血の海だ。暖かい。
ここはどこだろうか。私は死んだのか?
暗い暗い闇の中で、私は私を見つめていた。
『イオリちゃんが生きててくれればそれでいいのです』
ヒミコの声がする。
どこだ、私はどこに行ったらいい。
『袴田…!息をしていない…!』
『お願いします…全部あげるから…イオリちゃんを返してください…トガの血全部…あげるから…!』
微睡みも、暖かさも…今は要らない。
私は絶対に戻らないといけない。
暗い、暗い道だ。どっちが正しいのかもわからない。
でも、君を救わないと死ねない。
生きて帰るんだ、ヒミコが縋ってくれるならきっと帰れる。
『今までわがまま言ってごめんなさい』
私の身体…これは、目の前にあるこの私は。
個性因子……なのだろう。
私は私を抱き締めて、一つになる。
転生者だからだろう…使いこなせていなかった。
『ごめんなさい…ごめんなさい…!』
こんなに真っ暗な道でもヒミコがいるから、分かる。
進むべき道が分かるのだ。不甲斐ない…破壊の為の力なんてそもそも本分じゃなかった。鍛えるべきはそっちじゃなかった。
治癒を鍛えていれば勝手に火力は上がっていたんだ。
『お願いします…トガが悪い子だったのです…』
違うよ、悪い子なのは私だ。
最強最強って、倒すための力ばっか求めて何がヒーローだ。
ヒミコを守れないで、なにがヒーロー……
欲しかったのは…治せる、力だった。
だけど足りない。このリボンの治癒じゃ足りない。
だからお願い神様、もう少し力をください。
ヒミコに届くように、リボンを伸ばしていく…淡い光を纏ったこれを筋繊維全体に行き届くように、血に染めて…内に溜める。
私のリボンは、紡ぐためのものだった。
直感で、なんとなく使い方が分かった気がする。
全てを救う為の新しい力を与えてくれた。
………これが私の真の力。
ふわりと、花が咲いた。
無数の光の線が袴田維折とトガヒミコを包む。
どこまでも眩く、穏やかな力だった。
「イオリちゃん…!そ、その姿…!」
「…うん、ありがとうヒミコ……それにただいま。ヒミコの声で帰って来れた」
傷が、消えている。
それどころか神々しい白いドレスを身に纏い、光に包まれながら袴田維折は復活した。
その場に居たヴィラン達は刮目した。
彼女こそ、現世に舞い降りた女神だと。
「チートが…!なんで腕が生えてんだよ…!」
先程斬り落とされた右腕と、新しく生えた右腕を見比べながら拳を握りしめて確認する。
動作に問題は無い。筋繊維全体に張り巡らせたリボンのおかげで…体内で血に染まったリボンのおかげで消耗もなくここまでパワーアップできたのだろう。
「袴田……!?無事だったか…!」
私の血に塗れて安堵の表情を浮かべる相澤先生に、どこか嬉しく思う。私のようなおかしな生徒も大事に思ってくれてるのだ。
「先生、心配かけてごめんなさい」
自相澤先生にふわりと近づく。
傍らにヒミコを抱きかかえて、ひとっ飛びと言うように、羽のように飛んだ。
「今治しますね」
「なっ……お前の個性は…」
そこまでの回復力は無いはずだ。
と、言い終わる前に傷を消し去る。
「イオリちゃん…女神様みたい…」
「ヒミコのおかげで帰ってこれた。今度はもう死なない……だから、待ってて。あいつらぶっ飛ばして、
「……っ」
ヒミコの手が私の手を強く掴んで離さない。
不安そうな目で、涙の跡の残る赤い目で…
もう二度とそんな顔させるものか。
「大丈夫……今の私は…白くて凄い強い、さながらホーリーマミ。アルティメットマミさんも悪くないかな…?…アルティメットはまたの機会に取っとこう」
「絶対……もう死んじゃダメなのです…!」
「まかせて、私はヒミコのイオリだよ?」
死ぬのは二度目だ。三度目はもういらない。
もし私を転生させたのが神とやらなら、随分と景気の良い神様だ。転生特典とやらを貰ったのかは知らないけど、転生した後に貰った気分だよ。
でも……これこそ望んでいた力だ。
オーバーホールのように、治せる力が欲しいと。
死ぬ前にそう願ったのを聞いていたのかな?
それとも今求めたから?
どちらにしてもありがとう…お礼を言いたいんだけど、姿を見たことがなくってさ。でもきっと神様はいたんだろう。
「クソ…クソチートが…なんなんだよその顔…!何笑ってるんだ…気持ち悪い…!脳無!!もう一回殺せ!」
脳無の剛腕が、尖端にギラリと光るその刀身が。
ごぉっと風を凪いで微笑む少女に迫る。
圧倒的な破壊力を持つその刃は、ついに少女に到達することはなかった。
『ぎ…ぎぇぇ…?』
鎌の脳無が、停止した。
袴田維折の細腕がほんの少し動いたかと思えば、脳無の全身が無数の弾丸に削り取られ、完全に機能停止した。
僅かな一瞬に形成されたマスケット銃は、その数1000。
これを片手だけで創り出し、更に強化されたリボンの弾丸が脳無の防弾の身体を削り、消し飛ばしたのだ。
「今までなら1000丁なんて創ったらとっくにキャパが来てたよ。でも、今の私は真の力を覚醒させたホーリーマミ…であれば、名付けるなら……ティロ・フィナーレ・リベレーション」
「は、速い……いつのまに…?」
「クソッ…!!ふざけやがって!ぶっ壊れろ!!」
「死柄木弔!危ない!」
「黄金の美脚!」
死柄木弔の五指が触れる事は無い。
逆にするりと伸びた脚に蹴り上げられ、返す脚で絡め取るように地面に叩き付ける。
太ももで細い死柄木の腕を締め上げて、もう片方の腕もリボンで包み込む。
「クソが…!なにやってる!やれ!!」
「助けたかったらどうぞ、かかってきなさい」
神々しい光を携えながらシュルリと白いリボンが伸びる。
捕縛剣の白は、真っ白なこの姿によく似合う。
「さぁ…一緒に救われましょう!」
女神が今、降臨した。
ついに覚醒した袴田維折…
目覚めた心は走り出し、悪しき者達を撃ち砕く!
そろそろ敵サイドも強化しないと不味いぞ!
次回『ホーリーマミ』