パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第100話 『魔剣の中身』

「ブラッド殿」

 

 冒険者ギルドで依頼完了報告が終わり外に出ると、大柄な男に呼び止められた。

 

 大剣を背負った、五十半ばの壮年だ。

 

 背後には仲間の男女が立っており、女性は胸元に子犬を抱きかかえている。

 

 魔剣持ち討伐で一緒になった、ライル氏とそのパーティーの面々だった。

 

「ライルさんか。もう調子はいいのか?」

 

 ……ライル氏をはじめとして、今回の一件で魔物使いの肉繭に囚われた冒険者たちは、程度の差こそあれ、全員が無事生還することができた。

 

 他の冒険者はまだ動けないものもいると聞いているが、彼らは比較的軽傷だったようだ。

 

「ああ、お陰様でな。ブラッド殿のパーティーだったのだろう? ……あの悪夢のような魔物を討伐し、囚われた我々を助けてくれたのは。……深く感謝する」

 

 ライル氏はそう言うと、深々と頭を下げた。

 

 どうやら助けた当時の記憶は曖昧のようだ。

 

 まあ、こっちも彼のうわごとを色々聞いてしまったので、あまり詳細に当時のことを説明する気にはならなかった。

 

 余談だが、フレイに蹴っ飛ばされたビックス氏ももちろん無事である。

 

 さすがに罪悪感を感じたのか、あとでフレイが三本くらい回復剤を振りかけていたからな。そのおかげか、冒険者の中で一番元気だったまである。

 

 ちなみに二番目に元気だったのは、目の前のライル氏である。

 

「ブラッドさん、ありがとうございます」

 

「兄ちゃんが俺らを助けてくれたんだよな。ありがとう」

 

「ブラッド殿、本当にありがとう」

 

 続けて、奥にいる仲間たちも同時に頭を下げる。

 

 おいおい……ここ、大通りのど真ん中だぞ。

 

「なんだなんだ」「借金の取り立てか?」「あの兄ちゃん、いい年のオッサンに頭下げさせてるぞ。やばっ」「おい、女の子泣いてるぞ」「あっ! あのおねーちゃんの抱いてるワンちゃんかわいーね!」「こらっ、見るんじゃありません!」

 

 案の定、思いっきり衆目を集めることになった。

 

 クソ。こういうの、何度経験しても慣れないんだよな。

 

 というかやるならやるで、せめてギルド内で声を掛けてくれ……

 

「ちょっ……ライルさん、頭を上げてくれ! あんたらもだ!」

 

 人間、慣れないことをされると挙動不審になるものだ。

 

 まだ、聖剣に対するクレームだった方が冷静に対処できただろう。

 

 なんか変な汗が背中から出てきたぞ。

 

「ククッ……ハハハッ! やはり、私の目に狂いはなかったようだ……他人の言葉など、信じるものではないな」

 

 と、そんな俺の様子を見てライル氏が笑い出した。

 

「……?」

 

 ……何の話だ?

 

 彼の口ぶりからすると、俺に対する評価が前より上がったらしい。

 

 まあ、何だか分からんが一方的に嫌われるよりはいいが。

 

「しかし、こんなに素晴らしい剣を授けてもらったというのに不甲斐ない姿を晒してしまった。今後はより一層、精進せねばなるまいな」

 

 ライル氏がしみじみと呟く。

 

「『風走り』は、さすがにあんな物量で攻めてくる敵と戦えるような性能じゃないからな。あんたの腕の問題じゃない。ただ単に、相性が悪かっただけだ」

 

「……そう言ってくれるならば、救われる」

 

 そもそも、ただの聖剣では邪神を滅ぼすことはできない。

 

 仮にライル氏が一騎当千の武人だったとしても、普通に戦えば邪神に勝つ可能性はゼロだ。邪神とは、そういうものなのだ。

 

 ……ちなみに、あれ(・・)が邪神だったことは、ライル氏を始め冒険者ギルドにも知らせていない。

 

 依頼完了報告書には、『非常に手ごわい、正体不明の魔物を討伐』とだけ記載した。

 

 邪神の対処は、いち地方の冒険者ギルドが扱うには荷が重すぎるからだ。

 

 どのみち、そうホイホイ出現するシロモノじゃないし、王国貴族であるアリスが王都に戻れば、王をはじめこの国の上層部にその存在が周知されることだろう。

 

 その後、王国中のダンジョンというダンジョンに調査が入るのか、それとも放置するのかは……俺の関知するところではない。

 

 ちなみに。

 

 一応シルさんの名誉のため断っておくが、今回の件において冒険者ギルドは悪くない。

 

 今回の依頼は商工ギルドから出たものだし、そもそも等級Aの冒険者を複数依頼に参加させること自体がかなり破格な待遇だ。

 

 冒険者ギルドとしては、提示された脅威に対してしっかりと危機感をもって事態に対処したと言える。

 

 そもそもあんな妙な魔物が出てこなければ、俺たちを除く三組のパーティーだけでも魔剣持ちの一味を制圧するのに十分すぎる戦力だったからな。

 

「ブラッド殿」

 

「あん?」

 

 おっと、少々思考が逸れていたせいで生返事になってしまった。

 

 それから、慌てて佇まいをなおす。

 

 ライル氏をはじめ、仲間たち全員が直立不動で神妙な顔をしていたからだ。

 

「ブラッド殿。貴方には返しきれない恩ができてしまった。だが我が王に誓って、必ず報いることを約束する。困っていることがあれば、いつでも我らを呼んでくれ。地の果てでも、必ず馳せ参じよう」

