光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

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イレイザー

 俺がマッサージスキルを身に付けたキッカケは祖父の存在があったからだ。

 その昔、腰痛に悩む祖父…ジジイと田舎で暮らしていた頃の話。

 ジジイはいろんな意味で無茶苦茶な奴だったが、面倒を見てもらった恩がある。

 どうにか腰を楽にしてやりたくて、独学でマッサージの方法を学び出したのが始まりだ。

 毎日コツコツとジジイ相手にマッサージを試し続け、いろんな技を修得したり編み出したりと創意工夫の日々を送ったものだ。

 気付けば腰痛を治すことより、新技の開発や新たなツボ(秘孔)の発見に没頭していた自分がいた。

 

 そんなこんなで一年が経過する。

 この頃になるとジジイが調子に乗り出して 俺の施術に対して口出しをするようになった。

 『なっとらん!』『未熟者め!』『だからお前はアホなのだぁ!』

 などなど、散々な言われようをされた覚えがある。

 ムカついたのでジジイの腰痛を絶対に直して見返してやると心に誓った。

 達成できなかった場合は腰痛ごとジジイを葬ってしまう計画も立案した。

 そして、三年後・・・ついに俺の努力が実る瞬間が訪れた。 

 

んん゙ん゙ん゙っ!?ぎぼぢぃぃぃっ!!!!

 

 ある日のこと、施術中に突然ジジイが激しく痙攣し絶叫したのだ。

 何事かと驚いて手を止めると『止まるんじゃねぇぞ…』と、どこかの団長のセリフで続行を指示して来た。

 無視して救急車を呼ぶべきか悩んだが、本人が止まるなと言うのでマッサージを続ける事に・・・

 俺もジジイの過剰反応について調べたかったので、まあいいかという軽い気持ちで施術を行う。

 ジジイはずっと悶絶ながら盛った獣のように唸っていた。

 

 もう最高に気色悪かったなぁ。

 

 きっしょっ!マジでキッショ!!

 当時のジジイを思い出すと、あらゆる現象に対して一瞬で冷めるというか萎える! 

 そうか、光に対してやましい気持ちを抱いた時に使えば・・・やっぱキショイので嫌だ。

 

 翌日からジジイは腰が痛いとは言わなくなった。

 快気祝いにフラフープを回してはしゃぐジジイがとてもウザかった。

 そんなわけで、俺の目標は見事達成されたといっていい。

 元気になりすぎたジジイは、ご近所から『ハッスルジジイ』と命名され妖怪にカテゴライズされていた。

 腰痛を治しても俺の探求心は止まる事を知らず、その後もジジイで人体実験を繰り返した。

 いつしか俺の腕前は『ゴッドハンド』の称号を手に入れるに至った。

 称号をくれたのは実験体のジジイなので嬉しくも何ともない。むしろバカにしていると思う。

 

 フィギュアスケートをやるため都会に出てから田舎にはあまり帰っていない。

 たまに連絡は入れているがジジイと直接会ったのは随分と前な気がする。

 ま、あのジジイのことだ。簡単にくたばったりはしないだろう。

 

「へぇー。お爺さんがねぇ…」

「これがまた、どこに出しても恥ずかしいジジイでな。いい歳こいてプレイボーイを気取っている老害だ」

「元気そうでよかったじゃない。いずれ家族になるんだし、私も会ってみたいな」

「うわぁ…会わせたくねぇ」

 

 ハッスルジジイはエロジジイでもある。

 あの老害は女に目がないのだ。

 ご近所の女性陣を挨拶がてら口説きまくるのが日課という恥ずかしい奴。

 恋愛守備範囲が『二歳児から灰になるまで!』と豪語しやがった変態ジジイ。

 そういうわけで、光に近づけたくない。

 光みたいな美少女を紹介したら、なりふり構わずルパンダイブを決行しそうなんだよな。

 もしもジジイが光に対しルパンダイブをしようものなら・・・

 生きたまま土葬してやろうと思う。

 身内殺しになろうとも、微塵も後悔しない自分が容易に想像できる。

 

「そんなこと言ったらダメだよ。司さんのお爺さんは、私のおじいちゃんでもあるんだから」

 

 あのジジイを甘やかすな!『孫娘とのスキンシップ~』とかいってセクハラされるぞ?

 その前に俺がジジイの首をへし折るがな!

 ともかく、エロジジイを光に会わせる予定は今のところない。

 大事な教え子が穢れるような行いは避けるべきだな。ウンウン。

 

 ・・・・・・・・

 

「んで?イキュラスキュオラとはなんぞ?」

「指圧と共に大量の気を送り込み、瞬間的に想像を絶する快楽と癒しを提供する奥義だ」

「おおー。なんか凄そう」

「副作用で記憶が飛ぶ」

「ヤバいじゃんwww」

 

 そう、イキュラスキュオラとは快楽と引き換えに記憶を奪う禁断の技なのだ。

 

 初めてコレを使ったときジジイはアヘ顔のまま失神してしまい、目が覚めたときには記憶が飛んでしまっていた。

 夕飯を食べたのに『飯はまだか』とかふざけた事を抜かすので、ボケ始めたのかと最初は疑ったが、ジジイは本当に夕飯を食べた事をキレイサッパリ忘れていのだ。

 度重なる人体実験の結果、俺はジジイの記憶をある程度自由に選んで消せるようになった。

 全てはたゆまぬ努力と筋力となんか気とか?魔力とか?

