光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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いのりちゃんと夜鷹先生②

 夜鷹純をコーチにして、私は東京へ旅立つことを決めた。

 

 両親の説得、クラブを移籍するための諸々の手続き、急な話で大変だったはずなのに、とんとん拍子に事は進んだ。

 移籍先のスターフォックスFSC、そこのヘッドコーチである、ライリー先生がいろいろ手を回してくれたおかげである。

 やり手のライリー先生と違い、夜鷹先生はまるで役に立たなかった。

 下宿先は東京で暮らしている、姉の実叶を頼ることにした。

 モデル事務所が用意してくれたマンションは、部屋を持て余し気味で大歓迎された。

 あれよあれよという間に、私の東京暮らしはスタートしたのである。

 

「待ってたよ、いのりん。スターフォックスFSCへようこそ~」

「ライリー先生。お世話になります」

 

 ライリー先生は女子シングルアメリカ代表選手として、弱冠16歳で金メダルを獲得した傑物だ。

 現役時代とコーチ時代の両方の実績に裏付けされた自信に満ち溢れた不敵なタイプ。

 見た目は、美しい金髪のクールビューティ。

 人懐っこくフレンドリーな性格で、表情や態度がコロコロ変わるのも魅力的な人だ。

 

「いのりんが来てくれてとっても嬉しいよ。ヨダカ君もいるし、私の人生ノリに乗ってるのを感じる~」

「あはは、喜んでもらえたのなら、東京に来た甲斐があります」

「本当は()()()()も欲しかったけどね~、さすがに高望みしすぎかぁw」

 

 『つかっち』と言うのは司先生のことか?

 ライリー先生に目をつけられるとは、司先生やっぱり優秀だったんだな。

 もう私は司先生の生徒ではないけれど、彼が褒められるのは悪い気はしない。

 

 私のコーチは表向きライリー先生が担当しているという設定になった。

 夜鷹先生は影のコーチということになる。

 あの人、表舞台に出るのが嫌なんだってさ。注目を浴びるとショック死するらしい。

 本当によくオリンピック出られたなと思う。

 そういえば、光ちゃんのことも一般人のフリをして、コソコソ見守っていた気がする。

 黒づくめの服装は余計に目立っていると、誰か教えてあげて。

 

「広い…これが全部使えるのなんて」 

「ふっふーん。どうかな?うちのクラブ専用のスケートリンクは」

「すごい、お金かかってそう…どれだけ汚い仕事に手を染めたら、ここまでの資金が」

「やだなぁ、いのりんが思うほど世の中真っ黒じゃないよww」

「失礼しました。真っ黒なのは夜鷹先生の服と、ライリー先生の腹の中でしたね」

「やだこの子!辛辣(しんらつ)ッッ!!」

 

 ライリー先生に案内してもらったクラブの施設はどこもかしこも充実していた。

 スターフォックス専用リンクだけでもすごいのに、各種専門トレーナーが配備されている。

 ここで陸トレ・バレエ・座学等の全てを習う事が出来るのだ。

 選手にとって理想的な環境が揃っている。

 このクラブから優れた成績の選手が何人も誕生しているのも納得だ。

 

 クラブメンバーへの紹介、最初は少し緊張したけど、みんないい人ばかりだったのですぐに馴染むことが出来た。

 

「いのりちゃーん!」

「亜子ちゃん」

「今日も一緒にいっぱい練習しようねぇ、打倒・光ちゃんだよぉ!」

「うん。頑張ろうね」

「いっ、いのりちゃん…あの、陸トレ僕も一緒していいかな?」

「もちろんだよ、朱蒴くん」

「あ、ありがとう。やっぱりやさしいね////」

「すう君?熱でもあるの?」

 

 胡荒亜子(こあらあこ)ちゃんと鵯朱蒴(ひよどりすざく)くん。

 この二人は特に私と仲良くしてくれる。ありがたい存在だ。

 クラブ内の実力もこの二人が№1と№2……友達であり、ライバルだ。

 

「ねぇねぇ、光ちゃんとはどこで出会ったのぉ?」

「ミミズを探していたら草むらから現れて理凰君にブスエビフライのシャイニングフィンガー」

「あはは、全然ッ意味わかんなぁいwww」

 

 亜子ちゃんは光ちゃんのことを意識しているみたい。

 それで光ちゃんが気にしている、私にも興味があるらしい。

 光ちゃん、今頃何をしているんだろう?新しいコーチ見つかったのかな?

