ソードアート・オンライン短編集 武器職人の休日 作:ドフトエフスキー
アニメの方ではリズベットの出番が徐々に増えているので、嬉しいです。
わたしは学生の貴重な休日をALOでのんびりと過ごしていた。
現実世界とあまりにかけ離れているALOの世界は、やはり楽しかった。私みたいな普通の女子高生が高い金を払って家を買い、武器を作る鍛冶屋を営んでいる。これって、冷静に考えてみるとありえないことだ。それに現実世界とは違う別の自分をつくれる。ALOをやらない人は分からないが、これってすごく楽しいことだと最近分かってきた。
「はぁ、今日もあいつはダンジョン攻略かねぇ…」
私はお気に入りの椅子に深々と座りながら、呟いた。
今朝、珍しくあいつから電話があって、ダンジョン攻略の誘いを受けた。
喜んで参加しようと思ったのだが、私のレベルよりもダンジョンのレベルの方が高いことを知った。
本当は、行こうと思っていたのだが…結局、断ってしまった。
ALOはSAOみたいに仮にこの世界で死んでも呪文などで復活できるのだが、あいつの前で私が敵にやられるのを見られたくなかった。
レベル不足の足手まとい、とあいつに思われるのが嫌だった。だから、私は笑いながら断ったのだが…
あ〜、断らなきゃよかった‼︎
「だいたい、あいつのレベルが高すぎるのよ。レベル差が20以上あるって、ありえないわ〜…」
こんな時、武器職人である自分が心底嫌になる。武器を作るのが私の役目なので、あいつみたいな冒険者とはどうしてもレベル差が開いてしまうのだ。
クッソ〜、私が武器作ってる間にシリカもリーファもレベル上げをして、ついに私があのメンバー内でビリになってしまったのは、かなりショックだったなぁ。
あ〜、レベルという概念が無くなればいいのになぁ…
「それが無くなったら、ゲームやる人なんていなくなるわよ」
「うわっ⁉︎ へぐぁ!」
私は勢いよく椅子から立ち上がったが、そのせいで右側の腰部分を机の角でぶつける。
冗談抜きで痛い。ぶつけた部分を手で抑えながら、座り込む。くうぅ、この机は私に恨みでもあるというのか⁉︎
私に声をかけた人物をチラリと見てみると申し訳なさそうな表情で私を見下ろしていた。
「大丈夫、リズ?」
私に手を差し出す人物の名はシノン。
種族はシリカと同じ『ケットシー』で、可愛らしい動物の耳がピンと二つ立っている。
顔立ちはアスナに負けず綺麗に整っており、綺麗な水色の短髪は彼女にピッタリだと思っている。
「いきなり脅かさないでよね。全く…」
「脅かすつもりは無かったの。ごめんね」
彼女の差し出された手を私は握りしめて、起き上がる。
シノンにお礼を言って、私はグッと背伸びする。次にアキレス腱を伸ばして、最後に肩のストレッチをする。
そんな私の様子を見ていたシノンが、クスクスと笑いだした。
「どうしたの、急に笑って?」
「いや、リズが年寄りみたいだなと思ったらつい…」
「ほう? そんなことを言うのなら、預かってるシノンの武器を全部素材アイテムに還元して、別の武器を作っちゃおうかな〜?」
「ごめんごめん、悪かったわ」
シノンが謝ってくるが、顔はほくそ笑んでいやがる。毎回思うのだが、この悪い癖、あいつにそっくりである。
あいつも私をおちょくるとこんな風に謝ってくるのだ。それがムカつくのだが、同時に許してしまうから困りものである。
私はため息をついて、店の奥にある工房へ向かっていく。シノンがここに来る理由といえば、一つしかない。
「頼まれたものは出来上がっているわ。ついて来て」
「流石はリズベット武器商店の店長。出来も早くて良いわね」
「下手なお世辞は結構よ。そんなの一銭にもなりゃしない」
私がそう言うと後ろからクスリと笑い声が聞こえた。
ホント、最近のシノンはよく笑っている。
彼女と出会ったのは、約一ヶ月前である。あいつがGGO事件を解決して少し経った頃にアスナの紹介で私達は出会った。その頃のシノンは、私達とパーティを組んでダンジョン攻略をしていてもあまり笑わない子だった。
時々見せる笑みは全部作り笑いで、私達とは距離をとっていた。自分の安全圏内なら作り笑いをしてくれるが、圏外だと笑ってくれない。
距離を取られると私もシノンとどう接すれば良いか、分からなかった。シリカやリーファとは、それなりに会話をしている姿を見ると私のことを嫌っているのかと思ったこともあった。
でも、それは違うことだと私は知った。
「はい、これが出来た武器だよ」
机の上に置かれている弓を手に取って、シノンに渡した。
