狼嵜光と夜鷹純。
コミュ症同士の全く盛り上がらない短い旅が始まった。
「ん、どこへ行くの?」
「着けばわかる」
少しは情報開示しろや。
こっちは自分の行く末が不安でしょうがないんだぞ。
ずっと黙っているのも疲れるので、私なりに頑張って話しかけたけど暖簾に腕押し。
『ああ』とか『そうか』とかばかりでまともな反応が返って来やしない。
初日からこれでは先が思いやられる。
タクシーに乗って大きな駅へ到着した。
巨大な建物、立派な商業施設に無数の自動車群、そしてどこを見ても人だらけ。
目に映る者全てが新鮮で驚くと共に、いろんなものが多すぎて少し辟易した。
私は自分が今までド田舎暮らしだったことを理解した。
そこから新幹線に乗って更に移動。
人生初の新幹線で若干テンションが上がった。
無感動の陰気臭い男がいるせいですぐに下がった。
「そうか、子供は食事が必要なのか…面倒だな」
腹減った何か食わせろ。と言ったらこの反応である。
面倒っておま・・・
私が電池か何かで動いているとでも思っているのか?
最初からわかっていたけど、この男に子育ては絶対無理!ネグレクト不可避。
食事の必要性を説き伏せて駅弁を買ってもらった。
ヤベェよ、牛肉どまん中めっちゃ美味い。
駅弁をしっかり完食した私と違い、ヨダカは缶コーヒー1本で満足したみたい。
そんなのだから血色悪いんだよ。メシぐらいちゃんと食え。
窓から見える景色は高速で移り変わっていく。
今どの辺りなんだろうか?思えば遠くに来たもんだと、しみじみ。
私これからどうなるのかな?
ねえ、ヨダカ?
そろそろのあなたの目的を聞かせてもら・・・
あの、生きてますか?ヨダカさん?
「……zzz」
「ん!?」
この野郎。
私を放置して自分だけ寝ていやがった。
せっかく引き取ったんだから、少しは私に興味持てや。
その無関心が私の情操教育に及ぼす悪影響をこんこんと説教したい。
ヨダカは降車駅に着いてもまだ寝ていた。
全力ビンタして叩き起こした。
まったく、世話が焼ける。
新幹線を降りるとまたもや世界が見違えた。
すごい。これが大都会というヤツか。
更に増えた人の数に、煌びやか街並み、どこもかしこも興味深いものばかりで、おのぼりさんの私はつい周囲をキョロキョロしてしまう。
そんな私に構うことなく、感情の抜け落ちた男ヨダカはスタスタと先へ行ってしまう。
だから、置いて行くなって言ってんだろ!
「ここだ」
「ん?」
あれからまたタクシーに乗り、たどり着いたのはハイソな住宅街にある一軒家だった。
どうやら目的地にたどり着いたらしい。
お洒落なデザイナー住宅の表札には『鴗鳥』と書いてある。
何と読むのかわからん。
躊躇なくインターホンを押したヨダカ、マイク越しにボソボソと何か喋る。
すぐに玄関扉が開き現れたのは、カッコ良さと思慮深さを兼ね備えたであろう中年男性だった。
おう、中々のイケオジですな。
「夜鷹純……急に会いに来たと思ったら一体何の用で」
「この子の預かってほしい」
「なん…だと…??」
『なん…だと…??』
私の心の声とイケオジの発した声が重なった。
ヨダカァァァッッてんめぇぇぇーーー!!
さっそく育児放棄かぁ!!