 まあ要するに、フワッとした謎の力のおかげである。詳しくは知らん!

 さすがにヤバすぎると判断した俺は以降この技を封印する事にした。

 まあ、成功率は極端に低い上に気を操作すると疲れるので、好き好んで使う気はない。

 だけど、今の俺なら8割ぐらいの確立で成功しそうな気がする。

 

「ヨダカに使えばよかったんじゃない?」

「あいつは難しいな」

 

 イキュラスキュオラは相手が完全に油断しているか、こちらに身を委ねてくれないとうまく行かないのだ。

 ピュア太郎の存在はふざけているが、不用意に触れられるほどの隙を俺には見せてはいなかったと思う。

 海に落としたのは光といのりさんだ。この二人にはピュア太郎も油断していたのかな?

 某ネズミ様のモノマネに集中していて隙だらけだったのかもしれない。

 

「イキュラスキュオラ見たいです!」

「うん、見たいね。理凰、ちょっと記憶消させてよ?」

「嫌だね。被験者にはお前が立候補しろ」

 

 キラキラした目で見て来る光たちには悪いけど、使う機会は来ないだろうから諦めてくれ。

 人の記憶を消したくなる事態には遭遇するべきではない。

 イキュラスキュオラの出番がない平和な日常に感謝しよう。

 

 ●

 

 マッサージで悶絶し気を失った子供たちを介抱する。

 全体の半数近くがまだ覚醒していないので、綺麗に並べて寝かせておこう。

 光にいのりさんに理凰君、そして起きている子たちと手分けをしたのですぐに終わった。

 等間隔に並べられた彼らは安らかに眠っている。

 目覚めた時は体が楽になっているはずだ。喜んでくれると嬉しいな。

 

「これで全員ですか?」

「そうみたいだ。みんな、手伝ってくれてありがとう」

「このぐらいお安い御用です」

「死体安置所みたい」

「「「縁起でもねえ!?」」」

 

 ここはリラックスを目的とした休憩所だ。

 モルグ呼ばわりはホテルに失礼だぞ。

 

「おわっ!どういう状況やコレ!?」

 

 声のした方を向くと休憩所の入口に見知ったコーチいた。

 整然と横たわる子供たちを見て驚いている。

 

「どうも蛇崩先生。お疲れっス」

「はい、お疲れさん…って!いやいやいや、何があったか説明してくださいよ」

「まだ生きています」

「当たり前でしょ!死体並べて平然としとったら恐ろしいわ!」

 

 心配ありません、彼らは一時的に眠っているだけです。

 そのうち起きて来るはずですよ。

 

 ・・・説明中( ̄▽ ̄)・・・

 

「つまり、司先生のマッサージがヤバかったちゅーことですか?」

「まあ、そんな感じです」

 

 蛇崩先生に説明している最中にも目を覚ます子供たちが増えていく。

 その中には絵馬さんや鈴さんもいて、元気な二人の姿を見た蛇崩先生は安堵の吐息を漏らしていた。

 目を覚ました子たちは自身の体が復調及び活性化している事に気付くと、悶絶した甲斐があったと喜び合っている。

 光が『私の司さん凄いでしょ?褒め称えろ!』と、自慢して回っているのが照れくさい。

 

「なんかエライ好評みたいですね」

「これも悶死ギリギリの人体実験を繰り返した成果です」

「人体実験ってなんや!?」

 

 俺のマッサージはジジイの体をベースにした培われたものだ。

 奴に対しては遠慮も慈悲もない施術で十分だったし、失敗しても心が痛まなかった。

 無駄に頑丈な実験体のおかげで俺のレベルアップは早かったように思う。

 その事だけは感謝してやってもいい。

 

 市販薬と同じように、マッサージも相手に合わせた用法用量というものがある。

 今回で光と同年代の子供たちのデータが採れたことはまさに僥倖である。

 このデータをもとにして今後、光に施すマッサージは更なる進化を遂げるだろう。

 研究と実践の果てに俺はマッサージの真髄へと至るのだ。

 我が探求心の前に多少の犠牲はつきものよ……クククク。

 まさか、脳みそ筋肉と言われた事もあるこの俺が、マッドサイエンティスト的享楽に浸ることになろうとは。

 

「ククク…楽しいですねぇ」ニチャァ

「変態ドクターな司さんも好き!」

「悪の天才科学者やん。マッチョのくせにマッドやんw」

 

 気付くといつもすぐそばにいて、光は今日も俺を全肯定してくれる。

 俺の野望を垣間見た蛇崩先生は少々引き気味だ。

 

