パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第115話 『罠で遊ぶ冒険者』

 依頼のダンジョンは、ケルツより数時間ほど馬車で揺られた先にある。

 

 この辺りはトレスデンでは珍しい山がちの森林地帯で、ダンジョンそのものはその山林を少し分け入った先にある。

 

 ちょうど、森のてっぺんから高く突き出ている三本の尖塔が目印だ。

 

 これがずいぶん遠くからも見えていて、かなり目立っていた。

 

 名前は、『ハリ尖塔遺跡』。

 

 オルディスの遺跡群のように通し番号は付けられていないのは、他に類似の遺跡がないから、だそうだ。

 

 ギルドで確認した情報によれば、魔導文明以前の超古代文明期の遺跡だとのこと。

 

 そう聞くと、ワクワクしてくる。

 

 ちなみにこのダンジョンの先に広がる山岳地帯を越えると魔族領となる。

 

 依頼達成後のゲイザー探しは、遺跡よりさらに先にあるトレスデンと魔族領の境界付近で行う予定だ。

 

『それにしてもご主人、意外と近いダンジョンで助かりましたね』

 

「元々ケルツが魔族領に近い場所にあるからな」

 

 トレスデンは人族の国家だが、建国当時から魔族との交流があった。

 

 そのため交易の拠点として、魔族領側に近いケルツが首都になったのは当然の成り行きだったのだろう。

 

 まあ俺は地政学なんぞ分からんから、この辺は聞きかじった話だ。

 

 ただ……魔族の侵攻を受けたリグリア神聖国とは対照的だな、とは思った。

 

 もっとも国が滅んだ直接の原因は、魔族ではなく邪神のせいだったが。

 

『さあさあご主人、さくっとお仕事を片付けて、夜はまた屋台街で食べ歩きですよ!』

 

『マスター、ミノタウロスって美味しいのかな!? あーし、最近はかなり魔力の味が分かるようになったんだよ!』

 

 ダメだコイツら。

 

 ダンジョン探索とピクニックの区別がついていない。

 

 とはいえ、今日の仕事には二人の力が不可欠だ。

 

 ミノタウロスの魂を効率的に収集するのにレインの力が必要だし、ゲイザーを捕獲したあとに魔術回路を体内から切り離すのにセパの力が必要だからな。

 

 だから今は、言いたい放題言わせておくことにする。

 

 それよりさっさとダンジョン入ろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『ハリ尖塔遺跡』の本体は地中に存在する。

 

 三本のうちの一本の地上付近にある開口部が入口だ。

 

 そこから内部に侵入し地下へと続くらせん階段をひたすら降りると、急に開けた場所に出た。

 

 ここが第1階層だ。

 

「思ったより広いな」

 

 最初の部屋は数百人が余裕をもって動き回れそうなほどの広さがあった。

 

 高さも、三階建て分くらいはあるだろうか。

 

 地上部は鬱蒼とした森に覆われていたから、ダンジョン内部の広さが逆に開放感と安心感を感じさせる。

 

 床は滑らかな石造りで、壁面や天井には金属製の配管らしき構造物が縦横無尽に走り回っている。

 

 ところどころに積み上がっている巨大な荷箱は錆の浮き出た金属製。

 

 書いてある文字の意味は分からないが、まあ貨物の種類とか品番の類だろう。

 

 まさに超古代――魔素が存在しない時期に築かれた文明の遺跡、といった様子である。

 

 もっともその後の魔導文明期を経ているので、いかに機械文明期の遺跡とはいえ魔素の浸食を受けダンジョン内部は当初の構造からかなり変異しているはずだ。

 

 そしてそんなことより重要な点が、この機械文明期の遺跡にはある。

 

 何かといえば、罠だ。

 

 機械文明期のダンジョンは、一般的に魔物の強さは大したことがない。

 

 しかし、やたら強力な致死性の罠が大量に仕掛けられていることが多い。

 

 おまけにギルドの前情報によれば、この遺跡では一部の罠が魔物化しているとのことだった。

 

 ということで、いつも以上に慎重にダンジョンを進むことしばし。

 

 第1階層は特に目立った点はなかったが、第2階層に降りた途端、妙にピリつく空気に包まれた。

 

 ここからが本番だ。心してかかる必要があるだろう。

 

 だというのに、である。

 

『あっ、ご主人、あそこに何か光るものがありますよ! もしかしてお宝かも……』

 

 ふよふよと空中を飛びながら先行していたセパがのんきな声を上げた。

 

 どうやら通路の先で何かを見つけたようだ。

 

 だが、あれは……マズい!

