「人間はお腹を刺したら死ぬ。分かる?」
「でもイオリちゃんは生きてますよね…?」
「生きてたら刺していいわけじゃ無いんだけど」
なにを刺した本人がなんで生きてるの…?
みたいな顔してるんだトガヒミコ。
というかどこから現れたんだ、なぜ私の名前を知ってる。
というわけで突然トガヒミコに腹を刺されました。
No.4の娘、袴田維折です。
「あのさ、血が欲しいなら私普通にあげるから、いきなりはやめてね」
「え!?チゥチゥしていいんですか!?」
「いいよほら、あげる」
手首を切りつけて血を流しつつ、腕の付け根をリボンでギュッ!と締め上げる。失血死は遠慮したいし。
多分適切な処置ではないが、なんか私のリボン治癒能力ついてるし多分大丈夫だろう。
「な……なんで…」
なぜトガヒミコを助けるのか。
前世で君のことが好きだったからだよ♡(推し的な意味で)とか言ったら流石に気持ち悪いかな。
将来的にヴィランになる子とかほっとくわけにはいかなくない?なんてのも言うわけにもいかないのでなにも言わず血を飲ませてご満足いただくしか無い。
「なんで、許して…くれるの…?」
「………さぁ飲め」
「ちぅち…がぼぼっ…!」
単純に特にいい言葉が思いつかなかった。
多分まだ初犯だ。トガヒミコは少なくとも中学までは我慢してたはずだし連続失血死事件も流れていない。
とりあえずボケっとしたトガヒミコの口に私の傷口を押し込んで満足するまで飲ませてあげよう。
「ちぅ……がぼっ…ごくごく…」
なんでちょっと不満そうなんだトガヒミコ。
血を飲ませてやってるだろう。
なんか溺れてるけど…大丈夫だ、私血の気多いから。
「ちょっ…多すぎまっ!ごゅっ」
「満足した?」
「ぜぇ…ぜぇ……多すぎます、失血死しますよ?」
「いいよ、どうせ治せるし」
そこまで万能でもないけど。
リボンで傷口を締め上げればそのうち治る。
「い、イオリちゃん…なんで血をくれるの…?」
「君が欲しいって言ったんじゃん」
「それはそうですけど…限度ってものがあると思います!」
連続失血死事件の犯人に限度を説かれた。
遠慮を知ってるんだなトガって…
「私のでよかったらいつでもあげるよ」
「な、なんでですか…」
「なんでなんでうるさい。他の奴なんか見ないで一生私の血だけ飲め」
それで被害が出なければ将来的にAFОをブチのめすのが楽になるだろうし。
「えっ……!」
え?なんで泣いて……?なんで?
ごめんね語気強かった!?
「一生私の血だけ飲め」
私……告白されちゃった……!
トガヒミコは今、恋に堕ちた。
こんなにもぶっきらぼうなのに、愛を感じる告白に涙まで流れてくる。
それは、トガヒミコが普通を学ぼうとした時に学んだ物。
『私が作った味噌汁を毎日飲め』
それは、愛を伝える言葉。
ずっと離れたくないという真意を奥ゆかしく隠して伝えるロマンチックな言葉である。
一生私の血だけ飲め
一生私の血だけ飲め
一生私の血だけ飲め
トガヒミコの愛に餓えた心にはそんな適当な言葉が深く染み渡った。トガヒミコは袴田維折に愛を教えられたのだ。
「結婚しちゃった…♡」
「はぁっ?」
袴田維折は単に適当言っただけだが、もう逃げられない。
袴田維折、お前は一生トガちゃんに切り刻まれて血吸われて生きていけ。頑張ろうな!
あれから、トガヒミコは飢える事が無くなった。
毎日吐くほど好きな子の血を吸えるからだ。
両親はぱっと見突然まともになった娘に若干の薄気味悪さを覚えながらも、望んでいた事なので深くは追求しなかった。
血塗れになって闘うお姫様が、自分を受け入れてくれた。
受け入れたというかむしろカウンターでぶち込まれたというか、とにかく歪ではあるがトガヒミコは幸せだった。
そして、袴田維折もその晩考える。
私はかつて創作として見ていたこの世界で、一人の少女を救ったのだ…とそんなふうに自覚させられた。
それだけではない。この前トゲヴィランから助けた子供もそうだ。自分はこの世界に確かに生きているのだ。
今回は偶然だったが、将来的にヴィランになる未来を防げた、同じ事を他の人達にもできるはずだ。
ベストジーニストが後に爆豪勝己*1を矯正させようとしたように、皆頑張れば矯正できるんじゃないか、と。
それってオールマイトより凄いんじゃないか?と。
ヴィランを捕まえるだけでなく、更生させてこそ凄いヒーローなのではなかろうか?
「……これがいわゆる救済かぁ」
そんな漠然としたヒーロー像の変化は、大人になりきれず転生した袴田維折のほんの少しだけの成長だった。
ただ憧れて真似るだけでは無い、袴田維折というヒーローの
速すぎるオリジン回。
自分自身の思うヒーローに目覚めるにはトガちゃんを受け入れなきゃいけなかったし、トガちゃんを受け入れるには最初から好感度の高い転生者でなくてはならなかったんですね(RTA並感)