パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第106話 『異国の冒険者ギルド』

「おー、栄えてんなぁ」

 

 トレスデンの首都ケルツは、王都に負けず劣らず発展した都市だ。

 

 馬車が何台も行き交う大通りの両脇には、十階はあろうかという大きな建物群がずらりと並んでいる。

 

 ケルツはもともと何もない荒野で、たまたま商人たちの交易路が交わる地点に小さな泉があったおかげで、そこを中心として街が発展したと聞いている。

 

 ……そんな荒野の宿場町が、よくもまあここまで大きくなったものである。

 

 とはいえ、さすがに歴史の重みのようなものは王都に軍配が挙がるだろう。

 

 具体的には、建築様式だ。

 

 王都は古めかしい建物が多く、随所に彫刻などが施されている。それが一種独特の重厚な雰囲気を醸し出しているのだが……それに比べ、ケルツの建物はあっさりした石積みのものが多い。

 

 よく言えば質実剛健。

 

 悪く言えば、少々殺風景という感じである。

 

 とはいえ、通りを歩く人々は王都よりもずっと多く、まるで祭りでも催されているような熱気と活気があった。

 

 もちろん地方都市のオルディスとは比べようもない。

 

 おお、獣人も結構いるな。

 

 人種も、狼人から蜥蜴人まで様々だ。

 

 あっちにいるのは……大きなツノが生えているから、魔族だろうか?

 

 というか、よく見るとそれっぽいヤツは結構歩いているな。

 

 魔族は魔物の特徴を備えた種族だ。

 

 だから肌の色が青だとか赤だとか、人族や獣人族とも明確に違う特徴がある。

 

 あとは、目の色だな。

 

 魔族は基本的に白目の部分が黒い。

 

 数は獣人よりも少ないが……ちょっと意識すればすぐに見つけられるくらいにはいるようだ。

 

 そういえばこの国は魔族領との交流もあったな、と思い出す。

 

『おー、こんな人の数、みたことないよ! あっ、ものすごいおっきな人が歩いてる! あっちの人はもふもふだ! ねえねえマスターあのお店、果物が山みたいだよ! あっちは美味しそーな屋台がっ!』

 

『ふふん、レインはこの程度で浮かれて田舎者ですね……! 私がかつてご主人と暮らしていた王都は、もっとオシャレで……うっぷ。なんだかたくさんの人々を見ていると胸やけしてきました』

 

 レインは見慣れぬ人の多さや珍しい店構えを見てはしゃぎまわり……一方セパは完全に人酔いしていた。

 

 この国、というかこのケルツの人間はうじゃうじゃいるだけでなく、なんというかギラギラしているのだ。

 

 おそらく商人の国だから、というのもあるだろう。

 

 空は雲一つなく空気は乾燥しているというのに、街の中は妙に脂っこい空気が満ちている気がする。

 

 確かに、セパの気持ちは分からないでもない。

 

 とはいえ、人の多さに圧倒されこのまま立ち止まっているわけにもいかなかった。

 

「お前ら、はしゃぐのはもうちょっと待ってくれ。先に行くところがあるからな」

 

『うっぷ……行くところ、ですか? 今夜の宿では? というか私はもう少し人気のない場所に行きたいのですが』

 

 セパが口元を押さえつつ聞いてくる。

 

『セパはもうちょっと我慢しろ。まずは、冒険者ギルドにいかにゃならん。この手形はギルドに発行してもらっているからな』

 

 俺は懐から手のひらサイズの金属片を取り出して二人に見せた。

 

 冒険者は依頼により他国に遠征に行くことがある。

 

 そのときに必要になるのが、本人の所属ギルドが発行するこの入出国手形だ。

 

 コイツはオルディスの冒険者ギルドが王国の入出国管理局に俺の出国許可を申請し、さらにトレスデン側から入国許可を得たあとに発行される。

 

 一応、トレスデンの国境を超えた時点でこの手形の役目の半分は終わりなのだが……現地の冒険者ギルドで依頼を受けるためには、手形とギルドカードをギルド職員に見せ、カードのほうに到着済みの刻印をもらう必要がある。

 

 諸々の準備をやってくれたシルさんからは、「この手続きをおろそかにしていると、武器の携帯が認められないことがあるから絶対にやっておいて下さいね!」と念を押されている。

 