 

「いのりちゃんは、す、す、す、好きな人っているの、かな?」

「好き?家族や友達はみんな好きだよ」

「そうじゃなくて、その、男限定でどんな人が好きかなって…」

「………年上かな」

「年上!そうなんだ、教えてくれてありがとう!……よしっ」

「???」

 

 どんな男の人が好きかと聞かれて、年上だと答えた。

 一瞬だけ司先生の姿を思い浮かべたのは気の迷いだ。

 朱蒴くんは小さくガッツポーズしていたけど、何だったのかな?

 彼は私に対して、もじもじしたり赤くなったり、今みたいに妙な質問を投げかけたりする。

 これはアレだな『お前には負けねぇ』という彼なりの宣戦布告だ。

 男の子の気持ちは理凰君で学んだから、たぶん合っていると思う。

 

 新しいクラブではうまくやっていけそうだ。

 問題は、夜鷹先生なのだけど…

 

 ●

 

 クラブの活動を終えた後も、私はスケートリンクに残っていた。

 ライリー先生の計らいで、この時間からは貸し切りにしてもらえる。

 ウォーミングアップをしながら待っていると、黒づくめの男がのそのそとやって来た。

 

「……来たよ」

「遅刻ですよ先生。何をやっていたんですか?」

「ブル―アーカイブ」

「ソシャゲかよ!キヴォトスで先生やる暇あったら、私の先生を真面目にやって!」

「見てくれ、ようやく限定の双子を引けた、ふふ…今月の給料がパーだ…」

「廃課金はやめましょうよ」

 

 夜鷹先生はシュポガキに貢いで満足そうだ。

 この人、スケートしていないと本当にダメだな。

 

「始めるぞ、まずは手本を見せる」

「はい。よろしくお願いします」

 

 滑っている時の夜鷹先生は、お世辞抜きですごくカッコイイ。

 繊細かつ大胆な動き、目を惹きつけてやまない技の数々。

 夜鷹純という男の世界に飲みこまれ魅了されていく。

 特等席でそれを観戦できる私は恵まれている。

 滑り終えた先生が戻って来る。

 冷静を装いながらも『やってやったぜ』みたいな顔してるわ。

 

「見たな」

「はい。今日もカッコよかったですね」

「次は、キミの番だ」

「その前にもう1回、見せてもらっていいですか?」

「えぇ…」

「前にも言いましたよね?私は光ちゃんみたいに、一度で完コピできませんって」

「言っていた、かな」

「お手本は最低2回見せてください。その後に私が滑りますから、まだ再現できていない箇所と改善点があれば、逐一指摘するようにしましょう」

「うわ、めんど、やだ」

「やだじゃない!コーチならやってください!ハッキリ言いますけど、夜鷹先生は教えるの下手くそすぎます!」

「光は、そんなこと言わなかった」

「私は光ちゃんじゃありません。私の先生なら、私に合った教え方をしてください」

 

 夜鷹先生との練習初日で私は思い知った。

 あ、この人、指導者に向いていないと。

 先生の教え方というのが、お手本を見せる→それを覚えて再現→次のお手本→また再現の繰り返しだったのだ。

 『バカじゃねぇの?』と本気で思った。

 それに何年も付き合った光ちゃんも『バカじゃねぇの?』

 バカとバカがギリギリのバランスで奇跡的に噛み合った結果、誕生したのが狼嵜光という怪物の正体だった。

 1回見ただけで全部覚えるって何?そんなのできる人……司先生なら…できたのかも。

 過程はどうあれ、こんな拷問に耐え続けたら、そりゃ強くもなるわ。

 光ちゃん、よく逃げ出さなかったな…何か心の支えになるようなものでもあったのか?