「……あー実は俺、枕が合わんかったみたいで今日ずっと首が痛いんですわ」チラッ

 

 お、これは誘われてますね。

 

「フッ、蛇崩先生も試してみますか?この俺の腕前を」

「ええんですか?いやぁ、なんか催促したみたいで悪いっスわ~」

「かまいませんよw」

 

 蛇崩先生も俺のマッサージに興味を持ってくれた。

 コーチ仲間としてお世話になっているし、日頃の感謝を込めて施術させていただきますね。

 

「いいの?ジャッキー先生までアヘアヘさせる気?」

「さすがに手加減はするさ。俺のそこまでバカじゃない」

「大丈夫かなぁ…」

 

 心配そうな光の頭をポンポンする。

 光の頭に触れると和むなぁ。

 

 この頭ポンポン、気軽にやっているが実は大変なリスクもある行いだと、ご存知だろうか?

 気を許した者以外にやられると、セクハラで訴えるどころか殺意を覚えると女性陣は言うのだ。

 ボディタッチをは確固たる信頼と絆を育んでからにするべきである。

 最初から俺にベタベタさわさわして来るし、していいと言ってくれる光は例外中の例外。

 

「向こうでいのりさんたちと遊んでていいんだぞ?」

「私の最優先は司さん。今はそばにいるよ」

「あーうん、退屈じゃないのなら、好きにしてくれ」

「うん。好きにする…えへへ」

「おーい、スリスリは後にしろ」

「(人前でめっちゃイチャつくやんけ!)」

 

 光には助手として待機してもらおう。

 そばにいてくれるだけで安心する。お守りみたいな奴だ。 

 気のせいか蛇崩先生がジト目になっている。

 光にスリスリされている俺がうらやましいんですね?

 え?違う、いいからはよしろ?はーいサーセンww

 

 蛇崩先生には座布団を用意した床上に胡坐をかいて座ってもらい、俺はその背後で両膝立ちになる。

 枕が合わないという事なので、寝違えて首をやっちゃった感じか?

 後頭部から首、肩、背骨辺りを重点的に解していこう。

 よし、始めるか。

 

 ・・・・・・

 

「おお~…こらアカン、病みつきになりそうやわ」

「またファンが増えたね。司さんのマッサージはまさに至高の絶技!」

「コーチ辞めても、コレで生計立てれるんちゃいますか?」

「辞めませんよ。俺は光のコーチですから」

「司さんがプロのマッサージ師?小さなお店を開いて助手の私とラブラブ生活…いいかも///」

「二人が店を構えたら常連になってもええなぁw」

 

 ちょっとちょっとぉ!

 俺の未来が勝手に具体性を帯びちゃってるよ。

 オリンピックの夢はどうした?金メダル獲るんでしょ!

 え…引退後の話……それなら、アリなのか?

 資格を取って光と二人でお店を切り盛り、小さいながらも予約が困難な超人気店へと・・・

 キャーッ!リアルに想像して夢が広がりんぐ!

 当たり前のように大人になった光と暮らしている未来の俺がキモいわ!

 そんなに長い間一緒ということは、け、結婚とかも、しちゃって、いるのでしょうか?

 なーんて、はははは・・・

 

「いや、むしろしてなかったらドン引きですわ。最低の鬼畜生ですやん」

「フフフ、体だけ求められて結婚は先延ばし…司さんにとって私は都合のいい女なのね///」

 

 なぜ嬉しそうなんだろうね、この子は?

 光ちゃん、クズな俺に酷い仕打ちを受けて興奮(ハァハァ)したい願望があるよね。

 ちょっと引くよね。

 

「司先生、それはさすがに酷すぎます。いずれポイ捨てされる光ちゃん……泣けるわ~www」

「フフフ、心配していると見せかけて、転落した私で愉悦るエビフライが憎たらしい」

 

 わざわざやって来て、俺を非難して光を嘲るいのりさん。

 えーと、皆さんは何故に俺の思考を的確に読み取るのでしょうか?

 脳へのハッキングはやめてくださいよ。サトラレではないですよ。

 

 会話しながらも蛇崩先生へのマッサージは順調だ。

 年齢も近いので俺との話題は尽きない。

 合宿中に起きた事や教え子たちの成果報告、そして趣味の話で盛り上がる。

 すぐそばでは光といのりさんが、キャピキャピ時々バイオレンスな会話を繰り広げていた。

 それにツッコミを入れたり、暴力沙汰を未然に防ぐのも忘れてはいけない。

 

 首のコリも粗方解し終えた頃、蛇崩先生が話題を振って来た。

 

「そういえば、ここに来る前に面白いもんを目撃したんですよ」

「面白いものですか?」

「ええ、それが……クッぷぷぷっ!」

「な、なんなんですか思い出し笑いなんかして」

「すんまへん。いやぁ、世の中マジで不可思議なもんがおるなーって」

「???」

「これ嘘やないですからね?それと俺は酔ってもないです」

 

 やけにもったいぶりますね。

 相当奇妙な何かを見てしまったのだろう。

 早く教えてほしい。

 

「おったんですよ……猫耳をつけた変態がw」

「「「はぁ?」」」

 

 俺と光といのりさんの声が見事に重なる。

 そして、三人で無言のアイコンタクト。

 おい、これってまさか、あのバカまじか・・・

 いやいやいやいや!!

