「司先生、ひとりでトイレに行けないというのは本当ですか?」
「大いなる誤解だ。自分、怖い映画を見た日の夜でも平然とお花を摘みに行ける男ですから」
「誇らし気に言う事じゃないねw」
「クセになってんだ、真夜中に何度もベッドとトイレを行ったり来たりするの…」
「それ夜間頻尿ですよ?泌尿器科への受信をおすすめします」
「いのりさんは賢いなぁ」
俺はフィギアスケートのコーチ、明浦路司。
教え子で大事なパートナーの狼嵜光とトイレに駆け込み入念なマウスウォッシュをした。
ついでに用を足そうと思った俺は、背後で傍観する構えの教え子(痴女)に心底呆れてしまった。
痴女を怒鳴りつけトイレから追い出し、諸々を済ませて元の場所に帰還したら…
ひとりでトイレに行けない腰抜け野郎だと噂されていた!?
俺がアホな事態を引き起こしたと瞳さんに知られると、またもや折檻されて教え子たちの練習にも支障をきたす。
噂を訂正して回ることにした俺は、いのりさんと会話中に病院に行けと言われてしまうのだった。
そんな訳で合宿はまだ続くよ。真実はいつもひとつだバーロー!!
「真実はひとつとは限らない、人の数だけ存在する」
光がニヒルな笑みを浮かべ達観したような意見を述べた。
中学一年生とは多感な時期だ、彼女も何かと格好つけたいお年頃なのだろう。
それは良いのだけれど、俺の脳内あらすじを勝手に読み取るのはやめてほしい。
俺は『ひとりでトイレにいけるもん!』と、みんなに力説して心配無用だと告げた。
残念なモノを見る目をされたけど、なんとかご理解頂けたようで一安心。
合宿参加者はみんな素直で良い子たちばかりなのね、先生とっても嬉しいわよ!
●
読書も一段落したところで本を閉じ周りを見渡す。
いのりさんたちと仲良くダベっていた光と目が合う。
すると彼女は両手を広げて『おいで』のポーズをとった。
わーい!年下美少女からあふれる包容力しゅきぃ~。
今すぐ飛び込んでしまいたい衝動に駆られるが、ここはグッと我慢だ。
「吸いたいならご自由にどうぞ」
「今はいいよ、また後でお願い」
「了解。あとでね♪」
人目があると思いっきり吸えないからな。
就寝前に吸わせてもらって、今夜もいい夢見よう。
「えっと、一体全体何を吸引するつもりですか?」
「司さんが私を吸ってエネルギーをチャージするんだよ」
「意味がわからん」
いのりさんが困惑している。
今のは説明不足な光が悪いな。
ここは俺から詳細を語り聞かせて進ぜよう。
「光吸いだ」
「はい?」
「『光吸い』はヒカルセラピーの中でも効率的かつ効果的な治療行為でありストレスの軽減、睡眠の質の向上、ホルモンバランスの調整、免疫機能のサポート、そして認知機能への働きかけなど多種多様な効能を発揮する。光の身体から発せられる香りが嗅覚を通じて俺の脳に直接作用し、感情や自律神経、ホルモン分泌などを調整することで、これらの効果を発揮すると……」
「あ、もう結構です。耳が腐りそう」
腐りそうって酷いな。
俺の説明を途中で遮ったいのりさんはウンザリしていた。
語り足りなかった俺は心の中でションボリする。
ヒカルセラピーの話をすると何故だかみんな急に冷たくなる・・・悲しいね。
俺の精神を癒す目的で始めたヒカルセラピー、今では欠かせない日課となっている。
五感を通じ光の存在を確かに感じる事で心身が整い健康的な生活が送れるのだ。
誰かに健康の秘訣を聞かれたら『可愛い教え子とのふれあいです』と堂々と答えてやるつもりだ。
「哀れな司先生…すっかりマインドコントロールされちゃってる」
「全部司さんが望んだ事だよ。私は背中をちょっと押しただけ、だよね?」
「まったく、狼嵜光は最高だぜ!!」
「「「「ダメだこりゃあ!!」」」」
本心をさらけ出すとダメ認定されてしまった。
光だけはウンウンと頷いてくれたので良しとする。
俺のセラピーは後回しだ。
今から施術を受けるのは光の方なのだから。
「そこに寝転がってくれ。仰向けじゃなくてうつ伏せでな」
「わかった~」
何の疑いもなく光は俺の言葉に従う。
畳張りの床へと腹這いになった光を見て、いのりさんが小首を傾げながら問いかけて来る。
「何が始まるんです?」
「第三次大戦だ」
「違う違う。今からするのはただのマッサージだ」
「デュフフフ、当方エッチなサービスを期待します!」
「するだけ無駄だな」
バカなことを言う光は放っておいて俺は呼吸を整える。
瞳を閉じて精神を極限まで研ぎ澄ましていく。
集中しろ、集中・・・目指すは一点の曇りすらなき清らかな心だ。
「コォォォォ…」
「いつも思うんだけど。マッサージする前に明鏡止水の境地に入るのはなんで?」
心の準備ってやつだよ。
これをやってからでないと、良いマッサージができないからな。
別に、光の身体に触って悶々とする自分を抑え込むためとかではない。
ないのだよ!ないんだからねっ!