 

 夜鷹先生のお手本を近くで見られる。これは私にとって大きなプラスだ。

 しかし、教え方については意見させてもらおう。

 私は、光ちゃんみたいに何でも受け入れる生徒じゃないのだから。

 

「コーチは僕なのに、キミに教えらてばかりだな」

「光ちゃんの苦労に涙が出そうです。ほら、もう1回行って来てください」

 

 司先生ならこうするだろうと考えながら、私は夜鷹先生に注文を叩き付けた。

 

 やれやれ、夜鷹先生もだが、これは光ちゃんにも比があると思う。

 言葉足らずの夜鷹先生は説明もなく『やれ』とだけ言ったのだろう。

 普通なら、そこでやめたり、抗議したり、逃げたりするのだろうが…

 光ちゃんはなまじ優秀だったため、夜鷹先生の無茶振りを全てクリアしてしまった。

 そこで夜鷹先生は『できた?ならもっとやらせていいんだ!』と調子に乗る。

 光ちゃんは『キツイけど、できるならやるしかねぇ!』と狂った根性を出す。

 そうやって二人して、間違った方向に突き進んだまま、強くなってしまったと……

 やっぱりバカか?

 

 二人とも相互理解が足らないよ。ちゃんと話し合おうよ。

 そうは見えなかったけど、光ちゃんって元はコミュ症だったりするのかな?

 夜鷹先生は言うまでもないしなあ。

 

 二回目のお手本の後、私は滑り出した。

 完成された夜鷹先生の滑りに私は何とか食らいつく。

 普通なら不可能だけど、私にはやれる。やれてしまう。

 なぜなら、夜鷹先生と司先生の滑りは酷似していたからだ。

 ずっと見続けた司先生の滑りが、私が裏切ってしまった司先生が、今も私を助けてくれる。

 ありがとう…

 司先生との日々は、決して無駄なんかじゃなかったよ。

 大きな渦のような司先生の動き、そこへ流れるような夜鷹先生の動きを重ねる。

 そして、その全てを私の滑りへと昇華させるんだ。

 できる、二人の先生が私を強くしてくれる!

 

 何度かミスがあったものの、完走することができた。

 夜鷹先生はボーっと立ったまま。何を考えているかわからない。

 

「コメントしてください。褒めたり、アドバイスしたり、何かあるでしょ?」

「なんか、違う」

「お手本からズレたのダメでしたか?何がどう気になるか、言葉をください」

「僕のより、キミのアレンジが優れていた、なぜ?それは誰の滑り?」

「私のですよ」

 

 司先生と夜鷹先生の滑りを融合させて、私に合うように調整した。

 それが私のスケートだ。

 

「司?…前のコーチか…イイ男、だったね///」

「やめろ!司先生を変な目で見るな!」

「僕というものがありながら、前のコーチとドロドロ展開?」

「ドロドロなのは夜鷹先生の頭です」

 

 私の方が夜鷹先生に教えることが多い気がする。

 ツッコミも入れているので、結構大変だ。

 先行き不安だけど、やるしかない。

 私はもう選んでしまったのだから、夜鷹先生と行く道を…

 

 夜鷹の十八番であった無茶振り練習は、いのりのクレームとツッコミにより徐々に改善されていった。

 そしていのりは、二人の師匠から受け継いだ技を踏襲・改善し、自分だけのスケートを身に付けるに至る。

 夜鷹にすら予測しえなかった可能性を、いのりは導き出していた。

 

 いのりと夜鷹、司と光、二組の練習風景に違いはあれど、

 教え子たちは同質の力を発現させていくのであった。

 

 ●

 

 クラブの定休日。

 私は夜鷹先生を伴って朝から練習していた。

 うむ、貸し切りのスケートリンクはやはり良い物だ。

 夜鷹先生は寝不足なのかいつも以上に目つきが悪かったけど、渋々練習には付き合ってくれた。

 

「今のどうでした?」

「別に…」

「いいのか、悪いのか、ちゃんと言葉にする。約束しましたよね?」

「よかった、とも言えるし、悪かったとも言える」

「結局どっち!?」

 

 先生は相変わらず言葉足らずだけど、根気強くコミュニケーションを取ればなんとかなる。

 夜鷹純・対処マニュアル① 嫌そうにされても切り込んでいく勇気を持て!