 猫耳なんて、このご時世ありふれたアイテムだよ。

 たまたま猫耳つけちゃった人が、このホテルに宿泊してもいいじゃない。

 ほら、ここにも猫っぽい髪型を愛するミケ太郎もいるしさ。

 そうそう。美少女とかだったら何も問題ないよね、むしろ見たいよね。

 

「それがまた、無表情でやたらとイケメンだったんですよ」

 

 くそっ!男か!

 しかも、どうせそいつヌボーッとした顔のイイ男なんだろ?

 確定か?これもう確定か?

 なんで同じホテルに泊まるんだよ!

 アイツ自分が有名人だって自覚ないだろ?

 正体を隠す努力しようぜ、なあ?

 

 いや、まだだ!早とちりしてはダメだ。

 まだあの男だと決まったわけではない。

 イケメンと一口に言ってもいろいろだし、顎がしゃくれていたりアフロだったり外国人だったり・・・

 

「で、そのイケメンがなんと……あの夜鷹純に瓜二つでw思わず二度見しましたわww」

「「「………」」」( ゚Д゚)(゚Д゚;)(´Д`)

 

 終わった。

 僅かな望みに縋ったけど、結局ピュア太郎だったよ。

 早くもいのりさんが、床に手をつき絶望しているのが不憫でならない。

 ちょっと待って、まだ蛇崩先生は瓜二つとしか言ってない。

 奴のことを他人の空似、つまり本人ではなく『そっくりさん』だと思っている?

 そうならまだ間に合う、まだ取り返しが・・・

 

「あんなん面白すぎやろwwもう一回会いたいなあ」

 

 やめましょうや。

 深入りしすぎると危険な事って案外近くに転がってるんですよ?

 何度でも言います。やめましょうや、マジで!!

 

「アレそっくりさんやのうて、ご本人だったりww」

「…いや、そんなわけ…ないじゃないですか…」

 

 笑ってる蛇崩先生とは違い、俺たち三人には緊張が走る。

 頼む蛇崩先生、これ以上余計な詮索をしないでくれ!

 あ、光が恐ろしく速い手刀の準備をしている。

 こいつ秘密を守るために蛇崩先生をやる気か?

 待ってくれ、大事にならないよう話題を逸らすから、もうちょっと待って!

 

「この後ホテル内を捜索してみますわ。その前に他のコーチ連中にも知らせ…」

イキュラスキュオラ!!」 

んほぉおおおっ!!

 

 あ、やっちまった。

 

 ●

 

 頸椎から大量の気と刺激を送り込まれた蛇崩先生は悶絶しながら崩れ落ちる。

 こうなってしまったらしばらく目を覚まさないだろう。

 仕方ない事とはいえ、咄嗟に禁断の奥義を使ってしまうとは、俺もまだまだ未熟よ。

 

「惚れ惚れするような一撃ノックアウト。素晴らしいね」

「なんという、今のが司先生の奥義…」ゴクリッ

 

 イキュラスキュオラを見た教え子たちが感嘆の声を出す。

 加害者の俺が言うのもなんだが、少しは蛇崩先生を心配してあげて。

 

「…やっちゃったなぁ…ああ…やっちゃったなぁ…」

「やっちゃったもんはしょうがないよw」

「司先生は間違ってません。イキュラスの使用もやむなしでした」

 

 奥義を使った罪悪感で落ち込む俺を、前向きな教え子たちが励ましてくれた。

 二人の存在がありがたい。

 

 倒れ伏した蛇崩先生をそっと床に寝かせた。

 白目を向いた犠牲者に申し訳なさから手を合わせて拝む。

 介抱は少し前に目覚めていた絵馬さんと鈴さんに任せよう。

 

「死体安置所に仲間が増えたよ!」

「休憩所な」

「知り過ぎた者の末路ですね」

 

 そうだ。蛇崩先生は知り過ぎたのだ。

 ピュア太郎・・・夜鷹純のことを・・・

 奴が今、このホテルに滞在している事を知られるわけにはいかない。

 

 一番被害を受けるのは、おそらくいのりさんだ。

 アイツがいのりさんの影のコーチだというのは、ライリー先生以外知らない。

 みんなに『私のコーチ猫耳の変態でしたぁ!』とは紹介したくないだろう。

 しかも、実の姉がその変態とイチャコラしているなんて・・・

 俺だったら恥ずかしくて合宿どころではない。

 

 でもって、アイツが視界に入るだけでストレスを感じてしまう、光にも悪影響がある。

 

 さらにさらに、夜鷹純はみんなの憧れる金メダリストなんですよねー。

 この合宿に参加している者や連盟の方々にとって、奴はある意味神にも等しい存在なのだ。

 そんな奴が実は猫耳ド変態だと判明したら…ショックなんてもんじゃないだろう。

 合宿崩壊どころか、スケート界に激震が走るわ!

