狼嵜光と結束いのり、氷上で競い合うはずの彼女たちは今向かい合わせに座り対峙している。
部屋には重苦しい空気が漂い、非常に居心地が悪い。
「私の大事なパートナーがどうかした?」
涼しい顔で司をパートナーだと言ってのけた光に、いのりのこめかみはピクピク痙攣した。
「パートナーって何?」
「そのままの意味だけど。司さんとは公私共に支え合う関係なの」
「信じられない…」
「いのりちゃんが信じなくても事実だからね」
「どうして司先生なの?コーチなら他の人でもよかったじゃない」
「司さんがよかったの。彼以外は眼中になかったよ」
「私への当て付け?」
「なになに?私がいのりちゃんを困らせるために司さんをコーチにしたって言うのw」
「違うの?」
「違うよ。そんなくだらない理由でパートナーを選ぶわけないし」
「あくまでそういうスタンスなんだ……ここまで徹底するなんて、おかしいよ」
厳しい顔のいのりに対し、光は笑顔を崩さない。
バッチバチに火花を散らす二人のやり取りに、理凰や他の合宿参加者たちは戦々恐々とする。
運悪く現場に居合わせてしまった不幸を呪いながらも、二人の対決からは目が離せない。
「……遊ばないでよ…」
「ん?」
「司先生で遊ばないで!!」
テーブルを両手でバンッ!と叩き、いのりは光に詰め寄る。
突然のことに光は『お、おう?』と目をパチクリさせて驚く。
その仕草も演技であるような気がして、いのりは不愉快に思った。
「光ちゃんは
「あちゃ~
「狼嵜光のコーチになれたって司先生はすごく喜んで浮かれてる。それが全部嘘だと知ったら、傷つくよ!悲しむよ!司先生がそんな目にあうのがわかってて、黙っていられないよ!」
「フフッwねぇ…今はいのりちゃんなりのジョーク?」
真面目な話をしているのに、堪えた様子もない。
それどころか、こちらをバカにして吹き出す光にイライラが募る。
「なんで、何笑ってるの?」
「そりゃあ笑うよww一番深く傷つけたのは他でもない、いのりちゃんなのに!どの口がいうのかなってwww」
「…っ!それは今関係ない」
「関係あるよ、大ありだよ。私たちが今こうしているのも全て、いのりちゃんの選択が招いた結果じゃない」
光の言葉に何も言い返す事ができない。そんな自分が悔しくて歯噛みする。
『全部、お前が始めたことだろ?』と、嘲る光の目は酷く冷たい。
だが、臆してなるものか・・・
司先生を傷つけてしまった自分だからこそ、彼がこれ以上の被害を被ることを断固として阻止したかった。
『私が司先生を助けるんだ』という使命感がいのりを突き動かす。
「とにかく!司先生の気持ちを弄ぶのはやめて!光ちゃんの
「大事にする気がないなら、今すぐ司先生の下から去って!!」
「司先生は光ちゃんの気まぐれで犠牲になっていい人じゃない!!」
「光ちゃんは、司先生にふさわしくないんだよ!!」
自分の主張を一気にまくし立てたいのりは肩で息をしている。
一方、にこやかだった光の笑みは既に消え失せ能面のようになっていた。
その綺麗な顔には彼女には似つかわしくない、青筋が浮かんでいる。
「言いたい放題言ってくれたね……じゃあ次は私のターンだ」
光は大きく息を吸い込み、次の瞬間・・・激昂した!
「遊びでやってんじゃないんだよー!!!」
ブチギレたニュータイプのような叫びに、いのりだけでなく室内の全員が気圧された。
理凰を含む何名かは『カミーユww』と吹き出しかけたが、光が怖いので我慢する。
「お遊びでも、気まぐれでも、冗談でもない!」
「私は本気だ!真剣と書いてマジだ!この命を賭けてもいい!」
ああもういい、全部言ってしまおう。その方がスッキリする。
どこに出しても恥ずかしくない、私のこの想い、全部ぶちまけてやらぁ!!
