爆豪勝己は苛立っていた。
それはずっと見下していた緑谷出久に敗北したことへの苛立ちでもあったし、特例などと祭り上げられたあのバカップルに対しての苛立ちでもあった。
だが、もはやどうでもいい。
苛立ちの理由などどっちでもいいのだ、負けたままでは終われない。必ず勝利すること、それだけが己の誇りであり憧れたオールマイトへの手向けである。
「おい、さっきみてぇにいきなり凍らせんじゃねぇぞ」
「分かってる。俺もNo.4の娘とは直接闘いたい」
獰猛に、一歩ビルの中に足を踏み入れる。
……暗い。わざわざ照明が落とされている。
「めんどくせぇなァ!」
掌から小刻みに爆発を起こし、明かりを確保する。
一歩、二歩……進むほどに闇は濃くなり、それに伴って明かりを確保するための爆発が大きくなる。
「そこかァ!」
一瞬、爆炎に紛れて人影が見えた。
そこに力いっぱい右手を振るう。
「なっ…!?」
『君に勝ちたいんだ!!』
なんだ、これは。悪趣味にもほどがある。
自分の右腕を掴んで、拳を振りかざしてくるのは袴田維折でも渡我被身子でもない。さっき自分を散々コケにしたデクだ。
そういえば、今朝渡我被身子は袴田維折に変身していた。
奴の個性か、と掌にニトロを溜めると、その左腕をリボンで絡め取られた。
『SMASH!』
「爆豪!」
「なっ…!?」
轟が咄嗟に放った氷が、デクの身体を真っ二つに切り裂いた。一瞬ゾッとしたが、そのまま殴りかかってくるデクを振り払うように爆破してやった。
「あのリボン野郎のか!?」
「そうらしい。リボンを編んで人を作ったのか…」
『かっちゃん!酷いじゃないか僕の身体をボロボロにして…!ぜぇんぶ君が悪いんだ!!』
両断されたデクの、爆破で焼け崩れた顔から黄色いリボンが見える。どこまでも神経を逆撫でしてくるバカップル共だ。
「しゃべるんじゃねェよクソナード!!」
『痛いよぉ〜!かっちゃんの人殺し、もやしぃ!』
頭を完全に消し飛ばしてやったのに、まだべちゃくちゃ喋りやがる。どういうつもりだ、何のためにわざわざクソナードを?
『焦凍ォォオ!!!』
「っ…!!消えろっ!!!」
轟が怒りに任せて氷を叩き付ける。
氷を砕きながら迫りくる巨漢……エンデヴァーに向けて、氷を放ち続ける轟。
「やめろ!やめてくれ袴田!!うわぁぁあ!!」
「な…なんなんだよ…これは…!」
どこからか現れた無数のエンデヴァーに轟は飲み込まれた。爆豪も思わずフリーズした。意味が分からなかった。
『愛してるぞ焦凍ォォオ!!!』
『焦凍ォォオ!焦凍ォォオ!!』
『俺を見ろ焦凍ォォオ!!!』
『プロミネンスバーン!!!』
『イグナイテッドアロー!!!』
『焦凍ォォオ!!!クンカクンカ!!!いい匂いだなァァア!!!焦凍ォォオ!!!』
『焦凍ォォオ!!!俺の最高傑作ゥゥウ!!!』
「うわぁぁぁぁあっ!!!!」
ところ狭しと押し寄せるガチムチ、しかも実父。
それは攻撃というのにはあまりに悍ましく、煩く、酷い絵面だった。映像越しで見ているA組にも、ムッファとした雄々しさが感じられることだろう。
直にこの攻撃を仕掛けられた轟は発狂、轟は自分の身体が震えて凍傷で裂けてもなお、狂ったように押し寄せるエンデヴァーを氷漬けにし続ける。そのエンデヴァー達が氷を破壊して雪崩込んでくるのだから、心理的殺傷能力は抜群だった。
『かっちゃん!かっちゃん!』
『かっちゃんは僕に負けたね!』
『かっちゃんって大したことないんだね〜!』
『無個性のクズに負けたザコ〜!』
「ちっ……!おい陰湿舐めプリボン!!テメェで出てきたらどうだクソが!!俺に負けんのが怖ェのか!?」
轟を見れば、やりたいことは分かった。
無駄に戦わせて消耗させるつもりだ。
あんなに煽っておいてまともに戦うつもりもないのか?