 

「1回で覚えるようになったし、ミスも減って来たね、それはどうして?」

「んー?なんというか、見え方が変わった気がするんです」

「続けて」

「上から眺めているもう1人の自分がいて、その子の目が全体を教えてくれる、みたいな?……言葉にするの難しいですね」

「それは、いつでもできる?」

「凄く集中していると『あ、今見えるな~』って感じがして……いつでも思い通りにはいきません」

「その感覚、大事にして、それはキミの武器になる」

「おお!私はスキルに目覚めたってことですか」

「名付けて、(たか)の目だ」キリッ

「なんか目つきが悪くなりそうですね」

「光にも、同じことを言われた///」

 

 鷹の目か……

 鷹という字に抵抗はあるが、使いこなせれば大きな力になってくれる。

 これと似たような力を、光ちゃんもきっと持っているだろう。

 だったら、私も鷹の目をものにしてみせる!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 いつもの練習と平行して鷹の目の任意発動も狙ってみる。

 集中しているとあっという間に時間が経過した。

 

「休憩だ」

「え、まだやれますよ?」

「これ以上はオーバーワークになる、体は大事にして」

「夜鷹先生、何だかんだで優しいですね」

「そんなことより、タバコが吸いたい」

「台無しだよ!それは言わないでほしかった」

 

 タバコ>>>教え子の体調

 ヤニが切れた先生はバカ正直な畜生でした。

 

「のんちゃーん」

「あ、お姉ちゃん」

「またか…」

 

 先生と私、二人だけのスケートリンクに乱入する者あり。

 栗色の綺麗なロングヘアに整った容姿。

 それは私の姉、結束実叶(ゆいつかみか)だった。

 現役大学生でモデルの姉は今日も美人である。

 

「二人とも、まだ練習していたの?もうお昼過ぎてるよ」

「お姉ちゃん。今日もまた?」

「うん。のんちゃんたちに、お食事を持って来ました」

 

 かご型のバックから、おにぎりの入ったケースを取り出す、得意げな姉。

 それを見て、夜鷹先生はやれやれと首を振った。

 

「ここには、来るなと言ったはずだ」

「嫌よ。二人だけだと、ご飯食べるの忘れちゃうでしょ?」

「……そんなことは、あったり、なかったり」

「諦めましょう先生。お姉ちゃん、言い出したら聞きませんから」

 

 ちょうど休憩を取ろうと思っていた。

 姉の持って来てくれたおにぎりは、とてもありがたい。

 氷上から出ると、ベンチに陣取った姉はテキパキと食事の準備を始めていた。

 

「のんちゃん、先生も、こっちへ」

「タバコ、吸って来る」

「先生?」

 

 姉の手招きに応えず、夜鷹先生は外へ出て行こうとする。

 私は先生がタバコと缶コーヒー以外を摂取する姿を見たことがない。

 何から栄養を摂取しているんだろう?光合成?

 どちらにしろ、私たちと食事を共にする気はないようだ。

 しかし、ここで我が姉が動く。

 のろのろ歩く先生の進路に先回りして、大きなおにぎりを二つ、先生に無理やり押し付けたのだ。

 

「これ持って行って」

「必要ない、僕はタバコで生きている」

「そんなこと言って、練習中に倒れたらどうするの?のんちゃんに心配かけたら許さないから」

「……具は?」

「昆布とおかか、シンプルイズベストでしょ」

「ツナマヨが、よかった」

「それはまた今度にしてあげる。いいからちゃんと食べてね」

「かたじけない」

「武士かww」

 

 夜鷹先生はおにぎりを受け取り、去って行った。

 強引な姉に驚いたけど、それより気のせいかな?