「司さんが好き!大好き!ずっと彼のそばにいたい!」
私は・・・狼嵜光は・・・
「明浦路司を愛しているんだぁぁー!!なんか文句あるかぁぁぁッ!!!」
狼嵜光、合宿初日で想い人への愛を叫ぶ。
少し先の未来、とあるジンクスが根付くことになる。
強化合宿中に皆の前で告白した選手は、
メダリストになるという奇妙なジンクスが・・・
・・・・・・・・・・・
ビリビリと空気を震わす光の告白は全員の胸に届き、その心に刺さった。
傍観者たちはそれぞれの反応を見せる。
「キャー!光ちゃん大胆~」
「言った、言いやがった!」
「やっぱりな。そうだと思ったよ」
「いや、最初からバレバレだったじゃん」
「マジかぁ…お幸せに!」
「別に光ちゃんを狙ってたわけじゃないけど…わりぃ、今夜泣くわ」
「フッ、付き合うぜ相棒」
「罪な光ちゃん、何人の男を撃沈したのやら」
「男だけだと思うなよ。あっちで
「で?理凰君は何でそんなに冷静なの?」
理凰の落ち着きっぷりを皆が不審に思う。
こいつは光ラブ勢の筆頭だったはずでは?
「光には既にフラれた後だ」
「「「「ひょ!?」」」」
「今の俺には別の彼女がいる。付き合い始めたばかりでラブラブだ!」
「「「「なんだよそれぇぇーー!?!?」」」」
そんな面白いネタがあるなら早く言えよ!
今すぐ問いただしたいところだが、今は光といのりを優先するべきた。
このクソメガネ『後で尋問じゃい!』と、皆の心が一つになった。
●
光の大胆な告白を聞いたいのりは激しく動揺した。
堂々とした光の宣言とその強い眼差しから、彼女が嘘を言っていない事を理解したからだ。
鋭く鈍い痛みが胸に走る。これは気のせいではない。
光ちゃんは、司先生が好き?
本気なの?本気で司先生を愛して・・・
だったら間違っているのは私?
下衆の勘繰りをしてしまった自分が恥ずかしい。
最初から、見たままの二人を信じればよかった。
イチャついているあの姿が、二人の真実だったのだ。
司先生と光ちゃんは強い絆で結ばれている。
光ちゃんは司先生が好き。
そして、おそらく司先生も光ちゃんを・・・
また胸が痛んだ。さっきからずっとズキズキするのが止まらない。
余計なお世話だったことを謝らなくては。
謝って二人を祝福すればいい。
仲睦まじい師弟の邪魔をしてはいけないし、邪魔する権利はない。
だというのに・・・
私は光ちゃんと対峙するのを止めなかった。
胸の痛みが強くなると共に、例の黒い感覚が全身に広がっていく。
私のだったのに!
私が、私が、私の方が!私こそが!司先生の・・・
ああダメだ。
今の私は冷静ではいられない。
二人の関係を素直に認めることなんて出来ないよ。
私は衝動のままに、再び言葉を紡いでいく。
「恋愛がしたいから司先生をコーチにしたの?ふざけないで!」
そうだ。恋愛感情だけでコーチを選ぶなんて間違ってる。
フィギアが上手くなるために、みんな必死で努力しているのだ。
コーチだって自分を高めてくれる存在でなければ意味がない。
現に私はそうした。
司先生ではなく、夜鷹先生について行く事に決めた。
それなのに・・・光ちゃんは何をやってるの?
あなたの行為は、みんなをバカにしているとしか思えないよ。
「恋愛感情が先だったのは認めるよ。でもね、この私がそれだけでコーチを決めると思う?」
ふざけてなどいない。
光は恋愛にもフィギアにも真面目に取り組んでいる。
もしも、司が自分のコーチ足り得ないと感じたのなら、非常なる決断も辞さなかっただろう。
司は光の期待に応えてくれたのだ。それも予想以上の成果でもって・・・
光にとって司は一石二鳥で願いを叶えてくれる、理想の男性そのものだったのだ。
「司さんは最高のコーチだ。
「っ!?」
ヨダカにだって勝てるポテンシャルを司さんは持っている。
司さんはあなたといた時よりも、ずっと強くなったんだよ?
私と一緒に強くなってくれたんだよ。
これからも、司さんと二人で私は先に進むの!