自慢ではないが、マッサージは俺の特技のひとつである。
加護親子に施術してみたところ『またやって!』と何度もリピートされているのだ。
光のコーチになってからは彼女の身体機能とケガや不調の有無をチェックするため、頻繁にやるようにしている。
メディカルトレーナーでもない俺がここまでやる必要があるのか?
そんな風に聞かれたらあると断言しよう。
教え子の身体について把握しておく事はコーチとして当然の事であるからして…
「……私、司先生にマッサージしてもらった事ありましたっけ?」
そういえば、いのりさん相手に本格的なマッサージをした記憶はない。
あの頃は初めてのコーチングでいろいろテンパっていたからな。
光ほどベッタリでもなかったので、不用意に体を触る発想自体がなかった。
「察してあげて。司さんは私にじっくりたっぷり触りたいだけ、マッサージは逃げ口上にピッタリなのよ」
「へぇ…そうなんだ。フーン」
何も聞こえない。明鏡止水な俺の心には何も響かない。
ジト目で俺を見て来る、いのりさん超怖ぇとか思わない。
まあいい準備完了だ。さあやるぞ!
うつ伏せになった光の肩から背中にかけてをゆっくりと指圧していく。
現在進行形で美しく成長しつつある身体を解きほぐすように優しく丁寧にを心がける。
「んっ……あーそこそこ、イイ感じ~」
「今日もいっぱい頑張ってお疲れ様だな」
「だね~。あのクソボケに会わなかったら、ここまで疲れなかったけど」
主にピュア太郎のせいで光の心身に疲労が蓄積していた。
うん。今日は俺もアイツのせいで疲れたよ。
いのりさんが『私は無関係ですよ』と言いたげな顔をしているのが気の毒だ。
背骨から腰へと指を移動させたところで俺は施術の手を止めた。
イイ感じの指圧が途切れた事を訝しく思った光は『なぜやめる?』と足をバタつかせて無言の抗議をする。
「腰…痛かったんだろ、何で言わない?」
「ウニョラー」
「人語を忘れたフリで誤魔化そうとするな」
「……ごめん、昨日は大丈夫だったけど、今日ちょっとだけ痛かったの」
そういう事は早く言えよ。心配するだろうが。
今日一日、腰をかばいながら滑っていたのバレバレなんだよ。
光の最も近くにいるのはこの俺だ。他の奴らには隠し通せても俺にはわかる。
いわゆる『オレでなきゃ見逃しちゃうね』というヤツだ。
わかっていたが光はとても我慢強い子だ。
痛いとか辛いとか弱音を吐かず、限界ギリギリまで己一人で耐えようとする悪癖がある。
俺と出会うキッカケとなった、あの熱中症もその一端だろう。
そういう事をさせないために俺がいるんだけどな。
「誰にも悟らせないよう立ち回ったつもりだけど、よく気付いたね?」
「なめんな。俺を誰のコーチだと思っている?」
「フフ、さすが愛しい私のコーチだね♪」
俺が指摘しなかったらこのまま隠蔽するつもりだったな、コイツ。
相談してくれなかった事が少し悲しい。俺ってそんなに頼りないかね?
