに、やる気がないのが玉にキズ。

 いざとなったら渋々ながらもやってくれると信じてるからね。

 はい、いっちょ上がり!次は光だ。

 

「今日もいい艶してやがる」

「そう?自分じゃよくわかんないなあ」

 

 長い黒髪はいつ見てもツヤツヤサラサラでハリとコシも十二分ある。

 まさに極上の髪質だ。

 髪の毛フェチのサイコパスに狙われたりしないだろうな?

 ブラシの通りもいい……よし、完了だ。

 

「ありがと。ほら、次はミケちゃんの番だよ」

「待たせたな。こっちにおいで」

「ええの?じゃ、じゃあお願いするで」

 

 ちょっと緊張しているのか、おずおずと椅子に座るミケ。

 先の二人に比べ髪は短いけれど、よく手入れが行き届いている。

 髪型にこだわりがあるみたいだし、自分でちゃんとしているんだな。

 羊さんと光にも見習ってほしい。

 

「猫耳失ってますよww」

「ドラえもんじゃないでww」

「もしかして、普段高いシャンプー使ってる?」

「わかるら?親が通販で仕入れてくるでね」

 

 ミケもすっかり打ち解けてくれたみたいだ。

 俺には心を抉られた相手に懐かれるジンクスがあったりするのか?

 

「先生、いつもこんな事やっとるの?」

「ま、時間があればな。好きでやっているから苦じゃないよ」

「やっぱり、ナッチンと結婚せんね?」

「その話やめよう。オオカミがすっごい目で睨んでるから、視線だけで殺されそうだから!」

「……ナッチン、おっぱいでかいで」

「へぇー特に興味ないけど、一応詳しく聞いておこうかな」

「司さんのバカ!育ちきった胸より、これから育つ胸の良さに気付いてよ!」

「そうだそうだ!」

 

 ちょっとナッチン先生の胸に反応しただけなのに…

 機嫌を損ねた光が抗議して来て、羊さんもそれに乗っかる。

 ちょ、脇腹をつんつんするのだめぇー。

 

 三人の髪を整えてから、日課の筋トレを行い入浴を済ませる。

 構ってほしい三人の相手をしつつ、家事をこなし明日の準備をしておく。

 今日持ち帰った仕事は特にないけれど、トレーニングの記録をまとめて…

 

 ・・・・・・・・

 

 いろいろやっているとすぐに時間が経つな。

 少し前から家の中が静かだけど、三人はもう眠ったのか?

 リビングにはいない、羊さんもの部屋も光の部屋も、もぬけの殻だった。

 耕一さんの部屋も同様である。

 

「やっぱりここか…」

 

 俺の部屋のベッドで三人が身を寄せ合って眠っていた。

 キミたちなんでいつも俺のベッド占領するの?

 『お前の席ねぇから!』の派生形なの?

 起こすのもかわいそうだし、このまま寝かせてあげよう。

 三人が風邪を引かないように、はだけた布団をかけ直しておく。

 

「なんなのこの子たち、天使の寝顔じゃない///」

 

 愛くるしいを限界突破した三人が俺のベッドでスヤスヤ眠っている。

 その姿はまさに天使だ!眼福眼福!

 あぁ~~心が癒されるんじゃぁ~~。

 実際はオオカミとヒツジとネコだけど、可愛いからいいや。

 ……これぐらいは役得だよな。

 俺はそっとスマホを取り出して三人の寝顔を撮影した。

 この写真は俺だけの宝物にする。ナッチン先生と耕一さんに自慢してやるわ!

 

「おやすみ…いい夢見ろよ」

 

 三人の頭を一撫でして部屋を後にした。

 今夜もソファで眠ることになりそうだ。

 

 ●

 

 翌朝、酔いが冷めたナッチン先生が平謝りしながらミケを迎えに来た。

 

「すみませんすみません!ほんっっとに!ご迷惑をおかけしました」

「気にしていませんよ。急な話でしたが、光たちも楽しそうだったんで良しとします」

「ナッチン、司先生に感謝するでね」

「わ、わかってるってば。それよりミケ太郎!ちゃんといい子にしていたか?」

「ナッチンを嫁にしてくれって言っておいたでの」

「このド阿呆!余計なことをすんな!」

「司先生、料理すごく上手いし、他の家事もバッチリよ。子供の扱いも得意で育児にも向いとるわ」

「え?その話、詳しく…」

「ナッチン先生…そろそろ帰った方が、いいんじゃないですかねぇ?ご自身のためにも…」

「ひぃ!笑顔からにじみ出る殺意の波動!?」

 

 ステイ!ナッチン先生を威圧するのやめなさい。

 光を制止すると、例の頭グリグリをして来たので好きにさせておいた。

 

「ほら、帰るよミケ太郎。挨拶しときな」

「ヒカル、ヨウ、司先生もありがとう。ミケ、すっごく楽しかったでね」

「こちらこそだ。仲良くしてくれてありがとな」

「ミケちゃんまたね~」

「次は氷上で会おう、わが友よ」

「なんだそのキャラ付けw」

 

 少女たちの友情にほっこりした。

 突然の猫娘来襲には驚いたけれど、結果的には良いイベントだったと思う。

 楽しそうな光たちを見て、俺も癒された。

 さあて、今日も頑張りますか!

 

 ・・・・・・・・・・

 

 俺は良くも悪くも変わった。

 悩んだり悔やんだり、いろいろあったけれども、今はこれで良かったのだと思える。

 それもこれも、俺を導いてくれた光のおかげだ。

 彼女と共に騒がしくも楽しい日々は過ぎていく。

 そして季節は巡り……少女はまたひとつ大人になる。

 

 狼嵜光は中学生になった。

 

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