光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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サプライズ

 なんてことだ、手違いで光を上空に投げてしまったぞ。

 だが、焦ってはいけない、こういう時こそ冷静に行動しよう。

 慌てなーい慌てない。一休み、している時間はないので素早く落下予測地点へ急行。

 

「親方!空から女の子が!」

「誰が親方だ。早く回収して来い」

 

 匠先生に言われるまでもない。

 オーライオラーイ!よしドンピシャで来たぁ!

 問題無くポスッっと少女の体が俺の腕に収まる。

 一連の行動を見ていたギャラリーたちから拍手と歓声が上がった。

 見世物ではございませぬが、応援どうもです!

 無事パートナーの回収成功!

 

 光は下手に暴れたりせず、俺が受け止め安い体勢のまま落下して来たのはさすがだ。

 一応、落下の衝撃には備えたが、全然大したことがなくて拍子抜けした。

 少し成長したとはいえ、まだまだ軽いし小さいんだよなぁ。

 この体のどこに、フィギアで超絶技巧を繰り出す力が眠っているのか謎である。

 

「ケガはしてないよな?」

「平気へっちゃら。天井にぶつかりそうになったのは怖かったけどw」

「悪かった。予告してからにするべきだったな」

「次があるなら、屋外でお願いね」

 

 頬ずりしてくる光を抱き上げたまま、匠先生の下へ向かう。

 

「娘よ…お前は見る度に美しくなるな…世界で一番綺麗だよ」

「ありがとう。お父さん、なんでここにいるの?」

 

 瞳さんの手を握り目をキラキラさせている匠先生がいた。

 俺たちのことはそっちのけで、愛娘との再会に感激しているところらしい。

 

「アレ何?」

「匠先生は超がつく程の親バカなんだ。そっとしておいてやってくれ」

 

 高峰匠(たかみねしゅう)

 俺の恩師であり瞳さんの父親だ。

 指導者に恵まれなかった俺に、初めてコーチングをしてくれた人である。

 長身痩躯の美丈夫で、若い頃はさぞやモテたであろう事が伺える顔つきだ。

 右顎から頬にかけて傷があるため、一見してカタギではないように見えるが、それも含めて俺はカッコイイ師匠だと思っている。

 仕事で国外に行ったまま帰って来ないと聞いていたが、いつの間にやら帰国していたらしい。

 

 お昼なので、匠先生とランチを頂きながら近況について語り合う事にした。

 俺と、その隣をキープした光、娘に熱い眼差しを向ける匠先生と、ウザったそうにする瞳さんの計四人で食卓を囲む。

 

「夜鷹純に呼ばれたんだよ。見てやってほしい子がいるってな」

 

 離れた位置で理凰君と食事を取っていた、慎一郎さんの肩がビクッと震える。

 夜鷹純の無茶振りに何故か慎一郎さんが責任を感じている様子で、匠先生に会ってから恐縮しっぱなしだ。

 理凰君は俺のジャンプを見逃した事にショックを受けて、暗い表情のままブツブツ呟いている。

 あの親子、ちょっと心配なので光と一緒に何かしらのフォローをしておこう。

 

 見てやってほしい子とは、いのりさんの事だろうな。

 当の本人はミケ太郎たちとランチしながら、チラチラと匠先生の強面を観察している。

 『大河ドラマの悪役みたい』『味方になったあと主人公を裏切りそう』

 とか、言われちゃってますよ先生ww

 

「フーン、お父さんがいのりちゃんの指導をするんだ?」

「そういう事らしい。俺ぁてっきりそこのお姫さんが、夜鷹の連れだと思ってたんだがな」

 

 『お姫さん』と呼ばれた光が肩をすくめる。

 その呼び方なんですか?

 随分気安いようだが、二人は面識あったりするのかな?

