光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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お泊り回

「ねえ、司きゅん」

「かぁっ!気持ちわりぃっ!やだおめぇっ!?」

「司きゅんはぁ私の彼ピになったんだよ。これ位耐えてね」

「小学生・バカ・クーリングオフで検索っと」

「返品不可って言ったでしょ!」

「光ちゃん。ちょっとごみ収集車に飛び込んでみよっか」

「嫌プー。捨てられるぐらいなら!警察に駆け込んでやるからな!青少年保護育成条例違反なめんな!」

 

 悲報、俺の新パートナーめんどくせぇ。

 こんな調子でこれからやっていけるのだろうか?不安だ。

 

「へ…ブんッバぼ!!!」

「へあっ!?…あぁくしゃみか」

 

 ううっ、体が冷えて来た。

 そういえばずっと服が濡れたままだったの忘れていた。

 こんなの着ていたら風邪をひいてしまうわ。

 

「よいしょっと」ヌギヌギ

「なぜ脱ぐ?誘ってんのか?」

「上着の水分だけでも飛ばそうと思って、あー靴の中までグッショグショ」

「オホッ!腹筋割れとる。いいね!ナイスだよ司さん。ちょっと味見していい?」

「おい近づくな変態」

 

 変態を牽制しつつ上着を雑巾絞り~。

 干す場所は無いので再び装着。着心地不快なり。

 

「下も脱いで、どうぞ?」

「お前が脱げ」

「かしこまり!」

「おバカ!今のは冗談に決まって、やめてマジで逮捕されちゃう!」

 

 悲報その② 俺の新パートナー露出癖あり

 

 こいつ何の躊躇もなく下着から脱ぎやがった。

 ほら、後ろ向いててあげるから早く再装着しなさいな。

 

「困るよ司さん!私は純真無垢だから些細な冗談も真に受けちゃうの子なのに」

「純真無垢って言葉、辞書で引き直せ」

 

 どしたの君?

 人のこと言えた義理じゃないけど、脳みそバグってない?

 こんなの俺の知ってる狼嵜光じゃないわ。ただのエロバカ小学生よ!

 

「疲れた人は原作の綺麗な私で目の保養を推奨!」

「画力がなぁマジで凄まじいんだよなぁ」

 

 時は既に夕刻へと差し掛かっていた。

 如何にバカな子とはいえ、そろそろ帰宅させないと親御さんが心配するのでは?

 

「狼嵜さん。細かい話はまた今度にして今日はもう帰ろっか?」

「狼嵜?私の苗字は明浦路なんですけど?」

「勝手に籍を入れるな」

「じゃあ、せめて光って呼んでよ」

「へいへい。光さんの仰せのままに、これでいいか?」

「さんも要らないんだけどなぁ。まあそれは追々何とかするとして…」

「帰るんだろ。送って行くよ」

「ほう。狼な私を差し置いて送り狼になりたいと?あ、待って置いてかないでー!!」

 

 雨が上がっていて良かった。

 帰り道もずぶ濡れになるなんて堪ったもんじゃない。

 俺一人ならともかく、光を雨ざらしにするなんてコーチとして許容できない。

 

「好きです司さん。結婚しよ?」

「どうした急に、精神病院行くか?」

「脳内で私を呼び捨てにする司さん。しゅき////」

 

 また顔に出ていたか。

 元々鋭いところのある子だし。光の前では隠し事は難しいかもな。

 今の内に瞳さんへ連絡しておこう。

 ちょっと野暮用ができたので今日は帰りますっと、これでよし。

 

 高架下を離れ俺たちは今河川敷を歩いているわけだが、道はこっちであっているのか?

 光は確か鴗鳥家で暮らしているんだったよな。

 俺も一度行った事があるが、明確な場所までは覚えていない。

 多分、夜鷹純とかいうスカシ野郎に遭遇したことで限定的な記憶障害になったのだろう。

 せっかく慎一郎さんとふたりっきりだったのに、邪魔しやがってあのスカシ。

 

 鴗鳥家はここからだと距離もあるだろうし、迎えに来てもらった方が良いのでは?

 

「私のマイホームはもう鴗鳥家じゃないよ」

「ん?その年で一人暮らしをしてるのか?」

 

 大丈夫か?いくらしっかりしているとはいえ、小学生だぞ?