 

 もう!ホントまじで迷惑~。

 アイツの存在が露見する事で、いろんな人の夢と希望と人生が狂うよ。

 

 『え?猫耳…変態だったんですか』

 『しかも、彼女連れ…ないわー』

 『いのりちゃんのお姉さんらしいよ』

 『うわぁー姉妹丼だぁ』

 『『『失望しましたファンやめます!!』』』 

 『『『絶望しましたスケートもやめます!!』』』

 

 スケート人口激減の危機!

 みんなのやる気がそがれて日本の選手レベルが低下。

 オリンピックどうせ勝てないからスケート関係の予算を減らす流れに・・・

 くっ、光たちの努力が無駄になるような事態はノーサンキューだ!

 

 そういう事なので、夜鷹純を探ろうとした蛇崩先生の記憶は消去させてもらった。

 俺は間違ってないよな。うん。

 あれは不幸な事故だと思って忘れよう。

 

 久しぶりだったがイキュラスキュオラは問題なく発動した。

 蛇崩先生が起きてからでないと確証はとれないが、記憶消去はうまくいっていると思う。

 ヤレヤレ、こいつの出番は金輪際訪れないことを願うよ。

 

「今のフラグですね」

「もう2、3回見たら真似できそうなんだけどなぁ」

 

 ワクワクしながら期待をするんじゃありません!

 説明しただろ、イキュラスキュオラはおいそれと使っていい技じゃないんだってば。

 

「ワォ!みんなここにいたんだね~」

「「ライリー先生!?」」

「チッ!女狐が来たか…」

 

 ひょっこり現れたのはライリー先生だった。

 光、露骨な舌打ちやめなさい。

 風呂上りなのか、しっかりと浴衣を着用していてなんだか可愛らしい。

 洗いたての金髪の輝きも眩しくて、思わず見とれてしまう。

 

「浴衣、似合ってますね」

「ありがと。日本のお風呂とユカタはセットだよね」

「しまった!司さんは浴衣萌えだったのか、私としたことが…」

「金髪美人と浴衣の組み合わせは中々の破壊力です」

 

 光が本気で悔しがり、いのりさんは何かを分析して納得している。

 

「何かご用ですか?」

「実は偶然ヨダカ君を見かけてね。せっかくだからみんなの前で挨拶しても…」

イキュラスキュオラ!!」 

んほぉおおおっ!!

 

 あのさぁ。

 使わせないでくれよ。

 奥義なんだよ、禁断の技なんだよ、連発したくねぇんだよ。

 

「司先生やるぅ!もう、キレッキレッじゃないですか!」

「ふんふん。そうか、アレがこうなって、こうして、なるほどね…」

 

 再びのイキュラスキュオラに、いのりさんは大喜びで称賛の声を上げた。

 俺の動きを注視していた光は何やら思案中だ。

 この子まさか、イキュラスキュオラを覚えようとしている?

 そう簡単に修得できるはずはないが、光ならもしやという気がする。

 普通、目の前で人の記憶を消したらもっと驚くと思うのだが二人はやけに冷静だ。

 まったく、底が見えない教え子たちだと思う。

 

 白目を向いた金髪美女を安置所に追加だぁ!

 ライリー先生を蛇崩先生の横にそっと寝かせる。

 介抱は彼女のスターフォックスのクラブ生である、鵯朱蒴君に一任しておいた。

 

「やぁ司君、おや光たちも一緒だったか?」

 

 鼓膜を震わすダンディなお声!?

 

「ァハッ!慎一郎さぁぁぁんん////」

 

 光と理凰君の父親であり、俺の尊敬する元銀メダリストにして名港ウィンドFSCのヘッドコーチ。

 鴗鳥慎一郎さんのご登場だ。

 

「お父さんに会うと司さんのテンションがおかしくなるんだよね。なんか複雑…」

「むむ、これはホモホモして来ましたね」

「『父×旦那』はさすがに罪深いよ!止めなきゃ!あの二人を止めなきゃ!」

「とか言って、ちょっとハァハァしている光ちゃんマジキンモーwww」

「くぅっ!一番罪深いのは私だったか」

 

 バカヤロウ!

 偉大なる慎一郎さんが俺ごときとホモホモするはずないだろうが!