 まあ今それはいい。

 

 いのりさんの指導をするという事は、ライバル陣営という事ですね。

 光と瞳さんに目配せする。二人とも同じ思いを抱いたようだ。

 

「敵じゃん」

「敵だわね」

「敵なんですね」

「お前らなぁ『今ここで始末するか』みたいな顔するなよ」

 

 匠先生は俺にアイスダンスのノウハウを叩き込んだ人だ。

 夜鷹純との練習に加え、匠先生の指導、今後いのりさんのステップシークエンスは間違いなく上達するだろう。

 これで俺が光に教えられる強みが一つ封じられた事になる。

 夜鷹純め!あいつマジでサイアク!!

 匠先生呼ぶとかズルいだろ、俺の嫌がる事をピンポイントでやって来やがる。

 もう!本当に憎たらしいわよ!

 

「大丈夫、私は負けないから。今はご飯冷めちゃう前に食べよ?はい、あーんして」

「自分で食べれるつーの、あーん」

 

 光が自分の皿から生姜焼きを箸でつまみ、俺に差し出して来る。

 文句を言いつつも素直に口を開け、侵入して来た肉を咀嚼した。

 うむ、中々美味しいじゃないか。

 

「……むぐむぐ…うまい」

「良かった。次は私のターンだよ」

「ちょっと待ってろ。ネギの破片とパセリの破片どっちがいい?」

「破片じゃないのをプリーズ!肉をください!」

「何してんだこいつら?新婚夫婦か?」

「あれで一応健全なつもりらしいのよ。狂ってるわよねw」

 

 おかずをシェアし合う俺たちをマジマジと見る匠先生。

 なんスかその目は?俺たち何か変ですか?

 仲良し師弟なら『あーん』ぐらい普通やるでしょ?やるよね?

 周囲を見渡すと、みんな首をブンブンと横に振った。

 おやまあ、普通ではないというのかね! 

 フッ、時代の先駆者はいつも理解されぬ運命よな。

 慎一郎さんだけはサムズアップしてくれている。

 父親公認なら何も問題ないね!

 

「コレで最後だ、もうやらない。俺は人を導く器が無え事に気づくのが遅すぎた」

 

 何やら匠先生が意味深な顔で語っている。

 

「やり残しを始末するだけだよ」

 

 『あーん』した光の口に、チキンステーキを入れる作業に没頭していたから、全然話聞いてなかったわ。

 美味しいか?そうか、よく噛んで食べなさいよ。

 

 やり残しって何だろう?匠先生と夜鷹純の過去に一体何が?

 あ、ハイハイ、もう一切れね。ほら、口開けろ。

 

「お父さん、全然食べてないじゃない」

「瞳が美しくて飯が喉を通らない…」

「あらあら大変!司君、光ちゃん、向こうで食べましょう」

「待ってくれ!」

 

 席を立とうとした瞳さんを必死で押し留める匠先生。

 この人、親バカな所さえなければなあ・・・

 

 ●

 

 司さんと瞳先生が食後のドリンクとデザートを取りに行ってしまったので、私は高峰匠と二人でテーブルに残された。

 顔を見合わせ、同時に苦笑してしまう。

 

「久しぶりだな、お姫さん」

「本当にね。シュウと直接会うのはいつ以来だろう?」

「まさかの展開ってヤツだな」

「世間は狭いと再認識したよ」

 

 高峰なんて、よくある苗字だと思っていたけど、彼が瞳先生のお父さんだったとは・・・

 

「定例会に顔を出さないから、みんな愚痴ってたよ?」

「7人もいるんだ。俺一人が欠席したからって、どうなるもんでもねぇだろ?」

「もう1人全然来ない奴がいるんだけどぉ!そのうち、五星狼になってもしらないから」

「そんときゃ、アイツを入れりゃあいいだろ?」

「司さんを?バカなこと言わないで、彼は私のコーチで手一杯なの」

 

 私たちの間の空気は初対面の気まずいものではない、シュウとは五歳の頃からの付き合いだったりする。

 ばぁやと組んで私を七星狼の《(ナナ)の牙》にねじ込んだのが、この男だ。

 当時、常に腹ペコだったチビの私が『なんか食わせろ』とねだれば、食料をよく恵んでくれたのを覚えている。

 くれるのは酒のつまみばかりだった気がするけど・・・

 そのおかげか、ビーフジャーキーや鮭とばは今でも好物だったりする。

 