 理凰さんからはそんな話聞いていないが・・・

 

「私の帰る場所は司さんの帰る場所に決まってる」

「光さん。まさかとは思うがついて来ようとしてる?」

「あなたとならばどこまでも////」

「背後霊・除霊法で検索っと」

 

 あのね、そりゃ無理ってもんですたい。

 家主は加護さんで俺はただの居候にすぎないのだ。

 勝手に頭おかしい女児を連れ帰ったら迷惑どころの話じゃないだろ。

 そもそも、娘の外泊を保護者である鴗鳥一家が許すはずがない。

 

「あ、理凰?私、光だよ。あーうっさいな怒らないでよ。今?司さんと一緒で、うん、そう、理凰の大好きな司先生w」

 

 立ち止まったかと思えば理凰さんに電話をしている光。

 自由なやっちゃなぁ。

 

「代われって?…だが断る!それよりおと、慎一郎さん出してよ。早くしてはよ、司さん待ってるんだから」

 

 おいやめろ!慎一郎さんを巻き込むな。

 元・フィギュアスケート男子シングルのオリンピック銀メダリストの鴗鳥慎一郎さんは俺の憧れの人である。

 ぶっちゃけ大大大ファンである。

 夜鷹?何それ新種の病原菌?

 

「はい。司さんパース」

「わ、ちょ、お、お電話変わりました。明浦路です」

 

 スマホを投げるんじゃありません!壊れても弁償しないぞ。

 

「やあ、司君。光が世話になったようだね」

「いえいえ、とんでもないです」

 

 おお、耳に心地よいイケメンボイス~。

 慎一郎さんASMRとか出さないかな。出たら予約して買うのに。

 

「無理を承知でお願いする。光の好きにさせてやってくれないか?」

「いぃ!?や、いくら慎一郎さんの頼みでも困ります」

「光は言い出したら聞かない子だ。万が一何かあれば私が全責任を取ろう」

 

 ちょっと娘に甘すぎじゃありませんかねぇ?

 さてはこの人親バカだな。

 子煩悩な慎一郎さんに胸キュン。

 

 俺は現住所が居候先であることを説明した。

 

「そうか、ならば私から加護さんへ連絡しておこう、これなら問題あるまい」

 

 大ありですけど!大ありなんですけど・・・ファンとして憧れの人の頼みを無下にできないのもまた事実。

 結局、慎一郎さんから加護さんに連絡してみてOKが出ればよし。

 でなければ光を強制送還する運びとなった。

 

 そして数分後。

 『あ、全然オッケー大歓迎~』という緩い大黒柱の許可が下りたのだった。

 

「計画通り」ニタァ

「うわぁ腹立つ顔してんなぁ」

 

 なんかこれまでの全てが、光の思い通りに動いているようでムカつく。

 おーい、いつまで月顔しているんだ?美少女が台無しだからやめなさい。

 

 ●

 

 加護家へ到着。

 玄関先で出迎えてくれた羊さんは俺を見て光を見てあんぐりと口を開けたまま固まった。

 そして・・・

 

「大変お父さーん!司君が女の子拾って来たーーー!!110番110番」

「やっぱこうなったか。羊さん、お巡りさんは勘弁してください」

「何今のポワフワッとした子!?可愛い、友達になりたい」

 

 ダッシュで部屋の奥へと戻る羊さん。 

 当然のリアクションに俺はため息をつくのであった。

 

「初めまして。司さんの新パートナー兼婚約者の狼嵜光です。コンゴトモヨロシク」

「ご丁寧にどうも。僕は加護耕一、司君の父親みたいなもんだね」

「娘の加護羊だよ。光ちゃん!生光ちゃんだ!テレビで見るよりずっとカワイイ!」

「ありがとう。羊ちゃんも可愛いよ。仲良くしてくれると嬉しいな」

「うん!する。さっそくだけどお風呂ご一緒しませんか?」

「いいね!望むところだよ」

 

 即行で打ち解ける二人、その様子を微笑ましく見守る加護さん。

 あの羊さんが人見知りせず会話をするなんて、光の奴えらく気に入られたもんだ。

 人に好かれ安いのも光が持つ才能の一つなのだろう。

 

「すみません。お風呂頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、気にせず入っておいで。着替えは……羊のサイズで何とかなるかな?」

「お気遣いなく。私、寝る時はパンイチなので」

「アホか。余計に気ぃ遣うわ」

「おお~。光ちゃんワイルドだ」

「でしょ?本当はノーパン健康法っての実践したいけど、アレやると怒られるんだよなぁ」

 

 やったんか?お前、鴗鳥家でノーパンやらかしたんか?

