電撃が全てを打ち貫き、痺れた所を氷漬けにする。
あわよくば、と思ったがやはりこの程度の攻撃が袴田に効くわけがなかった。
あのB組の『ツル』に電撃を防がれ、氷は耳郎響香の音による振動で砕かれた。あれも袴田の入れ知恵だろう。
「…悪ィな、俺も袴田には勝ちてぇんだ」
轟焦凍は、絶望的なまでの敗北感と挫折を感じていた。
自分は一度も袴田維折に勝てていない、と。
まともに勝負すらさせてもらえていない。
一瞬、ほんの一瞬戦場から意識が逸れた。
右肩を抉る弾丸に顔を顰めながら、特大の氷を返すが当然、氷では届かない。
「轟さん!袴田さんにかまってはいけません!また何もできなくされてしまいます!」
「……分かってる、悪い」
もし炎を使っていれば、勝てるのだろうか?
袴田のリボンが爆豪の爆炎で燃えているのは覚えている。
より火力に特化した炎ならあるいは焼き払えるのでは?
轟焦凍はいまだ、迷っていた。
「ずず……集中しなよ轟君、ティロ・フィナっちゃうよ」
ズタボロの騎馬を上から眺めながら飲む紅茶は美味い。
誰かが一瞬でも油断したらすかさずティロ・フィナーレで牽制するだけの楽な仕事だ。
「……いいの?そんな呑気にしてて…そりゃずっと1位だから闘う意味も無いだろうけど」
「いいのです。既に私とイオリちゃんでこの辺り一帯に張り巡らせているこのリボンは、触れたらその瞬間ティロ・フィナーレですよ、これを突破するのは無理ですよ」
「時でも止められたら別だけどね」
「そんなチート個性、いるわけないのです!」
「参考になります…神よ…」
今現在、トガチームは上空まで伸びるツルとリボンのタワーの上にいる。先ほどのドリル爆弾の反省を活かし、全リボンをティロ・スプラッシュ・エメラルド・フィナーレが発射される。
不用意に触れればどうなるのかは、先ほど触ってしまった物間チームが気絶して地面に倒れてるのを見れば分かって頂けるだろう。
…あまりに技名が長いので、『TSМフィナーレ』とヒミコは呼んでいる。
「しかし…じろちゃん随分と鍛えたね…」
「ん、あんた達のおかげだよ。トガの体術に、袴田の個性伸ばし……苦労したけどね」
「あの爆豪がワンパンで気絶するとか…ねぇ?」
パワーバランスめちゃくちゃになってそう。
あんなのまともに喰らったら私だってただじゃ済まない。
もしじろちゃんと闘うなら不用意に近付いたら負けそう。
「そもそも、ヤオモモのアレなんなんです?ドリル爆弾とか聞いたことないのです」
「アレは私が考案した不意打ち用兵器だ……まさかあそこまで実用に使えるほど開発が進んでたとは」
「……毒ガスとか使ってこないよね?」
「教えた。私達と違って良識はあると思うけど…」
「良識がない自覚あるんだ」
正直、最初から一方的なハメ技を使わなかったら普通に私達は負けていたと思う。全方位から強化されたA組に狙われたらさすがにキツすぎる。
「…上鳴もあれだけ放電してアホになってなかったし、もしかしてウチらって相当強くなってる?」
「うん、マジで強いよ」
「ウチら、そのめちゃくちゃ強いA組相手に無双したんだ…」
「手加減して勝てる相手じゃないからさ」
そもそも……何もさせずに蹂躙するつもりだったのに、ヤオモモに一泡吹かせられた。
芦戸ちゃんなんて酸のベールを纏われたら、ティロ・フィナーレも効かないしリボンも溶かされるしでかなりやりづらい。
私のリボンも万能じゃない。
出力はバカみたいに上がったし謎の治癒能力はチートになったしなんか、繋ぎ合わせると思ってやればだいたいなんか出来るけど弱点は消えてない。
炎に焼かれたらそれはもう炭、リボンではない。
酸で溶かされたら消え去ってしまう。
不意打ちにも弱い。だから私はこうして多数戦ではバカ正直に闘ったりしない。
お茶子ちゃんは既にシンプルな格闘だけなら私以上だ。
ヒミコsブートキャンプの効果が一番でてるのはお茶子ちゃんとじろちゃんのツートップかもしれない。
「見てください、デク君が轟君から取りました」
「その轟君も結構稼いでるね」
ヒミコsブートキャンプ&袴田流個性伸ばしのどちらにも参加しなかったのは、轟君と爆豪だけだった。
まぁあの二人はまだ人に教わるような精神じゃないか。
「そろそろ終わりそうだね」
ボキッと嫌な音が響く。
「イオリちゃんいつも慢心して周り見てないのです。そんなんだから大怪我しちゃうんですよ?ちゃんと周りを見てください」
「ごめんて…」
