オール・フォー・ワンは一手遅かった。
死柄木冥の裏切りに、その個性の本質に気づかなかった。
【ハサミ】は概念をも切断する。
「ど…どうしてここに…☆」
「なんでラスボスがこんな時期に来んの…?」
「ヒィィィ〜!!?」
黒霧のワープゲートを足元に出現させられるのはさすがの魔王も想定外だった。
今、オール・フォー・ワンは椅子に座ったまま雄英高校体育祭トーナメントを行うためのリングの上にいた。
「……冥、裏切ったとはね」
「お前がこの毒ガスを撒いているヴィランか?」
「知らないよ…なにそれぇ、毒ガス撒いてたの…?」
運のいいことに、呼吸を補助するためのマスクを付けていたおかげでたまたま毒ガスが効いていなかったAFOは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
本来の冥の作戦としては、毒ガスでAFOが死ねばそれでよし、死ななくてもヒーローとぶつかって死ねばそれもよし。死ぬまでに何人かヒーローを殺してくれればさらによし。
「【カムフラージュ】か。【赤外線】で見えているよ。【空気を押し出す】+【筋骨バネ化】+【瞬発力×4】+【膂力増強×3】」
その手から放たれた空気砲が上空に、空間に穴を開けた。
割れた空間から現れたのはヘリだった。
個性【カムフラージュ】。触れたものにリアルタイムで動く光学迷彩を施す個性。
射程距離は無限、永続効果を持つ個性。
「……毒ガスが消えた…?」
「あの見えないヘリの中からガスを撒いていたのか」
「さて、オールマイトはいないのかな?」
不気味な相貌がぬらりとあたりを見回す。
赤外線によって朧気に輪郭を確認しているのだ。
『ヒーロー達に告ぐ。この場にいるのはかつて魔王と呼ばれたヴィラン。他人の個性を奪い、与える悍ましき個性を持つオール・フォー・ワンだ』
「この声、冥か…あの恩知らずめ」
「オール・フォー・ワン…こいつが…」
「確認する、お前がオール・フォー・ワンか?」
「そうだよ、冥の言う通り…僕が魔王だ」
ベストジーニストの問いに素直に答える。
この状況で言い逃れするのは魔王の矜持に反する。
『オールマイトにすら手傷を負わせたこともある怪物だよ、気を抜かずに捕まえてくれたまえ、ヒーロー』
「声の出どころはヘリに乗ってたあのガスのヴィランだよ」
会場全体に聞こえるような大きな音声。
耳郎響香が耳を押さえながら余りの爆音に顔を顰める。
音の索敵を警戒した耳障りな個性のせいでうまく聞こえないこの状況は、なにも耳郎響香だけの対策ではない。
AFOもまた、赤外線と音で動きを感知する。
ここにいるヒーロー達と戦いながらこの人混みの中から、【雑音】の個性の持ち主を見つける事は不可能に近い。
「オール・フォー・ワン、お前を捕縛する」
「維折、市民を守ることに集中するんだ。いいね?」
「分かったお父さん。気をつけてね」
今、この状況は圧倒的にAFOが不利だ。
そうなるように死柄木冥が演出したのだ。
わけがわからない。
なんでオール・フォー・ワンがここにいるんだ。
ていうかメイって誰だ。
「市民の皆さん!このリボンの結界から出ないでくださいね!何かあっても慌てないでください!私のリボンは傷を治せます!」
市民を守ることは出来る。接触感知型のリボンの結界を私に気づかれずに突破することは出来ない。
AFOがリボンを燃やしたり、切断したりしてもその都度私が作り直すほうが速い。
「イオリ様が来てくださった!」
「もう安心だ!女神様!」
「リボン教バンザイ!」
………なんか、市民の皆さんも素直だし。
「クソが…俺達は見てるだけかよ!」
「暴れさせろォ!!!」
爆弾2人が我慢できない用なので穴を開けてやろう。
「あ…?んだコラ、何のつもりだ舐めプリボン」
「体育祭途中で潰されてイライラしてるかと思って。余計なお世話だったかな?」
「……いや、気が利くじゃねェか舐めプリボン」
頑張ってくれ、暴れたい学生達。
オール・フォー・ワンを殺るには戦力が足りない。
せめてオールマイトがいれば良いんだけど、最悪お父さんが殺されたり、エンデヴァーが死んだら困る。
「死ねやァ!!!顔金玉がぁ!!!」
「死ねやァ!!あたしはバクゴーとヤりたかったんだよッ!!!花のJKになんちゅう汚らしい面ァ見せとんじゃタコッ!!!」
「君達…!なぜ飛び出してきた!」
「テメェの娘に言えや!クソジーパン!」
「粗暴な奴だ…後で矯正しなくては」
爆豪の高火力な爆破をいなすオール・フォー・ワンを観察させてもらおう。AFOの大好きな空気砲を防御に使ったのだろう。
爆破を風圧で返したわけだ。さすがにラスボスだけある。
「良い個性だ…」
「あたしの粉塵で死に爆ぜろ!
火力を上げるために一点特化した爆豪の爆破と違って、粉実のそれは超広範囲爆撃。
トーナメントリングを丸ごと爆破しAFO…どころか、周りのヒーローまで巻き込んで吹き飛ばしている。
「……あいつも矯正だな」
「なんで君…ヴィランになってればよかったのにぃ僕がもっと強くなるように相性のいい個性を上げてもよかったんだ」
爪が伸びる個性…というか爪じゃなくても出せるらしいけど、それが勢いよく放たれて粉実の心臓を貫く。
瞬間、私のリボンで無理矢理命を繋ぎ止める。
「……がふっ…!くそ、いてぇ!」
「目障りな個性だ、【空気を押し出す】+【炎熱×5】+【筋骨バネ化】+【瞬発力×4】+【膂力増強×3】」
まぁ…当然炎の個性も持ってるだろう。
「リボンの盾…5枚です」
ヒミコの創ったリボンの盾のおかげでこっちまで火の粉は来なかった。なんだ、意外とたいしたことないんだね。
「ヤオモモ、あいつ赤外線で見てるって言ったでしょ、準備して」
「!赤リンですわね!」
「今…この会場のどっかに、音の索敵を不可能にする個性の奴がいるらしい。そいつのおかげであいつはいくらか弱体化してる。いま、ヤツの頼りは赤外線だけだ」
怖いくらいに有利すぎる。
AFO…さっき言ってた事を考えると、裏切られたのか?
だとしたらちょっと可哀想、嘘発見器の個性はどうした?
とにかく、ここでラスボスが退場すればこっちのもんだ。
AFOは今ここで確実に倒す。
2人の転生者の思惑が一致したのでここで強制的にオール・フォー・ワン戦です