「
元生徒のくせに、司さんを甘く見たこと後悔させてあげるね。
「私は司さんが好きで、コーチとしての実力も認めてる。一緒にいても何も問題ないよね?」
「……」
「で?いのりちゃんの心配は杞憂に終わった訳だけど、何か他にある?」
「………」
「無いなら話は終わりだね。司さんと私の仲良しコンビを、コンゴトモヨロシクってことで」
勝ったな!!
いのりを黙らせた光は自分の勝利を確信した。
あとは、事の次第を司に報告して任務完了だ。
多少はお小言をもらうかもしれないが、それも私への愛情故だとわかっている。
報告ついでに目一杯甘やかしてもらおう。そうしよう。
もう大々的に『めっちゃ好きやねん!』と告白したから、これからは周りを気にせずイチャついていいかな?いいよね!
光が脳内でスキンシップの計画を練っていると、いのりがボソリと口を開いた。
お?敗残兵がまだ何か喋るつもりか?
「司先生のこと、本気で好きなんだ…」
「何度も言わせないでよ。もう恥ずかしいなぁ///」
今更ながら照れる光である。
その惚気顔をいのりはどこか冷めた目で見つめていた。
「でも、司先生は光ちゃんのこと、恋愛対象にはしないと思うよ」
「は?」
「子供のワガママに仕方なく付き合ってるだけじゃない?コーチも大変だねw」
「はぁぁ?」
「光ちゃんがどんなに頑張っても、妹ぐらいにしか思われないんじゃないかな」
「はぁあぁぁっ!?」
「あ、妹よりもペットの方がよかったかも。司さんにまとわりついている光ちゃん、犬みたいだったしww」
「誰がバカ犬じゃあ!!私は、オオカミだあぁァァァッッ!!」
「バカとは言ってないけど、結局イヌ科だねww」
自分でも安い挑発だと思う。しかし、光はアッサリと引っ掛かった。
本来のいのりはこのような事を言う子ではない、心の優しい少女である。
しかし、いのりは内に湧いた黒い感情をぶつけることにした。
光の幸せそうな姿やニヤケ面を見ているのが辛く、どうにも我慢できなかったのだ。
このまま終われるか、なんとか一矢報いてやりたい。
『その綺麗な顔を歪めてやらぁ!』と、普段の彼女とはかけ離れた少女へと豹変するいのり。
犬よばわりされた光も牙を剝いて迎え撃つ姿勢だ。
第二ラウンドの鐘が鳴る。
光の勝利で終わるはずだった対決は、いのりの挑発により延長戦(口喧嘩)に突入してしまう。
それは互いをディスり合うという、酷く稚拙でみっともない戦いであった。
当の本人たちは頭に血が上っており、自分たちの愚かさに気付くことが出来ずにいた。
・・・・・・・・・・
終息するかに見えた対決は一気に大炎上した。
(何やってんだぁ!クソエビフライ!)
あまりの事態に理凰や他のみんなも頭を抱える。
どちらかがヒートアップするとは思っていたが・・・
二人とも暴走した挙句、罵り合いにまで発展するのは想定外だ。
しかも、煽って燃え上がらせたのはいのりである。
普段の割と大人しい彼女を知る者からすれば、信じ難い行いだ。
また、本来の光を知らずに『孤高のクールビューティ』的な理想を抱いていた者も数多くいたのだが・・・
大絶叫するわ、惚気るわ、メンチを切るわで、彼らの理想像は儚く霧散した。
『二人とも怖い!』というのが理凰たちの導き出した結論だった。
「…ったく、ああもう仕方ねぇ」
「いるか?」
「あれ以上こじれたらヤベェだろ?ちょっと行って来るわ」
今まで静観を決め込んでいた、岡崎いるかが動いた。
いるかが動かざるを得ない状況にまでなったというべきか。
他人に興味ないと豪語している彼女であったが、元来の面倒見の良さが出てしまう。
光はともかく、いのりはあの実叶の妹だ。
姉代わりというわけではないが、バカな後輩たちに言い聞かせてやるのも自分の務めだろうと、いるかは思った。
「さすがに無謀なのでは?」
「いや、いるかちゃんならもしかしたら」
「そうだ、いるかの
「いるか姉さん頼んますわ。ビシッと言ってやってくだせえ」