爆破でデク達を吹き飛ばすと、崩れたリボンがマスケット銃に再構築される。
「クソがっ…!!」
それをまた爆破して破壊する。
実際のところ、単純な個性の相性ならば爆豪勝己のほうが圧倒的に有利だ。それを覆す程に精神的な動揺は計り知れなかった。
「クソが!クソがッ!!!出てこいクソリボン!!」
ズキリと手が痛む。タフネスによって限界知らずの【爆破】が不気味な精神攻撃によって綻んだ。
「望み通り出てきてやったよ!」
「なのです!」
「クソッ………!!!」
瞬く間に両腕を白いリボンで包まれる。
何度爆破しようと壊れない、このリボンは特別製だ。
「この感触覚えがあるんじゃない?私のリボンに炭素と特殊合金を混ぜ込んだ……よくできてるでしょ」
そう、イレイザーヘッドの扱う捕縛布と同じ製法で、かつ通常は扱えないほどに硬度を高めて作られた剣型のサポートアイテムなのだ。
これを、リボンとして自在に操ることが可能。
通常時は剣に、維折の意思で頑丈なリボンとして扱える上、平時は折り畳んでグリップだけにする事で持ち運びにも適した捕縛剣なのだ。
これを見たオールマイトは「オーマイグッネス!?あれはロールパンナちゃんのロールリボン!?」と叫んだという。
「はい、確保なのです」
「クソ…クソ……!!」
『爆豪少年確保ーーっ!!!』
ひょいっと、維折に変身したままのヒミコが爆豪の首に確保テープをかける。
「楽しい夢をみれたかしら?」
あえて、女性的に可愛らしくそう嗤えば、爆豪は震える瞳をきつく瞑った。
「プランBを使うまでも無かったか」
捕縛剣で捕まえた爆豪君は自分で歩かせて、恐怖のあまり失神した轟君をお姫様抱っこして皆のもとに戻る。
「えーと…あの…轟少年大丈夫そ?」
「一切暴力は振るってません」
「かわいそう…」
「鬼や……人のすることじゃない…」
「アレは無いって…」
「魔王でもここまでしない☆」
A組が皆ドン引きしてる。
それはそうか、絵面酷すぎるし、轟君気絶したし。
「さ、さぁオールマイト早く講評しましょ」
「う、うん…MVPは袴田少女だね…うん…理由わかる人」
「はい…やり方が紛うことなきヴィランでしたわ…本当に効果的、かつ効率的な戦略でした…相手に無益に消耗させ、精神が摩耗した所を…一網打尽にしていましたわ…エンデヴァーさんはちょっとやりすぎですわ…緑谷さんのほうがまだマシ…」
「実はデク君の担当はトガだったのです」
ヤオモモは恐怖のあまり半分泣いている。
肩を震わせて不安そうに言葉を続ける姿はまるで悍ましい物をみてしまった憐れな探索者だ。SANチェックしなきゃ。
「うん、まぁ…そうだね!でもこういった心理戦はヒーローもすることはあるよ!よく立てこもり犯のお母さんが話しかけたりするだろ?それさ!」
「なるほど…勉強になりますわ」
「そ、それじゃあ今日の訓練はこの辺にして解散しようか!皆〜いい感じだよ!!グッバイ!!」
凄い勢いでスッ飛んでいったオールマイト。
よく見れば身体から煙が漏れ出ている。活動限界か…
「あ…い、行ってしまいしたわ…」
「ヤオモモ」
「あ、な、なんですか維折さん」
「…怖かった?」
「……少し」
「ごめんね」
「ん、ごめんなさいなのです」
その後、ヒミコと私と緑谷君以外のA組は全員エンデヴァー恐怖症になってしまったようで、轟君は皆に優しくされ若干ガンギマリが解消された。
これがヒーローの闘い方か…?