 この露出魔がぁ。コーチとしてそういうところも指導していくから覚悟しろよ。

 ノーパン光が登場した時の慎一郎さんの心労を思うと涙が出そう。

 理凰さんは大丈夫だったのか?彼的にはラッキースケベだったのか?今度それとなく聞いてみることにする。

 

 風呂上りの光には羊さんの衣類コレクションにサイズ違いがあったので、それを着せた。

 淡いブルーのネグリジェが異様なほど光に似合っていて可愛かった。

 ヤベェよ、俺の新パートナーマジ可愛いよ。本人許可の下、写真を撮らせてもらった、待ち受けに設定しよ。

 可愛いと言えば、いのりさんも・・・・・・ふぅ、まだ完全には吹っ切れないな。

 こういう思考は光にもいのりさんには失礼だ。早く改めよう。

 

「大丈夫大丈夫。心配しなくても、全部私で上書きしてあげるから」

「さいですかって、おいじっとしてろ」

 

 現在、風呂上りの光ヘッドをブロー中だ。

 こいつは髪が長いし量も多いから結構手間がかかる。

 光はズボラなので誰かやってくれる人がいないと、基本自然乾燥なのだそうだ。

 それであの艶とキューティクルを保っているとは、髪質すらも天才かよ。

 

「手慣れているのはなんでかな?まさかいのりちゃんと…」

「ちげーよ。羊さんで慣れているんだよ」

「フフフ、司君は私の専属スタイリストなのだ」

「ごめんね羊ちゃん。司さんは今日からは私の専属になるから自分でやってね」

「マジか。偶にでいいからレンタルさせて」

「うーん。羊ちゃんならギリギリ許せるかな」

 

 光の後はいつものように羊さんの髪も乾かした。

 サラサラの光ヘアー、乾くとボフッとなる羊ヘアー、どちらも個性があっていいね。

 

 夕飯は加護さんがお寿司のデリバリーを頼んでいた。

 加護家では祝い事や外食も含め頻繁に寿司を食べる習慣がある。

 寿司は芽衣子さんが好物だったからな・・・

 放っておくと加護親子は上に乗ったネタだけを食べ、シャリを残すと言う暴挙に出るので要注意だ。

 

「うーん美味しい。さすがは大トロ」

 

 光さんや、お前は遠慮ってもんを知らんのか。

 バクバク高いネタばっか食べやがって。

 

「さあ、司君も食べて食べて。今日は光ちゃんとのコンビ結成祝いなんだよ」

「あ…ありがとうございます。頂きます……うっま!これめちゃ美味いです!」

「司君元気になった。光ちゃんのおかげかな」

 

 和気あいあいとした食卓で美味い寿司をたらふく食べた。

 最近は食欲もなく、何を食べても味がぼやけてしまっていたけど。

 この日の寿司はすごく美味だった。

 食事は健康の基本、これから食生活も元に戻して行かないとな。

 光用のメニューを考えておかないと。肉が好きって言っていたけど、他にも好き嫌いがあるなら聞き出しておこう。

 

 食後の片づけは全員で手早く終わらせ、今は思い思いに過ごしている。

 加護さんは持ち帰った仕事の資料チェック。

 光はリビングで羊さんとテレビゲームをしている。

 いつもは基本ソロプレイの羊さん、今日は対戦相手がいてすこぶる楽しそうだ。

 やっているのは格ゲーらしく、勝負は意外にも白熱している。

 やりこんでいる羊さんにあまりゲームをしない光が必死に食らいついている感じだ。

 

「ちょ、なにそれハメ技は卑怯だよ!大人気ない!羊ちゃんマジで大人気ない!」

「いやいや、初見プレイで私を追い込んだ光ちゃんに手加減は失礼っしょ。存分に死合おうか!」

「くっ、ゲームとはいえ負けるのは、この光さんのプライドが許さないよ」

「その調子その調子、私に勝ったら司君の隠し撮り写真をプレゼントしちゃおうかな」

「悪いね羊ちゃん。私のために死んでくれる?」

「なっ!こいつさっきまでと動きがまるで、バカな、このYOUがッ…このYOUがァーッ!!」

 

 光がたった一つシンプルな答えを言い出したあたりで俺は自室に戻った。

 羊さんの隠し撮り写真は没収して処分しなければ。

 

