パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第105話 『依頼と出発』

「ふむ、なかなか面白そうな試みじゃないか。よかろう、自動人形(オートマータ)の製作は私が引き受けよう」

 

 カミラ邸の地下工房は常に薄暗い。

 

 『還流する龍脈』より掬い上げられたばかりの、剥き出しの人造精霊は強い光を嫌うからだ。

 

 あと徹夜続きのカミラも強い光に弱いから、というのもある。

 

 そんな穴倉みたいな工房の奥。

 

 唯一吊り下げられたカンテラの側で、カミラが小さく頷いた。

 

「悪いな。かなり仕事が立て込んでいるんだろう?」

 

 先日の魔剣持ち討伐に同行していた間に、魔道具製作の案件が大量にたまっていたと聞いている。

 

 部屋の三分の一近くを占領している木箱の中身が、それだろう。

 

 とんでもない量だ。

 

「いや、もうほとんど片付けたところさ。それに私からすれば仕事は途切れなく入ってくるほうがいいし、ほかならぬ君の頼みだ、断ることなんてありえないよ」

 

「……ならいいんだがな」

 

 カミラは相変わらず徹夜で作業をしていたのか、目の隈が酷い。

 

 ちゃんと寝てるんだろうか?

 

「さて、せっかく君が訪ねてきたんだ。そろそろ昼食の時間だろう? 私と一緒にどうだね……っと」

 

「おっと、大丈夫か」

 

 カミラは立ち上がろうとしたところで、フラフラとよろめいた。

 

 どうやら立ち眩みを起こしたようだ。

 

 ぐらりと前のめりに倒れそうになったところを、慌てて抱きとめる。

 

 華奢なわりに柔らかい彼女の感触とかすかな重みが、ふわりと俺の胸にのしかかる。

 

「……っと、すまない。ここ五日ほど寝ていなくてね。立ち眩みを起こしてしまったようだ」

 

「セルフ拷問か何かか?」

 

 もしかしたらその間、一歩も工房から出ていないのかもしれない。

 

 隈だけじゃなく顔色も真っ白だし、このまま日光に当たったら灰になるんじゃなかろうか。

 

 ……そしてカミラは俺に寄りかかったまま、一向に離れない。

 

「カミラ?」

 

 と思ったら。

 

「すー……はー……すー……はー……」

 

「…………」

 

 一瞬俺の胸に顔を埋めて何をしているのかと思ったが、彼女が立てているのは穏やかな寝息だった。

 

 仕事が終わって、緊張の糸が解けたのかもしれない。

 

「お前……寝るならベッドに入ってからにしろよな……よっと」

 

 仕方ないのでカミラを抱き上げ、上の階に連れていく。

 

 彼女の身体はいつも通り、とても軽かった。

 

「ブラッド様……あら、ご主人様は?」

 

 階段を上がりきったところで、ばったりとマリアと出くわした。

 

 相変わらず家事に精を出しているようで、彼女は取り込んだばかりの洗濯物らしき衣類を両手いっぱいに抱えていた。

 

 もちろんそれらはすべて、すでにキチンと畳まれている。

 

 そんな彼女の甲斐甲斐しい姿を眺めつつ、肩を竦めて見せた。

 

「なんか、寝ちまったよ。五徹してたんだって? ……仕方ないから、俺がベッドに運んでおこうかと思ってな」

 

「あらあらまあまあ……それで、ブラッド様もご一緒にお昼寝されますか? でしたら夕食のご準備をしておきますよ」

 

 何を言っているんだこの自動人形(オートマータ)は。

 

 そもそも五徹後の睡眠で夕食までに起きるとは思えんのだが?

 

 それに、俺はこれからやることがある。

 

「すまんが、これから旅の準備をしなきゃならん。遠慮しておくよ」

 

「旅、ですか」

 

「ああ」

 

 言って、俺はカミラを抱き直した。

 

「ちょっとトレスデンに用事ができてな。これから出国の手続きに冒険者ギルドと役場に向かわなきゃならん。だから、今日はすぐに帰るつもりだ」

 

「左様ですか。いつ頃のお戻りで?」

 

「そうだな、一か月ほどは空けると思う。その間、ステラが間違って遊びに来ないように伝えておいてくれ」

 

「承知いたしました。彼女がお使いから戻ってきたら、伝えておきます。それでは、お気をつけて。……ウフフ」

 

「ああ、ありがとう……何か可笑しいことでもあったか?」

 

 急にマリアが笑い声を出した(無表情)ので、思わず聞き返してしまった。

 

「いえ……今日は(・・・)、ですね。承知いたしました。では、ブラッド様が旅からお戻りになる前に、ベッドをダブルに入れ替えて置かねばなりませんね」

 

「余計な気を回さんでいいからな?」

 

 マリアはなにかと仕事のデキる女だが、デキすぎて余計なことに気を回し過ぎだ。

 

「それでは、ご主人様をよろしくお願いいたします、旦那様(・・・)

 

「……もう何も言わんぞ?」

 

 無表情なのにやたらニマニマして見える彼女の顔を一睨みしてから、カミラを二階の寝室に連れて行った。

 

 そういえば、カミラには俺がトレスデンに向かうことを伝えるのを忘れてしまったが……まあ、マリアに伝えてあるし、大丈夫だろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トレスデン共和国は、王国と国境を接する国の一つだ。

 

 地理的には、王都からよりも、辺境のオルディスの方が近い。

 

 その中でも、旅の目的地である首都ケルツは馬車を乗り継いで片道一週間程度の距離にある。

 

 旅程全体では、往復に二週間、滞在時間は十日から二週間程度、合計一か月といったところだろうか。

 

 現地ではゲイザーが売っていれば購入、なければダンジョン探索などで捕獲し、可能ならば魔導書店などに立ち寄り、『視覚共有』の術式に関する知識が記述された魔導書の購入をしたいところだ

 

 あとは……まあ、友好関係にある隣国とはいえ異国への旅行だし、ちょっとばかり観光などをするつもりである。

 

 とはいえ、荷物については容量を拡張してある魔導鞄(マジック・バッグ)にすべて詰め込んでしまうので、旅路そのものはそれほど苦でもない。

 

 昔はもっと貧乏で今のように大容量の魔導鞄を持っていなかったから、大荷物と一緒に冒険者をやっていたからな。

 

 そのことを考えれば、大変優雅で楽ちんな旅路といっていいだろう。

 

 強いて挙げるならば、国境を超えるときに鞄の中身を全部出してトレスデンの国境警備兵たちに検分させなければならないのが面倒な点だろうか。

 

 とはいえ。

 

 結局のところ、セパのためとか、仕事のためとか、いろいろ言い訳は思いつくものの……

 

 やはり異国への旅というものは、いつになっても心が踊るものだ。

 

 

 

 そんなわけで、オルディスを出発してちょうど一週間後。

 

 俺とセパ、レインはトレスデンの首都、ケルツに到着していた。

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