 

「セパ、それに近づくんじゃない!」

 

『むぐっ!?』

 

 彼女の小さな手が壁面に浮かび上がる赤い光に触れる前に、どうにか彼女を捕獲することに成功する。

 

『な、なにをするんですかご主人! いくら海のように広い心を持つ私でも、いきなり手で握り潰そうとされれば怒るんですよ!?』

 

「違う、これは罠の一種だ。この赤い光は境界だ。この先に足を踏み出した瞬間、お前の身体はあそこから照射された光線で焼かれ消滅することになる」

 

 言って、俺は少し先の天井を指さす。

 

 そこには、半球状のガラス素材で覆われた構造物が設置されていた。

 

 アレは光線照射装置という、機械文明期のダンジョンでよくみられる罠の一種だ。

 

 セパの本体は聖剣だし実体化したときの身体も魔素で構成されているから、どんな攻撃を受けても致命傷にはならない。

 

 だが通常時は痛みも感じるし、熱いものは熱いはずだ。

 

 罠を喰らって、全くの無事とは言えないのだ。

 

 もちろん俺は生身なので、不意打ちで光線なんぞを喰らったら普通に死ぬ。

 

 彼女の巻き添えはごめんだ。

 

『なっ……そ、そうだったのですか……申し訳ありません、ご主人。少々浮かれていたようです。恐ろしいダンジョンですね、ここは』

 

 さすがのセパも自分のしでかしたことの危険さを理解したのか、顔が真っ青になる。

 

「レインもだが、うかつに周囲に触れるなよ?」

 

『えっ?』

 

 背後にいたレインを見る。

 

 何か持っていた。

 

 手のひら大のブロックだ。

 

 近くの壁面を見ると、同じ大きさの凹みがあった。

 

「おいお前それ……」

 

『ごめんマスター、ここ触ったら取れちゃった』

 

 次の瞬間。

 

 ……ズズン!

 

 少し先の通路の天井が割れ、巨大な鉄球が落下してきた。

 

 通路の幅いっぱいを占領する巨大さだ。

 

 重量も、床の落下したときの地響きから相当なものだと思われる。

 

 あれに轢かれたらぺちゃんこになること請け合いだ。

 

 と、鉄球の真ん中がバクッと割れた。

 

 中から人の頭ほどもある眼球が現れる。

 

 そいつと目が合った。

 

「…………」

 

『…………』

 

『…………あっ』

 

 ゴロ………ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッッ!

 

 レインの漏らした声が合図となったのか、床に傾斜も付いていないのに鉄球が俺たちの方目がけて勢いよく転がり出してきた。

 

 まあ、こうなるよなっっ!!!

 

 俺たちは即座に踵を返し、元来た通路を全力で駆け出す。

 

「レイイィィィインンンンッッッ!!!!」

 

『あわわわご主人ご主人ご主人!!!!』

 

『あははははははたーのしー!!』

 

 たーのしー! じゃねーよ!

 

 …………。

 

 ……。

 

「はあ、はあ……危っぶねぇ……!」

 

『はあぁ……死ぬかと思いました……!』

 

 通路の途中にあった小部屋に飛び込み、どうにか巨大鉄球から逃げ切ることに成功。

 

 鉄球は獲物を逃したのがよほど業腹だったのか、未だに閉じられた扉にガンガンと自身の身体を叩きつけている。

 

 図体が図体なので扉が破壊されても侵入はできないだろうが、放置していてあまりいい気分ではない。

 

『あー楽しかったー! マスター、このダンジョン面白い仕掛けがいっぱいだね!』

 

 一方、罠起動の張本人であるレインは部屋の壁に背中を預け座り込みながら、ケラケラと楽し気に笑っている。

 

 ……まったく。

 

「あのなぁレイン。確かに異国のダンジョンでテンションが上がるのは分かるが、自分が触るモノが罠の起動スイッチかどうかくらいは確認しろ」

 

 俺はレインの目の前にしゃがみこむと、ピコン! と彼女の額を指で軽く弾く。

 

『あたっ!? えー、でもあれくらいの魔物ならあーしの力でワンパンっしょ? それにマスターだって、本気で逃げてなかったし』

 

 う、バレてたか。

 

 正直、この遺跡の罠はギミックが面白すぎてちょっとテンションが上がっていたのは事実だ。

 

 つーかあの鉄球が魔物なのはすぐに分かったから、レインで斬りつければ逃げる必要すらなかった。

 

 だが、あんなのがゴロゴロ転がってきたらとりあえず逃げるだろ。ノリで。

 

「とにかく、ダンジョンによってはシャレにならないこともある。今後は変な突起物に触れるのは禁止だ」

 

『はーい、マスター』

 

 額を押さえながら、レインがしぶしぶといった感じで返事をする。

 

「じゃあ、お遊びはこのへんで終いだ。そろそろ真面目に仕事に取り掛からないとだからな」

 

 ちなみに鉄球魔物はレインで(つつ)いたらあっけなく消滅した。

 

 

 

 

 とはいえ、順調なのはここまでだった。

 

「うわあああぁぁぁーーーー!!!」

 

 次の階層へ降りてすぐ、通路の奥から誰かの叫び声が聞こえてきたからだ。

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