パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第114話 『意外な依頼元』

「うーむ……やはり見つからないか……」

 

 翌日。

 

 俺はケルツ冒険者ギルドのロビーで長椅子に腰掛け、小さな唸り声を上げていた。

 

 朝から街中の従魔専門店を見て回ったのだが、取り扱っている魔物はどれも一般的なものばかりで、ゲイザーなど影も形もなかったのだ。

 

 まあ……元々大して期待してはいなかったので、落胆は少ないが。

 

 ちなみに余談ではあるが、上級者用の従魔専門店にはなんとグリフォンとかバジリスクの幼体がいた。

 

 興味本位で店員に話を聞いてみたところ、コイツらは子供のころからキッチリ調教した上で隷属魔術を掛けないと成体になったときに人間との立場が逆転して簡単に殺されてしまうとのことだった。

 

 魔物使いもいろいろと苦労が多いようだ……

 

 ちなみにたいていの店で、店員は結構親切だった。魔物のことを語り出すと止まらなくなるヤバいヤツが多かったが。

 

 それはさておき。

 

「やっぱ、街中で見つかると思っていた俺が甘かったな」

 

 独り言をつぶやく。

 

 こういうときは胸の中で留めておくより、言葉を吐き出してしまった方が気持ちの整理がつく。

 

 こればかりは、現地に来てみなければ分からないことだ。

 

 トレスデン行きを決断した過去の俺を責めることはできない。

 

 さて……

 

 もちろん、プランBも考えてある。

 

 というよりも、こちらが本命といっていい。

 

「さて、休憩は終わりだ」

 

 よっこらせ、と長椅子から立ち上がる。

 

 どこへ向かうかといえば、依頼掲示板だ。

 

 俺が何のために冒険者の身分でこの国に来たかといえば、ダンジョン探索を行うためだからな。

 

 ゲイザーは魔族領の魔物だが、別に領域の奥地だけに生息しているわけではない。

 

 むしろ、魔族領内の強力な魔物の生息域を避け、比較的人族の領域に近い場所に分布している魔物だ。

 

 すなわちトレスデンと魔族領の境界付近ならば、ゲイザーが生息している可能性が高い。

 

 そう思って掲示板を眺めていたのだが。

 

「内容は……まあ、こんなものか」

 

 依頼は、多いものから商隊護衛、王国でもおなじみの素材採取、魔物討伐など。

 

 一風変わったものといえば『人探し』なんてものもあった。

 

 商隊護衛が依頼の大半を占めているのは、お国柄だろうか。

 

 ちなみに掲示板のフレームや受付窓口に遊牧民風というか異国風のデザインがあしらわれていて、ここが王国ではないことを実感させる。

 

 とはいえ、受注の方法なども王国とほぼ変わらないようだ。

 

 異邦人の俺にとっては、ここは素直にありがたい。

 

 ただ……

 

「ねえな」

 

 どこを探しても、ゲイザー討伐だのゲイザー由来の素材採取などといった依頼は見られない。

 

 まあ、ただ生息している分にはほぼ害のない魔物だし、一部のマニアックな連中以外には大した需要がないだろうから、そこは仕方ない。

 

 ちなみに魔族領近くにあるダンジョンの素材採取依頼については……今のところゼロだった。

 

 ケルツはトレスデン内でも魔族領にかなり近い場所にある都市だから、何かしらあると思ったんだが。

 

 ただ、これはタイミング的なものに感じた。

 

 日を改めれば出てくるかもしれない。

 

 この街にはしばらく滞在するつもりだし、気長に待つとしよう。

 

 そんな感じで一通りの依頼を確認し終え、ギルドを出ようと扉に手を掛ようとした、そのときだった。

 

 俺の目の前でギッ、と扉が開いた。

 

「おっと、すまん」

 

 どうやら外にいた人と出入りのタイミングがぶつかってしまったようだ。

 

 半歩ほど脇に寄るのと同時に扉が大きく開き、一人の女性が建物に入り込んできた。

 

 そこで、彼女と目が合う。

 

「あれ……もしかして先輩ッスか?」

 

 見れば、来訪者はリタだった。

 

 依頼書らしき書類を手にしたまま、驚いたようにこちらを見ている。

 

「おう。また会ったな」

 

「ウッス、昨日ぶりッス! ていうか先輩、まだ冒険者やってたんスか? 聖剣錬成師になるときに辞めたって聞いたッスけど」

 

「いや、独立して一人で工房をやってると、逆に冒険者登録した方が何かと都合が良くてな……お前の持っているそれは依頼書か?」

 

「ですです。これから依頼を出しにいくとこッス」

 

 ヒラヒラと依頼書をはためかせ、リタが続ける。

 

「実は師匠の案件で、ちょっとレアな魔物素材が必要になっちゃって」

 

 ……ほう?