 自室に戻った俺はサボり気味だった日課の筋トレを開始する。

 一週間か・・・少しだけ鈍ってるな。

 筋肉は一日にしてならず。一日分の遅れを取り戻すには数日かかるという。

 しっかりと習慣化させることで息をするように筋トレを日常に取り込むのが理想だ。

 光のハードな練習に付き合うために俺ももっと鍛えないとな。

 

「お前たち、もう寝なさい」

「「誰このジジイ」」

「俺だよ。司だよ」

 

 夜も更けて来たのでお子様たちを寝かしつけよう。

 加護さんにおやすみを言って、羊さんと光を二階の部屋へ誘導する。

 今夜は羊さんの部屋で仲良く寝ることにしたみたい。

 二人ともたった一日でかなり仲が深まり、今ではまるで姉妹のようだ。

 美少女姉妹二人がキャッキャする姿は国の重要文化財に指定するべきだと思う。

 

「二人とも、生まれて来てくれて……ありがとうッッ!!」

「「どうした急に!?」」」

 

 二人の天使たちに祈りを捧げたら『頭大丈夫?』ってすごく心配された。

 おいおい、見た目だけじゃなく心まで綺麗とかどんだけ尊いんだよ。

 尊死するわ!

 

 光と羊さんにおやすみをして自室に戻った。

 ミッションコンプリート。もう少ししたら俺も就寝しよう。

 

 今日はいろいろな事があった。

 まさか俺が光のコーチになるなんて誰が予想できただろうか。

 今後、慎一郎さんや瞳さんと綿密な相談する必要がありそうだ。

 俺と光の所属はどうなるのか?

 有名人のコーチとして俺が顔を出していいものなのか?

 世間からのバッシングや周りからのやっかみ等の対処も考えなければ。

 光と指導方法について議論したり、練習メニューも、理凰さんにも説明・・・・・

 

 仕事は山積みだ。

 それでも不思議と頑張れる、頑張りたいと思う。

 むしろ、明日からバリバリ働くやる気に満ちている自分がいたりする。

 よっしゃこの辺で切り上げて、俺もベッドインしよう。

 

 お世話になっているみんな、おやすみなさい。

 

 光、俺をコーチに戻してれてありがとう。これからよろしくな。おやすみ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おやすみ、いのりさん。

 

 ●

 

 なんとなく目が覚めてしまった。

 時刻を確認すると深夜2時を過ぎた頃だ。

 中途半端な時間に目覚めたことを後悔しつつ、再び眠りに就こうと布団を被る。

 

 部屋の外から物音がした。

 ありゃ、この感じは羊さんかな。

 羊さんは昔から度々俺の布団に潜り込んで眠るという行為を繰り返している。

 明るく振舞ってはいるが、母親の芽衣子さんを亡くした悲しみが未だ尾を引いているのだろう。

 最近は頻度が減って来たので、そろそろ卒業かな?とも思ったが、久しぶりにご一緒するのもいいだろう。

 何故か実父である加護さんのベッドには行かないらしい、そのことで加護さんが泣いていた。

 

 そっと部屋の扉が開かれる。

 抜き足差し足忍び寄る少女の気配。

 俺は特に何もしなくていい、向こうが勝手にスペースを確保して勝手に潜り込んで来るだけだ。

 今夜のように意識がある場合は寝た振りをしたままで、そっと包み込んでやればいい。

 この時ちょっと体をずらしてやると、なおいい感じに添い寝スタイルが決まる。

 

 今夜もそんな感じで・・・違う、羊さんじゃない。

 ここまで近づけばさすがの俺にもわかる。

 羊さんとは気配の質も微かに香る匂いも違う。

 

「ひか……んグッ!?」

「黙って。騒がないで」

 

 羊さんじゃないとすると消去法で光しかありえない。

 これがもし加護さんだったら、俺は加護家から喜んで退去しよう。

 

 デジャブるんだけど?

 何時ぞやも光の手で口を塞がれたことがあったな。

 あの時の光は怖かった。思い出したらゾクゾクするぜ。

 過去の自分に『お前光のコーチになるよ』と言ったらどんな反応を示すだろうか?

 冗談だと言って笑うか。正気を疑うかだろうな。

 今でも夢みたいだもん。

 それで、これは一体どういう状況なんですかねぇ?

