光ちゃんと司先生が結ばれる話   作:青紫

9 / 46
オオカミ少女④

 ヨダカ来襲。

 

 プシュ!プシュー!

 私は無言でヨダカへ向けファブリーズを噴射した。

 

「……何をしている?」

「消臭と除菌と除霊」

「よしなさい光。それで消えるような奴なら誰も苦労しない」

「もう何やってるの。夜鷹君に会えて嬉しいのかしら」 

 

 チッ!

 生意気にもファブリーズに耐性持っていやがった。

 火炎放射器のモヒカンさんはおられませんか?

 消毒していただきたい汚物がここにいまーす。

 

「スケート」

「ん?」

「スケート、もっと上手くなりたいか」

 

 いきなり何を言い出すんだ、このヨダカは?

 そりゃあ上手くなりたいけど、それがお前に何の関係がある?

 

「僕が教えてやってもいい」

「あ、結構です」

 

 即行辞退!

 判断が早い狼嵜光です。

 

 アホなのかこいつ?

 慎一郎さんという元銀メダリストの前で『教えてやってもいい』だって。

 何でそんな偉そうなの?

 

「夜鷹はフィギュアスケートで金メダルを取った男だ」

 

 慎一郎さん。冗談はよしてくださいよ。

 こんな陰気を煮詰めて造ったような男が金メダルもらえるわけないでしょ。

 マンホールの蓋でも首から下げてろ。

 

「嘘じゃないわよ。夜鷹君って本当に凄かったんだから」

 

 エイヴァさんまで。

 ドッキリにしては質が悪い。

 認めたくはないが、尊敬する鴗鳥夫妻が言うのなら本当のことなのだろう。

 夜鷹純の正体は陰キャ金メダリストだった。

 

「金メダルが欲しいか?」

 

 いや、そんな『力が欲しいか』みたいに言われても。

 そりゃ欲しいに決まってる。

 オリンピックで一番とか最高に気分がいいと思うし。

 

「欲しいのなら手伝ってやってもいい、場所と時間は追って伝える」

 

 話は終わりだとばかりに椅子から立ち上がるヨダカ。

 えー、私まだやるとは言ってないのに。

 そのままヨダカは鴗鳥家から出て行ってしまう。

 本当に自由な奴だな。

 

「えーっと、私どうしたらいい?」

「光が決めなさい。あんな奴でも実力は本物だ。指導を受けることで何かしらの技能は身に着くかもしれん」

「それって忍耐力とか言わないでよ」

「夜鷹君が誰かを教える気になるなんて初めてなのよ。騙されたと思って一回レッスン受けてみれば?」

 

 嫌ならやめればいいんだし、とエイヴァさんは言った。

 どうするか決めるのは私自身だ。

 ヨダカの教えを乞うべきか否か・・・アイツとは馬が合わないけど、スケートは上手くなりたい。

 元金メダリストが何を教えてくれるのか興味もある。

 だったら・・・

 

「やってみよう、かな」

「なら決まりね!フフッ、未来の金メダリストが娘なんて嬉しいわ」

「気が早いぞ。だが、それもアリだな」 

 

 親バカ二人が嬉しそうだ。私も嬉しい。

 そうだ。もし金メダルを取ったら鴗鳥家へ最高の恩返しになるんじゃないか?

 今まで漠然と考えていた将来と恩返しの方法、ここに来て目標が定まって来たぞ。

 とりあえず、ヨダカの指導力とやらに期待しておこう。

 

 理凰君にヨダカの話をしたら『すっげー』とメッチャ羨ましがられた。

 

 ●

 

 ヨダカのレッスン初日。

 

 夜、私とヨダカはスケートリンク上にいた。

 名港ウィンドFSCの面々はすでに帰宅してもらっている。

 ヨダカが私のコーチをするというのは秘密らしいので、人払いを済ませた上でこの時間になった。

 私は今日に合わせてコンディションを整えて来ている。

 さてさて、見せてもらおうか元金メダリストの指導力とやらを!

 

「そこで見ていろ」

 

 先ずはヨダカが滑り始める。お手本を披露するみたいだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 正直、なめていた。

 慎一郎さんにヨダカの現役当時の映像を見せてもらって、自分なりに予習して来たつもりだった。

 だけど、生で見るとここまで違うものなのか!?