「カミサキの幹部だって瞳先生は知ってるの?」

「仕事を家庭に持ち込まない主義でね。妻にも娘にも内緒だ」

 

 ばぁやみたいに家族ぐるみでカミサキに仕えている輩はともかく、家族には基本内緒でカミサキの仕事をしている奴は意外と多いのだ。

 私とエイヴァ(お母さん)、確かあの"魔女(ヘクセン)"もそうだったはず。

 "脳筋"と"サボり魔"の事は知らん!!

 重鎮であろうとも『プライベートは尊重されるべき』というが御前のお考えで良かった。

 巨大組織カミサキは割とホワイトでアットホームな雰囲気の職場です!

 

「随分と親しいみたいだが、アイツにはどこまで話した?」

「狼亜の雑兵共に襲われてね。ほぼ全部バレた上に、司さんがばぁやと戦闘した」

「マジかよ!?あの人斬りババアとやり合って五体満足とか、どうなってんだ?」

「ばぁやの波動掌食らっても気絶しないばかりか、キレて殴りに行ったからね!その後も20発以上は耐えたと思う。ばぁやが抜刀しかけたの久しぶりに見たww」

「変わった奴だとは思っていたが…想像以上にイカレてたんだなぁ、俺の弟子」

「司さんの格闘術、あなたが仕込んだ訳じゃないよね?」

「俺がアイツに教えたのはアイスダンスだけだ。誓って、武技のブの字も教えてねぇよ」

 

 ほぼ我流であんなに強いとか、私の旦那様すごくない?

 シュウは楽しくて仕方がないという風に笑った。

 弟子が変な所で活躍したのが嬉しいのかな?

 

「なるほど、裏の顔も知った上で付き合ってる訳か。で?お姫さんはアイツをどうしたい」

結婚したい!!

 

 迷いなく言い切った。

 私の崇高な目的に、ため息つくのやめてくれる?

 

「男の趣味悪りぃなw」

「何だとコラ?瞳さんに全部バラらしてもいいんだぞ、飲んだくれ!」

「やめろやめろ。これでも、俺なりにお姫さんを心配してるんだぜ?アイツ、ちょっとした事ですぐヘタレる悪い癖があるからよ」

「そういう所も含めて好きなの!ヘタレても私が彼を立ち直らせてみせるんだから」

「ファーwwwお姫さんの口から惚気が出るとか、天変地異の前触れかぁwww」

「笑い過ぎだろ!そ、そんなにおかしい?」

「おめぇ最初の頃、使用人たちになんて呼ばれていたか知ってるか?」

「どうせ野生児とかモンスターとか狂犬とかでしょ!ふざけやがって!心当たりがありすぎてごめんなさい!」

「俺のお気に入りは『間違えて人に生まれた何か』だなw」

 

 『転生したら人間だった件』とは失礼な!

 大丈夫だよね?心がモンスターだとしても、司さんは愛しくれるよね?

 私の黒歴史と悪名は封印指定にしたいと思います!

 チクショー!言われっぱなしはムカつくぜい。

 本当に瞳さんにある事ない事ぶちまけてやろうか?

 

「久ぶりに会った弟子が、妙なのに憑かれてお先真っ暗だとは…泣けてきやがる」

「悪霊みたいに言うな!」

 

 真っ暗じゃないやい!