 

「いい?もし騒いだら、司さんに襲われたって叫ぶからね。手、放すよ」

 

 襲われとるのは俺じゃい!

 お前、夜這いに来たんじゃなくて暗殺しに来たのかよ?

 どちらにしろ寝込みを襲われているのに変わりなし。

 光の手が俺の口から退けられる。ぷっは!

 今度やったら手の平舐め回すぞ!覚悟しておけ!

 

 小声で喋るなとは言われていないので話しかける。

 あくまで、囁くような小声でね。

 

「なんの真似だ、お?」

「ちょっと寄って、うんしょっと…」

 

 おーい、許可なく入って来るんじゃねーよ。

 何だか今日一日こいつに引っ掻き回されてばっかだな。 

 いや、もう深夜2時だから正しくは今日もか・・・

 ベッドに上がった光は布団へと潜りこむことに成功。

 俺の胸元に顔を埋めながら器用に丸まっている。

 

「はぁ~…あったかい」

「勝手に和んでんじゃねーよ。何?何が目的?コーチの件は口から出まかせだったのか」

「見くびらないで、光に二言はないよ」

「じゃあ、なんで」

「…………起きてるのが悪い……」

 

 少し拗ねたように言う光。

 

「こっそりやろうと思ったのに、なんで起きてるの、おかげで夜這いが夜襲に早変わりだよ。空気読めバーカ」

 

 ほほう。

 こっそり夜這いしたかったのね。可愛いところあるじゃないの。

 暗がりで見えないがきっと光の顔や耳はほんのり赤くなっていることだろう。

 

 額をコツコツ俺に押し付けて来る。

 布団に散らばった彼女の髪からは、ずっと嗅いでいたくなるような甘く爽やかな匂いがした。

 羊さんと同じシャンプー使ったはずなのに違うんだな。

 これは光自身の体臭なのか?女の子ってすごい!めっちゃいい匂いするんだけど!

 とりあえず深呼吸しておこう。アロマテラピー光ちゃんが誕生した瞬間である。

 

「変態、匂いフェチ…」

「その変態をクンカクンカしてるド変態が何か言ってるw」

「私はいいの……司さんの匂い……好き…」

「あざーす」

「トイレに置いておきたいくらい、好き」

「芳香剤扱いすんな」

 

 俺もお前の匂い好きだぜ。言わないけれど。

 

 子供体温という言葉があるが、一般的に子供は成人より0.5~0.6度高いのだという。

 例えば羊さんはとてもぬっくぬっくだ。冬場は湯たんぽ代わりに重宝する。

 対して光は少し冷たいような気がする。

 体を触られた時、ヒヤッとしたからな。

 

「昔からこうなの、ずっとずっと冷たいの、温かくなるのは氷の上で踊ってる時……」

 

 冷え症か?スケーターとしては心配になる体質だ。

 体を温める効果のある食事を心がけた方がいいかもしれない・・・チゲ鍋か?

 光、辛いの大丈夫かな?あ、俺は甘党なんで遠慮しておきます。

 

「氷の上でしか生きられないなんて、そんなの嫌だよ」

「そうだな。アザラシみたいになっちゃうもんな」

「ちょっと前まではそれでもいいって思ってた。いろんなものを犠牲にしても、フィギュアをしている時はポカポカしていられたから」

「今は違うのか?」

「違う。変えられた、変えさせられた、あなたのせい…」

「冤罪じゃね?心当たり皆無よ」

「司さんのせい、司さんが私をこんなにした、責任、ぜったい、絶対に取って……もら…う」

「あーはいはい。全部俺のせいにしとけ。いいからもう寝ろ、俺もさすがに眠くなってきた」

「お願い……はなさ……ない…で」

「心配すんな。俺はちゃんとここにいる。お前が望む限りずっとそばにいる」

「へへ……よかったぁ……」

 

 程なくしてスースーと規則正しい寝息が聞こえて来た。

 光が眠りに落ちたらみたいだ。

 冷たかった手足も俺の体温を分け与えたことで適度な人肌へと温まっている。

 ちょっとだけ。そう思って軽く頭を撫でることにする。

 驚くほど滑らかな指通りを持つ髪と小さな頭にゆっくりゆっくり触れながら、俺も眠りに落ちて行った。

 一週間続いた悪夢も、今夜は見ないですむ気がする。

 もしかしたら光は俺を悪夢から守ってくれようとしたのか・・・ありがとな。

 

 いい夢見ろよ。

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