シノンは受け取った弓を隈なくチエックする。次に左手、右手と片手で持ってみたり、弦を軽く引いて放したりする。
「今回の弓、ちょっと重いね」
相変わらず弓を弄りながら見ているシノンがそう呟いた。
私は右手に持っているメモに目を通しながら、彼女の弓について説明した。
形状は洋弓で最大射程距離は約230m、再装填時間は1.2秒、威力は800固定だがクリティカル時に10倍の攻撃力を秘めいる。重量は前回のものより少しだけ重くして、使いやすいとは言えないけど代わりに一発の威力と矢の正確性を重視していることを話す。
「なるほどね、どれくらい重くなったの?」
「3㎏よ」
「3㎏かぁ…威力と正確性は申し分ないけど、片手で持ちながら移動することを考えるとちょっと扱いづらいわ…」
「ふっふっふっ、そんなシノンの為に重さ軽減の対策を用意しましたよ。その弓の中心に魔法石が付いてるでしょ? そこに触れてみて」
シノンは私の指示通りに右手を青い魔法石に触れる。すると魔法陣が展開されて、彼女の周囲に魔法が発動する。
「凄い、これってまさか重量軽減魔法じゃない⁉︎」
シノンは嬉しそうな声でそう言って、重くなった弓をチアガールの使うバトンみたいにクルクルと回す。
「えぇ、その通りよ。つい先週のアップデートで一部の武器に魔法石が装着可能になったのは知ってるでしょ? シノンの弓もその対象だったし、偶然にも重量軽減魔法の魔法石が手に入ったから組み合わせてみたの。魔法効果があるのは発動して、1時間のみ有効だから注意してね。魔法石の効果が切れた場合は、私みたいな武器職人に頼めば補充可能よ…って聞いてるの、シノン?」
私がそう尋ねるとシノンは、重量軽減魔法が発動している弓を抱きしめて、満面の笑みを浮かべてこう叫んだ。
「ありがとう、リズ‼︎ あなたは最高のガンスミスよ‼︎」
いやいや、私は設定だとガンスミスじゃなくて、鍛冶屋なんだけど。
まぁ、細かいことは気にしないことにしよう。魔法石自体も殆ど無料で手に入れたものだったし、私自身も魔法石付きの武器を作ってみたかったしね。
何よりもシノンが喜んでいる姿を見ていたら、こっちも嬉しかった。
シノンが弓をいじくって笑う顔は、まるで新しい玩具を手に入れた子供みたいに輝いていた。
そんな彼女を見ていたら、あいつも作った武器が良いものだと嬉しそうに笑うことを思い出した。SAO時代にダークリパルサーを作った時も嬉しそうに振り回して、最後は私に二刀流スキルを見せてくれた。
(思えばあいつの二刀流スキルを最初に見たのは私だっけ。あの時はビックリしたなぁ…)
でも、あいつと2人だけの秘密が出来たことは素直に嬉しかった。いつアスナ達にバレるかスキルを持っていない私が勝手にドキドキしていたし、秘密を持っていることが楽しかった。
今となっては、本当に良い思い出だったと思う。
「…ねぇ、リズ? 話、聞いてる?」
「へっ⁉︎ ごめん、ちょっとボケっとしてた…」
「今日のリズ、何か変だよ? 体調とか悪いの?」
「大丈夫だよ、私は元気一杯です‼︎」
「なら良いけど…」
シノンは心配そうな表情で私を見る。彼女とのダンジョン攻略はまだ片手で数えられるぐらいしか行っていないが、分かったことがある。
シノンは器用そうに見えて、本当は不器用な奴だってこと。ゲームの腕は確かに高いが、他者とのコミュニケーションが苦手である。お洒落もしないし、流行りも知らないことが多い。
私と彼女が今日みたいな関係になれなかったのは、互いに相手を思いやり過ぎて空回りしていたのだ。きっかけは、シノンの防具を作る際に肩の力を抜いて、普通に会話していたことに気付いた時である。
それ以来、私もシノンも肩の力を抜いて普通に話している。ようやく私もシノンと友達になれたと感じて、とても嬉しかった。
「そういえばリズ、この武器の代金はいくらなの?」
「んー、そうねぇ…今会の武器は魔法石も使ってあるし、シノンの要望通りの武器も作ったでしょ? それに…」
メニュー欄にある電卓モードで計算する私をシノンが心配そうな表情で見ていた。
あんな顔をされると私も意地悪をしたくなる。彼女は自分から知らない相手に対して攻める時は強気だが、逆に知り合いの相手から攻撃を受けると弱気になってしまう。
これは絶対に言わないのだが、意地悪された時の彼女のリアクションが面白くて、最高に可愛い。もう、涙目で「止めて…リズ…」と言ってきたら、色々とヤバイと思う。
そんな訳で、今日も私はシノンに対して冗談な金額を出して、困らせてやろうと1人ニヤついているのであった。