ちらりと横に目を向けると峰田が体格の小ささと地面に張り付けたもぎもぎを活かして近くまで接近していたようだ。ヒミコが蹴り落としたけど。
『騎馬戦終了!!!』
まぁ仮に、そのまま峰田に気づかずハチマキを取られてたとしても、リボンでひっ捕らえて取り戻すのは容易い。
「ハチマキを取られてもすぐに取り戻せばいい、とか考えてますよね?」
「えっ」
「そういう慢心をするからダメなのです!イオリちゃんはここにいる誰よりも強いのに油断して慢心して、もう二度と死んじゃダメなのですよ」
「うん、ごめん、反省してる」
「飛んできたのがエロだったからまだいいのです…いやよくはないですが、これが大蛇のような黒く長い体とカラフルな目、パーティ帽のような鼻と口元からは青い舌が飛び出していて、相手を一口にしてしまう大きな口を持っていてそのポップなカァイイ外見には不似合いな攻撃的で鋭い牙を持つ化け物だったら首を食べられてしまうのです」
「魔法少女まどか☆マギカって知ってる?」
「知らないのです」
完全に今の特徴はお菓子の魔女だった気がする。
まさか、そんなピンポイントなヴィランがいるはず無いよね。
「とにかく油断し過ぎなのです、次油断したらほんと、コレなのですよ?」
「そのジェスチャーなに?何されるの?」
ちょっと何をされるのか予想がつかないので控えめに言っても怖い。自分でも治したいんだけどな……
『ちゃんと全員参加のレクリエーションも…』
リボンの限界量も全然まだまだ余裕だ。
死んで生き返ってホーリーマミになった時から個性のキャパは格段に伸びた。トーナメント……いやだなぁ…
「イオリちゃん、レクリエーションなのです。行きますよ」
「うん…」
ヒミコと早々に当たるのはやだなぁ。
普通に接近戦に持ち込まれたら負けるし。
「イオリちゃん」
「うん?」
「レクリエーションなのです」
「わ、分かった、勿論だよ、ははは…」
私の課題は本当に…この周りが見えなくなる所だと分かってはいるんだけどなぁ。
人のクセって治らないもんだなぁ。
「…オールマイト飛んでる」
「え?……ホントなのです。事件でしょうか」
こんな天下の雄英体育祭の最中に?
無粋な奴もいたもんだ。
「ねぇ…なんか、おかしくない?」
「なんだかピンクの煙が…?」
気付かない内にガスを撒かれていた…!?
このガス…確か原作でも見た…気がする。
絶対体育祭にこんなイベント無かったはずだけど。
「がフッ……!!」
倒れていく人は血を吐いてる。
あの…カスタード…ウスタード?だったか、あのヴィランのガスにここまで殺傷力は無かったはずだ。多分。あやふやだけど。
『HEYリスナー!!全員口を塞げ!八百万ガスマスク創れ!雄英換気システム起動!!』
頼りになるプレゼント・マイク。
しかしオールマイトを引き離してから毒ガスを撒くあたり、計画的な犯行だ。その上この体育祭を見に来た大勢の市民を無差別攻撃するとかいうクソ。ヴィラン連合(ほぼ壊滅)でこんなこと考えるのはどっかの魔王くらいだろう。
リボンで口を塞いで一時しのぎしたけど、速いところガスマスクが欲しい。
「ヤバい、峰田が倒れた!あいつ身体が小さいから!」
それヒミコが首の骨折ったからじゃないの?
「中和剤創れないの!?」
「毒の種類がわかりませんわ!」
「分かった、早く観客全員分のガスマスク創って!」
分かんない。どっからこのガスをばら撒いてる?
オールマイトがすっ飛んでったのをみるに、多分だけど遠くで事件を起こして残った私達を狙ったはずだ。
それともこっちもただの陽動なのかな?
「じろちゃん、探知できそう?」
「もうやってる!変な音があちこちから鳴っててうまく聞き取れない!対策済みらしい!」
「無理ってことね、観客の避難」
「皆!慌てないで!今ガスマスクをつくってますから!」
たちの悪い無差別個性に、索敵潰しの個性。
それもオールマイトを引き離してからの攻撃…
相当ウザい、ずる賢い!!!
「並んで!!ガスマスクを付けたら速やかにリカバリーガールのもとに!!」
「ジーニストとエンデヴァーが犯人を捜索している、すぐに見つかると良いんだが…」
「ヒミコ、リボンで治癒するよ」
「はい、分かってます」
とりあえず、今出来るのはリボンに付いてる治癒能力で会場中の人の生命をこの世に繋ぎ止め続けること。
人命救助はヒーローとして当然のことだからね。
ヴィランは待ってくれない
待ってくれる余裕も無い
手負いの獣が一番怖いのです
全部維折ちゃんがやり過ぎたのが悪いんです