 輝かしい未来が待ってるはずだもん。

 

「いのりちゃんはどう?上手く指導できそう?」

「ありゃあ逸材だな。潜在能力はお姫さんより上だと思うぜ」

「へぇ…」

「お姫さんはもう完成しちまってるが、あの子はこれからが成長期だ。すぐに抜かされるぞ」

「ほほう。あなたがそこまで言うなら本当なんだろうね」

 

 いのりちゃんは大丈夫そうだな。

 それより私は自分の心配をしなくてはならない。

 抜かされる、ねえ・・・そうならないように頑張っているんだけどなあ。

 

「なんにせよ、仲良くやんな。アイツのこと頼むぜ、あんなのでも俺の弟子だからな…」

「言われなくても。結婚式には招待してあげるから、首を洗って待ってろ☆」

「首を長くしてだろ…やれやれ、これも因果ってやつなのかね」

「あ、そうだ。御前だけじゃなくて、お母さんにも連絡しておいてよ。経費で落ちない領収書の件で話があるんだってさ」

「子供にはわかんねぇだろうな。男は一人で静かに飲みたい夜もあるんだよ」

「嘘つくな!キャバクラで豪遊しただけでしょーが!言い訳ならお母さんの前でしたら?たっぷり説教されてしまえ」

「ロマンのわからん奴ばっかりで嫌になるぜ…」

 

 【七星狼《()の牙》高峰匠】

 これでも、ばぁやに次ぐ実力者なのだから困ったものだ。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 人数分のドリンクとデザートを持って戻ってみると、

 何があったのか知らないが、光と匠先生がものすごく打ち解けていた。

 なんだろう、ちょっとモヤモヤするぞ。

 

「シュウとは何でもないから気にしないでね?」

 

 シュウ!?匠先生のことをシュウって呼んじゃうんだ・・・

 へぇー、そうなんだな、へぇー。

 ちょっと目を離した隙に、そんな気心知れた間柄になっちゃったんだ。

 

「フーン、お前って年上が好きなんだな。匠先生カッコイイもんなぁ!」

「ヒョ!?つ、司さんがヤキモチを焼いてくれた!!」

「焼いてねーし!べっつにお前が誰と仲良くしても関係ないし!悔しくなんてないんだからねっ!」

「あぁ!嫉妬する司さんも可愛いぃー////」

 

 もう知らない!光なんて、ボケた匠先生の介護で苦しめばいいんだ。

 ヤングケアラーお疲れっス!

 

「バカヤロウ!俺の介護は父親思いの愛娘がやってくれるに決まってるだろ、なあ瞳?」

「だが断る!!」

「パパを見捨てないでおくれ、瞳ぃぃぃ!!!」

 

 モヤモヤが収まるまで、しばらく光の髪をイジって遊んだ。

 あらヤダ、ツインテールな光ちゃんもカワイイじゃん////

 抱きしめたいなぁ!!

 

 ●

 

 午後からは全グループ合同の座学と、特別講師による氷上レッスンがあった。

 選手たちが頑張っている間、俺たちコーチ陣も打ち合わせ等があり忙しい。

 そして再び、グループ別での氷上レッスンだ。

 

 匠先生はライリー先生と合流して、いのりさんの滑りを見学している。

 ぐぬぬ!本当に敵になってしまったんですね。

 

「お父さんの事は今は置いておきましょう。それよりも、目の前の問題を何とかしないと」

「ですね」

 

 いのりさん・・・

 同じグループなので、どうしたって目に入ってしまう。

 あれから、光といのりさんは会話どころか目も合わせていない。

 このままじゃアカンでしょ。

 

「何か妙案は思いついた?」

「とりあえず、光といのりさんを二人っきりにしようかと」

「それって大丈夫なの?」

「俺がいつでも間に入れるよう、見つからない所から監視するつもりです」

「昨日の今日で、ちゃんと話し合えるのかしら?」

「なんとしても話し合ってもらいます」

 

 二人だって今の状況が良いとは思ってないだろう。

 賢い子たちなので、冷静になった今なら和解できるはずだ。

 

 もうすぐ陽が落ちる。

 スケジュール通りに行けば、今から一時間の大休憩を挟んだ後、夜の最終レッスン開始となる。

 この一時間で二人を仲直りさせてみせるぞ!

 まずは光といのりさんを呼んで、事前に押さえていたミーティングルームに監禁!