「頼んだぜ、いるか。お前だけが頼りだ」
「「「「姐御!姐御!姐御!」」」」
「だぁーもう、うるせぇ!」
いるかは皆に見送られながら渦中の二人へと歩み寄った。
光といのりはにらみ合っていた。
そうかと思えば、次の瞬間には笑ったり怒ったり相手を貶める発言をしたりと、目まぐるしく忙しい。
いるかのことはまったく目に入っていなかった。
「お前ら、いつまでそうしているつもりだ?」
「「………」」
「みんな迷惑してんだ、いい加減ウゼェからやめろよ。飯がマズなるってレベルじゃねーぞ」
「「………」」
「何をしに合宿に来てんだよ?男を取り合うためか?違うだろ?」
「「………っ」」
「お前らは結局、フィギアを舐めてんだよ。やる気がねぇんなら帰れ、邪魔だから」
「……いるか、ちゃん」
「……いるか先輩…」
やれやれ、ようやくこっちを向いたな。
自分の言葉が後輩たちに届いたことに安堵する。
ちょっとキツイ言い方になってしまったが、これも二人を思ってのこと。
いのりも光も才気あふれる後輩たちだ。
つまらないケンカで合宿に水を差さすのは、彼女たちの意図するところではないだろう。
反省したか?したならサッサと仲直りの握手でもして・・・
「「邪魔なのは…お前だぁぁぁーーーッッ!!!!」」
「あ、はい…すみません…」
いるかの言葉は全く届いていなかった。
それどころか『失せろ』と怒鳴りつけられる始末。
二人の剣幕に一瞬で戦意を喪失したいるかは、すごすごと退散するしかなかった。
「ダリア~。あいつら怖いよォォ~」
「よしよし、いるかはよく頑張りましたわ。ちょっと相手が悪すぎましたわね」
「姐御がやられた!?」
「バカな、3分もたずにか!?」
「もうダメだぁ、お終いだぁ」
涙目で帰って来たいるかを、友人の
ショックで幼児退行してしまったいるかは、ぐずりながらダリアに泣きついてしまった。
誰もいるかを責めることはできない。
それほどまでに、今の光といのりは怖いのだ。
あの二人をここまで狂わす男、司先生は一体何者なんだ?
●
「あ?」
「お?」
たった一文字の中に凄まじい嫌悪がこもっている。
光といのりが『あ?』『お?』とだけ言って睨み合うのも、かれこれ二桁に突入した。
しばらくして、二人からスッと表情が抜け落ち一見和やかな会話が開始される。
次のターンに入ったらしい。
「まさかと思うけどさ。いのりちゃんも司さんのこと好きだった、とか?」
「別に…私は純粋に司先生を慕っているだけだから……下心のある誰かさんと違ってね」
「へぇーそうなんだ。だったらなぜ私に突っかかるのかなあ?ウザいからなるべく簡潔に教えてほしいんだけど?」
「司先生が大変そうだからかな?光ちゃんに振り回されて、本心では迷惑してるんじゃないw」
「あっ!そっか、わかっちゃった。いのりちゃん、私に嫉妬してるんだね」
「はぁ?意味わかんない。その歳でもうボケたの?」
「自分で司さんを捨てたくせに『彼はきっとまだ私を想ってくれるはず』とか、都合のいい考えしてたんでしょ?浮気したクソ女みたいで見苦しいねwwwあー反吐が出るぅ」
「さすがゲロインだね!そのうち司先生にゲロぶっかけて嫌われそうwww」
「司さんは私のゲロも受け止めてくれる人だよ。つーか、なんで私がゲロインだと知っているの!?」
「え?だってなんか、そんな顔してるしwww」
「こいつぅ、私がゲロみたいな顔してるって言ったなwww」
「「あはははははははwwwww」」
「あぁ?」
「おぉ?」
「そこまでイキってるなら、もう告白はしたんだよね?」
「したに決まってるよ。それこそ毎日『好き』って伝えてるから」
「その様子じゃ、司先生からは返事をもらってないんだ。あ、子供だから相手にされてないのか、気付かなくてごめんねw」
「訂正してよ!相手にはされてるし、ちゃんと私でドキドキしてくれてるんだから!」
「ごめん、子供というより