 光といのりさんの頭に軽くゲンコツを落とす。

 腐女子たちは『ふぎゃ!?』と可愛い悲鳴を上げた。

 

「寝ている子が多い、みんな合宿の疲れが出ているようだね」

「ははは、みんな頑張り屋さんですから」

「あそこにいるのは、蛇崩先生?それにライリー先生も?」

「気にしたら負けです」

 

 奴らは犠牲になったのだ。

 夜鷹純という愚かな男の犠牲にな・・・

 

「犠牲にしたのは司さんのイキュ…」

「光、抱きしめてやるから黙れ」

「わーい!司さんしゅきしゅきぃ~」(*´▽`*)

 

 飛び込んで来た光をハグして黙らせる。

 余計な事を言う前に止められてよかった。

 

「あーズルいぞちくしょう!司先生、私もついでオナシャス!」

「何やってんだお前ら、先生が困ってるだろ!離れろ!」

「はっはっはっ、司君は今日も人気者でうらやましいな」

 

 光と抱き合っているところに、いのりさんと理凰君も参戦して来た。

 もう引っ張りだこで大変大変~ヘンタイじゃないのよォ。

 そんな俺たちを慎一郎さんは微笑ましいモノを見る目で笑っていらっしゃる。

 光は父親の前でも問答無用で甘えて来る。なんだか俺の方が恥ずかしいわ!

 いやぁ、慎一郎さんが見てるのぉ!グリグリスリスリしちゃらめぇ!

 

「父さん、先生に何か用か?」

「ああそうだった。つい先ほど予想外に人物にバッタリ会ってね。司君にも伝えておこうと…」

 

 ピタッ・・・

 俺と光といのりさんの動きが同時に止まる。

 なんてことだ…神よ…あなたは俺に、なんてことをさせようとしているのだ!

 光といのりさんが『やる?やっちゃう?』と俺の顔を伺っている。

 やりたくねーよ。理凰君がいる前で奥義を炸裂させたくねーよ。

 神よ。どうか予想外の人物とやらがアイツじゃありませんように・・・

 

「純君…確かに夜鷹純がいた」

「はぁ??なんでここにクソジジイがいるんだよ」

「事情は知らないが、アレはお忍びデートというやつだと思う」

「デートぉ?あの冷血男がデェェトォォ!?!?」

「ああ、すごい美人と腕を組んでいたんだ。浮かれてるのか頭に耳までつけて…フフ、いやぁ、あんな純君初めて見たなぁww」

 

 慎一郎さんと理凰君の親子会話に開いた口が塞がらない。

 デート目撃されとる!?

 あのバカ野郎!堂々とホテルを練り歩いてんじゃねーよ!

 実叶さんも止めてよ!あなたは常識人枠だったはずでしょ!

 ピュア太郎と付き合ってミカエルも浮かれポンチになっとるやろがい!!

 

「女連れだと…ダッチワイフと見間違えたんじゃ…」

「確かに人間だったよ。とても可愛らしいお嬢さんで、そういえば…」

 

 慎一郎さんがそこでいのりさんをジッと見つめた。

 あ、これはマズい。

 

「なんだか結束さんに似ていた気がするな。もしかして君のご家族だったり…」

イキュラスキュオラ!!」 

んほぉおおおっ!!

 

 やっぱり神様なんていなかったね・・・

 

「父さぁぁぁんんんッッ!!」

 

 崩れ落ちる父親の姿を見た理凰君の叫びが耳に痛い。

 俺はなんてことを…だが、いのりさんを守るためには仕方なかったんだ。

 

「イキュラスキュオラ最高ッ!司先生、まじリスペクトっす!」

 

 窮地を脱したいのりさんが本日最高の笑顔で俺を褒めてくれる。

 尊敬する人を手にかけてしまった俺は素直に喜べない。

 

「あはははははwwwお父さんwあのお父さんが『んほぉおおおっ!!』だってwwぎゃはははははww腹いぇてぇwwwぱひゃひゃひゃひゃwwヒャッハー!!!」

 

 腹を抱え畳の上をゴロゴロと笑い転げる光、笑い過ぎたその目には涙すら浮かんでいる。

 非道いなぁ、人の心とかないんか?

 

「光、てめぇ!笑い過ぎだ」

「ごめんごめんwwでもね理凰、今のはお父さんがいけないんだよ」

「な、何を、何を言っている?」

「理凰もさっきの話は忘れることだね。じゃないと……イキュラスキュオラされちゃうよ?」

「ひぃ!?」

 

 光の脅しにビクついた理凰君の肩に俺はそっと手を置く。

 反対側の肩にはいのりさんが同じようにポンと手を置いた。

 

「わかってるよね、理凰君?」

「彼は賢い子だから大丈さ、そうだよね?鴗鳥理凰君?」

「はい!大丈夫です!俺は何も見てない聞いてない知らない!!」

「うんうん、理凰は良い子だねw」

 

 俺たち三人から威圧された理凰君は、何度も首を縦に振るのであった。

 

 倒れた慎一郎さんをライリー先生の横に寝かせる。

 察しの良い理凰君もわかってくれたみたいだし、とりあえずなんとかなった。

 ふぅ・・・さすがに奥義の三連続はキツイな。

 これ以上は勘弁してほしい。

 

「二度あることは三度ある。なら三度あることは?」

「やめろよ、もう疲れてんだよ。光ちょっと吸わせろよ、エネルギー切れそうだよ」

「はいよろこんでー!」

「そんなこと言ってる間に次が来ますよ!?」

 

 いのりさんの言う通り、休憩所にはコーチや他の子供たちが続々とやって来ている。

 今までどこにいたんだ?なぜここに来てしまうんだ?