 ヨダカの一挙手一投足から目が離せない。

 曲もかかっていない、観客も私一人だけ、それなのに・・・

 まるでここが、夜鷹純のいるこの場所こそが、世界最高の舞台(オリンピック)だと言わんばかりの演舞。

 数分間で私は夜鷹純の全てに圧倒された。圧倒されてしまった。

 く、悔しいーー!この男を褒めるのは嫌だけど。

 だけど、こいつはマジだ。マジもんのメダリストなんだ。

 ほんのちょっぴりだけ見直したわ。

 

「見たな」

「す、凄かった」

「では、やれ」

「は?」

「お前の番だ。手本は見せた、それをなぞるだけでいい」

「はいぃぃ!?!?」

 

 見たよ。見たけど。やれって何?

 今見せてくれたヤツを覚えて完璧に滑れって言ってんのか!?

 無理に決まってんだろ!冗談も休み休み言えよ。

 

「曲はかけてやる。ミスも三回までなら許そう。やれ」

「マジで?」

「マジだ。早くしろ」

 

 あ、もう曲かけ始めやがった!

 ヨダカって本当に人の話聞かないよね。

 いいだろう、やるよ。やってやるよ!

 盛大に失敗して『こんなのできるわきゃねぇぇーーだろぉぉーーー!!』って、唾まき散らしながら叫んでやる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、できた。

 

「うそやん」

 

 できた。できてしまった。

 滑ってる最中に先程見たヨダカの動きが脳裏に浮かんで来て、体がその通りに動いた。

 思いのほかスムーズに事が運んだので、最後の方は曲に合わせてノリノリですらあった。

 

 もしかして、私って結構すごい?

 狼嵜光、特技はスケートです!と、堂々と宣言しちゃってもいいのかな。

 

 どうだ、ちゃんと滑れたぞ!

 さすがのヨダカもこれにはニッコリなんじゃ・・・って、どこへ行く!?

 

 何かしらの高評価がもらえると期待した私を無視し、ヨダカはまた一人で氷上を滑り出す。

 おい、まさかコレって・・・

 

「次だ。やれ」

「うそやん(二回目)」

「時間が惜しい。やれ」 

 

 今度こそできるわけねぇだろぉ!!

 一曲滑ったばかりの疲労感も残ったまま、初見の振り付けでもう一回とか正気か!

 おまえは5歳児にどんな夢見てんの?

 あ!また曲かけやがって、チックショー!!行って来まーす!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・おい。

 

「なんで!できるんだよぉ!」

 

 できた。またもやできてしまった。

 頭真っ白でかなりグダグダだったけど大きなミスもなく完走。

 憎い!自分の才能が憎たらしいわ!

 でも、二連続はさすがに疲れた。ちょっと休みたい。

 

「次だ」

 

 は?いや、あの・・・

 

「次だ」

 

 え、三回目終わったばっかで・・・

 

「次」

 

 ちょ、休ませて・・・

 

「次」

 

 死ぬ・・・これ以上は本気で死ぬ・・・

 

「次」

 

 あははははは、ははははははwwww

 

「次」

 

 わかった殺せ、もう殺せよ!!

 

「次」

 

 ・・・・・・はい。

 

「次」

 

 ・・・・・・。

 

「次」

「次」

「次」

「次」

 

 ・・・・・・ココハ・・・ジゴク・・ダ。

 

 ●

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ゼ、ヒュ…ハぁ…あ…うぁ」

「終わりだ。帰って寝ろ」

 

 地獄のレッスンようやく終了。

 もう何回滑ったか、数えるのもバカらしい。

 で、それに耐え切れる私の体もバカみたい。

 荒い息のまま、スケートリンクに倒れ伏した私を放置してヨダカは去って行った。

 あのさぁ。

 このまま私がここで死んだらヤバいとか思わないわけ?

 小学生女児、スケートリンクで謎の変死!

 とかになったら、絶対化けて出てやるからな!

 

 教えるって何?