 

「聞いてくださいよ先輩~!」

 

 よよよ、と泣きまねをしつつリタが縋りついてきた。

 

 こいつ、そういえば昔から人懐っこいというか甘え上手なところがあったな。

 

 そんなことを思い出す。

 

 まあ、悪い気分はしない。

 

「可愛い後輩の頼みだ、聞こうじゃないか」

 

 俺は言って、先を促す。

 

「これがまた結構難度高めの依頼で、しかも魔族領近くのダンジョンまで行ってもらわないといけなくて……先輩、友達とか知り合いに腕利きの冒険者さんいませんか!? いたら王国の方でもいいんで、ぜひぜひ紹介してほしいッス!」

 

「それは内容次第だが……どんな依頼なんだ?」

 

「あー、魔物討伐と魔物捕獲の中間みたいな依頼ッス。昨日師匠が暴れたときに使ってた魔術杖ありますよね? あれと同系統のやつを錬成するために、ミノタウロスの魂が一柱分必要でして」

 

「なるほど」

 

 ミノタウロスか……図体がデカいから迫力はあるが、俺一人で倒せない魔物というわけではない。

 

「ちなみに、参考までに聞くんだが……依頼のダンジョン周辺に『ゲイザー』が生息しているか、分かるか?」

 

「ゲイザー、スか……あの目ん玉に触手が一杯生えてて魔族領によくいる、キモいヤツでしたっけ。多分いるんじゃないですかね? だいぶ前ッスけど、あの辺の依頼から帰ってきた冒険者さんが生け捕りにして持って帰ってきたの、見たことあるッス。あれ、なんの素材になるんスかね?」

 

 ……よし!

 

 俺は心の中でグッと拳を握りしめた。

 

 『捨てる神あれば拾う神あり』とは、よく言ったものだ。

 

 今の俺には、リタが女神にしか見えなかった。

 

「その依頼、俺に受けさせてもらえないか?」

 

「ええっ!? 大丈夫っスか!? 十年以上ブランクありますよね!? ていうか先輩の等級いくつッスか!? ミノタウロスって一体でも中堅レベルのパーティーでやっとこさ討伐可能なレベルの魔物ッスよ?」

 

 俺の提案に、リタが心配そうな顔で尋ねてくる。

 

 そういえば、昔彼女と一緒に働いていた時に俺の等級について話題にすることはなかった気がする。

 

 もっとも、今は再登録後だから昔の等級でもないわけだが。

 

「今の等級は、Bだ」

 

「えっ」

 

 等級を口にしたとたん、リタが目を丸くして固まった。

 

「ちょっ、マジスか先輩……バチバチの実力派じゃないッスか、スゲー! 等級Bってケルツでも結構上位の冒険者ッスよ!?」

 

「そうなのか?」

 

「そうッスよ! そりゃさすがの師匠も敵わないわけッスよ」

 

 なんだろう、等級Bでここまで驚かれるのは逆に新鮮だ。

 

 最近等級Sの竜バカとか等級Aクラスの冒険者と絡んでばかりだったせいで、自分の中で『普通』が大きく揺らいでいる気がする。

 

 そういえば、さっきの掲示板の内容もダンジョン探索系依頼よりも商隊護衛とかの方がメインだったな。

 

 確かにそれならば、等級はせいぜいCくらいあれば十分だろう。

 

 つーか……

 

 この流れで、まさか俺が等級Aを打診された上で蹴ったとか、彼女の前では口が裂けても言えないな。

 

 リタはひとしきり騒いでから、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

「じゃあ、とりあえず窓口で依頼発注の手続きをしてくるッスね! 先輩に対する指名依頼……でいいスか?」

 

「ああ、頼む。それと、セパは昨日見ただろうが冒険者として登録していない。俺とレインの二人で受注することになる。パーティーの定員は二名以上としておいてくれ」

 

「了解ッス!」

 

 そんなわけで、俺は無事トレスデンのダンジョンに向かうことになったのだった。

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