 いつも仏頂面の夜鷹先生が一瞬、笑ったような……

 

「さあ、食べよう。のんちゃん」

「あ、うん。いただきます」

「はい。めしあがれ」

 

 姉と一緒におにぎりを食べる。

 昆布とおかか、鮭とたらこ、シンプルな具のおにぎりたちは、どれも美味しかった。

 保温容器に入っていた味噌汁も、丁度良い塩梅でいい感じだ。

 

 姉が食事を持って来たのは、今日で3回目だ。

 ライリー先生から、私と夜鷹先生の練習時間を聞き出したらしく、今日みたいに丸一日練習できる日のランチタイムを狙って来ているっぽい。

 私のためと言っているが、本当にそうか?

 先程のやり取り、夜鷹先生への態度、一仕事やり切ったような姉の顔、導き出される結論は…

 

「お姉ちゃんってさ」

「ん?なあに、のんちゃん」

「夜鷹先生のこと、好きなの?」

「ブヘァッ!?!?」

「うわぁぁ!お姉ちゃん何してんの!?」

 

 姉が突如として噴飯(ふんぱん)した。

 なんじゃぁこりゃ!

 姉の吹き出した米粒が、私の顔に盛大に飛び散っとるわい!

 

「ご、ごめんね。のんちゃん」

「現役モデルがご飯粒を飛ばさないでよ。そんなに夜鷹先生が好きなの?」

「はぁぁぁ?私がなんでのんちゃんの先生を、あんな不健康そうな人、全然タイプじゃないし…」

 

 私の顔からご飯粒を除去しつつ、姉はゴニョゴニョ呟いている。

 おいおい、姉ちゃん。顔赤いですぜ?

 この反応…マジか?マジなのか?

 

「夜鷹先生がそんなに好きかぁぁぁぁぁぁっ!!!」 

「のんちゃん声大きい!?叫ばないでよ!」

 

 そもそも、どういう経緯なのか?

 私は姉の身に何が起こったのかを知る必要がある。

 さあ、話してもらおうか?

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「思ったよりベタだった。つまんね」

「聞いておいてそれはないでしょ!」

 

 ある日の晩、複数のモデル事務所による飲み会があたったそうな。

 そこで姉は質の悪い男に目をつけられてしまった。

 

「女性関係に黒い噂のある人でね、顔しか取り柄のないゲス野郎だったのよ」

 

 仕事の関係者であるため無下にすることもできず、角の立たない対応をしていたのがマズかった。

 押せば行けると判断したゲス野郎は一線を越え、姉を無理やり…

 

「路地裏に連れ込まれ『あ~れ~』な展開に」

「違うわよ!怪しい宿泊施設に誘われただけよ!」

「それ、かなりピンチだったのでは?」

 

 そこへ偶々通りかかったのが、夜鷹先生だったと。

 

「『タバコがマズくなる、邪魔』とか言ってね!ゲスをあっという間に片付けちゃったの」

「へぇー」

「名前も言わずに立ち去ったから、ずっと探していたんだ……そしたらなんと、のんちゃんの先生だったのよ!」

「へぇー」

「運命感じちゃうじゃない?惚れても仕方ないじゃない?のんちゃんありがとう!」

「へぇー」

 

 やっぱりベタだなあ。

 私の姉、チョロいわ~。

 

「それで、私を出しに使って夜鷹先生に近づこうと…」

「人聞き悪いなあ。のんちゃんの助けになりたいのも本当だよ。それに、あの人…栄養足りてなさそうだし」

「まあ、確かに…食生活は謎だね」

「黙っていればカッコイイのに、どこか抜けているというか、放っておけないというか、そこがちょっと可愛くて、私がお世話しないとって思って////」

「あーはいはい、お姉ちゃんダメンズが好みだったんだねw」

「あ、今バカにしたでしょ!お姉ちゃんチョロすぎって思ったでしょ?」

「心配したんだよ。男の趣味悪いなぁって」

「のんちゃん酷い!謝って、お姉ちゃんと未来のお兄ちゃんに謝って!」

「うわ、この姉本気だよ」

 

 未来のお兄ちゃんってなんだよ……鳥肌たったわ!