まあ、未だにセラピーなんかを受けている奴に何を頼れって話だよな……ハハハハ。
教え子に気を遣わせた。不甲斐ない自分が悔しい。
「本当に全然大丈夫だから。司さんが落ち込む必要なんかないよ、ごめんね」
「謝るぐらいなら隠すな。お前は俺を頼っていいんだ、その事だけは覚えておいてくれ」
「うん。世界一頼りにしてる」
互いの気持ちは十分通じ合ってる。お小言はこの辺で切り上げよう。
腰痛を長引かせては百害あって一利なし、今は光のマッサージに集中だ。
練習で痛めているであろう光の腰、相手にとって不足はない。
ここからは俺も本気でやらせてもらう。
「うぉぉぉぉ!!」
「な、何する気?必殺技を出す前みたいな気合の入れようは何?」
「今日はいつもと違うやり方でいく。少し強めに押すからな」
「それって大丈夫?まあ、信じてるけどさ…」
任せておけ。
俺は腰痛に効くツボというツボを熟知している。
コレを食らえば腰痛なんてすぐ楽チンになるからな。
「えーと、確かこの辺だったような」
「激しく不安なんだけど『ん!?まちがったかな…』とか言い出しそうなんですけど?」
「たぶんここだな。よし、俺の全力指圧いっちょやってみるか」
「ちょっと待ってまだ心の準備が…」
狙いを定め親指に力とついでに気も集中させて・・・今だっ!!
そぉーれぃ!グリグリっとな!
俺は光の腰にあるツボ(秘孔)を容赦なく突いた。
すると光は・・・
「んほぉおおおっ!!」
それはそれは、ものすごい声を上げて悶絶したのでした。
この反応・・・喜んでいるな!間違いない!
●
ビックリしたなぁ~。
今のは美少女から出ていい音じゃないよ。
奇声を発した光に仰天したのは俺だけではなかったようで、休憩所にいるほぼ全員が何事かとこちらを見ている。
毎度お騒がせして本当に申し訳ない。
喜びのあまり感極まった彼女がテンション上がっちゃったみたいで、ええ、大丈夫です、何も問題はありません!
そうだよな、光?
ねえ、聞いてる?
おーい、光ちゃん???
「ん゙ん゙っ!お゙っお゙っお゙っ!」
ツボへの指圧を続けながら光に『大丈夫だよな?』と問いかけたが、返って来たのは唸るような謎音声だった。
おやおや、何言ってるのかわかんねぇな。
この濁点だらけの異音から光の気持ちを察するのは中々に大変だが、頑張って解読してみよう。
似たような事例に遭遇した経験はないだろうか?記憶に検索をかけてみる。
一瞬、血縁者の顔がよぎったがキショイのでコレは排除だ。
そういえば、昨日光たちに尻を蹴り上げられた時、俺も『んほぉおおおっ!!』とか言ってしまった気がする。
なるほどなるほど、やはり光は歓喜に打ち震えているのだろう。
俺の全力マッサージを気に入ってくれたみたいで嬉しくなる。
だったら、もっと喜ばせてやろうじゃないの!
指先に力を込め、腰を重点的に光のツボを丹念に刺激していく。
その度に光の口から彼女らしからぬ奇声が返って来て面白い。
そんなに褒めるなよ。
楽しくなって来ちゃうだろ?
風呂上りのヘアケアに、今やっているマッサージも、光のためを思えば全然苦ではない。
むしろやらせてくれてありがとう!と、お礼を言いたい気分だ。
俺ってば光の体を手入れする事が存外好きみたい。
もし美少女のボディメンテナンス検定があるならば余裕で一級を取る自信がある。
「ひゃう!
「おっきぃ!司さんの大きくて硬いの(指)が、気持ちいいとこ(ツボ)ガンガン突いてくりゅぅぅぅ!」
「らめぇ!もうらめなのぉ!これ以上はあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「やっ!待って!そんなに激しくしたら…お゙っっ!すご、いぃぃぃ」
「壊れちゃう!私壊れちゃうんんんんっ!!」
この子ったら、マジで何言っちゃってるのwww
言語機能を取り戻した光は矢継ぎ早に不可解な言動を口走った。
一連のセリフを一体どこで覚えて来たのか、じっくり聞いてみたいところである。
「ここか?ここがええのんか~?ほれほれ~」
「いやぁ///もう許してぇ…」
「やめるのか?本当にやめていいのか、ん?」
「やめちゃダメぇぇぇ!もっと、もっとしてぇ!」
「よろしい、素直な子にはご褒美をあげないと、な!」
「ンアッー!」(≧Д≦)
興が乗って来たのでわざと焦らしたり、力加減に緩急をつけてみる。
光の奴も大層ノリノリな様子でリアクションをしてくれた。
このおもしれー少女が俺のパートナーである。
嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、誇らしくもあるな!