 仲直りしないと出られない部屋の完成じゃい!

 

「よし作戦開始だぁ!」

「出たとこ勝負って事ね。ま、それしかないか」

 

 賽は投げられた。

 さぁて、光といのりさんはどこにいるのかな?

 

「つ、司先生~」

「大変、大変だよぉ」

「どうしたぁ!何があった?」

 

 同じCグループの八木夕凪(やぎゆうな)さんと胡荒亜子(こあらあこ)さんが、慌てた様子で俺の下へやって来た。

 なんだ、すごく嫌な予感がする。

 

「光ちゃんが、いのりちゃんを連れてどこかに行っちゃったんです!」

「決闘だよぉ!勝った方が亜子たちの敵になるだけだよぉ~」

「え、えらいことや…せ、戦争じゃ……」

「言ってる場合か!早く探しに行くわよ!」

 

 クソッ!

 光…早まった真似だけはしないでくれよ。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 いのりの手を引いて光はアリーナの外に出た。

 生温い潮風を感じながら、街灯に照らされた遊歩道を進んで行く。

 『ちょっと時間もらえる?』と一言告げてから、半ば強引にいのりを連行している。

 面食らったままのいのりは、無抵抗で靴を履き替え、ここまで来てしまった。

 

「この辺でいいかな。急にごめんね」

「……うん。大丈夫だよ」

 

 海を一望できるパラソル付きのベンチセットに腰掛ける光。

 いのりにも座るように促す。

 この時間帯に人が寄り付かない場所なのは、事前に調査済みだ。

 

「……」

「……」

 

 向かい合ったまま無言の時が流れる。

 何か話さないといけないのに、上手く言葉が出てこないのがもどかしい。

 『落ち着け私』と一呼吸入れた光は、覚悟を決め言葉を紡いだ。

 もう一度、やり直すために。

 

「「ご、ごめんなさい!!」」

 

 示し合わせたわけでもないのに、二人はほぼ同時に頭を下げていた。

 お互い『へ?』となった後、相手がまず謝罪の意を述べた事に緊張が解れる。

 

「ご、ごめん。昨日、いっぱい酷い事言ってホントに、ごめん」

「私の方こそ、なんか無茶苦茶言ってごめん。あんなこと言うつもりはなかったのに、止められなくって…」

 

 『私が悪い』『いや私が』『ごめんなさい!』『すいませんしたぁ!』

 しばらく少女たちの謝罪合戦が繰り広げられる事となった。

 

 ●

 

 アリーナ中を駆けずり回っても見つからないので、外に行ったのでは?と思ったら案の定だ。

 二人のいる場所からは死角となるイイ感じの生垣を発見したので、気配を殺して身を隠す。

 スマホを操作して瞳さんに二人を発見した事を連絡しておく。

 こちらツカーサ、これよりスニーキングミッションを開始する!

 これでいいだろう、あとは光といのりさんを見守る事に専念しよう。

 

 お互い一歩も譲らない謝罪合戦が続いている。

 くそっ…じれってぇな。

 俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!

 そして、今度こそ百合の間に挟んでもらうのだぁ!!

 ・・・って、ちがーう!!

 俺のバカ!本来の目的を見失うなよ。

 二人の仲直りが最優先事項であって、百合サンドは二の次だろが!

 危ない危ない、もう少しで全部台無しにするところだったぜ。

 さあ、二人とも素直になって優しい心を取り戻すんだ!