さすがの私も僅か半日で捨てられるとは思わなかったぞ。
もうヤダ、マジで何なのこいつ。絶対友達いないだろ。
「あとは頼む」
戸惑うイケオジとニ、三言葉を交わした後、ヨダカは私に一瞥もくれることなくクールに去っていった。
見なよ、アレがたった今子供を捨てた外道の薄汚い背中だよ。
8番出口に迷い込めばいいのに。一生さまよってろ。
「相変わらず勝手な奴だ……君、とりあえず中に入りなさい」
外道の姿が見えなくなり呆然している私にイケオジが声をかける。
ヨダカに何を言われたか知らないが、すぐさま私を警察にお届けする気はないようだ。
かたじけない。いや、本当にご迷惑をおかけします。
ヨダカというクサレ外道により不法投棄された
鴗鳥家で緊急家族会議が開かれることとなった。
『鴗鳥』は『そにどり』と読むらしい。
リビングで待つように言われたが私は気が気ではない。
会議の結果いかんによっては、また養護施設へ逆戻りのパターンもあり得る。
コミュ症だなんて泣き言いってる場合じゃねえ。
もう『ん』も封印しよう。
何とかここに置いてもらえるよう。鴗鳥一家を味方に付けなければ。
あー、あー、大丈夫か?ぶっつけ本場だけどいけるか?持ってくれ私の声帯よ。
それと顔、笑顔、笑顔、笑顔・・・愉快なことをイメージしろ・・・
ヨダカがタイキック食らった瞬間!ざまぁwww
・・・・・・・・・・・・・・・
「狼嵜光って言います。よろしくお願いします」キラッ
私が今できる全力120%の愛嬌で元気に挨拶・・・表情筋つりそう。
ロリコンなら今ので心停止させる自信があるが、どうだ?
「まあ!なんて可愛らしい子なの。理凰もそう思うわよね?」
「う、うん」
よっし!いい反応だ。
第一印象はかんぺき~。
私を可愛いと褒めてくれたのは鴗鳥・エイヴァ・F・ロドリゲスさん。
一家の主、慎一郎さんの妻であり二児の母親だ。
が、外国人、しかもえらい美人であらせられる。
心の中でゴッドマザーと呼ばせていただこう。
その隣にいるのが私と同年代ぐらいの男の子。
鴗鳥夫妻の長男、
私を見てピタッと一瞬固まり、その後やたらモジモジしているが何だろう?
もしかして、私の外見お気に召しませんでした?
母親と同じ金髪女子しか認めねー系男子ですか?
仲良くしてくれるとありがたいな。
「狼嵜……またとんでもない所から…いや、この子が悪いわけではない、か」
鴗鳥家の主にして私の運命を握っている相手だ。この人に見捨てられたら終わる。
外道に無理難題を押し付けられた慎一郎さんは、私の姓を聞いて益々顔を強張らせている。
初対面から苦労かけっぱなしで申し訳ない。全部ヨダカって奴のせいです。
え?ヨダカの友達・・・・・・・・・そんな忍耐強い人いたんだ。
あの、今すぐ縁を切った方がいいですよ。
あいつ鴗鳥家を廃棄物処理場ぐらいにしか思ってませんから。
誰が生ごみじゃ!!
「あー、うー」
なんかいる!?!?
え、ちっちゃ。小さいのが私をジッと見て『あうあう』言ってる。
つかぬことをお聞きしますが、この生命体は何でありますか?
赤ちゃん、これが赤ん坊・・・初めて見た。
「あらあら、
鴗鳥家の長女でもうすぐ一歳になるのだとか。
『ひはーう?』とか言いながらヨチヨチ移動して、こっち来た!?
おいチビそこで止まれ!こっちに来るんじゃあない。
やだ怖い。私なんかが触れたら『ぐしゃ』ってなりそうで怖い。
自分より小さい汐恩にビビッて後退を余儀なくされる。
そんな私を救ってくれたのは理凰君であった。
「大丈夫だよ光ちゃん。こうやって、優しく触ってあげて」
「こ、こう?」
「ひはう、ひはうー」きゃっきゃっ
「笑った。カワイイ」
「でしょ?僕の妹かわいいよね」
「うん」
おっかなびっくり汐恩ちゃんの頭をポンポンすると、彼女は無邪気な笑顔を見せてくれた。
小動物に嫌われなかった経験は初めてなので感動した。
可愛い汐恩ちゃんと、しっかりお兄ちゃんをしている理凰君に癒されて私も笑ってしまった。
その光景を鴗鳥夫妻が微笑ましくて堪らん!という表情で見ている。
「どうするの、あなた?」
「子供たちの反応を見てから考えるつもりだったが、これはもう決まりだな」
「そうね。娘がもう一人いてもいいわよね」
この日から私は鴗鳥家で暮らすようになった。