俺と光がマッサージに勤しんでいる最中、
いのりさんたちは最初こそドン引きしたものの、今では珍獣を見る目で光を観察している。
あの狼嵜光が痙攣しながら奇声を上げて唸っている・・・
そりゃあ気になりますよねー。
「司先生…声も大概ですが、光ちゃんの顔が、その…どえらい事になってます!」
「あーこれは
いのりさんは光の顔を見て戦慄し、理凰君は冷めた反応でモザイク処理を推奨した。
そんなに酷いの?一体どんな顔をしているのだろう。
「今すぐ薄い本に登場しても問題ないレベルです。ズバリ18禁です!」
それはマズいな。
ここには思春期の少年少女ばかりなので心配だ。
今の光が皆のトラウマになったら大変なので注意だけはしておこう。
「みんな、光を観察する時は一定の距離を保って近づきすぎないようにな」
「「「「はーい!」」」」
「気分が悪くなったら観察を中断して休むように、先生との約束だ」
「「「「かしこまり!!」」」」
聞き分けの良い子たちばかりで助かった。
俺の位置からは見えないが、光は相当酷い顔をしているらしい。
興味本位で光の面を拝んだ皆が『うわぁ…』というリアクションをしている。
すごく気になります!
「光、さっきからビクンビクンッして変な声で鳴いとるでね。アレ何しとんの?」
「「「「見ちゃいけません!!!!」」」」
教育に悪いぃ!おい、誰かミケ太郎の目と耳を塞いでやってくれ。
頭に『?』を浮かべた猫娘が光(猥褻物)から遠ざけられていた。
ミケにはどうか純真無垢なままでいてほしい。
それが皆の総意なのだ。
「み、見ないでぇ~。恥ずかしい私を見ていいのは
「はい光ちゃん目線こっち、そうそう…よし!いい写真が撮れた。お姉ちゃんと夜鷹先生にも見てもらおう♪」
「ひぃぃいんん!それだけは、それだけはお許しおぉぉぉお゙お゙!」
いのりさんが鬼畜カメラマンになっとるw
さすがに可哀想なので拡散するのは勘弁してあげてくれないか?
俺が丁寧に頼むといのりさんは渋々思い止まってくれた。
光の激ヤバ写真は個人的に楽しむだけにしてくれるらしい。
撮影した写真の中からベストショットだというものを見せてもらったのだが・・・
『こwれwはwひどいwww』という素直な感想が口から漏れた。
いのりさんからコッソリもらった写真のデータは秘蔵フォルダへと厳重に保管しておこう。
「もっ、ムリ!来る、なんか、来ちゃう!んぁぁっ」
光の限界が近い。
そろそろトドメと行きますか。
食らいやがれ!ゴッドハンドスマァァァッシュ!
成敗!ってな感じでなあ。
「これで終わりだぁ!」
「ひんぎゅぃぃぃぃぃ!?!?」
より一層力を込めた指圧の一撃を光のツボへと解き放つ。
光は痙攣しながら大きくのけ反った後、ゆっくりと脱力した。
よし!決まったな。これにて施術完了。
「ふぅ…お疲れ様、光。終わったぞひか……光?」
床に突っ伏した状態で光は小刻みに震えたままだ。
声をかけても反応しない。
仰向けにひっくり返してみよう。
よっこらせ・・・
「……ッ、お"ーーーーーー」(゜o゜)
焦点の合っていない目で虚空を見つめ、だらしなく口を半開きにした美少女がそこにいた。
何だコレ?ヤバいお薬がキマってるみたいw
このままでは可哀想だ。
口の端から垂れかけていた涎を拭ってやり、乱れた髪と服装も整えておきましょうかね。
どうやら俺の全力マッサージは光には早すぎたらしい。
悪い事したなぁ、次からは加減をするべきだと心に誓った。
光の回復にはもう少しかかりそうだ。
今は眠れ、ゆっくりと休むがいい。
いのりさんたちがグッタリした光にスマホを向けている。
コラコラ、写真と動画の撮影は止めて差し上げろ。
●
「私、復活!!」
きっかり10分後、光は復活を遂げた。
頬は上気しており妙なテンションで俺にじゃれ付いて来ている。
「みんなの前でヒィヒィ言わされちゃった///責任とってよね!」
「すまん。やりすぎたみたいだ」
まだ興奮冷めやらぬと言った感じの光。
元気そうで安心したよ。
「ムフフ、こうやって身も心も調教されていく私……望むところだぁ!」
元気になりすぎたか?