「訂正箇所はそこじゃねーよ!いのりちゃんの脳みそから訂正してやろうか?」
「やってみろよ。ペット風情にできるんならねww」
「ハハッw告白できなかったヘタレが大口叩きおるわ!」
「だからそんなんじゃないんだって!男女の関係=恋愛としか考えられないとか、頭湧いてんの?発情期ですかコノヤロウ!」
「チッ!」
「チィ!」
「いのりちゃんの髪型ってなんかいいよね。よく似合ってるよ」
「そうかな。ありがとう」
「うん。最初に見た時からずっと思ってたの『しなびたエビフライ』みたいでマズそうってww」
「あははははw面白いこと言うね。まつ毛、引きちぎるよ?」
「光ちゃんはずっと黒髪ロングだね。長くていいなぁ」
「ありがと。司さんもお気に入りだし、結構自慢なんだ」
「へぇ。なんか『洗ってない犬みたいな臭い』がしそうだね!司先生、大丈夫かな?」
「はははははwまた犬って言ったね。腹パンしてもいい?下腹部辺りを思いっきり!」
「あ?」(# ゚Д゚)
「お?」(# ゚Д゚)
繰り返し行われる激しい攻防。
ディスり合い、マウントを取り合い、相手の心をへし折らんがために不毛な会話が続いて行く。
ここはもはや食堂でも談話室でもなく、二人の少女が生み出した地獄の領域と化した。
哀れな傍観者たちは、部屋の隅でガタガタ震える事しか出来ない。
恐怖のあまり泣き出す者や失神する者が出始める。
万事休すと思われた、その時だった。
待ちわびたあの男がついにやって来たのである。
「あーお腹空いた。何食べよっかなぁ~」
食堂兼談話室(地獄)の出入り口が開かれ、のんきな声と共に司がに入って来たのだ。
理凰たちの目に涙が浮かぶ、やっと来てくれた。
この状況を打開できる唯一の人物、いや、救世主様の登場だ!
「「「「つ、司先生~~っ!!」」」」
感極まった理凰たちは我先にと司へと飛びついた。
「え?ちょ、ま、何事…アッーー!?!?」
子供とはいえ、10を超える人数に飛びつかれ司は悲鳴を上げる。
面食らったものの、持ち前のフィジカルを生かして子供たちをなんとか受け止めた。
恐らく、司以外の大人だったら下敷きになっていたことだろう。
「おーよしよし、何があったか説明してくれるかな?」
「あ、あいつらがぁ、あいつらがぁ~」
「岡崎選手!?メッチャ泣いてる!マジで何があった?」
体に子供たちをくっ付けたまま、司は困惑した。
カッコイイ系女子で姐御とか言われそうないるかが、泣きながら何かを訴えている。
「みんな落ち着こうか、とりあえず男子は離れろ。女子はそのままでいい!」
「先生!こんな時に何を言っているんですか?」
「わかってくれ理凰君、俺は女の子に抱き着かれてぇんだよ!ああ~弱ってる岡崎選手カワイイんじゃ~」
「うう…ぐすっ……アレを…アレを止めて…」
「アレ?」
いるかが指差した先に顔を向ける司。
そこには、見たくなかった光景が広がっていた。
「Oh no!」
思わず英語で『なんてこった!』が出てしまう。
自分の旧弟子と新弟子がメンチを切り合い、室内の空気を最悪なものにしていたからだ。
二人からは黒いオーラがまき散らされ、ゴゴゴゴゴっと不穏な効果音さえ聞こえてきそうだ。
わーお、あれってば地獄かな?
理凰たちの懇願するような眼差しが痛い。
俺に、あの地獄を止めろと?まったく無茶を言ってくれるぜ。
司は女子たちをひとりひとり丁寧になだめて落ち着かせた。
泣いている女の子は見過ごせない紳士ですから!
男子?放置はさすがにかわいそうなので、優秀な理凰君にフォローは任せるぜ。
「先生ってたまに超ゲスいですよね」
「そうかな?」
「まあいいです。それより、あいつらをどうにかしないと…」
「なあ、その前に飯食っていい?腹が減っては戦ができないって言うだろ?」
「「「「食っとる場合かーッ!!!!」」」」
「えぇ…」
のんびりとした司に子供たちから非難の声が上がる。
仕方なく司は、空腹のまま光といのりの下へと向かうのであった。