 姉の惚気話を聞きながらおにぎりを完食した。

 

 姉がヤバい男に引っ掛かりました。

 その人は私の先生でした。

 

 ●

 

 あれからも姉はちょくちょく、スケートリンクに顔を出した。

 夜鷹先生に会いに来ているんだろうけど、二人が進展しているようには見えない。

 

「先生は、結婚願望とかってあります?」

「逆に聞くが、僕が結婚できると思うか?」

「悲しいですね」

「あ、そんなにダメか……ショックだ…」

 

 フォローしてもらると思ったのか?

 夜鷹先生は肩を落としてしまった。

 

「どうせ僕には、孤独死がお似合いだ」

「そこまで言ってませんよ。ほらほら、練習始めますよ?」

「スケートはいい、独身の心を癒してくれる」

 

 戯言を吐きつつ、本日も練習開始。

 本当に、スケート中はカッコイイ人なんだけどね。

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 非常に珍しいことに、夜鷹先生が食事に誘ってくれた。

 何やら私に相談したい事があるらしい。

 練習メニューの見直しかしら?それとも服装を変えたいとか?

 店は私が決めていいとのことだったので、久しぶりにコメダへ行くことにした。

 案の定、夜鷹先生はコメダ珈琲の存在を知らなかった。

 名古屋にいた癖に、コメダ知らないとかヤバい。

 この分だと、スタバもドトールもタリーズも未経験だったりしそう。

 

「こういう店は、初めてだ」

「キョロキョロしない。注文が決まったら、そこのボタンを押してください」

「これか?これを押せば、いいのか?」

「注文決めてからですよ。ああ!連打するのはやめてください」

 

 ちょっとはしゃいでんじゃねーよ。

 私はミックスサンドを、先生はみそカツパンを頼んだ。

 程なくして、頼んだ品が運ばれてきた。

 メニューの写真よりも実物の方が大きい!

 これこれ!コメダといえばこのボリューム感だよね。

 

「え………でっか…」

 

 なんだそのリアクションwww

 夜鷹純、初めてのコメダ珈琲で洗礼を受ける。

 

「でかいよね、これ、でかいよね?」

「逆写真詐欺ってヤツですよ。いいから食べましょう」

 

 ミックスサンドを頬張る…うん、美味しい。

 夜鷹先生はナイフとフォークを手にとって切り分けようとするが、不器用なのでうまく切れず諦めた。

 

「めんどくさいなあ、手でいけ!手で!」

「そうさせてもらおう、フッ、僕の口に合えばいいが」

 

 偉そうなのがウザい。いいから食えや!

 みそカツパンを口に運ぶ先生、一口噛んでじっくりと味わう。

 『マズい』とか失礼なこと言わなければいいが…

 

「あ………おいし…」

 

 リアクションwwwかわいいwww

 みそカツパンはお気に召したようで、夜鷹先生はご機嫌で食べ進めた。

 元来、食の細い人なのか一切れ残してしまったが、それは私がペロりと頂いた。

 

「デザート、食べたいな」

「さっき残したのに、大丈夫ですか?」

「甘いものは別腹さ、このシロノワールというヤツにしよう」

「それ小さいの選べますよ。そっちにしておいたら?」

「僕は大人だ、ミニでは、満足できないよ」

「ならいいですけど」

 

 シロノワールを追加注文、私の分はミニサイズにしておいた。

 そして……

 

「え………でっか…」

 

 最初と同じリアクションwww

 テーブルに置かれたシロノワールに目を見開く夜鷹先生。

 だから言ったじゃないか!