いや、いつもこんな感じだから大丈夫だろう、たぶん。
「腰はどうだ?痛いところや違和感があったらすぐ言ってくれ」
腰や各部の関節を動かしながら、光が自身の状態をチェックしていく。
その様子を少し緊張気味に見守る俺。
やりすぎた感のあるの施術によって、逆に体を痛めてしまっていたらと思うと気が気ではない。
「嘘みたいに痛みが引いてるよ。それになんだか体が軽い、整った!って感じがする」
「そいつはよかった」
「愛する人に癒されて私は幸せ者です。どうもありがとう」
「そう言ってもらえると、やった甲斐があるってもんだ」
「恥ずかしいところ見せちゃったけど、またやってくれる?」
「豚のような悲鳴を上げる覚悟があるのならw」
「つ、次は大丈夫だもん///今回はちょっと油断しただけ」
「いつから、アレが俺の全力だと錯覚していた?」
「なん…だと…」
「全力だと言ったな。アレは嘘だ」
「なんて恐ろしい人なの……それでも好きだぁ!」
光の反応は上々、マッサージは大成功したようだ。
眩しい笑顔で感謝を伝えて来る光に心がポカポカする。
あまりの悶絶っぷりに副作用が出ていないかと心配したが、杞憂に終わったようだ。
俺のこの手で光を癒す事ができたのなら幸いだ。
「痛みも取れたし、明日からもバリバリ練習がんばっちゃうよー」
「ぶり返したら元も子もない。無茶だけはしないように」
「わかってる」
マッサージで痛みが取れたからといって過信は禁物だ。
完治するには腰への負担を減らしキチンと療養する事が大切になる。
こんな事もあろうかと、光のために腰のサポーターを持って来ていてよかった。
「練習中は必ずサポーター着用する、休める時はしっかり休む、他にも不調感じたら些細な事でも俺に相談する。約束できるな?」
「うん。約束だね」
光がスッと小指を差し出して来た。
え?何?舐めていいの?ここで?
いやそれはいくらなんでも・・・
「ゆびきり」
「あ!そっか、ゆびきり、ゆびきりね。当然わかっていたとも」
「ホントに?何かやらしい勘違いをしていそうw」
「ばばば、バカ言うでねぇ!」
あっぶねぇ!
勘違いからとんでもない行為に及ぶところだった。
恥ずかしい…光には俺の考えを見抜かれているみたいだ。
変態なコーチでごめんよぉ。
「やらしい司さんも好きだよ」
やーめーてー自制が利かなくなりそう。
不意に急接近した光が耳元で甘く囁いて来た。
全身にゾワゾワしたものが走って硬直してしまう。
いつも思うが、距離の詰め方が突拍子なさすぎてビックリするんだよな。
「私にしたいことがあったら何でも言って、できる限り応えるよ」
そういう事を言うんじゃありません!
俺は紳士だ紳士であるべきなのだ。
変態に身をやつして教え子に手を出してはイカンのだ。
「いつでもいいから…ね?」
『ね?』じゃないが!?
俺の全てを受け入れる気満々の『ね?』に頭がクラクラする。
この小悪魔オオカミ、繊細な男心を弄びやがって!
今すぐわからせてやろうか?あぁ?
「いいよ。たっぷり思い知らせてくれると嬉しいな♪」
だーかーらー!
そういう事を軽々しく言うなよぉォォォ(´Д`)
「イィィィヤッフゥゥゥッ!!煩悩退散!!」
「司さん!?」
「ああ、また司先生が危ない発作を起こして」
「光、今度は何をやったんだ?」
煩悩を捨てるため、俺は床に額を叩き付けるのであった。
休憩所に集った子供たちが総出で止めてくれるまで頭突きは続けた。
ちょっと痛かった。畳で良かった。
●
「デコがヒリヒリする……」(´・ω・`)
「もうバカ!なんであんな事したの?」
「悪魔からの誘いを振り切るため、致し方なく」
「悪魔?誰そいつ?司さんを誘惑するなんて許せない!」
「お前のことじゃけぇのう」
「そっかぁ無意識に出ちゃってたか、私の悪魔的可愛さがw」
「無駄にポジティブじゃけぇのう」
中断していたゆびきりげんまんを済ませ、今は赤くなってしまった額を光にさすってもらっている最中だ。
柔らかな手が額に触れる度に痛みが引いていく気がする。
自称治癒能力持ちの光によると、この程度は文字通りの手当てですぐ治してみせるそうだ。
『美少女との
別にイチャついているわけではない。
「お楽しみ中のところ失礼します」
「なんだい、いのりさん?」
「私も司先生にマッサージしてほしいです!光ちゃんだけズルいと思います」
ほほう、光の醜態にドン引きしてなお、俺のマッサージを受けたいと申すか?