 まあ、俺もセパとレインについて衛兵とかにあれこれ説明するのは面倒だし、ダンジョン探索も気ままに行いたい。

 

 だから、この手続きだけはしっかりやっておく必要がある。

 

 そんなことを、二人に説明してやった。

 

『事情は分かりました。それで……ケルツの冒険者ギルドはここより人が少ないですか?』

 

『んーなんか難しくてよく分かんないけど……必要ならしょうがないかなー』

 

 まあ、とりあえず俺の邪魔をしないのならそれでいい。

 

「さて、ケルツの冒険者ギルドはどんなものかな……っと、ここか」

 

 聖剣たちと雑談をしながら街の中心部まで歩いてゆくと、少し先の方に、『ケルツ冒険者ギルド』の看板が目に入ってきた。

 

 それなりに大きな建物だ。

 

 他の建物と毛色が違い王国風の建築様式で、のっぺりした建物の中では異彩を放っている。

 

 特にエントランス付近はその傾向が顕著だ。

 

 入口に続く階段は石積みで、黒錆加工の鉄製扉には魔物を象った古めかしい彫刻が施されている。

 

 ……なんというか、妙に安心感のある重厚感である。

 

『ご主人ご主人、この建物だけずいぶんと見慣れた様子をしていますね。なぜか実家のような安心感があります』

 

 セパの感想はもっともだ。

 

 冒険者ギルドというか冒険者という職業は……とりわけダンジョンが多い我が国――アステリア王国が発祥だ。

 

 王国より若い国であるトレスデンの冒険者ギルドは、ある意味王国冒険者ギルドの支部、という性質も併せ持っている。

 

 見慣れた佇まいなのは、そのせいだろう。

 

 もちろん、組織的にも経済的にも、王国の影響はないようだが。

 

 まあ、このへんもシルさんの受け売りだけどな。

 

 つーかあの人、めちゃくちゃ詳しく教えてくれたおかげで、いろいろ助かっている。

 

 どうも俺が「トレスデン行きの手形が欲しい」と頼んだら、準備期間にこの国のことをあれこれ調べてレポート形式でまとめてくれたのだ。

 

 彼女のおかげで旅路で迷うこともなかったし、馬車の乗り継ぎも完璧なタイミングだった。

 

 ちなみにケルツの観光マップも完備である。

 

 ただ、地図に手書きで屋台街とかレストランとかおいしいスイーツ店の情報を載せてくれなくてもよかったといえばよかったのだが……

 

 まあ、セパとレインには重要な情報か。

 

 しかし……手形受領当日にカミラ顔負けの酷い隈をこさえていたんだが、彼女はいったい何徹したんだろうか。

 

 あの働きぶりだと、もしかしたら次に会った時にはギルマスに昇進しているかもしれない。……あの後、ちゃんと休養を取っていることを願う。

 

 それはさておき。

 

「ま、とりあえず入るか」

 

 鉄製の扉を押し開けて、内部へと入る。

 

 エントランスホールは吹き抜けになっており、開放感があった。

 

 このあたりはオルディスの商工ギルドに近い雰囲気を感じる。ここが商人の国だからだろうか。

 

「悪いが、入国手続きを完了させたい。頼めるか? アステリア王国からだ」

 

「あ、いらっしゃいませ。こちらで大丈夫ですよ」

 

 さっそく奥のカウンターで職員に声をかけ、手形を見せる。

 

 途中、魔導石板で情報照合を行っていた女性職員が突然顔を上げ、俺を見て驚いた様子で「ブラッド・オスロー様ですね!? オルディス支部のシル様より、お噂はかねがね伺っております……!」と、えらく丁重に挨拶をされるなど、妙な一幕もあったが……ひとまず手続きは無事完了したようだった。

 

 それはいいのだが。

 

「おお、これはこれはブラッド殿。ようこそ我がケルツ冒険者ギルドへ! 長旅お疲れ様でした」

 

「あ、ああ……」

 

 なんかギルマスまでニコニコ顔で出てきたのには閉口した。

 

 各冒険者ギルドには魔導石板で冒険者の情報が共有されているのは知っていたが……いったいシルさんはこのギルドに俺のどんな情報を流していたんだ。

 

 とはいえ、おかげでスムーズに手続きができたのも事実ではある。

 

 ……彼女には、トレスデン土産を山ほど買って持って帰ってやろう。

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