 この全員がピュア太郎とミカエルのバカップルを見ているとは限らない、奥義の使用は人を選んで行わないと。

 

「ん、さっきのでだいたい覚えた。次からは私も司さんを手伝えるよ」

 

 なに!?

 光、お前まさか本当に、この短時間でイキュラスキュオラをマスターしたというのか!

 なんという才能!青魔導士も裸足で逃げ出すラーニング力だな。

 

「イキュラスキュオラって、言いにくいんだけど?」

「好きな言葉でいいと思うぞ。ようは気分の問題だからな」

「何でもいいんだwなら私が言いやすい魔法の言葉…やっぱアレかな?」

 

 次に休憩所を訪れたのは二人組だった。

 あれは岡崎いるかさんと、烏羽(からすば)ダリアさん。

 

「ああ皆さん、ここにおりましたのね」

「ダリアちゃんと、いるかちゃん?」

「そんな大人、修正してやる!!」

「明らかに、いるかちゃんの様子がおかしい!?また鼻血ブーしたの?」

「よくわかりませんの。頭カミーユになってしまったみたいで」

「フフフフフ、ハハハハハハ、ざまあないぜ!」 

 

 岡崎選手の目が完全にイッてしまっている。

 相当ショッキングな出来事に遭遇したのか?

 ナイーブなニュータイプに変貌した友人を救うため、烏羽選手はここまでやって来たらしい。

 医務室に行くべきでは?

 

「烏羽選手、岡崎さんがこうなった理由に心当たりは?」

「ダリアでいいですわ。そうですね…私なりに要領を得ない言葉を解読してみたところ」

 

 解読できるんだ。さすが二人は友達ってヤツだね。

 お許しが出たのでダリアさんと呼ばせてもらおう。

 岡崎選手もカミーユ…じゃなかった、いるかさんでいいよね。

 

「『猫耳の変態が夜鷹純で実叶さんと目の前でチューしやがった』ですわね!」

 

 はぁ・・・結局、こうなってしまうんだな。

 戦い続けろとそう言うんだな。

 上等だ!こうなったらとことんまでやってやるよ!

 

「ここは私に任せて」

「やれるのか光?」

「うん。やってみせるよ」

 

 ゴキゴキと指の間接を鳴らす光が頼もしい。

 ここは愛弟子を信じてみよう

 

「え、ちょ、一体なにが、誰か説明してくださいまし?」

「うかつな!」

 

 頭カミーユを無視して、狼狽えるダリアさんの背後を光がいとも簡単にとった。

 狙うは一点、頸椎の秘孔を抉り込むように突くべし!

 やれ!光!

 

ゾルトラーク!!

んほぉおおおっ!!

 

 ダリアさんが悶絶して崩れ落ちる。

 やるな光、初めてでこれなら上出来だ。

 光版のイキュラスキュオラ・・・

 記憶を消す魔法・ゾルトラークはこうして完成した。

 

「出てこなければやられなかったのに!」

「あのー、いるかちゃんもウザいんで落としてもらえませんか?」

 

 いのりさんが助けを求めている。

 彼女は頭カミーユに絡まれて困っていた。

 俺は手刀を優しくいるかさんの首に落とした。もう休め!

 

「ミカ…お前は、私の…」

 

 ゆっくりと意識を失ういるかさん。

 それはカミーユのセリフじゃないw

 

 気絶したいるかさんとダリアさんを安置所に寝かせる。

 なんかこの作業慣れて来た。

 

「まだまだ来ますよ!気を抜かないで」

「ああもう!ちくしょう!こうなったら全員にイキュラスキュオラじゃぁ!」

「血が滾るね。私のゾルトラークも火を噴くよ!」

 

 俺と光は休憩所にやって来る人を次々に処理して行った。

 いちいち選別するのが面倒なので、とりあえず目に付く全員がターゲットだ。

 うぉぉぉぉぉ!やぁぁぁってやるぜっ!!

 

 ・・・・・・・・・・

 

「これで、打ち止めか…ふぅ」

「いっぱいやっちゃった!まあまあ楽しめたね♪」

 

 俺と光が頑張った結果、休憩場は意識を失った人間でごった返していた。

 マジで死体安置所みたいになってきたなw 

 この人数、俺一人ではさばき切れなかったと思う。

 事態が収束したのは、光が俺のフォローに回ってくれて、いのりさんが救護班を指揮してくれたおかげだ。

 優秀な教え子を持って鼻が高い。

 

「司先生、お疲れ様です。飲み物を買って来たのでどうぞ?」

「悪いね。ありがたく頂くよ」

「なんで私の分がないの!?のど渇いたぁ~」

おまえはそこでかわいてゆけ

「酷いぃ!いのりちゃんのハゲ!」

「うるせぇ!なまはげ!」

 

 なまはげ扱いされた光が可哀想なので俺の分をわけてやる。

 遠慮なくごきゅごきゅ飲む光からは、間接キスで恥じらう乙女心は存在しなかった。

 

 さすがに疲れた。

 イキュラスキュオラは、もうあと一回撃てるかどうかだな。

 光も結構暴れていたので、ゾルトラークの使用回数もそんな感じだろう。

 まあ、とにかく終わったのだ。

 みんなが目を覚ましたらサッサと撤収しよう。

 

な、なんじゃーこりゃぁぁぁっ!