 

「私が悪いんだってば!」

「違う!私だよ!」

「もう!なんでそんなに頑固なの!」

「光ちゃんには言われたくない!」 

「いのりちゃんの分からず屋」

「そっちこそ、意地っ張り!」

 

 ちょっと待て、なんだか雲行きが怪しくなって来たぞ。

 

「その思い込みの激しさ、ヨダカそっくりだよ!」

「はぁぁぁ?あんな根暗コミュ症と一緒にするなぁ!」

「ヨダカの信頼度低い!」

「司先生がバカになったのって、光ちゃんのせいだよね?」

「違うよ、元からだよ、バカな所も愛おしいんだよ」

「チッ、クソボケカップルが!」

 

「ねえ、司先生とライリー先生ってお似合いだと思わない?」

「何でそれ今言った!?私にダメージを与えるためか!いきなりブッ刺して来るなよ!」

「私見たの…今朝、汗ばんだライリー先生と司先生が仲良く……ゴクリッ」

「ヤメロォォォ!!何もなかったのは知ってるけど、聞いてて腸が煮えくり返る」

 

「自慢していい?私、司さんとキス経験済み」

「妄想乙w」

「ベロチュー最高っス!」

「な、なんだその自信は?マジなのか…」

「中学に上がるまでは、毎晩一緒のベッドで寝てましたぁぁーー!!」

「嘘をつくなぁーー!!ゆ、夢だ、光ちゃんのアホな夢に決まってる!」

「ところがどっこい…夢じゃありません…!現実です…!これが現実…!」

 

「司さんが四回転跳んだの見ましたか?」

「ハイッ!とってもカッコよかったです!」

「私のために跳んだんだと思います!」

「それは違うと思います!」

「なんだァ?てめェ……」

「司先生は夜鷹先生のことを考えていたのです。滑りがソックリだったので、きっとそうです」

「そんなこと、あろうはずがございません!」

「真実はいつも一つ……司先生はホモです!!

「やめないかっ!!」

「でも、残念でした!夜鷹先生は彼女います!その人は私のお姉ちゃんです!お姉ちゃんは夜鷹先生の事を『ジュンくん』って呼ぶ!その時ちょっとはにかんで頬を染める姉の顔がすごく嫌ッッ!コメダ珈琲にハマった先生は、毎回シロノワール頼んで毎回残しやがる!小さいの頼めっていってんだろうがボケェェェ!お姉ちゃんおにぎりにジャムいれるのホントヤメテ!」

「どういう事だよぉぉ!?情報量が多過ぎて頭がパンクするんじゃーい!!」

 

あぁぁ??

おぉぉ??

 

 なんでだよ!?

 なんでまたメンチ切り合ってるんだよ!!

 俺はホモじゃねーよ!ジュンくんってwなんじゃいそりゃ!?!?

 ダメだあの二人、早くなんとかしないと・・・

 

 もう見ちゃいられない。

 俺は二人の前に飛び出すべく体を動かす。

 反省が足りないようなので、百合キス五分間の刑に処す!

 その後に俺を挟んでくれたまえよ!

 よっしゃ!哀れな教え子たちに魂の救済を・・・お???

 

 立ち上がろうとしたところで、体が横に引っ張られる。

 誰だ邪魔をする奴は!?

 鬼か?また鬼ですかぁ?

 俺がバカな事をする時は、瞳さんと言う名の鬼女が・・・

 

「……まだ、だよ。まだキミの出る幕ではない」

「なっ!?」

 

 邪魔者は俺の予想だにしない人物であった。

 匠先生といい、今日はサプライズの宝庫だな!

 

ジュンくん!

「違う。僕は夜鷹純ではない…」

 

 え?人違い…なのか?

 確かに、格好はあの男らしくない。

 

 ヤシの木柄がプリントされたアロハシャツに、ハーフパンツを装着している。

 足元はサンダル履いており、全身が夏をエンジョイする男のスタイルだ。

 夜中なのに金縁のサングラスもかけて、それが異様に似合っている。

 うわっ!足がメッチャ綺麗!?すね毛どこ?脱毛してるの?

 

 でもなぁ、顔も声も夜鷹純なんだけど?

 

「僕の名は……ピュア太郎だ」

「今考えただろう?センスの欠片もねぇな!」

ナイトホーク・ピュア太郎と呼ぶがいい」

「お前それ貫けよ?恥ずかしくなって途中でやめんなよ?」

 

 ツッコミ切れるかぁ!めんどくせぇーー!!

 夏だからかな?頭のおかしい奴が湧いて困る。

 

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