 あいつ今日一日私を拷問にかけただけじゃん。

 指導力のかけらも感じなかったぞ。期待した私がバカだった。

 

 バラバラになりそうな体を引きずってリンクから出る。

 最後の気力を振り絞って更衣室までたどり着き、汗を拭い着替えを済ませる。

 これでも女の子ですから、どんなに疲れていても身だしなみは気にします。

 建物の外に出て崩れるように座り込む、慎一郎さんの運転する車が迎えに来てくれるまで、私は魂が抜けたように茫然自失であった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ヘロヘロの私を見つけた慎一郎さんが後部座席に優しく運び込んでくれた。

 こんな夜中に、わざわざすみませんね。

 

「相当しごかれたみたいだな」

「しごき違う。アレは拷問だよ拷問」

 

 私はヨダカの拷問プログラムについて慎一郎さんに語った。

 

「あいつは光ができると思ったからやらせたんだ。実際、できたんだろう?」

「できたけどさぁ。なんと言うか、もっとこうアドバイスとか、お褒めの言葉とかがあってもいいんじゃないの?」

「それは期待するだけ無理だな」

「私もそう思う」

 

 苦笑する慎一郎さん。

 さてはあなた、私がこうなることを予測していたね。酷くね?

 

「続けられそうか?」

「正直、もう心も体も折れかけてる。でも、続ける」

「それはどうして?」

「負けたくないから」

 

 初日でやめたら、あいつに負けを認めたことになる。

 それは狼嵜光としてのプライドが許さない。

 せっかく好きになれたスケートをあんな奴のせいで、嫌いになってたまるか。

 

「……光は強いな」

「そうかな。そうだったら、いいな」

 

 嫌だけど、ものすごく辛いけど、この地獄を乗り越えた先の自分がどうなっているのか、見たくもある。

 初日でヘロヘロだけど、私は何故だか前向きだった。

 

「眠っていなさい。家についたら起こそう」

「ごめん。そう、させて…もらう」

 

 もう限界だ。お言葉に甘えて眠らせてもらおう。

 でも、その前に言っておきたい。

 

「ねえ、慎一郎さん…」

「何だい?」

「あの人について、今日ずっと思っていたことが…あるの……聞いて…くれる?」

「言ってみなさい」

 

「……夜鷹純(あいつ)やっぱ頭おかしい」

 

 ハンドルを握る慎一郎さんの吹き出す声がした。

 

 ●

 

 鴗鳥家で暮らすようになり、スケートを始めて、ヨダカの拷問を受ける日々。

 早いもので、気付けば私は8歳になっていた。

 名港ウィンドFSCにも所属して、スケートの腕もメキメキと上昇中。

 ま、あれだけやっているんだから成果が出ないわけが無い。

 ヨダカの滑りを見てそれを再現するという酷な指導法は、私に合っていたみたいだ。

 あの男は相変わらずいけ好かないけど、影のコーチとしては認めてやっていい。

 表向きは慎一郎さんがコーチという事になっているので、ヨダカのことはナイショだよ。

 

「光、今日はどうすんだ?」

「あの人の所が優先かな。クラブには明日顔を出すよ」

「チッ、またジジイかよ」

「そんなこと言わないの。アレでも前よりマシになって来たんだからさ」

 

 年齢を重ねた理凰君は私を呼び捨てにするようになった。

 だから、私も理凰と呼び捨てにしている。

 マブダチ感が出ていてなんかいいでしょ?

 うんうん。こうやって男の子はやんちゃになっていくんだね。

 

 当初、諦めていたヨダカとのコミュニケーションも少しずつ挑戦中。

 基本は相手が好きそうな話題を振ればいいと聞いたので試してみることにした。

 男の人が何を好きかわからないので、最近理凰がハマっている巨大ロボを話題に出してみる事にする。

 

「……ガンダム?……なんだそれは、美味いのか?」

 

 食えるもんなら食ってみろや!

 と、いう具合に大体が会話にならず終わってしまうけど。

 ヨダカの奴、女子供は食べ物の話しかしないと思っている節があるんだよなぁ。

 そういう決めつけ良くないぞ。

 

「で、味は?」

 

 しつこいな。

 おまえはアストナージが作ったサラダでも食ってろ!

 

 狼嵜光の人生。

 いろいろあるけど、それなりに順風満帆ってわけですよ。

 ただちょっと、最近スケートに対するモチベーションが上がらないというか、少々マンネリ気味。

 金メダルへの道は遠いな・・・・

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。