 

 突如響き割った声に俺たちは一斉に振り返る。

 そこには今、最も会いたくない人物がいた。

 

「アンタたち今度は何をやったの!今日だけで何回私を怒らせるのよ!!」

「「「ぎゃー!鬼が出たぁ!?」」」

「いい度胸ね。司君はとりあえず死刑にするわ」

「そんなぁ」(´・ω・`)

 

 ここに来て瞳さん(ラスボス)かよぉ!!

 ヤバい、もう逃げる体力が残ってない。

 連戦後なんで回復せてくれませんか?

 ダメですか・・・

 

「司さん、もうやるしかないよ」

「そうだな。どうせなら戦って散ろう」

「バカ二人とも、そこを動くな!すぐに終わらせてやる」

「司先生、光ちゃん…」

 

 鬼舞辻無惨より厄介な鬼がジリジリ迫って来る。

 なんてプレッシャーだ。

 光がいなければいろいろ漏らしていたところだぞ。

 

 危ないからいのりさんたちは下がっているんだ。

 ここは俺と光で対処する。

 墓標には教え子に愛したコーチと刻んでほしい。

 

「勝負は一瞬、タイミングを合わせろ!」

「任せて!絶対に成功させる」

「往生際が悪いわぁ!このクソバカップルどもがァァァ!!」

 

 俺と光、そして瞳さん(ラスボス)が激突する。

 ホテルには本当にいい迷惑だろうが、これは避けては通れぬ戦いなのだよ。

 本来ならば奥義の成功には相手の油断を誘う必要がある。

 だが、光と同時に秘孔を一点集中で突けばその必要すらないと思う。

 合体攻撃だからね!サイズ差補正無視やバリア貫通があってもおかしくないのだ。

 時間をかける気はない、この一撃に全てをかける。

 

「イキュラスキュオラァァァッ!!!」

「ゾルトラァァーークッッ!!!」

 

 悪鬼退散!!

 全力を出し切った。

 激突の瞬間、すれ違いざま俺たちは確かに瞳さんの秘孔を突いた。

 

「ぬるいわぁ!!こんなものが私に効くかぁ!!」

 

 瞳さんは何事もなかったように行動を開始する。

 光の顔が焦燥に歪み、いのりさんたちから絶望の悲鳴が漏れる。

 

「終わりだぁ!あの世で反省しろぉーーッ!」

 

 ええ、終わりです。

 瞳さんがね!!

 

うおっほぉおおおおおおおおっ!!

 

 今日聞いたなかでも一番のオホ声が高らかに響き渡る。

 声の主は当然瞳さんのものだ。

 

 効いていないわけではなかった。

 奥義を重ねたので時間差が生じただけである。

 

「俺たちの、勝ちだ…」

 

 瞳さん(ラスボス)のあられもない声は、いつまで響き渡っていたという…

 

 ●

 

「今、愛娘に呼ばれた?昔みたいにパパって呼ばれた気がする」

「空耳ですよ高峰先生」

「おう、純じゃねーか。来ていたなら顔を見せやがれ」

「今見せてます。それより」

「ああ、結束いのりの件は了承した。お前の頼みなら仕方ねぇ」

 

 司たちがいる休憩所とは別のラウンジで高峰匠と夜鷹純は相対していた。

 今まさに愛娘や知り合いたちが醜態を晒しているとは夢にも思わず。

 

「お姫さんはどうすんだ?俺ぁてっきりお前がずっと…」

「光は意思を持ちました。僕やカミサキの用意した檻など彼女には窮屈すぎる」

「だからって、(つがい)にアイツを選ぶのは…正気とは思えん」

「彼だから選ばれたんですよ。あの二人はお似合いだ」

「お前さんも変わったな。いつまでも変われねぇのは俺みたいなロートルだけってかw」

「あなたはまだ現役でしょうに」

 

 皮肉っぽい笑みを浮かべる匠の背中は、少しだけ哀愁が漂っていた。

 話は済んだのだが、夜鷹純は立ち去ろうとしない。

 まだ何かあるのだろうか?

 

「そろそろいいですか?」

「あん?何がだよ?」

「彼女を自慢したいのですが?いいですか?」

「嫌だよ!真顔で何言ってんの?バカなの?」

「もう連れて来てます。実叶、こっちにおいで」

「はーい♪初めまして、うちのジュンくんが、いつもお世話になっています!」キラキラッ

「えっ!ウソ、眩しっ、めっちゃ可愛いぃぃぃ///なんなんだよチクショー!!」

 

 陰キャの分際でムカつくわ~末永く爆発しろ!

 

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