俺は全然構わないのだが、約一名独占欲を発揮するオオカミが大反対するんだろうな。
そっと光の顔色を伺う・・・顔の造形チートすぎんか?
何回見ても滅茶苦茶カワイイなこいつぅ!
予想に反し、光はキレたり青筋を立てたりはしていなかった。
「いいんじゃない。やってあげたら?」
「「うぇ!?いいの!?」」
いのりさんと声がハモってしまった。
光からすんなりと許可が下りた事に驚きを禁じ得ない。
「どういうこと?アヘりすぎて頭がもっとおかしくなった?」
「いのりちゃんは私に対して失礼すぎる!」
でも、本当にどういう風の吹き回しだ?
何か企んでいるのなら白状しなさい。
「私だけだと不公平だよね。今度はいのりちゃんが無様を晒すターンだよw」
「なんだとぉ!」
「いのりちゃんごときが、司さんのマッサージに耐えれるわけないじゃない?」
「チッ、勝手にそう思っていればいいよ。光ちゃんとは違うってところを見せてあげる」
光に鼻で笑われたいのりさんが憤慨している。
えーと、いのりさんにマッサージにをしていいって事だよな。
本当にやるの?今ならまだキャンセルできるけど?
「すでに覚悟完了してます。ひと思いにやっちゃってください!」
「そんな覚悟で大丈夫かww」
「大丈夫だ、問題ない!」
光の煽りに、ものすごくフラグ臭い応答を返したいのりさんであった。
じゃあ、いのりさんにはうつ伏せになってもらって…
マッサージする箇所は光と同じ設定でいいよな。
「頑張って司さん、いのりちゃんの貧相な体じゃ退屈だろうけどw」
「うっわっ!この女超腹立つぅ!ムキィーーー!!」
コラ!からかいすぎだぞ、光。
いのりさんもジタバタ暴れないでね。
明鏡止水は必要ないか、別にいのりさんに触れて精神が乱れるわけじゃないし。
「ほら、これが現実。私にムラムラしても、いのりちゃんには何の反応も示さないんだよw」
「司先生、見損ないましたよ。年下の女には見境なくロックオンしていた先生はどこに行ってしまったんですか!!」
「そんな風に思ってたんかーい!」
いのりさん、実は俺のこと嫌いなの?
これ光に同意しても、いのりさんに反論しても、結局俺の首が絞まるだけじゃん。
二人が組むといつも俺が被害受ける構図になるんだけど、何なの?
結託して俺を追い詰めようとしてるの?ねぇ?何なの何なの??
周りがヒソヒソざわざわして来た。
『やっぱりな』ってコメントが多いのは華麗にスルーしまーす。
長引くほどに俺への風評被害が増えそうなので、もうちゃっちゃと終わらせよう。
「これより、いのりさんへのマッサージを始めます」
「はい、よろしくお願いします」
いのりさんも光に負けず劣らず練習を頑張っている。
その体に溜まった疲労、この俺が癒してやるぜ!