 

 言って、ライル氏は王国軍式の敬礼をした。

 

 彼の仲間たちとともに。

 

 最敬礼、というやつだった。

 

「ああ……そのときは是非頼むよ」

 

 その後、彼らとはしばらく談笑してから別れた。

 

 恩に報いるかどうかはともかくとして……願わくば、『風走り』を大事にしてやってほしい。

 

 まあ、彼や仲間の様子を見るに心配は要らなさそうではあるが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「やあ、邪魔するよ」

 

「おう」

 

 冒険者ギルドから帰ってきてすぐ、カミラが自宅を訪ねてきた。

 

 今日は彼女と久しぶりに自宅デー……もとい共同研究と夕食を共にする予定である。

 

 もちろん部屋は綺麗に片付けた。特に寝室は念入りに。まあ普段から整理整頓はしているが。

 

「……他の連中はいないね? 一応聞くけれど」

 

 用心深く周囲を見回して、カミラが言った。

 

 おいおい、心配性だな。

 

「安心しろって。今日は久しぶりに二人っきりだ」

 

「そうかい」

 

 満足そうにカミラが頷く。

 

 他の連中――つまり、セパやレインだけでなく、アリスやフレイ、リンドルムら全員を指してのことだろう。

 

 全員、動向は把握している。

 

 まずアリスについては、すでに王都に発っている。

 

 なんでも、今回の一件を急ぎ王に報告するのだそうだ。

 

 自由奔放に生きると決めたわりには、なかなかの忠臣っぷりである……と言いたいところだが、彼女は身内に王族がいるからな。

 

 国の大事が家族の大事なのだ。

 

 家族を大切にするのは、別に悪いことではない。兄貴分としては、その中に彼女の親父殿も含めてやって欲しいとは思うが。

 

 なおフレイとリンドルムについては、今夜邪魔しにやって来ることは多分、ない。

 

 フレイはリンドルムとの対決や魔物使いの肉繭との戦いを経て、彼女に対する認識を改めたようだ。

 

 特に肉繭との戦いで自分の前に出て守ろうとした心意気が大層気に入ったらしく、「アイツはオレが鍛えて最強の竜に育てあげてやるぜ!」とかなんとか言ってリンドルムを拉――連れて、二人でさっさと旅に出てしまった。

 

 出発当日、さすがにリンドルムが心配になり城門まで見送りに行ったのだが……彼女もまんざらではない様子だったので、まあ好きにやればいいと思う。

 

 ちなみにセパとレインは、今夜に限りカミラ邸に出張中である。

 

 あっちはあっちで、ステラとマリアと一緒に『女子会』とやらを開催するのだそうだ。

 

 彼女たちにも友人と呼べる存在ができたのは、素直に喜ばしいことである。

 

「それでは、さっそくだけど……」

 

 カミラが妖艶な笑みを浮かべる。

 

 魚心あれば水心。俺もニヤリと笑って見せる。

 

「ああ、行くか」

 

 俺たちは自宅地下の工房に移動した。

 

 

 

「……で、これが今回の戦利品かい」

 

「ああ。一部だけどな」

 

 作業テーブルの上には数本の魔剣が並べてある。

 

 間違って暴走したり瘴気が漏れだしたりしないように、しっかりと防護系の魔術を施してた上で、だ。

 

「ふむ……こうしてみると、外見は悪趣味な装飾を施されただけの剣、といった風情だね。別段気になることもない」

 

「確かにガワは、そうだ。だが、解析を進めていくうちに中身(・・)の方に気になる点があった」

 

 だからこそ、カミラを自宅に招いたのだ。

 

「気になること、とは?」

 

「これを見てくれ。セパの力で魔剣から分離したものだ」

 

 言って、俺は工房の壁に設えた棚を開き、透明なガラス瓶を取りだした。

 

 テーブルの上にそっと置いたそれの中には、人造精霊に似た(・・)御霊が封入されており、仄暗い光を放っている。

 

「これは……」

 

 一目見たとたん、カミラの顔色が変わった。

 

「なんだと思う? 聞いたら驚くぞ」

 

「いや、君に言われずとも分かる。これは……」

 

 一呼吸置いて……いや。

 

 息を呑んでから、カミラが口を開いた。

 

魔族の魂(・・・・)だね」

 

「そうだ」

 

「まさか、これらすべてに?」

 

 頷く。

 

 驚くべきことに、魔剣に込められた御霊はすべて魔族の魂だった。

 

「今回の件で、背後に魔族がいるらしいことは分かったが……あいつら、共食いでもしているのか?」

 

「そんなこと、連中に聞いてみないことには分からないね」

 

「まあ、それはそうなんだけどな」

 

 この事態が、何を意味しているのかは分からない。

 

 だが、最後に人族と魔族のイザコザが起こってから、もう三年が経つ。

 

 何かが起きるとすれば、頃合いと言えるかもしれない。

 

「……で?」

 

 カミラが俺を見た。

 

 心なしか不機嫌を装っているように見える。

 

「君が私を家に招いたのは、これを見せたかっただけなのかい? もちろん私も今すぐ調べてみたいところではあるがね?」

 

「いや……まさか」

 

 もちろん、彼女だって本気で怒っているわけじゃない。

 

 その証拠に、すでにカミラは俺の服の端をキュッと握っている。

 

「とりあえず……ここじゃ、アレだ。いったん上に行こうぜ」

 

「……ん」

 

 まあ、物事には順序というものがあるということだ。

 

 

 

 ……結局、俺とカミラが魔剣解析に着手したのは、日付が変わってからだった。

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