 お願いだから学習してよ。

 

「こんなこともあろうかと、私のミニサイズと交換しましょう」

「かたじけない」

「武士かww」

 

 結局、夜鷹先生はミニサイズも半部だけでギブアップした。

 残りは私がキレイに食べた。ふぃ~~満腹満足ですわ。

 

 食後のブレンドを飲みながら、一息つく

 

「それで、ご相談とは?」

「キミの姉のことだ」

 

 お?おお!これは…来たのか?

 

「お姉ちゃんがどうかしました?」

「僕は彼女に、命を狙われている」

「は?」

「キミの姉は、僕を殺す気だ」

「なんでそうなるんですか!?」

「彼女は僕に食事を提供する、この間は二人っきりで出かけた、キミのいない時に家に呼ばれたこともある、おかしいと思わないか?」

 

 お姉ちゃーん!!!

 ガチだよ、お姉ちゃんガチで夜鷹先生を落とす気だよ。

 私の知らない所で、いろいろやってたんだ。全然気付かなかった!

 

「とある組織では、標的を殺す前に敵意を隠して友好的な態度を取るという」

「うちのお姉ちゃんはマフィアじゃありません」

「大事な妹を取られたと思っているのだろう、僕は近いうち殺される」

「いや、それは、違うんじゃないかと」

「だったらなぜ彼女は僕に付きまとう?殺害の他に理由があるなら教えてほしい」

 

 これ言っていいの?言った方がいいの?

 先生は真剣に悩んでるみたいだし、お姉ちゃんはガチだし、安易に私が首を突っ込んでいいものやら…

 告白は本人に任せるとして、お節介にならない程度にフォローするのが無難か。

 

「お姉ちゃんは、先生に興味があるんだと思います。だから、先生を殺したりなんかしませんよ」

「ホントに?ホントの本当に?」

「はい、妹の私が保証します」

「そうか、なら僕は、()()と一緒にいてもいいのか…」

 

 お?おおおお!?

 ちょっとちょっとぉ!何今のホッとしたような感じ?

 お姉ちゃんの名前を呼んだ時の顔!?

 そんな優しい顔、初めて見たんですけどぉ!!!

 

 脈あるよ。私が思っていた以上に脈ありだったよ!

 二人がこのままうまく行ったら……

 

 夜鷹先生が、私のお兄ちゃんになってしまう!

 

「……オェッ」

「どうした?食べ過ぎた?」

「いえ、将来を想像したら吐き気が…」

「既にオリンピックのプレッシャーを感じたか、キミは大物だな」

「違う、そうじゃない」

 

 ある意味、オリンピックよりも重大なプレッシャーで胃がキリキリ痛んだ。

 

 ●

 

 コメダの一件からしばらくして…

 夜鷹先生は週一ぐらいのペースで、家に夕飯を食べに来るようになった。

 姉の強引かつ積極的な振る舞いは継続され、季節が初夏を迎えた頃。

 

 夜鷹先生とお姉ちゃんは、お付き合いを始めた。

 

「そういうわけだ」

「どういうわけか知りませんけど、おめでとうございます」

「恋人の妹だからといって、甘やかすつもりはない、むしろより厳しくいく」

「そうしてください。ぬるい指導になったら……両親に頼んで別れさせますよ?」

「うっ……実叶の親に挨拶……死ぬ、絶対死ぬ」

「お付き合い記念に、コミュ症も治した方がいいですね」

 

 二人の間にどんなやり取りがあり、恋人にまで発展したかは不明だ。

 どのように口説いたのか?コミュ症はどういう反応と決断をしたのか?

 知りたいような、知りたくないような事がたくさんある。

 ま、そのうち姉が勝手に惚気て話をしてくれるだろう。

 私のお姉ちゃん、やっぱすげぇや!!