・・・・・・・
「どう?こっちのツボも結構効くだろ?」
「あ゙~~~最高~。司先生の手で極楽に導かれてます~」
とろけ切った声を出すいのりさん。
よかった、マッサージの癒し効果は十全に発揮されている。
『極楽極楽~』としきりに言ってくれるのが、なんとも嬉しいね。
「これはお金を払う価値のあるマッサージ!」
「大袈裟だなぁ。褒めても何もでないよ」
「だって本当にすごーく気持ちいいんですよ。毎日してもらいたいぐらいです」
「その権利は私にしかないから、潔く諦めてね」
いのりさんの絶賛に、事の成り行きを見守っていた子供たちも、うらやましそうな顔でこちらを見ている。
やりすぎないよう心がければ、施術相手を悶絶させるような事態も起こらない。
「こんなにも素晴らしいマッサージで、オホ声とアヘ顔を晒したバカがいるなんて世も末ですねw」
「私を侮辱する愚かないのりちゃん、なんにもわかってないんだね」
「は?何が?」
「司さんは力をセーブしてるの、だよね?」
「ああ、今は30%ぐらいだ」
「ダニィ!?」
光にやったのが100%だとしたら、だいたい30%ぐらいになる。
適度に人を癒す事が目的ならば、それぐらいで丁度いいのだ。
だというのに、光の挑発にまんまと乗ってしまういのりさん。
「100%でお願いします。手加減無用です」
「やめておいた方がいいと思う。いやホントマジで心配だから」
「そうそう無理しないのが賢明だよ。帰ってミカ姉さんの乳でも吸ってろww」
「吸うかぁ!」
「ついでにヨダカの尻も揉んどけww」
「揉んでたまるかぁ!どうせ揉むなら司先生の揉みしだくわボケェ!」
「ボケはお前じゃ!司さんの尻は私のもんじゃぁーい!」
「俺の尻は俺のだよ」
教え子が二人とも痴女だったよ。泣けるぜ。
光さん?どさくさ紛れに俺の尻を触るのはやめてね。
「さあ司先生!遠慮せずにぶちかましてください」
「やっちゃぇ司さん!身の程知らずに天誅を!」
いいのかなぁ?
いのりさんの黒歴史追加されちゃうけど、大丈夫?
「信じて下さい。司先生の全力を受け止め、私がこそが一番弟子だと…」
ポチッとな。
「んほぉおおおっ!!」
やっぱりダメだったか。
●
俺は真心を込めてマッサージを続ける。
その間、いのりさんが激しく悶絶しオホオホアヘアヘしていた。
本日2回目なので特に感想はない。
強いて言えば、いのりさんのオホ声は下品さの中にも奥ゆかしさがあったりなかったり…
「汚ねぇ声で鳴くエビフライだなぁ」
もっと汚い声で鳴いていたはずのオオカミがなんか言ってるw
「いのりちゃん、そこでダブルピースだよ!いい画が撮れたらヨダカに送ってあげるw」
「やめっ、ほぉおおおおおっ!!」
今の声ブルース・リーかな?
その時、ふと閃いた!
このアイディアは、光とのトレーニングに活かせるかもしれない!
カンフー映画の動きをフィギュアの振付に…
おっと、今はいのりさんへのマッサージに集中しよう。
・・・・・・・・・
施術完了。
100%でと言われたけど、光よりは手加減した。
その分、いのりさんの復活は早かったように思う。
「いのりちゃん、何か私に言う事は?」
「正直スマンカッタ。あんなに強烈だとは予想外で、そりゃあ光ちゃんも18禁になるわ」
「お互い様だけどね」
突き出した拳を打ち付け合う光といのりさん。
同じ醜態を晒した事で彼女たちの友情がより強固なものになった?
一見、よいシーンではあるが二人とも散々アヘった後なのでイマイチ感動出来ない。
「どけ、顔面18禁ども!」
「「なんだとぉ!!」」
二人の顔面18禁を押しのけて理凰君が俺の前にやって来た。
その決意に満ちた顔、まさか・・・
「先生、俺にもお願いします」
「二人のみっともない末路を見たばかりだろ?それでもやると?」
「あんな痴女たちと俺を一緒にしないでください」
「「誰が痴女だ!!」」
「お前らしかいないだろ。さっきの写真プリントアウトしてやろうか?」
「「イ゛ェアアアア!!」」
奇妙な断末魔を上げる痴女たちを放置して、
理凰君は俺の制止も聞かずにうつ伏せになった。
本当にいいんだな。もう後には引けないぞ。
「オイオイオイww」
「死ぬわアイツww」
無謀な戦いに挑もうとする理凰君、それを嘲笑う二人(痴女)。
「先生、負けヒロインたちは気にせず、早くやってください」
「負けてないし!負け確定したのは、いのりちゃんだけだし!」
「クソがぁ。タイトルで結末がわかってるのつまんねぇんだよ!」
「この世界全否定やめろ」
「あーあー、今ここで光ちゃんが小汚いオッサンにTSしたら面白いのになあ」
「地獄か!そんな超展開誰も望んでない!……ない、ですよね?」
やさぐれたいのりさんがワールドブレイカーに成り果ててしまった。
これ以上メタい発言が飛び出す前に、理凰君にマッサージを行おう。
理凰君はやけに自信たっぷりだ。
もしかすると奇跡ってヤツが起きるかもしれない。
同じ男として是非とも頑張ってほしいな。
「先生のマッサージは、お前ら痴女子には勿体ない」
「「ちじょしって言うな」」
「じゃあ、始めるぞ。最初から強めでいいんだよな」
「ご厚意に感謝して静かにじっとしていれば何も問題な…」
「撃ちー方ー始め!」
主砲発射!
「んほぉおおおっ!!」
はい、このリアクション3回目~。
ヤレヤレ、俺の教え子全滅したわwww
奇跡は起こして初めて価値が出るものなのよ。
今回はダメみたいだったね。ドンマイ!
「理凰君カッコ悪いww」
「なんか既視感あるなぁ。何だったかな?」
「敗けたあと魔物娘に蹂躙されるショタ勇者みたいw」
「それそれ!とりあえず1回敗けたくなるよねー」
「キミたち、えっちぃゲームは程々にしなさいよ」
「司さんも好きなくせにw」
「エロゲは紳士の嗜みであり一般常識だ!」
「淑女の嗜みでもあります。今は多様性が尊ばれる時代なので」
いやあ…ぱらどっくすRPGは名作でしたね。
推しの魔物娘について語り明かしたいところだが、その相手が中一女子というのはどうなんだ?
瞳さんとかに見つからなければいいか。
年齢的にアウトなエロゲプレイヤーたちをたしなめつつ、理凰君への施術は無事?終わった。
意識を飛ばした理凰君は見せられない顔をしている。
息子のこんな顔を見たら両親の鴗鳥夫妻はきっと頭を抱えるだろう。
兄のこんな顔を見たら妹の汐恩ちゃんは間違いなく爆笑するだろう。
恒例の写真撮影はもう止められないので自由にさせた。
これで俺の仕事は終わった。と、思ったのだが・・・
「フフフ、ここは可愛いウチの出番やね」
「スズ姉…自ら死地に飛び込むなんて、ほんまアホやな」
「司先生!私にもオナシャス」
「ぼ、僕も試してみたいかな…」
「私も!」
「俺も!」
「ミケも~」
「「「「やらせない!絶対にだぁ!!」」」」
「なんでミケだけ!?いじめか!泣くぞ!」
次々とマッサージ希望者が手を上げる。
何だこれは、何が起こっている?
みんなヒイヒィ言わされたいお年頃なの?
「みんな司先生とお話したり、遊んだりしたいんですよ。モテモテですね」
「司さんが魅力的なのは分かり切っていた。ちょっと複雑だけど私が一番なのは揺るがない事実。ここは正妻の余裕を見せるためドーンと構えておこうかな」
「その直後、光ちゃんはオッサンに転生したのであった…」
「なんで!?ハチャメチャが押し寄せて来すぎだろ!!!」
俺と遊びたいだって?
光たちとワチャワチャしていただけなのに、親しみを覚えてくれたのか?
「選抜された合宿メンバーは伊達じゃないんだよ?」
「みんな負けず嫌いでチャレンジ精神旺盛なバカばっかです」
「せ、先生のマッサージは強烈すぎる…だが、唯一無二の経験でした…」
「復活した理凰もこう言ってるし、みんな司さんの実力を肌で感じたいんだよ」
「悶絶しても?」
「そんなの、みんな覚悟の上ですよ」
「マジかぁ。やれんのかお前ら?」
「「「「やったらぁ!!!!」」」」
まったく、この子たちは……愛すべきバカだな。
そういうの嫌いじゃないわ!
生意気な小童どもめが順番に並べぃ!
まとめて相手をしてやるわ!
あ、ミケ太郎には10%でやるから安心してね。
その場にいた全員にマッサージする事になった。
やるからには徹底的にだ!
あられもない姿をぶちまけ、次々と悶絶していく子供たち。
畳張りの休憩所は敗者たちの屍が転がるデンジャラスゾーンと化した。
その屍を乗り越えて俺はまたひとつコーチとして成長したのだ。
「具体的にどこが成長したの?」
「マッサージのテクニックが更に向上した」
「ほほぉ。アレ以上だと私本気で壊れちゃうかも」
「今なら封印したあの技を『イキュラスキュオラ』を使いこなせる気がする」
「司さん、異世界おじさんだったの!?」
いやいや、俺はプレステで育ってるからね。
ニンテンドー?スイッチ2、抽選漏れ・・・うっ頭が!