 

 お姉ちゃんと付き合いだしてから、夜鷹先生は陰気が下がったように思う。

 話し方は前より明瞭になったし、服装も黒一色じゃない日が増えた。

 その変わり様にライリー先生もビックリしていたな。

 有言実行で、私の練習はスパルタ具合が跳ね上がったけど……

 上手くできたら褒めてくれるようにもなった。いい傾向だ。

 

 私はずっと変わりたいと思っていた。

 きっと夜鷹先生もそうだったのだ。

 金メダルを取った後も、ずっと変わりたいと思って、それでも変われなくて…

 今やっと、お姉ちゃんの手を借りて変わろうとしている。

 先生は変化を恐れずに受け入れたんだ。

 

 次は私の番だ。

 強い自分に生まれ変わって、フィギュアスケートの頂点へ登り詰めてやる。

 

「夜鷹先生、これからもよろしくお願いします」

「僕が飽きるまで……いや、キミが望む限りその想いに応えよう」キリッ

「クサっww」

「え、酷くない?」

 

 先生のキメ顔を崩すのが楽しくなって来た。

 こんな風になるとは、出会った当初は考えもしなかったな。

 

 カッコイイ癖に、いろいろ抜けている、夜鷹先生と一緒に私は強くなる。

 

「のんちゃーん、ジュンくーん、お昼持って来たよー!」

 

 今日もお姉ちゃんが大きなランチボックスを持ってやって来た。

 そんなことよりも!

 

()()()()てwwマジかwww」

「実叶が名付けてくれた、割と気に入っている」

「ジュンくん先生wwwあははははははwwww」

「もう!のんちゃん笑いすぎ」

 

 結束いのりと夜鷹純、二人の関係は予想以上に良好なものであった。

 

 ●

 

 結束姉妹との食事中、スマホに着信があった。

 二人に断りを入れて席を立ち、応答する。

 ひび割れた画面に表示されている、相手の名前は…

 

「カミサキ…」

「夜鷹純様で、ございますね?」

「何の用だ?」

「少々、お尋ねしたい事がありまして」

「手短にしろ、今は大事な人たちと食事中だ」

「それは失礼致しました」

 

 全然そう思っていない声で相手は答える。

 

「光様のコーチを辞められたという話、誠でございましょうか?」

「ああ、間違いない。あの子は僕の手を放れた」

「さようでございますか……一刻も早く報告して頂きたかったですね」

「何を言う。お前たちの情報網なら、報告するまでもないだろう」

「呪術師の介入があったのですよ。おかげで状況把握が後手に回りました」

「そんな事は知らん。過保護もいい加減にしたらどうだ?」

「過保護にもなりましょうて、光様は()()なのですから」

 

 舌打ちしそうになるのを堪える。

 あの子はまだ、その血に囚われたままか。

 

「お話はわかりました。これにて、失礼させていただきます」

「待て、御前(ごぜん)の命令はまだ有効か?それだけ聞かせろ」

「『光様の生活を脅かす事なかれ』有効でございますとも」

「そうか、それならばいい」

「此度、御前は仰られました『光様の様子を見てこい』と、では」

「それはどういう意味だ、おい……」

 

 通話は切られた、どうせかけ直しても繋がらないだろう。

 あいつらはいつも一方的だ。

 腹立たしいことに、僕のことも飼い犬ぐらいにしか思っていない。

 

 嫌な予感がする。一応、警告だけはしておこうか?

 アレから一度も声を聞いていないが、いきなり電話して大丈夫か?

 ブロックされていたらどうしよう?番号や端末そのものを変更している可能性も・・・

 ええいままよ!

 

 電話帳から相手の名前を検索しタップする。

 コール音が続く………やはり出ない………ッ!繋がった、だと?

 

「……なんですか?」

 

 不機嫌を隠そうともしない、少女の声が応答した。

 

「僕だ」

「捨てた女に今更何の御用ですか?夜鷹純さん?」

「キミに話がある、光」

「チィッ!」

 

 電話越しの舌打ちキター!!

 僕に名前を呼ばれたのが不快だったらしい。

 きっと、彼女は今、豚野郎を蔑む目をしているだろう。

 この感覚、久しぶりでゾクゾクして来た。いや待て待て、そんな場合ではない。

 電話を切られる前に本題を伝えよう。

 

「気を付けろ……カミサキが動き出した」

 

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